天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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アストロバイオロジー

宇宙において生命の起源、進化、分布、および将来について研究する学問分野。1996年にアメリカ航空宇宙局(NASA)がこの分野をターゲットにしたプログラムを立ち上げて発展を主導した。この時のキャッチフレーズとなった学問名称のAstrobiologyは、アストロノミー(astronomy: 天文学)とバイオロジー(biology: 生物学)を組み合わせた造語である。

過去にはこの分野は、Exobiology, Cosmobiology, Bioastronomyなどとも呼ばれたが、今日ではいずれも限定的な使用にとどまっている。国際天文学連合(IAU)は2002年に’Bioastronomy: Life among the Stars‘といシンポジウム(No.213)を開催しているが、現在では部会F(Planetary Systems and Astrobiology)とその下の委員会F3(Astrobiology)がこの分野をカバーしており、いずれも分野名称にはAstrobiologyが用いられている。

このように現代のAstrobiologyはまだ30年程度の歴史しか持たない新しい学問分野であり、定義もはっきりと定まっているとは言えない。Astrobiologyの日本語訳としては「宇宙生物学」が広く用いられる。しかし、医学など他分野では宇宙環境が人体や生物に与える影響の研究を指すなど、日本における「宇宙生物学」には狭義の限定的な用法もある。そこでAstrobiologyの適切な訳語が創出されそれが学界の中で定着に向かう気運が見えるまで、この辞典では英語をそのまま使ってアストロバイオロジーと呼ぶ。1996年以前のNASAの地球外生命の研究プロジェクトで使われたExobiology の訳語として「圏外生物学」という用語もあったが最近はあまり使われない。

アストロバイオロジーはその性格上、異分野・多分野融合を誘起するテーマが多く、天文学(観測天文学、理論天文学)、生物学(生物化学、分子生物学、遺伝学、進化学、極限環境生物学)、地球惑星科学(比較惑星学、古生物学)、物理学、化学、工学、医学などさまざまな分野の研究者が関わる極めて幅広い研究分野である。アストロバイオロジーの主要な研究分野として、以下のものが挙げられる。
・生命とはそもそも何か、どのようにして生まれたのか
・生命の多様性とそれらが存在しうる環境はどのようなものか
・太陽系内の惑星や衛星における生命探査
・生命を宿しうる太陽系外惑星とそこでの生命存在指標の探査
・生命探査に必要な探査機、宇宙望遠鏡、観測装置などの技術開発
日本では「アストロバイオロジー」を看板に掲げる研究組織はまだ少ないが、多くの大学に関連研究者がいる。日本天文学会創立100周年記念出版事業で刊行された「シリーズ現代の天文学」(2版化進行中)に、2024年9月に新たに18巻『アストロバイオロジー』が加わった。

(関連ホームページ)
自然科学研究機構のアストロバイオロジーセンター
https://www.abc-nins.jp/
東京科学大学(2024年9月まで東京工業大学)の地球生命研究所
https://www.elsi.jp/
千葉工業大学の惑星探査研究センター
https://www.perc.it-chiba.ac.jp/
国際天文学連合の部会F
https://www.iau.org/science/scientific_bodies/divisions/F/
NASAのアストロバイオロジー
https://astrobiology.nasa.gov/
欧州アストロバイオロジーネットワーク連合
http://www.eana-net.eu/


アメリカ航空宇宙局(NASA)が制作したアストロバイオロジーの紹介動画

https://www.youtube.com/embed/3HN_zx4JJfM?si=Tp81zHu_RXybSgaq"

位置天文学あるいは天体位置測定学と訳す。個々の天体の天球面上での位置を測定して、天体の同定や運動の研究を行う学問。単に天体の方向を計測するだけでなく、年周視差による距離計測、長期間の位置観測による固有運動の計測も含む。古くから研究が進み、すでにやりつくされた感もあったが、ヒッパルコス衛星超長基線電波干渉計(VLBI)の登場により飛躍的に観測精度が向上し、これまでの地上からの望遠鏡による観測でははっきりわからなかった物理量が精度よく求まるようになり、新たな意義を獲得しつつある。
天体の絶対的位置の測定には、天体自体の固有運動、地球の公転運動による年周視差や光行差、地球自転軸の歳差運動や章動、地球大気の屈折による大気差、観測光学系の収差による像面湾曲や歪曲などさまざまな要因の補正が必要となる。これらの補正を行った天体位置カタログとして、ヒッパルコス衛星によるヒッパルコスカタログとティコ(タイコ)カタログ、 アメリカ海軍天文台によるUCAC2カタログとUSNO B1.0カタログなどが公開されていて、異なる波長域や観測装置で観測した天体データを照合したり、個々の天体の位置変動からその運動を解析するのに用いられる。
日本のVERAプロジェクトは、電波干渉計を用いて10マイクロ秒角に迫る精密な位置測定を行っている。世界初のアストロメトリ専用の衛星としてヒッパルコス衛星が1989年に打ち上げられ大きな成果を挙げた。これを受けてガイア衛星が2013年12月に打ち上げられ、2016年9月に最初の約1年間分の観測に基づくデータを公開した(Gaia-DR1)。その後も観測は順調に進み、2018年4月(Gaia-DR2)と2020年12月(Gaia-EDR3)にも段階的にデータ公開が行われ、2022年6月に3回目のデータ公開(Gaia-DR3)が行われた。観測天体数は18億個にも上り、約14億7000万個の星の位置、年周視差、固有運動が測定された。ヒッパルコス衛星の精度が1ミリ秒角程度であったが、2桁近い精度の向上が実現している。

1. アストロラーベ
ある場所における太陽、明るい恒星黄道十二宮の出入りや高度・方位を、計算によらず、視覚的な操作で知るための道具。逆に天体の高度から時刻を知ることもできる。天体観測以外にも、占星術で天体位置からホロスコープを作ったり、イスラム圏で礼拝の時刻やメッカの方位を捜したりするのに使われていた。典型的なアストロラーベは直径15cmほどの真鍮製のもので容易に持ち運びできる。また、天体の南中高度から緯度を求める航海用のアストロラーベも存在する。
いつ作られたのかは不明だが、4世紀ごろのアレクサンドリアには既に存在していたようである。8世紀ごろイスラム世界に伝わり大きく発展、12世紀ごろ他のさまざまな天文学の知識とともにヨーロッパにもたらされ、17世紀ごろまで広く使われた。

2. プリズムアストロラーベ(ダンジョンアストロラーベ)
子午儀子午環子午線方向しか動かないのに対し、水平方向のみに稼動して天体の高度が(プリズムによって決まる)特定の値をとる時刻(子午線をはさんで2回ある)を測定する装置。天体の赤経・赤緯または観測地点の経緯度や時刻(恒星時)を精度よく決めるのに使われていた。

ダークマターを参照。

ウォルター・アダムス(Walter Sydney Adams; 1876-1956)はシリア、アンティオキア生まれのアメリカの天体物理学者。1898年にダートマス大学を卒業、シカゴ大学の大学院に進み、ヤーキス天文台のスタッフとなる。後にウィルソン山天文台ヘールとともに装置開発と太陽スペクトルの研究に従事した。恒星スペクトルの観測では、主に巨星白色矮星の区別や分類に貢献、2.5m反射望遠鏡の完成後は金星や火星の大気、分光連星セファイド星間ガス新星など広範囲の天体のスペクトル観測研究を行なった。また、シリウスの伴星(シリウスB)が白色矮星であることを示し、そのスペクトル線の赤方偏移を測定、一般相対論的な重力の強い天体であることを最初に明らかにした。1923-46年にウィルソン山天文台の台長を務め、1928年に太平洋天文学会のブルースメダル受賞。

 

参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/125

主要な成分である水素が主に中性原子状態(HⅠガス)で存在している星間ガス雲のこと。
中性水素ガス雲には温度が1万度程度のウォームガス(warm gas, warm neutral medium)と呼ばれる成分と温度が100K程度のコールドガス(cold gas, cold neutral medium)と呼ばれる成分がある。
主にウォームガスは水素原子の超微細構造遷移に伴う波長21cmの輝線で観測され、コールドガスは同じ波長の吸収線で観測される。星間物質も参照。

ダークマターを参照。

物質に圧力をかけるとそれに比例した電圧が生じる効果をいい、ピエゾ効果ともいう。逆に電圧をかけると機械的な変形(応力)を受ける効果を逆圧電効果というが、両方の現象を合わせて圧電効果ともいう。圧電効果を起こす物質のことを圧電素子(ピエゾ素子)という。圧電素子である結晶に高周波の電気信号を加えると電気振動が機械振動に変換され、電気信号(周波数、振幅)に応じた疎密波(超音波)が結晶中に生じる。これを用いた電波分光計が音響光学型電波分光計(AOS)である。補償光学用可変形鏡の駆動素子としても用いられる。

天体が示すスペクトル線には周波数ないし波長方向に幅があり、その形は幅ができる原因によって異なる。このうち、ガスを構成する原子や分子が十分な圧力を示す際に顕著になる成分を圧力幅という。ローレンツ関数型をしており

$$I(\nu)=\frac{I_0}{\pi}\frac{\gamma}{(\nu-\nu_0)^2+\gamma^2}$$

で表現できる。ここで、$\nu$ は周波数、$\nu_0$ は中心周波数、$\gamma$ は線幅、$I_0$ は強度に対応する定数である。圧力幅は、ガス粒子同士の衝突や周囲にある電磁波との相互作用で生じる。

星間空間ではガス密度が低いため、圧力幅の寄与は小さ過ぎて、そのスペクトル線での圧力幅は無視できるほど小さいが、恒星の表面や惑星大気など、比較的高密度なガスが発するスペクトル線では十分に観測できる幅となる。これを逆に利用することでスペクトル線の形や幅から圧力を求めることができる。自然幅熱幅減衰輪郭も参照。

電離したガスと中性ガス、気体と液体など異なる相の間で圧力が等しくなり、力のつり合いが成り立っていること。複数の異なる相がつり合いにあるための条件の一つ。局所熱力学平衡物質の三態と四態も参照。

1. 雑音等価電力(Noise Equivalent Power)参照。
2. 北黄極(North Ecliptic Pole)のこと。黄道座標系を参照。

チリ北部、標高4800 mのパンパラボラに位置する口径 10 mのサブミリ波望遠鏡。国立天文台、チリ大学と東京大学をはじめとする大学共同体によって運用されている。搭載する受信機に応じて230~850 GHzの周波数帯での観測が可能である。南半球に設置された初めての大型サブミリ波望遠鏡として2004年から本格的な観測を開始し、星形成領域や星間物質起源の高励起分子輝線やダスト熱放射、中性炭素原子輝線などの観測を行っている。
ホームページ:https://alma.mtk.nao.ac.jp/aste/

超伝導量子干渉素子を参照。

ジョン・クーチ・アダムス( John Couch Adams; 1819-1892)はイギリスの天文学者、数学者。コーンウォール生まれで、24歳のとき、当時未発見であった海王星の位置を最初に予言したことにより、海王星の発見者の一人とされている。ケンブリッジ大学のまだ学生だった頃、天王星の運動表と観測との差が次第に拡大する事実を知り、未知惑星の重力による摂動作用が原因と確信してその研究に取り組んだ。その計算結果の要約を1845年の秋に王立天文官のエアリー(George Biddell Airy)とケンブリッジ天文台台長のチャリス(James Challis)に知らせたが、アダムスが二人との詳しい議論ができない内に、フランスのルベリエ(Urbain Le Verrier)による同じテーマの論文が同年11月に発表された。慌てた英国側は未知惑星の探索を急きょ開始した。一方、ルベリエからの要請を受けたベルリン天文台のガレ(Johann Gottfried Galle)は、1846年9月23日に未知惑星である海王星を発見してしまう。英国が遅れをとった理由はさまざまに議論されているが、近年の調査ではアダムスの研究態度と性格にも原因の一部があったという。
アダムスは海王星の研究のほか、月の平均運動の永年加速(王立天文学会のゴールドメダル受賞)、しし座流星群の軌道がテンペル・タトル彗星の軌道と一致することから、両者の起源が同一であることを示した研究など、天体力学の分野で大きな業績をあげた。1859年から32年間ケンブリッジ大学教授を務め、1861年にはケンブリッジ大学天文台台長になった。

オランダ電波天文学研究所のこと。

金星は厚い硫酸の雲に覆われているが、赤外線では金星の厚い雲を透かして内部の観測が出来る。金星は惑星の自転を60倍も上回る大気の回転(スーパーローテーション)が惑星規模で起こっていることが判っており、地球の気象とは異なる様相を示す。あかつき探査機は雲の下からの情報を得ることのできる近赤外線のカメラをはじめとして、異なる波長をとらえるカメラを組み合わせて金星気象の3次元観測を行うことを目指して、日本の宇宙科学研究所で開発され2010年5月に打ち上げられた。2010年12月に金星に到着したが推進系の不具合により金星周回軌道投入を果たせず、2015年12月に再び金星に接近し、ここでようやく周回軌道に入った。搭載された2つの近赤外カメラ(IR1, IR2)、中間赤外カメラ(LIR)、紫外カメラ(UVI)、雷大気光カメラ(LAC)は順調に観測を重ね、金星大気のスーパーローテーションをはじめとする大気力学の謎に迫りつつある。また、金星地表面で励起されたと考えられる大気重力波が高度65 kmの高度において惑星規模の弓状構造を発生させるなどの発見を果たした。カメラは全て放熱面である南北のパネルに取り付けられ、全ての視野を同じ方向(金星観測中に視野に金星が入る様に)としている。また電波科学のために超安定発信器(USO)を一基装備している。打上げ時の総重量は燃料、酸化剤(合計196 kg)を含め518 kg。そのうち、観測機器重量は約30 kgである。

遠方の銀河に対する距離指数決定には、K補正、E補正、減光補正の3つの補正項が必要となる。K補正は、異なる赤方偏移の銀河のスペクトルエネルギー分布を比較する際に、観測波長に対応する静止波長が赤方偏移に依存するため、天体の予想されるスペクトルの形状を用いてこれらの波長の違いによる影響を補正する項である。E補正は、時間を遡ることにより銀河に含まれる星の年齢が若くなり、銀河全体のスペクトルが進化する影響を補正する項、減光補正は、星間吸収による減光量を補正する項である。E補正も参照。遠方の超新星などの光度と距離の分析にもK補正は使われる。

1年間を通じて、ある特定の地点で、毎日決まった時刻(たとえば正午)における天球上の太陽の位置をつないでできる細長い8の字型をした曲線。8の字の長さ方向は太陽高度(赤緯)の変化に対応し、幅方向は視太陽時平均太陽時の差(均時差)に対応している。日時計の目盛りに均時差の補正をするために利用される。年間を通じた天候の良否にも影響されるため、アナレンマのきれいな写真を撮影するのは極めて難しい。

多くの巨視的物理量や観測量は、その値を連続的にとりうるアナログ量である。これらアナログ量の信号値を、一定のルールに基づき有限ビット長の数字列へと離散化して変換する操作のことを、アナログ-デジタル変換と呼ぶ。A/D変換ということも多い。天文学上の数値計算や観測で扱われるアナログ信号の多くは、その時間変化あるいは空間変化も合わせて記録されなければならない。この場合、時間方向や空間方向での離散化も合わせて必要である。信号の値を離散化する操作を「量子化」(quantization)と呼ぶのに対し、時間・空間方向で離散化する操作を「標本化」あるいは「サンプリング」(sampling)と呼ぶ。一連の流れの中で量子化と標本化の両方を行う操作全体を指して、A/D変換と呼ぶ場合もある。
アナログ信号を数値として記録したり計算機で扱うためには、A/D変換は不可欠な処理である。ただし量子化や標本化は、系統誤差を発生しないよう、注意深くなされる必要がある。A/D変換後のデジタル信号と、もともとのアナログ量の真の値とのずれを量子化雑音と呼ぶ。量子化のルールやビット長は、この量子化雑音の影響が許容範囲に収まるように決定されるべきである。また、標本化の間隔も、折り返し歪み(エイリアシング)が起きないよう十分密になされる必要がある。詳しくはナイキストサンプリングを参照。

残光のこと。天文学ではガンマ線バーストの後に、X線可視光でしばらく輝く現象をいう。X線アフターグローはガンマ線増光にくらべ継続時間が数日と長いので、位置決定が可能になり、その結果ガンマ線バーストが天の川銀河銀河系)外の現象であることが判明し、解放エネルギーが宇宙最大のアウトバースト現象であることが判明した。また、アフターグローの観測により、ガンマ線バーストには超新星爆発に伴うものがあることがわかった。