天の川銀河(銀河系)の属する超銀河団。1950年代にドゥ・ボークルールによってその存在が指摘されたが、実際に存在するかどうかについては議論が続いた。明るい銀河の赤方偏移サーベイが進んでその存在が実証された。
半径20メガパーセク(20 Mpc=6500万光年)程度の不規則で扁平な形状をしており、銀河系はその端近くに位置する。超銀河団としてはやや小さい。中心付近には、局所超銀河団で最も顕著な銀河集団であるおとめ座銀河団がある。局所超銀河団は、宇宙の大規模構造を形作るフィラメントの一部でもある。他の超銀河団と同様、局所超銀河団も重力的に束縛された系ではなく、宇宙膨張とともに広がっている。たとえば、銀河系はおとめ座銀河団の方向に重力を受けて特異運動をしている(おとめ座銀河団への落ち込み運動)が、宇宙膨張の効果が勝るため、両者の距離は増大している。局所超銀河団内の構造などの研究では、銀河の位置を記述するためにドゥ・ボークルールによって提案された超銀河座標系という座標系が広く使われている。
近年の研究によって、局所超銀河団は、その約100倍も大きなラニアケア超銀河団の中に含まれていることが明らかになった。
太陽系から銀河系を飛び出して局所超銀河団の中心にあるおとめ座銀河団まで行く仮想宇宙旅行の動画。おとめ座銀河団の中心にある巨大楕円銀河M87に到達して終了する。(原作は、カリフォルニア大学サンディエゴ校マイケル・ノーマン(Michael Norman)教授による)
https://youtu.be/AXHPeX8hz8s
ジャンスキー(Jansky, Karl Guthe;1905-1950)は、宇宙電波を最初に発見し、電波天文学の創始者と言われるアメリカの電波技術者・物理学者。オクラホマ生れ、ウィスコンシン大学を1927年に卒業してベル電話研究所に入所した。1930年から、遠距離の電波通信に障害となる空電を研究する目的で回転テーブルに載せた独特な大型アンテナを製作した。この実験の過程で、恒星日(23時間56分)の周期で変動する電波があることを発見した。さらに電波源がいて座の方向(天の川銀河の中心方向)にあることに気づき、1933年に論文で発表した。しかし、天文学界からは注目されず、研究続行のためのパラボラ型電波望遠鏡の建設提案もベル研究所から拒否され、別のプロジェクトを任せられた。以後は電波天文学に関わることは無く、1950年に心臓病のため44歳の若さで亡くなった。
彼にちなみ、電波天文学における電波強度の単位には、ジャンスキー(Jy)が使われている。
通常の銀河群よりもはるかに狭い領域に銀河が密集している銀河群。銀河の数密度は銀河団の中心部に匹敵する。典型的なコンパクト銀河群は、大きさが数10 キロパーセク(数10 kpc=10万光年)程度、内部の銀河の運動の速度分散は 200 km s-1程度である。これらの値から推定される横断時間はわずか数億年しかない ため、銀河の衝突が頻繁に起きていると考えられる。コンパクト銀河群のカタログとしては1982年のヒクソン(P. Hickson)によるものが有名である。
冷却流を参照。
恒星時を参照。
明るい銀河を100個程度以上含む銀河の集団。銀河以上の階層構造のうち自己重力系としては最大の構造。ただし、小規模な銀河団と大規模な銀河群との間に明確な境界はない。天の川銀河(銀河系)から最も近い銀河団は、距離約18メガパーセク(18 Mpc=約5900万光年)にあるおとめ座銀河団である。矮小銀河まで含めると、1つの銀河団には典型的に千個以上の銀河が存在する。銀河や銀河群と同様、銀河団もその質量の大部分はダークマターが担っており、ダークマターの重力ポテンシャルによって数千万度以上のプラズマガスを閉じ込めている。銀河団を構成する物質の質量比は、ダークマターが約85%、プラズマガスが13%、星が2%である。銀河団の大きさは数Mpc、総質量は1014-1015$M_{\odot}$、内部の銀河の運動の速度分散は数百から1000 km s-1 である。たいていの銀河団はフィラメント状になった宇宙の大規模構造の最も密度の高い部分に存在する。複数の銀河団が連なって超銀河団を作っていることもある。銀河団という環境は、銀河密度が極めて高い点やプラズマガスが充満している点において、散在銀河で特徴づけられる宇宙の平均的な環境とは大きく異なっており、環境効果が最も顕著に現れる場所である。銀河団の中心領域は宇宙で最も銀河密度の高い場所であり、そこにある銀河は、形態-密度関係が示すように大部分が楕円銀河かレンズ状銀河である。銀河団は宇宙自身と同程度の長い時間をかけて形成された。中心部にcD銀河がある銀河団や、中心部がX線でとりわけ明るい銀河団は、成熟した銀河団だと考えられる。
コルモゴロフ(A. Kolmogorov)がエネルギー散逸の考察により導いた乱流のエネルギースペクトル。3次元の一様で等方的な乱流の場合、波数 k~k+dk の範囲に含まれるエネルギー E(k)dk はk-5/3 に比例するとまとめられる。コルモゴロフ則は実験室などでよく見られる亜音速乱流の良い理論として認められているが、乱流による圧縮を考慮していないため、星間ガスの乱流など天体に応用する場合には注意が必要と考えられている。
世界の地方毎に使われている時間の総称。厳密には以下のものがある。平均太陽時に経度差の分だけ補正した時刻を地方平均時あるいは地方平時(LMT; local mean time)と呼ぶ。地球は1日に360°回るので、経度15°あたり1時間の割合でずれを補正すればよい。しかし、経度ごとに違う時刻を採用しては日常生活に支障をきたしてしまうので、国や地域ごとにある特定の子午線にもとづく時刻を便宜的に使用することが多い。この特定の子午線を標準子午線(standard meridian)といい、協定世界時に標準子午線の経度を加えた時刻を標準時(standard time)あるいは地方標準時(LST; local standard time)と呼ぶ。共通の標準時を使う地域全体を「タイムゾーン(time zone)」という。
地方時を参照。
気体や液体といった流体のうち、粘性を持つ流体の運動を記述する方程式。運動状態にある流体中に面を考え、その面を通して面に接する方向に働く力(接線応力)を考えたとき、これが働かない流体は完全流体と呼ばれる。すなわち応力テンソル $p_{ij}$ は圧力 $p$ のみが $p_{ij}=-p\delta_{ij}$ のように働く。一方、接線応力 $p_{ij}\,_{(i\neq{j})}$ が働く場合、これを粘性流体と呼ぶ。特に、応力テンソルが歪み速度テンソル
$$
e_{ij}=\frac{1}{2}\left( \frac{\partial u_i}{\partial x_j}+\frac{\partial u_j}{\partial x_i}\right)$$
に線形の依存をする場合をニュートン流体と呼ぶ($u_i$ は流体の速度の $i$ 成分)。非圧縮の場合、速度 $\boldsymbol{u}$ の時間変化を記述する流体の運動方程式は
$$
\frac{\partial \boldsymbol{u}}{\partial t} + \boldsymbol{u} \cdot \nabla \boldsymbol{u} = - \frac{1}{\rho}\nabla p + \nu \Delta \boldsymbol{u}$$
のように書ける(ここで $\nu$ を運動粘性率と呼ぶ)。このような粘性流体の運動方程式をナビエ-ストークス方程式と呼ぶ。
銀河団の内部に充満している数千万度から1億度の高温ガス。ガスは電離状態にあり、X線を放射している。銀河団ガスは銀河団の全バリオンの約8割(質量比)を担っており、星は残り2割に過ぎない。銀河団ガスは、主にダークマターで決まる重力とガス自身の圧力勾配とがつり合って(静水圧平衡)、安定した形状にある。銀河団に大量の高温ガスがあることがわかったのは1971-72年で、X線天文学の歴史で特に重要な発見とされる。銀河団ガスを通過する宇宙マイクロ波背景放射は、電子から逆コンプトン散乱によりエネルギーを受け取ってスペクトルを変形させる。これをスニヤエフ-ゼルドビッチ効果という。銀河団ガスは、銀河団内を動き回る銀河に動圧を及ぼして銀河からガスをはぎ取り、環境効果の一因になることがある。銀河団ガスには鉄や酸素などの重元素が大量に存在する。これらの多くは、銀河の中の星(主として超新星)によって作られた重元素が銀河風やガスのはぎ取りによって銀河団内にばらまかれたものであると考えられる。銀河団の中心部はガスの密度が高いため放射冷却がよく効いて、大量の冷たいガスの流れ(冷却流)が生じるはずだが、観測される冷たいガスはずっと少ない。これは冷却流問題と呼ばれる未解決の問題である。なお、銀河群にも、銀河団ガスより温度は低いが、同様の電離ガスが存在する。
渦巻銀河の光度 L と回転速度 V の間に見られる L ∝ V n という形の相関関係で、銀河のスケーリング則の1つ。渦巻銀河に対するもので、1977年にタリー(B.Tully)とフィッシャー(J.Fisher)によって発見された。n の値は光度を定義するバンドによって異なるが、概ね n=3-4 の範囲にある。
回転速度の指標には中性水素原子の出す21cm線の線幅(ドップラー幅 Δv)が使われることが多い。これは回転速度のほぼ2倍に当たる。光度Lは絶対等級で表すのが一般的である。このため、タリー-フィッシャー関係を得るには電波望遠鏡による観測と光学赤外線望遠鏡による観測を組み合わせる必要がある(概念図参照)。電波望遠鏡では中性水素の21cm輝線で渦巻銀河を観測する。銀河全体が電波望遠鏡の視野(ビーム幅)に入る場合を考える。この場合に得られる電波信号のスペクトルは、典型的には上底がへこんだ台形のような形になる。これは銀河内の中性水素の分布状態と銀河回転の効果による。台形の幅は回転速度のドップラー効果から生じている。ただし、観測された幅は回転速度の視線方向成分によるものであるので、回転速度を求めるには、視線に対する銀河円盤の傾きの効果を補正する必要がある。一方、光学赤外線望遠鏡ではある特定のバンドで渦巻銀河の撮像観測を行う。得られた画像から表面測光によって銀河の全光度 L を求め M = 定数-2.5log L の式により絶対等級に変換する。ここで、銀河の内部吸収の効果を補正しておく。こうして求めた絶対等級を縦軸に、回転速度を(対数目盛で)横軸にとってデータをプロットするとタリー-フィッシャー関係が得られる。
タリー-フィッシャー関係は渦巻銀河の距離指標関係式としても用いられ、宇宙の距離はしごで重要な位置を占める。タリーとフィッシャーは光度の測定にBバンドを用いたが、後にアーロンソンらは、近赤外のHバンドを使うとばらつきが少なくなることを見い出して、近赤外タリー-フィッシャー関係を使って銀河の大規模な特異運動の研究を進めた。
チャンドラー揺動を参照。
星が楕円体状に分布している銀河(絶対等級がおよそ-18等より暗い楕円銀河は矮小楕円銀河(矮小銀河参照)と呼ばれており、明るい楕円銀河とは別の種類に分類されている)。代表的な銀河の形態分類のハッブル分類では音叉図の最も左に位置し、レンズ状銀河とともに早期型銀河に区分される。楕円銀河は最も明るい部類の銀河であり、銀河団など銀河密度の高い環境に存在する傾向がある。銀河団の中心に存在する特に巨大な楕円銀河はcD銀河と呼ばれる。
星の分布は滑らかであり、表面輝度分布はほぼドゥ・ボークルール則で近似できる。渦巻銀河の渦巻腕のような顕著な構造は見られないが、詳細に観測すると、シェル構造のようなかすかな構造が見つかることがある。少数の例外を除き、楕円銀河には冷たいガスはほとんど存在せず、星生成活動は無視できるほど弱い。
楕円銀河を構成する星は、年齢が古く、その運動はランダム運動が卓越している。楕円銀河の色と絶対等級の間には、色-等級関係と呼ばれる強い相関がある。また、速度分散、表面輝度、半径の間には、基本平面と呼ばれるスケーリング則がある。多くの楕円銀河は、X線を放射する電離ガスを伴っており、その広がりは星の分布の数倍外側に達する。この電離ガスの温度と分布から、ガスを重力によってとどめておくのに必要な質量を見積もることができる。その質量が星とガスの質量の総和よりはるかに大きいことから、他の形態の銀河と同様、楕円銀河にも大量のダークマターが存在していることがわかる。多くの明るい楕円銀河の中心部には極めて重いブラックホールが存在していると考えられている。一部の楕円銀河には活動銀河核が見られる。
矮小楕円銀河は、表面輝度分布がドゥ・ボークルール則よりも指数法則に近い点や、暗くなるにつれて表面輝度も下がる点などにおいて通常の楕円銀河とは異なっており、別のタイプの銀河である。その数は明るい楕円銀河よりも格段に多い。コンパクト楕円銀河も参照。
楕円銀河とレンズ状銀河の総称。これに対し、渦巻銀河と不規則銀河はまとめて晩期型銀河と呼ばれる。 早期型、晩期型という用語はハッブル(E.P. Hubble)によるものである。その由来は、ハッブルが形態分類(ハッブル分類)を考案した当時、ジーンズ(J.H. Jeans)による回転するガス雲の進化の理論が銀河の進化と関連づけられ、銀河は楕円銀河から渦巻銀河へと進化すると考えられていたことによる(なお、当時はレンズ状銀河は発見されていなかった)。この銀河の進化説は間違っていることがわかっているが、音叉図(ハッブルの)で左側にあるほど「早期」、右側にあるほど「晩期」という呼び方は現在も広く用いられている。また、渦巻銀河のなかで、Sbあたりを境にして早期型渦巻銀河と晩期型渦巻銀河を分けることもある。ただし、「晩期型」という定義が決まっているわけではないので、使う人や文脈によって指すものが異なる場合がある。
波長が1 nmから400 nm程度の電磁波の名称。この波長範囲で波長が短いもの(1-200 nm)を真空紫外線と呼ぶことがある(波長範囲によって、遠紫外線、極紫外線、極端紫外線などの呼び方もある)。
1801年に、前年のハーシェル(W. Herschel)による赤外線の発見に刺激されたドイツのリッター(J. Ritter)が、太陽のスペクトルの赤と反対側である紫色のさらに外側で、塩化銀をしみこませた紙が黒くなる(感光する)ことからその存在を発見した。生まれたばかりの大質量の星など、極めて高温度の天体から強い紫外線が放射される。紫外線を放射する天体を一般に紫外線源と呼ぶ。
紫外線の大部分は地球大気に吸収されて地表まで届かない。このため、紫外線を観測するには宇宙空間へ観測装置を持って行くことが必要である。紫外線は可視光よりエネルギーが高いので、地上まで届く波長の長い紫外線でも日焼けを起こすなど人体に影響が出る。各種の殺菌装置には紫外線が用いられているものが多い。大気の窓も参照。
セルシック(J.L. S'ersic)によって1963年に提案され、1968年のアトラスで広く知られるようになった銀河の表面輝度プロファイルを記述する近似式。 $I$ を表面輝度、 $r$ を半径、$n$ を集中度を表現するパラメータとして、$I(r)\propto{\rm exp}\,[-α\,r^{(1/n)}\,]$ という関数形をしている。$n$ の値は現実の表面輝度プロファイルに最もよく合うように決める。セルシック則は楕円銀河の1/4乗則と渦巻銀河の指数法則を包含しており、$n=4$ が 1/4乗則に、$n=1$ が指数法則に対応する。セルシックは、楕円銀河の $n$ の値は明るさによって異なり、非常に明るいものでは $n>4$、暗いものでは $n=1$ に近いことを見出している。1/4乗則は比較的明るい楕円銀河についてのみ成り立っているのである。
渦巻銀河とレンズ状銀河の銀河円盤の表面輝度プロファイルを記述する近似式。 I を表面輝度、rを半径として、$\log \frac{I}{I_e} = - 0.729 \left[\frac{r}{r_e}-1 \right] $ で表される。ここでIe, re はそれぞれ表面輝度と半径の規格化定数である。re は全光度の半分を含む半径で有効半径と呼ばれ、Ie はその半径での表面輝度で、有効表面輝度と呼ばれる。 表面輝度I をr の関数として書くときには、h をパラメータとして、 I(r)=定数 × exp(-r/h) という関数形になる。h はスケール長 と呼ばれる量で、現実の表面輝度プロファイルに最もよく合うように決める。 渦巻銀河の円盤が指数法則でよく近似できる理由は、完全には解明されていない。
地上観測のための時刻系。地球時の歩度(進み具合)は地心座標時(TCG)の定数倍で、単位は国際単位系の1秒に等しい。すなわち、d(TT)/d(TCG)=1-LGである。ここでLG= 6.969290134×10-10は地球の重力場から定まる定数である。
一方、国際原子時(TAI)とはTT - TAI = 32.184 s という関係にある。つまり、地球時は以前使われていた地球力学時(TDT)と実質的に同一である。
