天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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Ⅱ型超新星

星が進化の果てに明るく爆発する現象を超新星と呼ぶが、その超新星の一種。最も明るくなる最大光度期に水素のスペクトル線が現れないⅠ型と現れるⅡ型とに大別される。Ⅱ型は 8M 倍以上の重い星の進化の最終段階で、中心核が重力崩壊し、その反動で外層部が吹き飛ばされて爆発すると考えられている。Ⅰa型超新星も参照。

分光器の一種で、分散型分光器の像面にスリットを置いて狭い波長範囲の光(monochromatic light: 単色光)を取り出す装置。一般には分散素子の角度を変えることにより取り出す波長は可変となっている。ハロゲンランプなどを光源とし、取りだした光をサンプルに照射し、反射光や透過光の強度を測定して反射率や透過率を求める用途に多く用いられる。

ボンディ(Hermann Bondi;1919-2005)はオーストリア出身のイギリスの理論天文学者。定常宇宙論を提唱し、ビッグバン宇宙論に対抗した。オーストリア、ウィーンに生まれ、エディントンの勧めによりイギリスに渡り、1937年ケンブリッジ大学に入学。第2次世界大戦中は、敵性国人として一時拘束されるが、そこでトーマス・ゴールド(T. Gold)と知り合った。1941年にケンブリッジ大学に戻り、1942年にホイル(F. Hoyle)が所属するイギリス海軍のレーダーの研究にゴールドと共に参加した。この3人で1948年に定常宇宙論を提唱した。1951年、コーネル大学の客員教授を経て、1953年にハーバード大学へ行き、その後、ロンドンのキングズ・カレッジの応用数学教授となった。1960年代から行政的な仕事に携わり、国防省の主任科学顧問、エネルギー省の主任科学者を歴任、テムズ川ダム計画の顧問でもあった。
太陽電波と宇宙線の理論では、太陽磁力線が延びている模型を提唱した。一般相対論からダストでできた(圧力なし)宇宙モデルを研究、重力波の性質を最初に正しく理解した一人でもあった。物質降着理論では、地球の氷河期は太陽系への星雲物質の落下によるとする発想から始まり、ボンディ半径の概念を定め、それはブラックホールなどへの降着理論に発展した。2001年には王立天文学会ゴールドメダルを受賞している。

参考:https://www.nature.com/articles/437828a

高光度青色変光星を参照。

クェーサー吸収線系であるライマンα 吸収線の中で、中性水素柱密度が1017-1020 cm-2 ほどになると波長912 オングストローム(91.2 nm)のライマン端の吸収の徴候を示すものがあり、これをLLS(ライマン端吸収線系)と呼ぶ。LLSは、クェーサーの視線上にある銀河円盤のガスやそれを取り巻くガスハローが引き起こしている吸収であると考えられている。

局所静止基準を参照。

局所熱力学平衡を参照。

一定量の物質が、単位時間、単位立体角、単位周波数当たりに電磁波として放出するエネルギーのこと。一定量として、単位体積を占める量で規定した体積放射率と、単位質量で規定した質量放射率とがある。吸収が全くない場合、特定方向に伝わる電磁波の放射強度の、光路に沿った単位長さ当たりの増加量が体積放射率に、それを密度で除した量が質量放射率となる。吸収係数も参照。

単位面積を単位時間あたりに通過して放射されるエネルギーの量のこと。放射エネルギー流束ともいう。 放射を放つ面の法線方向からの角度をθ、法線の周りの角度を Φ とする極座標を考える。(θ,Φ) 方向の放射強度Iν (θ,Φ) [ J s-1 m-2 Hz-1 sr-1] とすると、放射流束 Fν は、

Fν=Iν(θ,ϕ)cosθdθdϕ

で表される。

電波望遠鏡のビームパターンのうち、主ビームの広がりよりも桁違いに広がった成分。主として、主鏡の鏡面精度が不十分で、乱反射によって意図せぬ方向からの電波を受信してしまうことで生じる。

地球の周りを回っている人工衛星の軌道で、地球からの距離が最も遠くなる点のこと。遠点近地点も参照。

電離ガスの電子と陽イオンの積の視線に沿った柱密度のこと。英語読みの「エミッションメジャー」をそのまま用いることも多い。多くの場合、電離水素領域(HII領域)に対して用いられる。領域の奥行の長さを L とし、電子と陽イオンの数密度をそれぞれ nenp としたときの放射量度 EM

EM=0Lnenpdx

となる。天文学では、電子や陽イオンの数密度の単位を[ cm-3]、視線長さの単位を[pc]として値を見積もることが多いので、それに合わせて放射量度の単位は[pc cm-6]となる。星間ガスの主成分は水素であるので、すべてが電離水素ガスだと近似するなら ne=np となり、この場合の放射量度は電子密度の2乗 ne2 の柱密度となる。電離ガスが熱的制動放射(自由-自由放射)を放つ場合、ガスの光学的厚さは放射量度に比例する。

たわみ(銀河円盤の)を参照。

欧州宇宙機関ともいう。通称はESA(イーサ)。1975年に、ヨーロッパの10か国が共同で設立した宇宙開発と宇宙科学研究を行う機関である。2017年時点での参加国は22か国。1979年に人工衛星打ち上げ用のアリアンロケットを開発し、現在では世界の民間衛星打ち上げ実績の約半分を占めるまでになっている。本部はパリに、ロケット発射場はフランス領ギアナにある。
2009年度の予算規模は3600億ユーロ。太陽系探査ミッションとしては、SOHO (1995)(太陽)、Venus Express(2005)(金星)、カッシーニ探査機(1997)(土星)、天体物理ミッションとしてはIUE(1978)(紫外線)、ヒッパルコス衛星(1989)(位置天文)、ハッブル宇宙望遠鏡(1990)(可視光から近赤外線)、Integral(2002)(ガンマ線)、XMM-ニュートン衛星(1999)(X線)、ハーシェル衛星(2009)(遠赤外線)、プランク衛星(2009)(宇宙背景放射探査)、Gaia(2013)(位置天文)、LISA-pathfinder(2015)(重力波)など多数の衛星を打ち上げ、さらにハッブル宇宙望遠鏡の後継機ジェイムスウェッブ宇宙望遠鏡(2019)などの打ち上げを計画している。
これらの中にはアメリカ航空宇宙局(NASA)との共同プロジェクトも数多くある。日本の宇宙科学研究所とは、あかり衛星すざく衛星ひので衛星、SPICA衛星で国際連携している。
ホームページ:http://www.esa.int/ESA

ある天体の周りを回っている別の天体の軌道において、この2天体間の距離が最も離れる点のこと。中心天体が太陽地球火星恒星(たとえば、実視連星系の主星)、天の川銀河銀河系)中心の場合、それぞれ遠日点遠地点、遠火点、遠星点、遠銀点などと呼ぶ。ただし、楕円軌道の場合にのみ定義され、放物線軌道、双曲線軌道、円軌道では定義されない。近点も参照。

南天の観測を目指して1962年に欧州の5か国(ベルギー、フランス、ドイツ、オランダ、スウェーデン)で発足した国際天文台。英文名称の頭文字から取った通称ESO(イーソー)が広く用いられてる。

2024年時点の加盟国は、オーストリア、ベルギー、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリー、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリスの16ヵ国である。望遠鏡が設置されているチリはパートナーという位置付けで1964年から、また2017年からオーストラリアが戦略的パートナーとしてESOに参加している。本部はミュンヘン郊外のガルヒンにある。

1966年に南米チリのアンデス高原のラシヤ山(標高2400 m)に天文台を開設し、口径3.6 mの望遠鏡など10台以上を1980年代までに建設した。その後、さらに北部にあるパラナル山(標高2600 m)に8 mの望遠鏡4台からなるVLTを建設した。2003年からは、日米欧の国際共同事業としてアタカマ高地(標高5000 m)に64台の電波望遠鏡からなる電波干渉計アルマ望遠鏡を建設。さらに2020年代終わり頃の完成を目指して口径39 mの超大型望遠鏡ELTの建設を進めている。
ホームページ:http://www.eso.org/public/

熱平衡状態に対して定義される熱力学量の一つ。記号 S で表される。 熱力学の第2法則は、任意の過程で熱平衡状態Aから状態Bまで変化するとき、 温度 T の外系と熱量 dQ をやりとりしている系のエントロピーの変化 dS に対して

ABdSABdQ/T

を要求する。 特に熱の出入りのない壁に囲まれた系では、右辺 =0 なので、 変化に伴って

ABdS0

であり、エントロピーは増大する。 変化が準静的な可逆過程であるときは、

ABdS=ABdQ/T

が成り立つ。 理想気体のエントロピーは熱力学の第1法則から、

S=CVlogT+RlogV+S0

となる。ただし、CV は定積比熱、R は気体定数、V は体積、S0 は積分定数である。

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が2003年6月に打ち上げた火星探査機で、12月25日に火星に到着した。着陸船ビーグル2は失敗したが、軌道船は2024年時点でも観測を継続している。ステレオカメラ、可視光-赤外分光器、紫外赤外大気分光器、地下探査レーダー、プラズマ中性原子分析装置が搭載されている。火星表面に含水鉱物、硫酸塩鉱物が存在して時代ごとに環境が変わったことを明らかにした。また、現在の火星大気にメタンが含まれていること、火星の南極冠の大部分は水の氷であることも発見した。
ホームページ:
https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Mars_Express

楕円軌道の焦点Fを原点に、近点Pから天体Qまで測った角度 f を真近点角または真近点離角と呼ぶ。真近点角は物理的な実体を伴うので理解がしやすいが、数学的に扱うには不便な点もある。
そこで、楕円軌道に外接する円と、天体から焦点と近点を結ぶ線に対して下ろした垂線の延長が交わる点をQ'とし、外接円の中心Oを原点に、近点PからQ'まで測った角度 u を定義し、これを離心近点角または離心近点離角と呼んでいる(図参照)。
たとえば、軌道長半径 a離心率 e の場合、天体の動径 r は、真近点角 f を使うと

r=a(1e2)1+ecosf

であるが、離心近点角 u を用いれば

r=a(1ecosu)

と簡単に書ける。

アメリカ航空宇宙局(NASA)が1996年に打ち上げた火星探査機。2006年11月まで観測を行った。高分解能カメラ、広角カメラ、レーザー高度計、赤外線放射分光計、磁力計などが搭載された。また、マーズローバ着陸機との電波を中継する役割も有していた。高分解能カメラは以前よりも1桁以上すぐれた最高解像度1.5mで表面を撮像して、さまざまな新しい地形を発見した。火星の中高緯度の急峻な斜面に、ガリーと呼ばれる幅数10-数100m、長さ数kmの溝地形を発見している。これには斜面に堆積した雪や二酸化炭素氷が融けて(蒸発して)斜面崩壊を誘発したと思われるもののほか、地下から塩分濃度の高い水が流出してできたものもあるとされている。
レーザー高度計による地形の観測から、北部は新しい低地、南半球から赤道域は古い高地という二分性が確認され、重力データから地殻厚さの変化とも対応していることが明らかになった。磁力計は南半球の高地に強い残留磁化があることを明らかにし、火星の過去に流体核の運動にともなうダイナモ作用が存在したことが確実になった。赤外線分光計は、火星大気の温度、圧力、ダストなどの変動を明らかにするとともに、表面に酸化鉄ヘマタイト(赤鉄鉱)の多い領域を発見した。この一つ、メリディアニ平原はマーズローバ着陸機オポチュニティの着陸地点となった。