天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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アルハゼン

アルハゼン(Alhazen;c.965 – c.1040)はイスラムの自然学者、数学者、天文学者。ヨーロッパではAlhazenというラテン名で呼ばれてきたが、正式名はIbn al Haytham(イブン・アル=ハイサム)。主にエジプトの地で研究を行なった。特に近代的光学研究の先覚者として、西欧世界では“近代光学の父”と称えられる。天文学では、プトレマイオスのエカントに反対して、同心球的な惑星運動を復活させようとした。『視覚論』(光学の書)を1011-21年頃に著わした。本書は13世紀初頭にラテン語訳された。1572年にドイツで『光学宝典』(Opticae Thesaurus)という題名で出版されたため、ヨーロッパで広く知られるようになった。“見える”ということは、対象物から何かが放射されて眼に流入するからという概念を初めて唱えた。眼球の構造、レンズや凹面鏡、光の屈折現象を研究した。月が太陽光を反射して輝く仕組みや、太陽の出没前後の薄明現象を調べて、大気も光を屈折させる作用を持つことを明らかにした。観察と実験から一般法則を帰納するアルハゼンの研究態度は、西欧近代の科学的方法に近かったため、後にロジャー・ベーコン、ケプラー、デカルトらに大きな影響を与えた。

米国の自治領であるプエルトリコのアレシボにある米国立天文電離層センター(NAIC)の電波天文台。コーネル大学とアメリカ空軍研究所の研究者らが中心となり、アメリカ国防高等研究計画局が資金を出して建設、1963年に完成した口径305mの固定電波望遠鏡が主力装置。初期はコーネル大学が運営の中心だったが、近年は米国科学財団(NSF)、セントラルフロリダ大学などが運用している。
地表に固定された直径305 mの球面鏡を主鏡とする電波望遠鏡は、一時期に受信に利用できる開口は直径270 mである。観測波長は約3 cmから1 mである。天頂方向付近しか観測できないが、副鏡の向きを変えることによって天頂から20度弱の範囲内にある天体は観測可能で、地球の自転を合わせるとかなりの範囲を観測することができる。パルサーや地球電離層の観測的研究で複数の重要な成果を挙げている。また、送信機を備えており、レーダーとして使用することで、太陽系惑星に関する研究でも成果を挙げている。特に、地球外文明探査(SETI)で用いられたことでも有名で、1974年には8キロパーセク(8 kpc=2.5万光年)離れた球状星団M13に向けて地球文明に関するメッセージ(アレシボメッセージ)を電波信号として送っている。
2020年12月1日朝(現地時間)に、140 mの高さにある受信プラットフォームを支える3本の鉄塔がすべて壊れ、重量約900トンの受信プラットフォームがワイヤケーブルと共に落下し、地上の主鏡に壊滅的な損害を与えた。この望遠鏡では8月と11月にもケーブルが切れて落下する事故があり、全米科学財団(NSF)は11月19日に電波望遠鏡を廃止して解体することを発表していた。1963年の完成以来、2016年に中国の500メートル球面電波望遠鏡(FAST)が完成するまで、固定型ではあるが単体としては世界最大の電波望遠鏡であった。
ホームページ:https://naic.nrao.edu/


アレシボ天文台の305 m電波望遠鏡が崩れ落ちる映像

https://youtu.be/embed/ssHkMWcGat4

宇宙の大規模構造を参照。

ダークエネルギーを参照。

ガス星雲のうちで、低温度(20 K程度)かつ高密度(500水素原子 cm-3 程度以上)で、多量のダストを含むため、背後の天体からの光がダストに遮られて黒い雲のように見えるもの。この名称は見かけの様相に由来する。暗黒物質(ダークマター)とは全く関係がない。このようなガス星雲中にはさまざまな分子が含まれるので、分子雲と呼ばれることもある。分子雲の中で、周囲より密度が高くなった分子雲コアから星が生まれる。暗黒星雲は、可視光では吸収が強いため暗く(黒く)見えるが、赤外線ではダストが熱放射で光って見える。赤外線暗黒星雲も参照。

アメリカ航空宇宙局を参照。

ダークマターハローを参照。

アメリカ航空宇宙局(NASA)の惑星探査ミッションの支援と惑星科学の研究を目的として1979年に建設された口径3.0mの赤外線専用望遠鏡。高い赤外線性能の実現のため、水蒸気量が少ないなど好観測条件のハワイ島マウナケア山頂近くに設置された。観測時間の約50%は惑星探査ミッションの支援と太陽系天体の研究に割り当てられ、残りの観測時間は委員会審査により太陽系以外の天文研究に割り当てられる。運営はNASAの委託を受けてハワイ大学天文学研究所が行っている。マウナケア国際天文台群も参照。
ホームページ:http://irtfweb.ifa.hawaii.edu/

ダークマターを参照。

画像の微細構造(高周波成分)を強調するために使われる画像処理の技法。原画像をピンぼけ状態にぼかした画像(アンシャープマスク)を原画像から差し引くことで、微細構造が強調される。写真の場合は、アンシャープマスクを原画像とネガポジ反転させて重ねて焼き付ける。マスクのピンぼけ状態の度合いを変えることで、強調される微細構造の細かさを変化させることができる。

電波望遠鏡で受信された信号の強さを表す物理量で温度の物理次元を持つ。$T_{\mathrm{A}}=\frac{W_{\nu}}{k_{\rm B}}$ で与えられる。ここで、$W_{\nu}$ は単位周波数あたりの電力、$k_{\rm B}$ボルツマン定数である。熱力学的な考察により、レイリー-ジーンズの近似式が成り立つ範囲において、アンテナ温度はビームパターンで重みをかけた天球面上の輝度温度分布の平均値に等しくなる。

アンテナの物理的な面積 $A_{\rm{p}}$ に対する、電波を受信するのに有効に使われる面積 $A_{\rm{e}}$ の比($\eta_{\rm A}=\frac{A_{\rm{e}}}{A_{\rm{p}}}$)。当然ながら、$0\le \eta_{\rm A}\le 1$ である。略して、開口能率という場合もある。

開口能率が1にならない理由は、主に3つある。1つは、主焦点に設置された機器または副鏡とそれを支える支柱(ステイ)によるブロッキングによる。第2には主鏡などの鏡面誤差(理想的な鏡面形状からのずれ)および主鏡の反射率が1以下であることによる。そして、第3には給電系照射パターンを主鏡の端で意図的に減らすことによる。3番目の要因は一様な照射パターンに近づけるほどアンテナ開口能率を上げることができるが、その場合はサイドローブが大きく強くなるため、どちらをどの程度まで重視するかの判断が必要である。一般に、通信用アンテナは開口能率を重視して設計し、電波望遠鏡はサイドローブの低下を重視して設計される。観測波長が $\lambda$ の場合、有効開口面積 $A_{\mathrm{e}}$ とアンテナの全ビーム立体角 $\Omega_{\mathrm{A}}$ との間には $A_{\mathrm{e}} \Omega_{\mathrm{A}}=\lambda^2$ の関係が成り立つ。開口能率の測定には、電波強度が既知の点状電波源を実際に測定して求めるのが最も直接的であるが、ビームパターンが軸対称ガウス関数に近ければ、近似的に主ビームの半値全幅から推定した主ビーム立体角主ビーム能率から全ビーム立体角を推定し、先の式を用いて求めることもできる。

開口合成望遠鏡を構成する素子アンテナが設置されている空間的な配置のこと。アンテナ配置が決まれば、基線も決まるので、同時に取得できるビジビリティ(u, v)面上での分布も決まる。したがって、同じ台数の素子アンテナを持つ干渉計でも、それらを狭い範囲に集中させたアンテナ配置では天体輝度分布が広がった成分(低空間周波数成分)が観測され、広がったアンテナ配置では空間的に細かい成分が観測される。このため、多くの電波干渉計では複数用意したアンテナ配置の間で計画的に配置を変更し、それらを総合することでより広い空間周波数成分を観測できるような運用が行われている。

ビームパターンを参照。

アンテナの性能を表す量の1つ。特定の方向について、それ以外の方向に比べてどの程度の感度を持つかを示す量で、どの方向に対しても一様に感度を持つ無指向性アンテナを基準とする。方向依存性まで含む場合は、ビームパターンと同一の概念である。同じ大きさの同じ光学系であっても波長によって異なる。

アンテナの全ビーム立体角 $\Omega_{\rm A}$ が無指向性アンテナに比べてどれだけ絞り込まれているかを表すアンテナの指向性は、$D=\frac{4\pi}{\Omega_{\rm A}}$ で与えられる。これにアンテナのオーム抵抗による損失やアンテナの不完全性(鏡面誤差など)による損失などの効率 $\alpha$  ($\alpha \le 1$) を掛けた $G=\alpha D$ をアンテナ利得という。単位は通常、デシベル(dB)で表す。世界の電波望遠鏡のアンテナ利得の例を下図に示す。一般に波長の2乗に比例して $\Omega_{\rm A}$ が大きくなるので、アンテナ利得を波長の関数として表す曲線はある波長でピークを持ち、波長が長くなるにつれて右下がりとなる。またピークより波長が短いところでは鏡面誤差の影響が大きくなるので利得が低下する。ビームパターンも参照。

電子的光検出器に光が入射していないときに 流れる電流のこと。検出器のノイズ源の一つで、小さいほど性能が 良い。光検出器では、入射した光子によって伝導帯に励起された電 子による電流(電荷)を測定して光を検出する。電子が 検出器の温度に応じたエネルギーを持つことによっても伝導帯に励 起され、暗電流が生じる。熱的な現象なので、検出器の温度を下げ ると暗電流は減少するが、検出器半導体の不純物などにより限界が ある。入射する光によって励起された電荷の統計ノイズや読み出し のための電子回路によるノイズに比べて十分に小さいことが望まし い。バンドギャップ光伝導素子フォトダイオードも参照。

矮小銀河を別にすれば、大小マゼラン銀河に次いで天の川銀河銀河系)に近い銀河。カタログ番号では、M 31(メシエカタログ)あるいはNGC 224(NGCカタログ)とも呼ばれる。その正体が銀河であることがわかるまでは、アンドロメダ星雲と呼ばれていた。アンドロメダ座にあり、距離は約770キロパーセク(770 kpc=250万光年)。人工光のない場所なら暗夜にかすかな光斑として肉眼でも見ることができる。長時間露光した画像では、天球上で4度(満月の直径の8倍)以上にも広がって見える。大小マゼラン銀河が小規模な不規則銀河であるのに対して、M 31は銀河系とよく似た巨大な渦巻銀河であり、銀河系の中で起こる星生成活動などの比較研究の対象として重要な天体である。
銀河系とは異なり、外縁部を除くと円盤部も比較的古い星が多く、星間分子ガスも外縁部以外にはわずかしかない。金属量の銀河内位置による違いが少ないことや、ハローに分布する星が不規則な構造を示していることなどから、アンドロメダ銀河は多数の矮小銀河が合体してできたことが示唆される。また、銀河系での高速度雲に対応すると考えられる中性水素原子ガスの構造も見つかっており、G型矮星問題と合わせて、銀河外からの物質の降着が今も進行中であることをうかがわせる。
アンドロメダ銀河の周りには、M 32、NGC 205、NGC 185、NGC 147という矮小楕円銀河と、それより暗く表面輝度の低い矮小楕円体銀河がいくつも存在する。アンドロメダ銀河と天の川銀河の周辺にある数十個の銀河(ほとんどが矮小銀河)は、局所銀河群と呼ばれる集団を形作っている。
1924年の論文でハッブル(E. Hubble)が、アンドロメダ銀河中のセファイドの距離を測定して、アンドロメダ銀河が天の川銀河の中にある「ガスからできた星雲」ではなく、天の川銀河の外にあって、天の川銀河と同規模の巨大な恒星系(銀河)であることを発見し、「銀河からなる宇宙」という新しい宇宙観が確立するきっかけとなった。
アンドロメダ銀河はそのスペクトル線がわずかに青方偏移を示し、銀河系に近づいてきていることはハッブルの発見以前から知られていたが、近年アンドロメダ銀河中の星の固有運動ハッブル宇宙望遠鏡によって測定され、視線速度と合わせてその空間速度が明らかになった。その結果、アンドロメダ銀河は今から約40億年後に天の川銀河とほぼ正面衝突して最初の合体が始まり、3回目の合体の後、約60億年後に一つの楕円銀河になると考えられている。この合体には、M33を含む局所銀河群の多くの矮小銀河が巻き込まれ、約1000億年後には局所銀河群全体が一つの楕円銀河となる。


「アンドロメダ銀河の本当の姿」(19分)。さまざまな宇宙望遠鏡のデータも含めて易しく解説してあります。作者から以下の訂正が周知されています。「14:35 アンドロメダ銀河が天の川銀河に近づいている速度を時速40kmと説明していますが、正しくは【時速40万km】です。18:21 天の川銀河やアンドロメダ銀河は、半径300光年の範囲におさまっていると説明していますが、正しくは【300万光年】です。こちらの確認不足により単位を間違えてしまい、申し訳ありません。」

https://www.youtube.com/embed/pt3Ea9hDvjk?si=xlCK9JK9tLwBOPOQ"


アンドロメダ銀河と銀河系(天の川銀河)の衝突のシミュレーション(簡略版)

https://www.youtube.com/embed/4disyKG7XtU


アンドロメダ銀河と天の川銀河(銀河系)の衝突のシミュレーション(詳細版、英語の解説ありー「字幕」を「オン」にする)

https://www.youtube.com/embed/qnYCpQyRp-4

望遠鏡で観測するときにガイドのために用いられる星。ガイド星ともいう。ガイド(天体追尾)を参照。

目的天体を視認し導入するために小口径の天体望遠鏡に同架する広視野の小型望遠鏡のこと。これはファインダーと呼ばれることが多い。ガイドに使われるものはガイド望遠鏡と呼ぶ。

アルマ望遠鏡を参照。