天体を観測するとき、2つの近接した天体を識別できる最小の角度。角度分解能ともいう。大気ゆらぎを含む観測システムの点像分布関数の半値幅またはレイリーの解像限界で表される。
角分解能を決める要因には、
1. 大気ゆらぎ
2. 光の回折による像の広がり(回折限界)
3. 光学系の収差や製作精度
などが混在しており、地上からの可視光や近赤外線での観測では1.が、大気の影響を受けない電波や赤外線を観測する宇宙望遠鏡では2.が、非常に高い製作精度が要求されるX線宇宙望遠鏡の光学系では3.が角分解能を決める要因となっている。1.を克服する技術として補償光学が、2.を克服する技術として干渉計がある。検出器の画素サイズが上記光学的な角分解能よりも悪い場合には、検出器の1画素に相当する角度が観測システムの角分解能となる。分解能も参照。
波長 0.4-0.8 μm 程度の電磁波の名称。波長によって色が違って見える。人間の目に感じるところからこの名前が付いた。
表面温度が約6000 Kの太陽から放射される電磁波は可視光域の波長約 0.5 μm のところでその強度がピークとなる。人類はこの太陽からの放射を有効に利用するために、進化の過程でこの波長の電磁波を目で感じるようになったと考えられている。極めて高温度あるいは低温度のものをのぞけば、宇宙にある星の多くはその放射の大部分を可視光域に放っている。スペクトルも参照。
1. 開口合成型の電波干渉計で得られる最も基本的な測定量。ビジビリティという英語名も広く用いられている。具体的には、基線を構成するそれぞれの素子アンテナが測定する電場信号間の相互相関関数である。得られた可視度は、天球面における輝度分布の空間周波数成分であり、その空間周波数は基線ベクトルと対応している。多くの基線で多数の可視度を取得し、それをフーリエ変換して天体画像を得るのが、開口合成望遠鏡の基本的な働きである。
2. 干渉縞のコントラストを示す指標。干渉縞の山 $I_{\rm max} $ と谷 $I_{\rm min}$ の強度の差を強度の和で割った量
$$ V=\frac{I_{\rm max}-I_{\rm min}}{I_{\rm max}+I_{\rm min}} $$
で定義される。$I_{\rm min}=0$ のとき、可視度 $V=1$ となる(図参照)。
デジタル画像の画像情報(強度や色)を持つ最小単位のこと。英語読みのままピクセルとも言う。画像は画素の2次元の配列で表現される。英語のpixelはpicture element から作られた合成語である。
電離ガス中の制動放射(自由-自由放射)において、古典力学に基づくモデル計算に対する補正係数をいう。非常に大雑把な近似計算と比較すると陽イオンのそばを電子が通過するときの衝突係数bの実際的な最大値と最小値をbmaxとbminとした場合、$g=(\sqrt{3}/\pi)\times \log_e(b_{\rm max}/b_{\rm min})$に対応すると解釈することもできるが、より正確には量子力学的効果も影響する補正係数である。個々の電子に対するゴーント因子は入射電子の速度にも依存するので、熱的電離ガスに対する計算では熱運動速度で平均されたゴーント因子を用いる必要がある。いずれの場合も、概ね1に近い値をとり、電波領域では1程度の値となる。
元素存在度を参照。天文学では、鉱物の化学組成(chemical composition)のような一般用語とは少し違った使われ方をする。元素組成、元素組成比、元素存在比などの言葉も同じ意味で用いられる。
2つ以上の波動が同一地点に同時に到達する場合に、それらの間で干渉現象が見られる場合、これらの波の間には可干渉性があるという。単に干渉性という場合もある。英語のコヒーレンスをそのまま用いることも多い。定量的には、周波数ないし時間領域での波の相関の程度をす指標であり、2つの時系列信号に対して可干渉性 $\mathrm{coh}\,(\nu)$ は以下の式で定義される。
$$\mathrm{coh}(\nu) \equiv \frac{|S_{12}(\nu)|}{\sqrt{S_{11}(\nu)S_{22}(\nu)}}$$
ここで、$S_{11}(\nu)$ と $S_{22}(\nu)$ はそれぞれの信号の自己相関関数のスペクトル、$S_{12}(\nu)$ は相互相関関数のスペクトルである。なお、この2乗である $ \mathrm{coh}^2(\nu) $ を可干渉性の値とする場合もある。上式からわかるように、この $\mathrm{coh}(\nu) $ は正規化されており、$0\leq \mathrm{coh}(\nu) \leq 1$ を満たす。$\mathrm{coh}(\nu) =1$ は、2信号が振幅以外が完全に一致していることを示す。一方、信号1、2間の相対位相が一定でない場合には、$ \mathrm{coh}(\nu) $ は1未満となる。
なお、空間的に変化する2つの信号に対しても、上と同様の可干渉性を空間周波数領域で定義することができる。
角度で表した2点間の距離のこと。2つの天体A, Bがあり、観測者をOとすると、$\angle$AOBが角距離である。 天文学では普通、天球上で測った2天体間の角距離を指す。
角径距離(角度距離、角直径距離ともいう)は、天体の実際の大きさと見かけの大きさの比にもとづいて定義される距離である。座標距離 $r$(赤方偏移 $z$)に大きさ $D$ の天体があり、その見かけの広がりが現在角度 $\Delta\theta$ に見えるとき、角径距離 $d_{\rm A}$ は $d_{\rm A}=D/\Delta\theta$ で定義される。ここで $D=a(t)\,r\Delta\theta$ なので、
$$d_{\rm A}=a(t)\,r=\frac{a_0\,r}{1+z}$$
となる。角径距離 $d_{\rm A}$ と光度距離 $d_{\rm L}$ の間には
$$d_{\rm L}=(1+z)^2\,d_{\rm A}$$
の関係がある。膨張宇宙で遠方の天体までの距離を測る場合、光が届く間にも宇宙は膨張していることに注意が必要である。角径距離と赤方偏移の対応については有用な諸データの表9を参照。
表9 https://astro-dic.jp/redshift-age-distance/
視直径を参照。
対応する英語をそのまま読む「ローテーションメジャー」も広く用いられている。ファラデー回転を参照。
数学者ガウス(C.F. Gauss)が、それまでのニュートンの薄肉レンズに対する法則を拡張して、厚さを持つレンズ系にも適用できる光学体系として、近軸光線の範囲で確立したもの。この理論の登場で、各レンズはその前面と後面の符号付きの曲率半径、媒質の屈折率、厚さで記述され、複数のレンズからなる光学系を通過する光線の道筋を三角関数の1次近似の範囲で追いかけることにより、光学系の挙動を分析することができるようになった。
ガウス光学における結像点。
測定する天体の中心にその中心を置いた一定の半径の仮想円(開口(aperture))内の天体からの光を積分して、その天体の明るさを定量的に見積もる測光手法。恒星などの点光源の明るさを測定する場合、通常は星像直径の2.5倍から3倍程度の直径の開口を設定し、当該星の近傍でかつ明らかな天体がない場所に同じ大きさの開口を置いて測定した背景(前景)光量を差し引いて、恒星の光度を測定する。これに対して一定の等輝度線に含まれる部分の光量を積分して測定する方法を等輝度線測光という。
アンテナ開口能率を参照。
波が障害物の背後に回りこむ現象を回折という。電磁波、音波、表面波や量子力学的波動などすべての波に見られる。回折効果は障害物の大きさと波長が同程度のときに著しく観察される。障害物の形状や配置により、回折された波が干渉して回折パターン(回折スパイクも参照)が見える。エアリーパターンとホイヘンスの原理も参照。
エアリーパターンを参照。
点光源からの光が真空中で無収差の光学系により、幾何光学的には焦点の一点に集中するときでも、光の波動の性質に伴い実際にはある大きさに拡がる。その大きさは光の波長を $\lambda$、望遠鏡の口径を $D$ とすると、
$$1.22\frac{\lambda}{D}\,\,\,\, [ラジアン]= 2.52\times10^5\frac{\lambda}{D}\,\,\,\,[秒] $$
の角度の広がりをもつ。これを回折限界と呼ぶ。エアリーパターンも参照。レイリーの解像限界も同じ概念である。
光学くさびを参照。
銀河に対するサーベイ観測のこと。一定の明るさ以上の銀河、あるいは輝線を出すなどの特定の性質を持つ銀河をすべて検出するために、ある天域を覆い尽くす観測。覆い尽くす天域の広いものは「ワイドサーベイ」(全天に近い広さなら「全天サーベイ」)、非常に狭いものは「ペンシルビームサーベイ」と呼ばれることがある。観測時間の制限から、ワイドサーベイの限界等級はあまり深くできず、暗い遠方銀河のサーベイはペンシルビームサーベイにならざるを得ない。しかし、観測技術の進歩によってサーベイ観測の「深さ」と「広さ」の限界は常に突破され続けている。
銀河サーベイには、明るさや大きさなどの測定を目的とする撮像サーベイ(測光サーベイ)(撮像観測と測光観測を参照)と、スペクトルエネルギー分布を調べることを目的とする分光サーベイがある(図1)。分光サーベイのうち、銀河の距離を知ることを主目的とする場合は赤方偏移サーベイということもある。分光観測が容易にできないほど暗い100億光年を超えるような深宇宙にある銀河に対しては、いくつかのバンドでの測光観測から測光赤方偏移を求めたり、スペクトルエネルギー分布を推定したりするサーベイが行われる。
サーベイの基準を満たす銀河をすべて拾い出せている場合には「完全な」サーベイという。銀河の場合、同じ明るさの銀河でも、サイズが小さく表面輝度の高いものは検出が容易だが、表面輝度が低く大きく広がったものは背景の空の明るさに埋もれて検出が困難である。また、遠方の銀河では、表面輝度が赤方偏移を z として (1+z)-4 で減少するので、周辺の淡い部分の検出が困難になる。これらの理由で、ある限界等級までの完全な銀河サーベイを行うのは大変困難である。
写真観測により作られた初めての銀河だけのカタログは1932年に発行された「シャープレー-エイムズカタログ」である(図2)。これは大部分は既知である明るい1249個の銀河(当時は銀河系外星雲と呼ばれていた)を含んでいた。等級の目盛付けが標準化されており、見かけの明るさが13.2等級までは「ほぼ完全である」ことが画期的であった。その後、1949-58年にパロマー天文台スカイサーベイが行われ、1970年代には南天のシュミット望遠鏡によるサーベイも進んで多くの銀河カタログが作られた(図3, 図4)。1990年代までには写真乾板の眼視検査による約16等級までの銀河の全天サーベイはほぼ完成した。これより暗い銀河のペンシルビームサーベイも進められてきた(サーベイ観測も参照)。これらの銀河に対する赤方偏移サーベイから、2000年頃までには銀河系(天の川銀河)から約200メガパーセク(7億光年)以内の宇宙の大規模構造が明瞭に描き出された(図5)。
2000年頃から写真に代わって電荷結合素子(CCD)がサーベイ観測にも用いられるようになって、新たな世代の銀河サーベイが登場した。過渡期に登場したのが3.9mアングロオーストラリア望遠鏡による「2dF銀河赤方偏移サーベイ(2dF Galaxy Redshift Survey: 2dFGRS)」である。これは分光観測の限界等級を約19等まで深くして、遠方の大規模構造を広範に描き出すことを主目的としていた。UKシュミット望遠鏡のサーベイ乾板をデジタル処理して作られたカタログから22万個の銀河を選び出して分光サーベイを行った。これに続くスローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)が新世代銀河ワイドサーベイの端緒である。SDSSは広視野専用望遠鏡を建設して、CCDにより撮像観測と分光観測を並行して行った。すばる望遠鏡では、主焦点広視野カメラ「ハイパーシュプリームカム(Hyper Suprime-Cam)」によるサーベイが進行中である。また、地上からの究極のサーベイを目指す大型シノプティック・サーベイ望遠鏡 (Large Synoptic Survey Telescope: LSST) が建設中である(ベラ・ルービン天文台を参照)。
深宇宙にある非常に暗い銀河のサーベイは、可視光と近赤外線だけでなく、さまざまな波長の観測データを統合して銀河の進化に迫るのが最も効果的である。ハッブルディープフィールドを契機として、いくつか視野を定めて多波長で連携して観測をするというやり方が広く行われている(図6)。観測技術の進歩によってサーベイ観測の「深さ」と「広さ」の限界が突破され続けている例を図7と図8に示す。
