天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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離心近点角

楕円軌道の焦点Fを原点に、近点Pから天体Qまで測った角度 $f$ を真近点角または真近点離角と呼ぶ。真近点角は物理的な実体を伴うので理解がしやすいが、数学的に扱うには不便な点もある。
そこで、楕円軌道に外接する円と、天体から焦点と近点を結ぶ線に対して下ろした垂線の延長が交わる点をQ'とし、外接円の中心Oを原点に、近点PからQ'まで測った角度 $u$ を定義し、これを離心近点角または離心近点離角と呼んでいる(図参照)。
たとえば、軌道長半径 $a$離心率 $e$ の場合、天体の動径 $r$ は、真近点角 $f$ を使うと

$$r=\frac{a(1-e^2)}{1+e\cos f}$$

であるが、離心近点角 $u$ を用いれば

$$r = a (1 - e \cos u)$$

と簡単に書ける。

アメリカ航空宇宙局(NASA)が1996年に打ち上げた火星探査機。2006年11月まで観測を行った。高分解能カメラ、広角カメラ、レーザー高度計、赤外線放射分光計、磁力計などが搭載された。また、マーズローバ着陸機との電波を中継する役割も有していた。高分解能カメラは以前よりも1桁以上すぐれた最高解像度1.5mで表面を撮像して、さまざまな新しい地形を発見した。火星の中高緯度の急峻な斜面に、ガリーと呼ばれる幅数10-数100m、長さ数kmの溝地形を発見している。これには斜面に堆積した雪や二酸化炭素氷が融けて(蒸発して)斜面崩壊を誘発したと思われるもののほか、地下から塩分濃度の高い水が流出してできたものもあるとされている。
レーザー高度計による地形の観測から、北部は新しい低地、南半球から赤道域は古い高地という二分性が確認され、重力データから地殻厚さの変化とも対応していることが明らかになった。磁力計は南半球の高地に強い残留磁化があることを明らかにし、火星の過去に流体核の運動にともなうダイナモ作用が存在したことが確実になった。赤外線分光計は、火星大気の温度、圧力、ダストなどの変動を明らかにするとともに、表面に酸化鉄ヘマタイト(赤鉄鉱)の多い領域を発見した。この一つ、メリディアニ平原はマーズローバ着陸機オポチュニティの着陸地点となった。

流体の運動を記述する一つの方法として、流体と一緒に運動する体積素片の位置を追跡するというものがある。このとき、初期時刻における体積素片の位置を示す座標値により各体積素片をラベル付けすることができる。このように流体の体積素片に固定された座標をラグランジュ座標と呼ぶ。一方、空間に固定された通常の空間座標はオイラー座標と呼ばれる。時刻ごとにラグランジュ座標の各点がどのオイラー座標の点に対応するかを指定すれば、流体全体の運動が一意的に定められる。非線形構造形成において用いられるゼルドビッチ近似は、ラグランジュ座標の運動を記述する近似法の一つである。

アメリカ航空宇宙局(NASA)が1996年に打ち上げた火星着陸探査機。低コストの惑星探査ミッションであるディスカバリー計画の1号機である。1997年7月、バイキング計画から20年以上たって、火星のアレス(エリーズ)谷と呼ばれるアウトフロウチャンネル(大洪水地形)の底に着陸した。ソジャーナと命名された重さ10 kgの小型ローバで周囲を観察した。多色カメラで岩石を観察するとともに、アルファ線陽子線X線分光計で岩石組成を調べた。玄武岩、安山岩と似た組成の岩石が発見されており、いずれも洪水の上流域から運ばれてきたと考えられる。また、流水による浸食を受けた地形や削れた岩石を観察している。

万有引力の法則にもとづいて太陽を周回する惑星準惑星太陽系小天体は円軌道、楕円軌道、放物線軌道、双曲線軌道のいずれかの軌道を運動しており、これらの種類を表すのが離心率 e である。原点と焦点のずれ(具体的には焦点からの距離と準線からの距離の比)から定義され、e = 0なら円、0 < e < 1なら楕円、e = 1なら放物線、e > 1なら双曲線となる。
円軌道は楕円軌道の特殊ケースであり、一般的に惑星や小惑星は楕円軌道を運動すると考えてよい。楕円軌道の場合は、軌道長半径を a、短半径を bとして $e = \sqrt{1 - (b/a)^2}$ によって定義される。
離心率が小さければ円軌道に近く、離心率が大きくなるほど細長い楕円軌道になる。
彗星には楕円軌道を周回するもの(周期彗星)もあるが、放物線軌道あるいは双曲線軌道をとり、2度と戻ってこないものもある。

光線の強さを表す概念。特定方向へ伝播する電磁波が、単位立体角、単位周波数、単位面積、単位時間当たりに輸送するエネルギーのこと。つまり、微小面積 dA を時間 dt の間に通過する電磁波のうち、dA の法線方向から立体角 の範囲に進む光線が周波数範囲 [ν, dν] で運ぶエネルギーは、法線方向に伝播する光線の放射強度が Iν (θ,Φ) ならば、Iν (θ,Φ) dΩ dν dA dtとなる。ここで、 (θ,Φ) dA の垂線の向きを極座標で表したものである。放射強度は、比強度、あるいは強度と呼ぶこともある。なお、天文学では、観測量としての放射強度を、輝度と呼ぶことが多いが、これは光学で用いる輝度とは物理次元が異なることに注意。

銀河円盤星周円盤原始惑星系円盤を参照。

銀河円盤(ディスク)を持つ銀河、すなわち渦巻銀河レンズ状銀河の総称。形態分類ハッブル分類も参照。

物体がその温度に応じた電磁波を放射し、熱エネルギーを減少させて冷却される現象のこと。気象では、夜間、地表面の熱が放射によって大気中に奪われ、気温が下がる現象のことを指すが、天文では、星間媒質などが電磁波の放射によって熱エネルギーを失って冷える過程を指す。

粒子、あるいは流体素片に付随した物理量の時間変化を表す時間微分をラグランジュ微分という。
考えている粒子、あるいは流体素片の速度を ${\boldsymbol v}$ とすると、ラグランジュ微分は次のように書ける。

$$\frac{D}{Dt}=\frac{\partial}{\partial t}+{\boldsymbol v}\cdot \nabla$$

これに対して空間の決まった位置における物理量の時間変化を表す時間微分をオイラー微分というが、これは単に空間座標を固定して時間座標を微分した時間に関する偏微分 $\partial/\partial t$ (上式の右辺第1項)である。オイラー法ラグランジュ法を参照。

全波長域の放射を考慮した絶対等級$M_{\rm bol}$と表され、星の光度 $L$(単位時間に放出する放射エネルギー)とは以下の関係がある。

$$M_{\rm bol}=4.74-2.5\log(L/L_{\odot}) ,$$

ここで、$L_{\odot}$ は太陽の光度である。

流れに沿って移動する流体の部分(素片)に固定した空間座標(ラグランジュ座標)を用いて、流体力学を表現する方法。
空間に固定した空間座標(オイラー座標)を用いるオイラー法とともに流体力学を表現する2つの方法のうちの一つ。初期(t=0)に位置 $\boldsymbol{x}_0$ にあった流体素片の時刻 t での位置を $\boldsymbol{x}$ と記すと、その運動はニュートンの運動方程式で決まる。
体積あたりの圧力による力 $-\nabla p$ のみが流体に働いている場合を考えれば、ニュートンの運動方程式は

$$\rho(\boldsymbol{x},t) \frac{d \boldsymbol{u}(\boldsymbol{x}_0,t)}{d t}=-\nabla p(\boldsymbol{x},t)$$

のように表せる(ここで $\rho$ は質量密度、$\boldsymbol{u}$ は速度を表す)。
初期(t=0)に位置 $\boldsymbol{x}_0$ にあった流体素片の運動は

$$\frac{d \boldsymbol{x}(\boldsymbol{x}_0,t)}{dt}=\boldsymbol{u}(\boldsymbol{x}_0,t)$$

によってきまり、以上から流体の流れが記述される。
ラグランジュ法の時間微分は、オイラー法による記述 $\partial/\partial t$ と区別するため、通常 $D/Dt$ もしくは $d/dt$ と書かれる。このラグランジュ法による記述にもとづく数値計算法もラグランジュ法と呼ばれる。

弱い力を参照。

電子の固有磁気モーメントのこと。電子の電荷 $e$、換算プランク定数 $\hbar$、電子質量 $m_{\rm e}$を用いてボーア磁子 $\mu_{\rm B}$を表すと

$$
\mu_{\rm B}=\frac{e\hbar}{2m_{\rm e}}=0.927\times 10^{-23}\,\,\,\,{\rm [J\,T^{-1}]}
$$

である。ゼーマン効果も参照。

同じ月日に同じ月の位相が見られる周期として、紀元前433年にギリシャの数学者メトン(Meton)が発見した19年の周期。19 太陽年は365.242194 日 ✕ 19 = 6939.601686 日で、これが235 朔望月(29.530589 日 ✕ 235 = 6939.688415 日)とほぼ等しいことに由来する。この周期は、太陰太陽暦でうるう(閏)年を入れる置閏法のために重要であった。中国の暦法である章法は、メトン周期に基づいたものであるが、メトンとは独立の発見によるといわれている。メトン周期をさらに改良したものとして、紀元前300年頃にカリポス(Calippus)により発見されたカリポス周期(76 太陽年 = 940 朔望月 = 27759 日)や、紀元前 150年頃のヒッパルコス(Hipparchus)によるヒッパルコス周期(304 太陽年 =3760 朔望月 = 111035 日)がある。

水素原子の電子の基底状態主量子数 $n=1$)における軌道半径であり、この状態における水素原子の半径に相当する。ボーア半径はSI単位で表せば、

$$ a_0=\frac{4\pi \varepsilon_{0}\hbar^2}{me^2}
= 5.2917720859\times 10^{-11}\,\,\,\,{\rm [m]}$$

となる。ここで、 $e$電気素量(素電荷)、 $m$電子の質量、$\varepsilon_0$ は真空の誘電率、$\hbar=h/2\pi$$h$プランク定数である。ガウス単位系を用いると電気素量の物理次元と単位が変わるため、 $a_0=\frac{\hbar^2}{me^2}$ となるが、長さの単位を同じにすれば当然ながら得られる値は等しい。水素原子の場合、主量子数 $n$ の軌道半径はボーア半径と簡単な関係にあり、 $a_n=a_{\rm 0}n^{\rm 2}$ である。

レーザーの振動数を安定化するために用いられる光共振器の一つで、共振モードに一致した光だけを通すフィルターとして、特定の振動数と空間モードを持つきれいな光だけを出力する。レーザー干渉計も参照。

銀河円盤(渦状腕を含む)を構成する星。例として、OB 型星のような若くて明るい星、セファイド散開星団に見られる星などがある。もちろんもっと暗い星も存在している。太陽も円盤種族に属する。円盤種族の星は、太陽のように金属量が多く、年齢が若い傾向があり、銀河中心の周りをほぼ回転運動している。ただし、詳細な観測によると、円盤種族は一様ではなく、比較的新しい星からなる薄い円盤と比較的古い星からなる厚い円盤に分かれることがわかっている(太陽は前者)。バルジハロー球状星団を構成する楕円体種族の星は円盤種族の星とは対照的な性質を持つ。

観測している天体と観測者の間を他の天体が通過するために、観測している天体が隠される現象のこと。通常、観測者から見て近い方の天体の方が見かけの大きさが大きく、遠方にある天体を完全に隠す場合のことをいう。月による掩蔽を特に星食と呼ぶこともある。それに対して、遠方にある大きな天体と観測者の間を小さな天体が移動することによって遠方にある大きな天体を部分的に隠す現象は、経過と呼ばれる。とくに遠方の天体が太陽の場合は太陽面通過(日面経過ともいう)として知られている。

光の偏光状態の一つで、光の進行に従い電場ベクトルが進行方向 に垂直な面内で回転する状態のこと。角運動量を持ち、光子スピンに対応する。 光源から光が進行する方向を見た場合に、電場ベクトルが右回転する場合を右円偏光、左回 転する場合を左円偏光と呼ぶ。ただし、可視光では過去の伝統にしたがって、「光源に向かって観測する立場から見て、電場ベクトルが右回転する場合を右円偏光、左回 転する場合を左円偏光」との記述も散見され、この場合は左右が逆になっているので注意。なお、天球座標が右手系であるため、現在の定義に従えば、偏光面の位置角が時間に対して増加する向きが右回りになる。直線偏光波長板も参照。