太陽物理学者ヘール(G.E. Hale)が1904年にカーネギー研究所の支援を取り付け、カリフォルニア州パサデナ近郊のウィルソン山に太陽観測所として開設した天文台。その後、60インチ望遠鏡、100インチフッカー望遠鏡を建設し、シャプレー(H. Shapley)の球状星団の分布解明、ハッブル(E. Hubble)による膨張宇宙の発見、バーデ(W. Baade)による星の種族の発見などの成果を生み出した。1928年にはカーネギー天文台とウィルソン山天文台の研究者が200インチ望遠鏡建設のためロックフェラー財団からの支援を取り付けた。1986年にウィルソン山の望遠鏡の運営をウィルソン山機構に移してから、チリのラスカンパナスが天文台の主要観測地となった。ラスカンパナスには100インチのデュポン望遠鏡と2台の6.5 mマゼラン望遠鏡があり、現在、7枚の8.4 m鏡からなる大マゼラン望遠鏡計画を推進中である。
ホームページ:https://obs.carnegiescience.edu/
電荷を持たない回転するブラックホールで、その時空はアインシュタイン方程式の軸対称で定常、かつ漸近的に平坦な真空解で表される。回転の効果のため、地平線の外側にエルゴ領域という遠方の慣性系に対して静止できない領域ができる。この領域内には遠方の観測者から見て負のエネルギーを持つ粒子の軌道があり、ブラックホールの回転エネルギーを外部に取り出すことができ、クェーサーや活動銀河核のエネルギー源として研究されている。電磁場まで含めたアインシュタイン-マクスウェル方程式系では、軸対称、定常、漸近的に平坦で事象の地平面の外側で特異点を持たない解は、質量、電荷、角運動量の3つのパラメータで完全に記述されるという「無毛定理」があり、カーブラックホールは、そのうちの質量と角運動量を持った解である。質量と電荷を持ったものを、ライスナー-ノルドストローム(Reissner-Nordstroem)ブラックホール、3つすべてのパラメータを持ったものは、カー-ニューマン(Kerr-Newman)ブラックホールという。
可視光観測に写真乾板(photographic plate)を用いていた時代の「乾板スケール」の英語読みである。イメージスケールを参照。
ヘルツシュプルング(Ejnar Hertzsprung;1873-1967)はデンマークの天文学者。HR図の名前で知られる図の考案者。
コペンハーゲン郊外にあるフレゼレクスベアで生まれ、天文学に興味を持つ父の影響を強く受けた。しかし、父に天文学を専攻することを反対されたため、高等工業学校で化学を学び、ロシアのサンクトペテルブルクで化学技術者として数年間働き、ライプチヒで光化学を学んだ後、故郷に戻ってあらためて天文学を学んだ。1905年、恒星に巨星と矮星があることを発見、さらに1911年に、プレアデス星団とヒヤデス星団の絶対等級と色指数を軸にとった恒星の統計図を作り、それらの間に一定の関係があることを発見した。1913年、ラッセル(H.N. Russell)が、年周視差を用いた方法により恒星のスペクトル型と絶対等級を軸にとった同内容の図を独立に発見し、この図は両者の頭文字をとってHR図(ヘルツシュプルング‐ラッセル図)と呼ばれるようになった。
1909年、カール・シュバルツシルトの知遇を受けゲッチンゲン大学の助教授となり、その後、彼とともにポツダム天体物理学研究所に移った。1919年から1944年まではオランダのライデン天文台で働き、最後の9年間は天文台長を務めた。1913年にはリービット(H. Leavitt)の発見したセファイド変光星の周期-光度関係を使い、小マゼラン星雲までの距離を初めて推定している(星間吸収が考慮されていなかったため、約3万光年と見積もった)。また2つの小惑星(イバール、カラハリ)も発見している。1929年にイギリス王立天文学会ゴールドメダル、1937年にブルース・メダル受賞。
参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/172
測微濃度計を参照。
天の川銀河(銀河系)の詳細な三次元地図を作ることを目的としてヨーロッパ宇宙機関が2013年12月に打ち上げたアストロメトリ専用の衛星。ヒッパルコス衛星の後継機である。太陽と地球のラグランジュ点 L2 の周りで観測を行う。20等級までの約10億個以上(天の川銀河にある星の約1%)の恒星の位置と固有運動と明るさ(分光測光)、17等級までの1億個以上の恒星の視線速度の測定を目指した。
2016年9月に最初の約1年間分の観測に基づくデータを公開した(Gaia-DR1)。11億個の天体が観測され200万個の星に対して位置、年周視差、固有運動が求められた。その後も観測は順調に進み、2018年4月(Gaia-DR2)と2020年12月(Gaia-EDR3)にも段階的にデータ公開が行われた。ヒッパルコス衛星の観測と比べて星の個数、精度とも圧倒的に向上した結果が得られた。これらのデータからすでに多数の画期的な科学的成果が挙がったこともあり、当初2019年末までだった観測予定が延長された。
2022年6月に3回目のデータ公開(Gaia-DR3)が行われた。観測天体数は18億個となり、観測精度はより向上した。具体的には、約14億7000万個の星の位置、年周視差、固有運動が測定された。その精度は以下のようになっている。単位のmasはミリ秒角(milliarcsecond)で1 mas=0."001 である。またGはガイア衛星の測光システムによる等級である。
星の位置:0.01-0.02 mas for G<15, 0.05 mas at G=17, 0.4 mas at G=20,
and 1.0 mas at G=21 mag
年周視差:0.02-0.03 mas for G<15, 0.07 mas at G=17, 0.5 mas at G=20,
and 1.3 mas at G=21 mag
固有運動:0.02-0.03 mas/yr for G<15, 0.07 mas/yr at G=17, 0.5 mas/yr at G=20,
and 1.4 mas/yr at G=21 mag.
ヒッパルコス衛星の精度が1ミリ秒角程度であったので、2桁近い精度の向上が実現した。距離決定精度が10%以下の星はヒッパルコス衛星では2万個程度であったが、ガイア衛星では1億個を超える。2020年代後半に最終カタログが公開予定である。
ガイア衛星は国際天球基準座標系(ICRF)(国際天文準拠系を参照)を構成するような銀河系外の恒星状天体もとらえる能力を持っており、これらを通じて座標系をICRFに揃えることができる。Gaia-EDR3から銀河系外天体のみで構成される星表(座標系)がGaia-CRF3であり、2021年のIAU勧告により、2022年からはGaia-CRF3が光学的に(可視光で)国際天文準拠系を実現するカタログ(恒星のカタログではないが星表と呼ぶこともある)と位置付けられた。
ガイア衛星のホームページ: https://www.cosmos.esa.int/web/gaia/home
Gaia-DR2のサイト: https://www.cosmos.esa.int/web/gaia/data-release-2
Gaia-EDR3のサイト: https://www.cosmos.esa.int/web/gaia/early-data-release-3
Gaia-DR3のサイト: https://www.cosmos.esa.int/web/gaia/data-release-3
Gaia-DR3のさまざまなデータを可視化したムービー。(Video credit: ESA)
https://www.youtube.com/embed/zm3b3kwzSF4
Gaia-EDR3データに基づく4万星の160万年間の固有運動。線状の弧の長さは8万年間の動きを示している。(Video credit: ESA)
https://www.youtube.com/embed/Jqaa8P2SE7w
欧州宇宙機関(ESA)のガイア宇宙望遠鏡のデータに基づいて、私たちの住む銀河である天の川銀河(銀河系)を描いた新しいアニメーション。
https://www.youtube.com/embed/wEZBNsU4dMU?si=2mo4qSWYXw_udMNV"
測微濃度計を参照。
磁場中を運動する荷電粒子は、速度と垂直の向きにローレンツ力を受けるので、軌道は磁力線に巻きつくようならせんを描く。これをラーモア運動という。MKSA単位系で物理量を測るとき、磁束密度が$B$ で荷電粒子の質量が $m$、電荷が $q$、磁場に垂直な速度成分が $v_{\perp}$ のとき、らせんの半径は $mv_{\perp}/qB$ となる(荷電粒子の速度が相対論的なときにはローレンツ因子を乗ずる)。これをラーモア半径という。
ガイガー-ミュラー計数管を参照。
銀河円盤の重力ポテンシャル中でほぼ円運動する天体の運動は、中心周りを円運動する点の周りに微小な半径で楕円運動する(周転円運動)という形で記述できる。この微小半径の楕円運動の角速度を周転円角振動数と呼び、記号 κ で表す。力学計算を行うと、κ は遠心力も考慮に入れた実効ポテンシャルの2階微分の平方根に一致することがわかり、一般に重力ポテンシャルの形状によって大きさが決まる。一方、この銀河にパターン速度 Ωp で回転する弱い2本腕の非軸対称ポテンシャル(渦巻形)があるとして、ある半径を公転する天体の公転角速度 Ω が Ωp = Ω ± κ/2 を満たしていると、平均円運動からのずれに対する振動と非軸対称ポテンシャルによる摂動とが共鳴を起こす。これをリンドブラッド共鳴と呼ぶ。
多くの銀河の重力ポテンシャル形状では、リンドブラッド共鳴が発生する半径は Ωp = Ω となる共回転半径の内側と外側にでき、内側のものを内部リンドブラッド共鳴、外側のものを外部リンドブラッド共鳴という。内部と外部は共回転半径に対する幾何学的位置で呼び分けるため、内部リンドブラッド共鳴半径が2つ以上存在することもありうるし、リンドブラッド共鳴半径が存在しない銀河もありうる。
光学系の光束を幾何学的に分割して、それぞれを結像する微小レンズ群をいう。碁盤の目のような配置や同心円配置など種々のマイクロレンズアレイがある。補償光学、シャックハルトマンセンサーも参照。
中心にワイヤを挿入したガラス管にアルゴンなどの不活性ガスを封じ込めて、アルゴンなどの不活性ガスを中空の円筒型真空容器に封入し、容器の中心軸にワイヤを張る。ワイヤに正の高電圧を印加すると、荷電粒子が通過する際にガスを電離(イオン化)し、それが増殖されてワイヤと陰極となっている容器の壁の間にパルス電流が流れる。この現象を利用した放射線検出器をいう。1928年までにドイツの物理学者ガイガー(H. Geiger)とミュラー(W. Müller)により原型が完成し、現在でも用いられている。ガイガー計数管(カウンター)ともいう。
再帰新星を参照。
日食を参照。
皆既日食のようす
2006年3月29日の皆既日食(トルコ・シデにて撮像)(クレジット:国立天文台)
ECLIPSE 2006 IN TURKEY
光学系の収差を補正するために用いる素子。球面主鏡による球面収差を補正するためシュミット望遠鏡の主鏡の曲率中心に装着するシュミット補正板が有名。非球面板も参照。
ベッセル(Friedrich Wilhelm Bessel;1784-1845)はドイツの天文学者、数学者。ドイツ北部のミンデンで公務員の子に生まれ、14歳で貿易商社の見習いになった。数学や天文学を独学で学び、1804年にハレー彗星の軌道を再計算したところ、オルバース(H. Olbers)に認められ、会計係の仕事から天文学者に転身した。1806年、リリエンタール天文台に勤務、1810年にはケーニヒスベルク天文台の台長およびケーニヒスベルク大学の教授に就任した。恒星の位置観測に熟達し、個人差や器差、大気差などの研究も行ない、約5万個の精密な恒星位置を観測している。1838年には、はくちょう座61番星(61Cyg)の年周視差を測定した。また、シリウス(αCMa)の位置変動を検出し、暗黒伴星によるとした。これが後にシリウスBと呼ばれる白色矮星である。さらに測地学や重力測定の分野でも業績を残し、これらの研究を通じて、近代的な天文測定学、位置天文学の基礎を築いた。特殊関数の一つとして知られるベッセル関数は多体問題の研究中に見つけた。1829年と1841年に王立天文協会ゴールドメダルを受賞している。
スペクトル線輪郭の成分の一つで、減衰部に対応するもの。ハイゼンベルク(W. Heisenberg)の不確定性原理によるスペクトル線の広がり(自然幅)や、スペクトル線形成に関わる原子(あるいはイオンや分子)と他の原子などとの衝突によるスペクトル線の広がり(圧力幅)はこの輪郭によって記述される。ガウス分布(正規分布)で表されるドップラー線輪郭に比べると波長に対して緩やかに減少するため、減衰部(スペクトル線の翼部)で重要になる。 フォークト輪郭も参照。
銀河の渦巻腕が十分に長い時間、その形状を維持し続ける仕組みを説明する理論の一つ。銀河の渦巻腕は、その時点での星の粗密を反映しているだけ(つまり密度波)で、銀河円盤部の個々の星は腕と腕の間を移動しているとする説。恒星分布の粗密が作る重力ポテンシャルの強弱によって恒星の公転運動が変化し、その結果として生じる恒星分布の粗密が原因となる分布と一致すれば、それが永続する密度波のパターンとして渦巻腕となる可能性がある。渦巻がきつく巻きついているとした場合、その振幅を線形近似すると、その地点での物理量どうしだけが関係する線形の方程式が得られる。これを解くと、実際に上記の条件を満たす恒星分布の濃淡が存在することが知られている。このことを、リン(C.C. Lin)とシュー(F. Shu)が1964年に発表したのが密度波理論のはじまりとされる。巻き込みの困難も参照。
自然界のあらゆるゆらぎに見られる低周波側で大きくなる雑音のこと。周波数スペクトルが周波数(f)に反比例する依存性を示すので、しばしば1/f雑音とも呼ばれる。フリッカ雑音の起源はさまざまで、一般的な説明は困難であるが、たとえば半導体回路の場合には、その表面特性と関係があるとされている。
