天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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遷移層

太陽大気のうち104 Kの彩層と106 Kのコロナをつなぐ大気層のこと。
1000 km程度の短い距離の間に急激な温度勾配がある。遷移層は直接加熱されてこの温度になっている部分もあるが、大部分はコロナから流入する熱伝導エネルギーを放射により放出して処理している領域といえる。飛翔体による極端紫外線領域(10-100 nm)や真空紫外線領域(100-200 nm)にある輝線スペクトルの観測から、この領域ではプラズマが激しく運動しており、また輝線強度比から得られる電子密度ne放射量度ne2llは放射に関わる構造長)の観測値から200 km程度の微細構造の存在が推定されている。

フラッシュスペクトルを参照。

三つのクォークからなるバリオン数を持った素粒子のこと。核子と呼ばれる陽子中性子、およびラムダ粒子、シグマ粒子、クサイ粒子などがある。字句の意味は質量を持った重い粒子。
天文学では(ダークマターではなく)通常の物質を構成する粒子という意味で用いられることが多い。

春分点を参照。

2003年に発見された大型の太陽系外縁天体。直径は1700kmで、エリスの大きさが確定するまでは冥王星に次ぐ大きさの太陽系外縁天体であった。近日点が76天文単位であるが、遠日点が961天文単位と非常に大きく、散乱円盤天体に属する。公転周期は11809年と計算されている。2018年3月時点で、準惑星には認定されていない。

通常、天体観測においては、望遠鏡および観測装置の光学系や検出器そのものの特性により、観測装置の検出器上に光検出感度ムラが生じる。これを補正することをフラット補正、もしくはフラットフィールディングという。天体観測とは別に(あるいは同時に)補正用データ(フラットフィールドと呼ぶ)を取得し、これによって天体画像を割り算して感度ムラを補正する。フラットフィールドは、望遠鏡の視野全体にわたって一様に光っていると思われる光源を観測して得る。そのためによく用いられるのは、薄暮や薄明の空(トワイライトスカイ)や、一様光で照らした望遠鏡ドーム内壁もしくはドーム内壁に貼った散乱板(フラット板)である。後者をドームフラットと呼ぶ。
撮像観測においては、対象とする天体が検出器視野に比べて十分小さい場合には、天体画像そのものをフラットフィールドとして用いることもある。この場合、撮像視野を少しずつずらして複数回撮像し(ディザリング)、各画素のカウントの中央値(メジアン)を取ってそれらの画像を合成することで天体像を除いてフラットフィールドを作成する。これをスカイフラット(sky-flat)、もしくはセルフフラット(self-flat)と呼ぶ。可視光の広帯域撮像など、スカイのレベルが高い場合には有効な手法である。
分光観測では、トワイライトスカイやスカイフラットをフラットフィールドとして用いることはできない。地球大気や人工光による輝線によって、波長方向に一様なフラットフィールドを得ることが不可能なためである。分光観測用のフラットフィールドには、ドームフラットがよく用いられる。分光器スリットを一様に照らすような光学系を望遠鏡焦点面近くに設置して、これによってフラットフィールドを得ることもある。

天の赤道を参照。

ケレスを参照。

黄道上を運動する太陽の平均速度と等しい速度で赤道上を運動する仮想の天体のこと。実際の太陽は地球公転軌道が円でなく楕円であること、地球の自転軸が公転面に垂直な方向に対して約23.4°の傾きを持っていることから、南中してから次の南中までの時間(つまり1日の長さ)が、季節によって変化してしまう。平均太陽を考えると、南中から次の南中までの時間が季節によらず一定となり、時刻として使いやすいものとなる。平均太陽をもとに決めた時刻を平均太陽時と呼ぶ。アナレンマ均時差も参照。

平均太陽を基にして決めた太陽時

水分子の励起状態が反転分布するときに出る強い放射で、波長約1.35 cm、振動数22 GHzの電波である。星生成領域や活動的な銀河の中心核付近で検出されている。

1995年に、NGC4258 から発見された強い水メーザーの発生源を、大陸間の超長基線電波干渉計(VLBI)で0.1ミリ秒角の角分解能で撮像し、周波数の精密なドップラー測定を行った結果、この銀河の中心核の周囲およそ0.1 pcの範囲には、毎秒約1000 kmの速度でケプラー回転を行うガス円盤があり、その回転則から、中心には、3.7x107 $M_{\odot}$ の質量があることが判明した。これは当時最も確実な超大質量ブラックホールの証拠になった。

また水メーザ源の長期間のモニター観測から、天球上での位置とその変化及びそれに対応する速度と加速度の変化が得られたので、幾何学的な関係からこの銀河の距離を精度良く求めることができた(m-M=20.39±0.06 mag)。このため、NGC4258は、年周視差の測定されたセファイドとともに宇宙の距離はしごの結節点(アンカーポイント)として重要な役割を果たすようになった。メーザーも参照。

岩石質を主成分としている隕石コンドリュールを含み岩石体としての溶融を経験していないコンドライトと、溶融して分化した鉱物からなるエコンドライトに大別される。コンドライトは金属鉄や酸化鉄をかなり含むが、溶融して分別作用を経験したエコンドライトには金属鉄は少ない。エコンドライトの中には、火星起源や小惑星ベスタ起源と考えられるグループがある。

鉄ニッケル合金とケイ酸塩鉱物がほぼ等量で混合している隕石である。溶融を経験した分化隕石の一種である。石質隕石、鉄隕石と比べると非常に希である。パラサイトは鉄ニッケル合金の中に丸みを帯びたカンラン石の結晶が分布しており、溶融を経験した隕石母天体内部でケイ酸塩と鉄が完全に分離していない領域に起源を持つと考えられる。一方、メソシデライトはさまざまな鉱物の比較的細粒の結晶と鉄ニッケル合金の混合物で、天体どうしの衝突で形成されたと考えられる。

放射等級を参照。

放射補正を参照。

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が1989年8月に打ち上げた地球を周回する人工衛星。HipparcosとはHIgh Precision PARallax COllecting Satelliteの略称で、その名のとおり、天体の位置だけでなく年周視差を精密に計測することを目的とする衛星であった。年周視差を精密に観測することは、距離を精密に観測することにつながり、その結果さまざまな物理量の精度が向上することになる。観測成果はヒッパルコスカタログとティコカタログ(タイコカタログ)としてまとめられ、光学的に(可視光で)国際天文準拠系を構成する基本星表の役割を果たした(ヒッパルコスカタログ/ティコカタログはヒッパルコス星表/ティコ星表と呼ばれることもある)。 なお、データは同じであるが解析方法を変更した改訂版ヒッパルコスカタログが2007年に出ており、年周視差の誤差が格段に小さくなっている。このカタログは118,218星を含んでおり、9等より明るい星の位置、年周視差、固有運動の精度は0.9ミリ秒(0."0009)程度である。2013年に打ち上げられたガイア衛星はヒッパルコス衛星の後継機にあたり、2022年からは基本星表の役割もGaia-CRF3カタログに移ることとなった。

 

ホームページ:https://www.cosmos.esa.int/web/hipparcos
ヒッパルコスカタログとティコカタログ:
https://www.cosmos.esa.int/web/hipparcos/catalogues
改定版ヒッパルコスカタログの検索ツール:
https://vizier.u-strasbg.fr/viz-bin/VizieR?-source=I/311    (VisieR)
https://eco.mtk.nao.ac.jp/cgi-bin/koyomi/cande/stars_rhip.cgi (国立天文台のサイト)

天の川銀河銀河系)内にある相対論的ジェット天体をいう。活動銀河核との類似性からクェーサーのミニチュア版という意味でマイクロクェーサーと呼ばれる。電波観測によって、さそり座X-1やみずがめ座R星などでジェットが発見されていたが(1970年頃)、1978年に発見されたSS433の詳細な解析によって、一挙に観測的および物理的な理解が進んだ。SS433は通常の恒星高密度星からなる近接連星系で、ジェットは降着円盤から吹き出している。その速度は光速の26%にもなる。その後、銀河系中心のX線源やその他の銀河系内ブラックホール天体からもジェットが見つかってきた。マイクロクェーサーは厳密な意味ではブラックホールに限られるが、実際は中性子星も含めて、銀河系内の相対論的ジェット天体の総称として用いられることが多い。

強い力(強い相互作用)で結びついた粒子の総称。重粒子ともいう。クォーク(と反クォーク)とグルーオンから構成されており、3つのクォークから構成されるバリオン(baryon, 強粒子)と、クォーク-反クォークの対から構成される中間子(meson)に大別される。陽子中性子はバリオンに、パイオンやケーオンは中間子に含まれる。

ホイップル(F. Whipple)により提唱された、彗星核のモデル。彗星コマなどの構造は、ガスやダストの放出によるものであるため、彗星核をH2Oを主成分とする氷とダスト粒子が混合したものと考えた。これを汚れた雪玉モデルという。最近の探査機の直接観測では、彗星核の表面はダストや岩石質の層(クラスト)で覆われていて氷は露出していないことがわかっている。ただしクラストの内側は、氷とダスト粒子が混在していると考えられる。

太陽などの天体の差動回転において、赤道部分の回転角速度が緯度の高い部分の回転角速度よりも速くなっているとき、赤道加速が起きているという。太陽の場合には数値シミュレーションなどから、子午面還流による角運動量輸送と乱流粘性による角運動量輸送とがつり合うことで、この赤道加速の状態が維持されていると考えられている。