天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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電磁流体力学

プラズマなど電気を伝えやすい流体を取り扱う流体力学。磁気流体力学と呼ばれることもある。また、MagnetoHydroDynamicsを略してMHDとも呼ばれる。
プラズマのような電離したガスの中では電流が流れ電気が伝わることができる。このような流体が磁場の中を運動すると起電力が生じる。するとその起電力によって生じる電流と磁場との相互作用によって流体に力(ローレンツ力)が働く。このため、電導性のよい流体の運動では電気的に中性の流体の運動とは違った性質が表れる。例えば、電気抵抗ゼロ(電導性無限大)の電磁流体(理想電磁流体という)は、磁場の凍結効果があったり、電磁流体独特な波動(電磁流体波)が発生したりする。
電磁流体力学では、流体力学の運動方程式にローレンツ力を含める必要があるほか、電磁場を記述するマクスウェル方程式も同時に解く必要がある。1942年にアルベーン(H. Alfven)は、この電導性流体を記述する基本方程式を考察し、宇宙プラズマ中の諸現象の理解にローレンツ力を介した動力学やそれを支配する波動が重要であることを見出した。その後、電磁流体力学は宇宙プラズマだけでなく核融合プラズマなど幅広くプラズマ科学の基礎体系として発展してきた。アルベーンはこのような功績により1970年にノーベル物理学賞を受賞している。
アルベーン波ジャイロ運動も参照。

 

中心星からほぼ反対向きの方向(北極と南極方向)に放出されているように見える星雲のことであり、そのほとんどは惑星状星雲である。星雲の根元はアルファベットの大文字のXに似た形に見えるものもある。

望遠鏡やアンテナを目的とする方向にどれだけ正確に向けることができるかを示す指標であり、角度で表される。指向精度が悪いと天体の位置の測定精度が悪くなったり、受信される電波強度が減少したりする。
電波観測の場合、アンテナの主ビームの全幅(半値全幅で表される場合が多い)の大きさの1/10以下が望ましいとされている。指向精度が悪化する原因としては、アンテナの重力変形や風によるアンテナの向きの変化などがあげられる。アンテナの指向精度は点状電波源を観測することによって測定される。通常の可視光望遠鏡ではシーイングサイズと同程度以下であることを考慮して1"程度以下の指向精度が望ましいとされている。

生まれたての若い星からほぼ反対向き(南極方向と北極方向)に放出される分子ガスの高速の流れ。単に、分子流とも呼ばれる。電波領域の分子輝線により観測され、速度は100 km/sを越すものもある。理論的には、形成途中の原始星近傍から磁気流体力学的な力により放出され、周囲から重力ポテンシャルの底に落ちる物質の角運動量を外に放出する役割があると考えられる。
可視光赤外線による観測により、Tタウリ型星などからも双極方向に細く絞られたガス流が放出されていることがわかっているが、こちらは光学ジェットと呼ばれ、区別されている。

円盤状の天体の中心から、円盤面と垂直方向両側にほぼ対称的に吹き出すガスや粒子の流れ。双極分子流はその典型例である。

星の周りに存在する、ガスを主成分とする円盤のこと。若い星の周りに存在するガスを主成分とする星周円盤は、惑星形成の現場という意味を込めて、原始惑星系円盤と呼ばれる。恒星の周りに存在しガス成分をほとんど含まず固体微粒子を主成分とする円盤は残骸円盤と呼ばれ、赤外線の放射で観測される。中心天体への物質降着が効率的に起こっている星周円盤は降着円盤と呼ばれる。

天体を対象にした分光学。天体からの電磁波を波長あるいは周波数成分に分解して測定する(分光観測を行う)ことにより、その組成や温度のほか、観測者に対する視線速度などを測定することができる。分光観測の目的の一つは、天体からの電磁波のエネルギー分布や連続光成分を測定することであり、そのためには波長(周波数)成分ごとの光の絶対強度の測定が必要となる。恒星の周りの降着円盤星周物質の存在は、恒星スペクトルの赤外超過として観測される。
また、光の放射領域に存在する原子や分子によるスペクトル線の測定も分光観測の目的の一つである。これには放射領域の速度場に応じた波長(周波数)分解能が必要となる。1814年にフラウンフォーファー(J. von Fraunhofer)が太陽光に暗線を見つけたことに始まる吸収スペクトル線を用いた恒星大気の構造・組成の研究や、大気吸収線の波長変動の精密測定による太陽系外惑星の探査などがある。星間物質銀河に見られる輝線スペクトルからは、天体の赤方偏移や回転運動の測定、輝線強度比を用いた温度と密度の測定などが行われる。
分光観測は今日ガンマ線X線から電波に至るまであらゆる周波数の電磁波について行われるようになっている。

星周ダストを参照。

重い銀河ほど昔に星生成活動を終えたという現象。どの時代の銀河にも一貫して見られる。たとえば、現在の宇宙で活発に星生成を行なっているのは小質量の銀河だけであり、最も重い銀河である楕円銀河は星生成をほとんど行っていない。星生成活動が高い銀河は(星)質量の増加率も高いということを考慮すると、ダウンサイジングは、重い銀河ほど昔に質量の増加が止まったことを意味する。これは、重い銀河は軽い銀河より後にできたとする階層的集団化モデルと矛盾するように見えるので、注目を集めている。階層的集団化モデルにも、解釈のしかたによってはダウンサイジング的な傾向は見いだせるという指摘もあるが、ダウンサイジングの観測事実を定量的に説明する試みはまだ成功していない。

曲率テンソルや物理量が無限大に発散し、物理法則を適用できない点のこと。

たとえば日本において北の空の星の日周運動を観測すると、星は北極星の周りを反時計回りに回っているように見える。そのような星のうち地平線の下に沈まないものを周極星と呼ぶ。

進化した星がその一生を終えるまでに星風として放出した物質から作られる固体微粒子(ダスト)が星の周りに溜まっているもの。星の近傍を離れて星間空間に漂うようになると星間ダストと呼ばれるようになり、銀河の中での物質循環と進化を理解する上で重要な要素になる。質量放出も参照。

周期表(元素の)を参照。

一般相対性理論では重力崩壊や宇宙初期における超高密度の極限状態で、時空の曲率が無限に大きくなる状況が出現する。この状況を特異点、あるいは空間的に点とは限らずリング状の場合もあるので特異領域とも呼ばれる。
どのような状況で特異点が出現するかを証明したのが特異点定理である。1965年ロジャー・ペンローズ(Roger Penrose)によって、重力崩壊がある程度以上進行し、また物質のエネルギー密度と圧力が適当な条件を満たせば、ブラックホールの内部で必ず特異点が存在することが証明された。その後、スティーブン・ホーキング(Stephen Hawking)とペンローズがやはり物質が適当なエネルギー条件を満たす限りビッグバン宇宙論で初期特異点が存在することを証明した。
特異点定理において、特異点は時空の中に存在するのではなく、時空の果てとして表現される。また特異点の形状やそれがどこにできるかを指定するものでもない。
現在の物理学では特異点を扱える理論がないため物理法則が破綻する。このため事象の地平面に囲まれていない「裸の特異点」が存在すると、物理学の大前提である因果律も破綻しかねない。そのためペンローズは「すべての特異点は事象の地平面に囲まれている」という宇宙検閲官仮説を提唱した。現実的な状況でこの仮説が成り立つかどうかはまだ証明されていない。特異点定理は古典的な一般相対性理論に基づいており、重力の量子効果を考慮していない点で、実際に時空の曲率が無限大になるか、あるいは時空という概念を超えた物理的実体があるのかは明らかではない。

銀河の中心部分に存在する星でできた楕円体状の構造。円盤成分(ディスク)に対してバルジと呼ばれる。ハローとバルジを一緒にして楕円体成分ということもある。現在の銀河のバルジにはガスはほとんどなく、星生成活動もほとんどない。また星の運動はランダム成分が卓越している。楕円銀河はこの楕円体成分のみでできた銀河であるということができる。光の分布は、ディスクに比べて中心に集中しており、表面輝度は半径の関数として、半径の1/4乗で減衰するドゥ・ボークルール則でよく近似されることが知られている。

スピン量子数が半整数(±1/2, ±3/2, …)であるフェルミ粒子は1つの量子状態には2つ以上存在しえないという原理。パウリの排他律とも言う。電子陽子中性子はフェルミ粒子なので、この原理に従う。オーストリア生まれの物理学者パウリ(W. Pauli)が提唱したため、この名で呼ばれる。これによって、複数の電子をもつ原子やイオン中の電子のエネルギー分布に対する制限や、電子の縮退圧が説明できる。これに対して、光子など、スピン量子数が整数であるボース粒子にはこの原理は適用されない。

なお、パウリが提唱した時には、スピン角運動量が未発見だったが、彼は(それに対応する)第4の量子数を導入して排他原理を提唱した。

 

 

星の近傍に存在している物質のこと。物質とその分布する星の周りの空間を含めて言う場合には星周外層あるいは星周エンベロープと呼ばれる。
星生成過程に関する文脈では、星生成の現場となる分子雲コアの中で星が誕生した後も星に降着せずに周りに残っているガスやダストのことを指す。原始星が生まれて間もない頃は分子雲コアのガスはまだ降着の途上であり、大量のガスが原始星の周りに残っている。この原始星周りのガス成分を主体とする物質のことは原始星のエンベロープと呼ばれる。
進化の進んだ恒星に関する文脈で語られる星周物質は、恒星そのものから放出されたガスとダストが主要な成分である。星周ダストも参照。

高エネルギーのハドロンが物質中で引き起こすカスケードシャワー(粒子の増殖現象)。原子核との強い相互作用により生成されるパイオンなどの2次粒子は、一部は再び強い相互作用を繰り返し起こして増殖し、一部はガンマ線電子陽電子に崩壊して電磁シャワーを起こし、粒子数が増大する。粒子の平均エネルギーが下がると電離損失が勝るようになり、シャワーは減衰していく。空気シャワーも参照。

大質量星を伴う星団の形成領域において、多数の超新星爆発星風により形成されると考えられる高温低密度ガス領域(スーパーバブル)の外側にある、中性水素原子(HⅠ)21cm 線やCO分子線で見られる球殻状の領域のこと。
スーパーシェルの内部がスーパーバブルに相当しており、スーパーシェルはスーパーバブル内部の高圧ガスにより圧縮されたガス相だと考えられる。超新星残骸中性水素ガス雲も参照。

複数の超新星爆発星風の効果で形成されたと考えられる巨大な高温低密度領域のこと。通常、温度は 106 K 程度以上であり、軟X線を放出している領域である。

一つの超新星の爆発エネルギーは 1051 erg 程度であり、その膨張速度が10 km s-1 程度になるとウォームガスと呼ばれる星間物質の音速と同程度であるため、衝撃波を伴う膨張が止まる。このため超新星残骸の最終的な半径はだいたい 80パーセク(80 pc=260光年) 程度であるが、スーパーバブルの半径はこれより大きく、それを形成するには 1051 erg 以上のエネルギーが必要である。スーパーシェルも参照。