天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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貧血銀河

渦巻銀河でありながらガスをほとんど持たず、星生成活動があまり行われていない銀河のこと。渦巻腕のコントラストも弱い。星を作る原料である水素ガスを人間の血液にたとえて命名された。レンズ状銀河(S0銀河)はその極限ともいえる。このような銀河は銀河が密集した銀河団領域に多いことが知られており、ガスのはぎ取りなどの環境効果によって生成されたと考えられている。近年は星生成活動が弱いため、受動的渦巻銀河(passive spiral)と呼ばれることが多い。HI欠乏銀河も参照。

質量が太陽の8%(木星の80倍)以下と小さく、中心部での温度が十分上がらず水素からヘリウムへの核融合反応が起こらない星。褐色矮星は時間とともに冷えていく。スペクトル型としてはL型と、より低温なT型に分けられる。単独で存在しているものもあるが、恒星の周りを回っているものもある。後者の場合、惑星との境界は明確ではないが、重水素の核融合が起こる木星質量の13倍以上の天体を褐色矮星と分類することもある。

吸収線スペクトルが大きな異常を示し、星の大気の組成が太陽系組成と大きく異なると見られる星。さまざまな種類が存在するが、主なものには以下の型がある。1974年にプレストン(G.W. Preston)によって示された4つの分類(CP1からCP4)も付記する。

水素吸収線が弱い星は水素欠乏星と呼ばれ、いくつかの種類がある。大質量星が外層大気を失ったものはウォルフ-ライエ星と呼ばれる。PG1159型星は表面温度が60000-180000Kの領域に分布する後漸近巨星分枝(post-AGB)星であり、水素がまったく観測されない。低温(表面温度が5000-7000K)で超巨星に似たスペクトルを持つかんむり座R型星(R CrB型星)は脈動を示し、スペクトルには炭素系分子の吸収線も見られる。強ヘリウム星は、B1-B2型主系列星で、ヘリウム吸収線が異常に強く、ヘリウムの組成も太陽組成の2から約10倍も多くなっている(ヘリウム超過星と呼ばれることもある)。水素吸収線が弱いので、水素欠乏星の仲間に分類されることもある。重元素の組成異常はB型星やA型星に多く見られ、自転による乱流が弱かったり磁場によってガスの運動が抑えられる場合に、大気中での元素の拡散の効果によって生じると考えられている。

金属線A型星(Am星)あるいは金属線星と呼ばれるグループ(CP1)は、表面温度が7000-10000Kに分布する星で、CaあるいはScの吸収線が弱いか、あるいは金属線が強い。高温度であるためにCaのK線は弱くA型に分類されるが、金属元素組成は高いために金属線が強い星と理解される。

A型特異星(Ap星)はCP2に分類され、Si,Cr,Sr,Euなどの吸収線に異常が見られる。Siの強い星(シリコン星)は10000-14000Kに、Cr,Sr,Euの強い星(SrCrEu星)は7000-10000Kに分布する。いずれも磁場をもち、磁極と自転軸の極がずれた斜回転星モデルによりスペクトル線や光度の変動がよく説明されている。

水銀・マンガン星(HgMn星、CP3)は10000-14000Kの表面温度をもつ星で、異常に強い水銀とマンガンの吸収スペクトル線を示す。この2元素をはじめとする多くの重元素が太陽組成に比べて過剰を示す一方、ヘリウムは欠乏している。

弱ヘリウム星(CP4)は、B型主系列星で表面温度が強ヘリウム星より低く(18000-13000K)、水素バルマー線から分類されるスペクトル型にしてはヘリウムの吸収線が弱い星のグループである。
中小質量星の進化の過程で内部で合成された炭素が汲み上げられることによって炭素組成が増大しているのが炭素星やS型星である。また、連星系を成している場合には、主星で増大した炭素組成をもつ物質が伴星に降着することにより炭素組成が増大しているものもあり、バリウム星CH星などが知られている。

宇宙ジェットなどで、放射される電磁波がジェットの進行方向に集中する現象。エディントン限界光度を超える超臨界降着流などからジェットが出ているときのように、もともとジェットのエネルギーが回転軸方向に収束している幾何学的要因によるビーミングと、ジェット流の速度が光速に近く、相対論的な光行差によって光線が前方へ集中し、さらにはドップラー効果によって光線のエネルギーが高くなる相対論的ビーミングがある。

銀河円盤を参照。

天頂付近を通る恒星の位置を写真によって精密に観測する特殊な望遠鏡。英語名の頭文字からPZTとも呼ばれる。光学系は、鉛直に固定した対物レンズとその下に置かれた水銀面からなる。水銀面を用いるのは反射面を厳密に水平にするためである。対物レンズを通過した光線が水銀面で反射されて対物レンズのすぐ下においた写真乾板上に像を結ぶ。天頂付近で恒星の子午線通過を精密に観測し、その情報から時刻および観測場所の緯度を正確に求めるために使用された。他の観測手段の精度が向上したため、現在では使用されていない。

自然はそれを観測できる人間が存在し得るようにできている、という考え方。たとえばもしわれわれの宇宙が大きな真空のエネルギーを持っていたとすると、銀河ができる前に宇宙は加速的膨張期に入ってしまい、その後の銀河形成は不可能になり、人間が生存できるような環境ができないことになる。しかしわれわれの宇宙には人間が住んでいるから、その真空のエネルギーは小さいことが結論づけられる。このような論法が人間原理の一例である。これは論理学的には対偶命題に置き換えているということであり、本命題と対偶命題の真偽は一致するから、論理的には間違ったことをしているわけではない。

しかしながら人間原理には重大な問題がある。別の例でいうと、「なぜわれわれの宇宙は4次元か?」という質問に対し、人間原理は、「さもないと惑星の軌道が閉じないから」とか、「より高次元だと原子が安定に存在できないから」というような説明を与えてくれる。この説明は論理的には正しいが、現代高エネルギー物理学の最大の問題の一つであり、多くの碩学の頭を悩ましている、「いかにして余剰次元がコンパクト化したか?(あるいは、しているように見えるか?)」という問題に対して、何らの示唆も与えない。この例からわかるように、人間原理の与える解答は、物理学者が探求している解答とは性質を異にするものである。

ステラジアン(sr)は立体角の単位である。立体角は二次元の角度(平面角)を三次元に拡張した概念であり、球面上の面積と球の半径の2乗の比で与えられる。図に示す記号を用いると、立体角 $\Omega$$\Omega=A/R^2$ [sr] となる。図で $\theta$ = 1 [rad] のとき $\Omega$ =1 [sr] である。
半径 $R$ の球の表面積は $4\pi{R}^2$ なので、全天を見込む立体角は $4\pi$ [sr]、地平線上にある全天の半分を見込む立体角は $2\pi$ [sr]である。二次元の角度を度(deg)の単位で表すときの立体角の単位は平方度(deg2)である。両者の換算は以下の通り。
1 [deg2] = $(2\pi/360)^2 $ = 0.0003046 [sr] ,   1 [sr] = 3283 [deg2]
全天を見込む立体角は $4\pi$ [sr] = 41,253 [deg2]
角度表示も参照。

カール・セイファート(Carl Keenan Seyfert;1911-1960)はアメリカの天文学者。オハイオ州クリーブランドの薬剤師の家に生まれ、ハーバード大学で医学を学ぶが、天文学に転じ、1936年にはシャプレーの指導のもと、銀河の研究で学位を得た。同年新設のマクドナルド天文台に就職、1940年にはウィルソン山天文台に移り、活動銀河の一群を研究した。その後、テネシー州ナッシュビルのバンダービルト大学の教授になり、天文学に力を入れて、24インチ(61cm)の反射望遠鏡を備えたアーサー・ダイヤー天文台を設立、終生その台長を務めた。主要業績は、1943年に発表した、強い輝線スペクトルを発する特異な銀河の発見で、今ではセイファート銀河と分類される。1953年には、へび座のセイファートの六つ子(銀河)も発見、観測している。天文台機器の改良にも貢献したが、1960年に交通事故で死亡した。

王立天文学会季刊誌の追悼記事

https://articles.adsabs.harvard.edu//full/1961QJRAS...2..123./0000123.000.html

アルゼンチンの草原地帯に国際協力で建設された超高エネルギー宇宙線観測装置群。3000 km2 の面積をカバーし、1019 eV を超えるような超高エネルギー宇宙線が大気中で引き起こす空気シャワーを、1.6 km間隔で配置された1600台の水チェレンコフ検出器による空気シャワーアレイと、周囲4か所に設置された4台の大気蛍光望遠鏡を用いて観測している。2000年に建設が始まり、2004年から一部で観測を開始し、2008年に完成した。空気シャワー現象の発見者ピエール・オージェ(Pierre Auger)の名を冠して呼ばれている。テレスコープアレイ大気蛍光法も参照。

ホームページ:https://www.auger.org/

ダストを参照。

光の偏光状態の一つで、電場が、進行方向に垂直な面内で特定の方向に振動する成分が多い状態。全体の光強度に対するこの成分の比を直線偏光の偏光度という。天体からの光の偏光方向(電場の振動方向)は天球面上の位置角(北を0°として東まわりに値が増加する)で表す。円偏光も参照。

紫外線などの十分なエネルギーを持つ光子により照射されて分子が解離されること。
解離光解離領域電離も参照。

電離光子がガスを電離して形成される領域が電離領域であるが、水素を電離する13.6 eVのエネルギーよりも低いエネルギーの光子は電離領域の外側の中性原子や分子ガス領域にまで到達し、分子を励起あるいは解離したり、水素原子よりも電離エネルギーの低い原子(特に炭素など)を電離する。このような電離水素領域と分子雲の境界領域を光解離領域と呼ぶ。英語表記からPDRと略称されることもある。
光解離領域では水素電離光子よりも低いエネルギーの光子がエネルギー収支と化学反応において支配的となり、特徴的な物理状態や化学状態が見られる。星間化学も参照。

一度に多数の天体を分光できるように工夫した分光器。分光だけでなく撮像観測機能も備えたものは多天体分光撮像装置などとも呼ばれる。望遠鏡の焦点面に天体位置に合わせた多数のスリットを通して分光するタイプ(マルチスリット型)と、天体位置に光ファイバーの入射口を置いて光ファイバーで分光器スリットまで光を導くタイプ(ファイバーフィード型)がある。マルチスリット型の多天体分光器としては、すばる望遠鏡のFOCAS、ケック望遠鏡のDEIMOS、VLTのVIMOSなどがある。ファイバーフィード型には、スローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)の多天体分光器、アングロオーストラリア望遠鏡の2dF、すばる望遠鏡のFMOS、中国国家天文台のLAMOSTUKシュミット望遠鏡の6dFとその後継機TAIPANなどがある。
マルチスリット型は焦点に置くマルチスリット以外は通常の分光器と同じであり、効率やスペクトル測定精度は分光器そのものによって決まる。また、観測視野も分光器の視野に限定されるため、一度に観測できる天体数は数10から100個程度である。これに対し、ファイバーフィード型は、焦点面から分光器に至るまでの光ファイバー部分で効率と測定精度が左右され、一般にマルチスリット型より低効率である。しかし、観測視野は望遠鏡視野によって決まり、分光器視野よりはるかに広いため、一度に観測できる天体数はマルチスリット型より1桁以上多く、数100から1000個程度まで可能となる。

ガス星雲を参照。

光電離を起こすことができるほど十分に高いエネルギーを持つ光子のこと。
通常は、水素原子を電離する13.6eVよりも大きなエネルギーを持つ紫外線光子のことを指す。

天文学では元素記号Xの中性ガスには添え字Ⅰを付けてXⅠと記し、1階電離、2階電離したガスに対してはそれぞれ、XⅡ、XⅢというようにして表す慣用がある。これに従い、電離している状態の水素ガスのことをHⅡガスと呼ぶ。HⅠガスも参照。

を参照。

複屈折を起こす材料の中を進む光のうち、光学軸に垂直な偏光状態を持つ光。光学軸と傾いた方向に進んでも, 光学軸の向きに進む時と同じ屈折率を持つ。ウォラストンプリズムも参照。