天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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閉サイクル冷凍機

観測装置内部を冷却する手段の一つ。赤外線は常温の物体からも熱放射されることから、赤外線観測装置では装置内部全体を冷却する必要がある。また、可視光の観測装置でもCCDなどの検出器は暗電流を抑えるために冷却する必要がある。冷却の方法としては、ドライアイスや液体窒素などの冷媒を用いる方法と閉サイクル冷凍機を用いる方法がある。閉サイクル冷凍機はいくつかのタイプがあるが、ヘリウムなどの冷媒ガスの圧縮と膨張による熱力学的なサイクルを利用して冷却するものが多い。温度の低い部分(冷凍機ヘッド)から温度の高い部分(圧縮機)へ熱エネルギーを運ぶ機能を持つ。冷媒が閉じた空間を循環することによって冷却することから閉サイクル冷凍機と呼ばれる。多くの閉サイクル冷凍機は冷蔵庫やエアコンディショナーなどと冷却の基本原理は同じであるが、使用される温度帯がそれらよりはるかに低い極低温である。

惑星の近傍を衛星が公転しているとき、衛星の各部分で惑星から受ける重力の強さが異なることが原因で、衛星の形状は球からずれた形に変形する(潮汐を参照)。衛星の軌道が楕円であるとき、この潮汐作用による変形の仕方が衛星の公転運動に伴って周期的に変化し、その結果、衛星内部に熱を生じる。このことを潮汐加熱と呼ぶ。この最も顕著な例は、木星のガリレオ衛星の一つ、イオである。イオは潮汐加熱によって衛星内部で火山活動が引き起こされている。活火山の一つから高度数百キロメートルにまで達する噴煙柱がボイジャー探査機 1号によって1979年に最初に確認された。その後、無数の火山活動の姿がガリレオ探査機の観測により、明らかにされている。

https://phys.org/news/2017-01-juno-volcanoes-io.html

マクスウェル-ボルツマン分布を参照。

横軸に時間、縦軸に太陽の緯度をとった図面内に太陽黒点の出現する場所を記録した図。11年ごとに時間とともに黒点の出現緯度が中緯度から赤道に向かって近づく蝶の形状をしたパターンが現れるのでこの名がある。
シュペーラーの法則を参照。

電磁気学における電磁場とその源である電荷、電流との関係を規定する方程式系。CGSガウス単位系で電荷と電流以外は存在しない自由空間では次のように書ける。

$$\hspace{-2.0cm}\nabla \cdot \boldsymbol{E} =4\pi \rho$$

$$\hspace{-2.4cm}\nabla \cdot \boldsymbol{B} =0$$

$$\hspace{-1.2cm}\nabla \times \boldsymbol{E} =-\frac{1}{c} \frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t}$$

$$\nabla \times \boldsymbol{B} =\frac{4\pi}{c}{\boldsymbol{j}} + \frac{1}{c}\frac{\partial \boldsymbol{E}}{\partial t}$$

ここで $\boldsymbol{E}$ は電場、$\boldsymbol{B}$ は磁場、$ \rho$ は電荷密度、$ \boldsymbol{j}$ は電流密度。1864年、スコットランドの物理学者マクスウェル(J. Maxwell)によって定式化された(演算子と $\boldsymbol{E}$ , $\boldsymbol{B}$ ベクトルを用いる上記の形式は、ヘビサイド(O. Heaviside)やヘルツ(H. Hertz)によるという)。この方程式によって電磁波の存在が予言され、その伝播速度がすでに知られていた光速度と同じことから光も電磁波の一種であることがわかった。マクスウェル理論から特殊相対性理論が誕生したが、マクスウェル自身は電磁波を伝える媒質としてのエーテルの存在を信じていた。

太陽系の惑星のなかでは唯一、液体の水が表面で安定に存在できる、ハビタブルゾーン(生存可能圏)にある天体である。太陽系第3惑星である地球は今のところ生命活動が確認されている唯一の天体である。質量5.97×1024 kg、赤道半径6378 km、密度は5520 kg m-3 で、中心に質量の3分の1を占める金属質の中心核、周囲に岩石質のマントル、および地殻がある。中心核の主成分は鉄とニッケルで、軽元素として硫黄、酸素、水素が融け込んでいる可能性がある。核の外側は流体で、そこでの対流運動からダイナモ作用により、磁場が維持されている。マントルの主成分はカンラン岩で、地殻は玄武岩と花崗岩から構成される。

地球は窒素、酸素を主成分とする大気で覆われており、液体である水が地表に存在する。地表全体での平均水深は2440 mである。南極とグリーンランドには極冠と考えることのできる厚い氷床が存在する。地球の歴史の中では、海洋全体が凍結する状況(スノーボールアース)に何度も陥った。氷の面積が広がると太陽光の反射率が高くなり、寒冷化がさらに加速される。過去の地球では、現在は地殻に炭酸塩として取り込まれている二酸化炭素が大気に大量に存在して、その温室効果が温暖環境を維持していたと考えられる。スノーボールアースの後も地球内部から火山活動で脱ガスした二酸化炭素が大気中に蓄積して温室効果で表面温度を上昇させることで、凍り付いた環境から回復した。

地球内部のダイナミクスを特徴づけるのがプレートテクトニクスである。中央海嶺で形成された海洋プレートが海溝で沈みこみ、表面更新が速く、熱輸送効率が良い。地球の火山は、中央海嶺と沈み込み帯に集中している。そのほかに、マントル深部に根をもつプリュームによる、ハワイ火山のようなホットスポットが存在する。

日本の気象衛星「ひまわり8号」が撮影した地球の全面画像を2015年12月21日から2016年12月21日までの1年分をつないで早送りで見せる動画が製作されている。『A Year Along the Geostationary Orbit(静止軌道から見た1年)』と名付けられた約15分のこの動画では、雲と台風の動きや白夜の起きている様子などがよく分かる。2016年3月9日の皆既日食(タイムコード4:48)も記録されている。地球全面画像だけでなく、オーストラリアと日本付近を中心にズームインした詳細な動画も見られる。アヌシー国際アニメーション映画祭2019のVimeo Staff Pick Awardを受賞したドイツのFelix Dierich氏による芸術作品であるが、宇宙から見た地球の1年がよく分かる科学映像としても高い価値がある。

『A Year Along the Geostationary Orbit』 https://vimeo.com/342333493
宇宙から見た地球の映像についてはブルーマーブルペイルブルードットも参照。


JAXAの月探査機「かぐや」HDTVによる満地球の出(2008年9月30日)

https://www.youtube.com/embed/kcpjWCIQHEE


地球の自転が体感できる動画

https://www.youtube.com/embed/oZH1vS45oW4


国際宇宙ステーションから宇宙飛行士が撮影した世界の国々と海岸線

https://www.youtube.com/embed/EPyl1LgNtoQ?si=iEYdJtXQfCI3TR4y"

ウィリアム・ファウラー(William Alfred Fowler;1911-1995)はアメリカの天体物理学者。ピッツバーグで生まれ、1933年オハイオ州立大学を卒業後、カリフォルニア工科大学で学位を取得。第2次世界大戦以前は主に核物理学の実験に従事した。それらの成果は後に恒星内部の原子核反応の研究に応用された。1946年、カリフォルニア工科大学の教授に就任し、1957年に発表された、恒星で生成される元素の起源に関するジェフリー&マーガレット・バービッジ夫妻とホイルとの共著論文(著者の頭文字を取ってB2FH論文と略称される)は重要な論文である。1963年 にヘンリー・ノリス・ラッセル講師職、1979年 にブルース・メダル受賞。1983年には「宇宙における原子核反応の理論的および実験的研究」の功績により、ノーベル物理学賞を受賞した。

 

参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/1911

古典力学に従う理想気体の熱平衡状態での分子の確率分布。マクスウェル分布ともいう。温度 $T$ の場合、質量が $m$ で速度が $(u, v, w)$ の分子は、

$$\exp\left[-\frac{m}{2k_{\rm B}T}(u^2+v^2+w^2)\right]$$

に比例して存在することを記述している。ここで $k_{\rm B}$ボルツマン定数である。この式は、粒子の運動エネルギー $m(u^2+v^2+w^2)/2$ボルツマン分布に代入した結果と見ることもできる。マクスウェル-ボルツマン分布は、速度の絶対値が $v$ である分子の分布を表す $C v^2\exp[-mv^2/(2k_{\rm B}T)]$ を指すこともある($C$ は任意定数)。

量子性を考慮すると熱平衡での分布はフェルミ統計あるいはボース統計となるので、マクスウェル-ボルツマン分布は量子性が無視できる場合のこれらの近似となっている。

波長分散を起こす光学素子の総称。屈折率の波長依存性による色分散を起こす素子としてプリズム、光の干渉性により色分散を起こす素子として回折格子がある。プリズムと回折格子を組み合わせて中心波長を直進させるグリズムも天体観測でよく用いられる。

ケイ酸塩鉱物が主体の岩石と鉄を主成分とする金属から構成される惑星を指す。固体惑星、岩石惑星ということもある。太陽系では、地球型惑星には、水星金星地球火星が含まれる。地球型惑星の内部構造は、中心に金属からなる中心核、厚い岩石質のマントル、最も外側の密度の低い岩石質の地殻で構成されている。地球ではマントルの主成分はカンラン岩(Mg2SiO4)であり、他の地球型惑星や月でもそれに近いと考えられている。地球型惑星の初期には、惑星集積にともなう重力エネルギーが原始大気の保温効果などにより取り込まれ、溶融したマグマオーシャンが形成され、金属が沈降して中心核となった。太陽系外惑星でも、地球質量の数倍程度の惑星が発見されており、地球型惑星と思われるものも見つかっている。マグマオーシャン仮説も参照。

地球の持つ磁場が支配的な領域のこと。地球の双極子磁場は地球表面の赤道で北向きに約0.3ガウスの強さをもつ。この双極子磁場に太陽風が吹きつけ、そこで起こる相互作用がオーロラなどのさまざまな現象を引き起こすだけでなく、地球磁気圏それ自体の構造を決めることになる。太陽に向いた側では、地球の中心から地球半径の約10倍の距離のところに磁気圏の境界があり、ここで地球磁場の強度と太陽風の動圧とがつり合っている。反対側は尾部と呼ばれ、太陽風によって地球磁場が引き延ばされた構造になっている。

フェルミ衛星を参照。

月の欠けている暗い部分がうっすらと見える現象のこと。これは地球(の昼側)で反射した太陽光が月に届き、月(の夜側)で再び反射した光を、地球の夜側で観測しているものである。地球照を肉眼で最も観測しやすいのは、新月前後の月の輪郭が小さいときである。この時期は月から見た地球は昼の部分が多く明るいので地球から月に届く反射光が強いことに加え、月の輪郭が小さいのでまぶしくなく月の暗部が見やすいからである。地球から月に届く反射光は新月の時(月から見て地球全面が昼)が最も強いが、新月は太陽と同じ方向なので肉眼では見えない。ただし、皆既日食時には地球照により月面の模様を観測することができる。
地球照の明るさは、地球のアルベド(反射率)に影響を受けるため、これを使って地球の平均的な雲量の変動などを調べる研究が行われている。

現在の地球大気は、総質量5.2×1018 kg(地球質量の100万分の1)で、窒素78%、酸素21%、アルゴン1%からなる。また大気全体で1.3×1016 kg(0.25%)ほどの水蒸気量がある。地球表層の水の大部分は海と氷床(南極やグリーンランド)として存在している。海から蒸発した水蒸気は雲として大気中で凝結する。水は凝結や蒸発の潜熱を介して、地球大気中の熱輸送に重要な働きをする。また、雲や水蒸気は、反射や温室効果を通じて、天体の表面温度を制御している。金星火星と比べて、地球大気の二酸化炭素量は低い。過去には主成分であった二酸化炭素は石灰岩などの炭酸塩鉱物として地殻に取り込まれている。光合成植物が排出する酸素が蓄積して大気の主成分となった。

磁気嵐を参照。

炭素質コンドライトを参照。

石質隕石のうち、有機物などさまざまな化合物の形で炭素原子を含むコンドライトを指す。化学組成や酸素同位体組成に基づき、CI, CM, CO, CV, CR, CK, CHに分類される。コンドリュールのほかに、太陽系初期の高温凝縮物である、高アルミニウムカルシウム含有物(CAI: calcium-aluminium-rich inclusion)が含まれている。CAIの年代はコンドリュールよりも古くアエンデ隕石中では45.67億年を示すものが発見されている。炭素質コンドライトの中には、CI、CMなど水質変成を経験しているものがある。これらは集積時に氷が含まれていて、母天体中で変成作用を受けたと考えられる。
炭素質コンドライトの反射スペクトルに対応しているのは、C型のスペクトル型をもつ小惑星で、小惑星帯の外側に主に分布している。クローニン(J. Cronin)らは1997年、CMコンドライトのマーチソン隕石中のアミノ酸の分析から、イソバリンなど一部のアミノ酸で、左手型(L型)のアミノ酸が右手型(D型)よりも過剰であることを発見した。地球の生物のアミノ酸はすべて左手型であるため、地球生命のアミノ酸の地球外起源説の大きな根拠になっている。

地球型惑星の表面を覆う厚さ10-数10kmの岩石の層。その内側のマントルよりも密度の低い岩石で構成されている。一般には、カンラン石を主成分とするマントル物質が上昇して天体表面付近で融けたマグマが上昇して噴出してできる玄武岩を主成分とする。地球では海洋地殻は玄武岩であるが、大陸地殻の主成分はプレートテクトニクスによる沈み込み帯で、水が融点を下げることによる火山活動で生まれた花崗岩である。

月の高地地殻は、初期のマグマオーシャンから直接に固化して浮上した斜長石を主成分としている。水星の地殻にも斜長石が多く含まれているのではないかと推定されている。木星の衛星エウロパでは、地下海を取り囲む表層の氷の層にたいして、氷地殻と呼ぶことがある。マグマオーシャン仮説も参照。

ハーバード分類による恒星のスペクトル型を記載した星表。略称はHD星表。9冊のカタログが1918年から24年にかけて刊行された。ハーバード天文台のキャノン(A.J.Cannon)によって分類された22万5千天体が記載されている。その後の拡張版はHDE星表と呼ばれ、約35万星のスペクトル型が記載されている。この星表にある星はHD 172167のように、HD(拡張版ではHDE)の後ろにカタログ番号をつけて呼ばれる。星表名は、アメリカの天体分光学の開拓者、ヘンリー・ドレーパー(H. Draper)にちなんでつけられた。ヘンリー・ドレーパー未亡人が、ピッカリング(E.C.Pickering)台長率いる恒星のスペクトル分類の大事業に遺産を寄付したことによりこの名前がついた。

速度勾配層を参照。