天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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像修復

大気ゆらぎや光学系の収差などによって像質が劣化した画像を修復して解像度を良くすること。画像に対して、画像を得た観測システム(大気や光学系を含む)の点像分布関数逆たたみ込みをすることによって、像修復を行うことができる。ただし、実際の画像には必ず雑音が乗っているために、たとえ正確な点像分布関数が得られたとしても、完全な像修復を行うことは一般に困難である。そこで、多くの場合、点像分布関数で直接に逆たたみ込みをする代わりに、雑音成分とのバランスをとりながら像質の一部を改善するようなさまざまなフィルターを用いて像修復を行う。

多天体を一度に分光する方法として、マルチスリット分光(スリット分光を参照)や光ファイバーで多くの天体の光を1列に並べ替えて分光するファイバー多天体分光などがある(多天体分光器を参照)。しかし、どちらも非常に複雑な装置となるため、宇宙望遠鏡などの特殊な環境下では利用することができない。そのような場合、スリットなしで分散素子を通して観測することで多くの天体のスペクトルを一度に観測することが可能である。この観測方法を対物分光(またはスリットレス分光)という。天体のスペクトルの重なりを分離するため、視野を回転させて数種類のスペクトル画像を取得し、その後の解析処理で個々の天体のスペクトルを抽出する。通常の分光方法に比べて、背景光が非常に大きくなることが欠点である。シュミット望遠鏡の補正板の直前に大面積のプリズム(対物プリズム)を入れて広視野の対物分光観測を行うことも可能である。

星間物質の平均密度とそこでの星形成率(星生成率ともいう)とのあいだにべき乗則が成り立つとする法則。観測による裏付けをケニカットが示してからはケニカット・シュミット則ともいうようになった。もともとは、星間物質が自発的に収縮して星形成が起こるならべきは1に、星間物質の衝突によって起こるならばべきは2になるはずで、実際にはその中間の値となることが予想されていた。観測の都合から、銀河面に対して垂直方向に積分した値同士の関係として記述することが多い。多数の銀河に対する観測結果から、星形成率は星間物質の柱密度の1.4乗に比例して増えるとするのが標準的である。ただし、なぜ多数の銀河で共通して1.4乗のべき乗則が成り立つのかについては、まだよくわかっていない。

自己重力(自分自身の重力)のために天体が収縮すること。
緩やかに収縮が進行する場合は重力収縮、激しく収縮する場合は重力崩壊(gravitational collapse)という語が使われる傾向があるが、抗する力が内部に発生して自己重力とつりあう状態になるまでのプロセスを指す点ではどちらの語も同じである。物質がどんなに高密度・高温度になっても自己重力を支えきれない場合には天体は事象の地平線の中に崩壊してブラックホールになる(この場合のみを重力崩壊と呼ぶ流儀もある)。
宇宙の大規模構造のなかで銀河が形成される過程、分子雲内での原始星の誕生過程、恒星の進化の最終段階で超新星爆発なに到る過程などではすべて重力収縮が起きている。分子雲コアの中で自己重力が圧力勾配力や磁場の力を凌駕するようになると、重力収縮が始まり、星生成が始まると考えられる。恒星の進化においては、中心部分での熱核融合反応によるエネルギー発生率が小さくなったり、なくなったりしたときに重力収縮は起こる。大質量星の中心部での鉄のコアの光解離反応を伴う収縮も重力収縮の一つであり、超新星爆発Ⅱ型超新星)の前段階で起こる重要な過程である。自己重力系も参照。

1.  天動説において、天球上での惑星の複雑な運動を、円運動に基づいて記述するために導入された円。地球からわずかにずれた位置に中心を持つ離心円(導円あるいは従円と呼ぶ)を考え、その離心円上に中心を持つ周転円が等速度で離心円にそって回転し、その周転円上を惑星が等速度で回転するとした。離心円の導入により惑星の天球上の角速度の変化を可能にし、周転円により逆行現象を説明できた。
2.  銀河円盤中の星の運動を近似するときに用いられる概念。円運動する仮想的な点に対して、その周りを小さく軌道運動しているとして星の運動を表す。この小さな軌道を周転円といい、このようにして星の運動を表すことを周転円近似という。ただし、この場合の周転円は一般には楕円である。
エピサイクリック運動天動説導円も参照。

宇宙初期につくられる初期ゆらぎの種類の一種。等曲率ゆらぎとは、宇宙のエネルギー成分のうち、ある2種類の成分が逆の空間的ゆらぎを持ち、そのエネルギーの和に空間的なゆらぎがないものをいう。空間の曲率ゆらぎはエネルギー密度のゆらぎによって生じるため、宇宙の主要成分が等曲率ゆらぎとなっていると、空間の曲率は一定となる。宇宙には複数のエネルギー成分があるため、どの2種類の成分が等曲率ゆらぎとなっているかによって、等曲率ゆらぎにもいくつかの種類がある。ゆらぎの形成時に等曲率ゆらぎであったとしても、宇宙膨張によってエネルギー成分ごとの時間変化が異なるため、宇宙の進化とともに曲率ゆらぎも生まれ、重力不安定性によって構造形成を起こすことができるようになる。

空間の中で、ポテンシャルが一定の値となるような曲面。ロッシュモデルも参照。

エピサイクリック運動を参照。

デブリ円盤のこと。

 

アメリカ初、世界では2番目の宇宙ステーション。1973年5月14日に 高度435kmの地球周回軌道上に無人で打ち上げられた。軌道上を1979 年まで周回し、1979年7月11日に大気圏に再突入、オーストラリアに 破片が落下した。この間、太陽観測を含む科学実験も行われ、太陽の コロナホールを発見した。
ホームページ:https://www.nasa.gov/skylab/

経緯台方式の望遠鏡の焦点面では天体の視野が回転するので、これを補正するため焦点面装置自体を視野の回転に合わせて回転させる装置のこと。装置を回転させずに光学的に像の回転を打ち消す装置は像回転機構という。

分子雲中に見られる非常に小さな電離水素領域のこと。中心には電離光子を強く放射する大質量星が存在しているが、分子雲コアの高い圧力のため、1パーセク(1 pc=3光年)より小さいサイズにとどまっていると考えられる。コンパクト電離水素領域から通常の電離水素領域への進化の時間スケールについては諸説ある。

観測装置に対し、点光源からの光を入射させたときの装置の光学系による像の広がりの形状。分光器で取得された輝線や吸収線スペクトルの形状には装置関数からの寄与が含まれるため、その寄与を差し引いて観測量とする必要がある。

可視光で見られる宇宙ジェットのこと。特に、天の川銀河銀河系)内で可視光で観測されるジェット状の構造を指すことが多い。通常は若い小質量星であるTタウリ型星から両極方向に放出される高速ガス流だと考えられる。その駆動メカニズムは磁気流体力学的な加速であろう。高速ガス流が周囲の星間媒質とぶつかって形成された弧状衝撃波(bow shock)では種々の光学域の輝線が励起されており、ハービッグ-ハロー天体として観測されている。一方、電波観測で知られる可視光では見えない高速ガス流は双極分子流と呼ばれる。

光を物質に照射すると物質内部の電子が励起したり、外部に飛び出したりする現象。 1887年、ドイツの物理学者ヘルツ(H.R. Herz)が陰極 に紫外線をあてることで放電が起こることを発見したことに始まる。その後、レナルト(P. Lenard)の詳しい実験によって、 電子の放出は、物質ごとに決まるある一定以上の振動数の光でしか起こらないこと、振動数を一定にして光の強度を上げると、 放射電子の数は増えるが1個当たりのエネルギーは変わらないこと、また強度を一定にして振動数を高くすると放出電子の数は変わらず1個当たりのエネルギーが高くなるという性質を明らかにした。 アインシュタイン(A. Einstein)は、振動数 ν (ニュー) をもった光は、エネルギー hプランク定数)の粒子(光量子)の集団であるという光量子仮説を用いて光電効果の以上の性質を説明し、1922年度のノーベル物理学賞を得た。

サーベイ観測を参照。

新月から次の新月に至る月の満ち欠けの様相のこと。直前の新月からの経過時間を日の単位で表した数値を月齢といい、0 から約29.5までの値をとる。月齢のことを月の位相という場合もある。月と太陽の黄経の差が0°、90°、180°、270°になるときの月の名称が、それぞれ、新月(しんげつ;月齢0前後)、上弦(じょうげん;月齢7前後)、満月(まんげつ;月齢15前後)、下弦(かげん;月齢22前後)である。上弦と下弦は一般には半月と呼ばれることが多い。これ以外にも月の位相に応じて日本ではさまざまな名前がつけられている。三日月(みかづき;月齢2前後)、待宵月(まちよいづき;月齢14前後)、十五夜(じゅうごや;月齢15前後)、十六夜(いざよい;月齢16前後)、立待月(たちまちづき;月齢17前後)などがある。朔望も参照。

月は地球との潮汐力のために、自転周期と公転周期が同期した潮汐ロックの状態にあり、常に同じ面(表)を地球に向けて公転している。月の公転軌道が楕円軌道であることと、月の公転面に対して地球と月の赤道が傾いているために、見かけの秤動が起きて地球から観測できる表面は50%を越える。

2019年5月1日に元号が「平成」から「令和」に変わった。令和は、九州太宰府にあった大伴旅人の邸宅に集まった人々が読んだ歌(梅花の歌三十二首)を収めた、万葉集巻五の序文の中の以下の一文に由来すると言われている。
「初春の令月(れいげつ)にして、気(き)淑(よ)く風(かぜ)和(やわら)ぎ、梅は鏡前(きょうぜん)の粉を披(ひら)き、蘭(らん)は珮後(はいご)の香を薫(かおら)す。」
この日は天平二年正月十三日で、西暦に直すと730年2月4日である。この日二十時の月齢は12.0で、満月に近い月であった。
なお、国立天文台の「日本の暦日データベース」サイトで、西暦と和暦の変換が行える。
https://eco.mtk.nao.ac.jp/cgi-bin/koyomi/caldb.cgi


月の公転と見え方(月の位相)。宇宙空間で地球を上から見た図(左)と、地球上のピンク色の矢印の位置から見た月の満ち欠け(右)を同時に確認できます。 「上弦の月」と「下弦の月」は広く「半月」と呼ばれます。(製作「CGムービー人理科」)
https://youtu.be/dQ0PbfYhH_s


地球の自転と太陽の動き(前半)と地球の自転と月の動き(後半)。 後半ではどのような形の月がどの方向に見えるかもわかる。(製作「CGムービー人理科」)
https://youtu.be/8WjwJ-Vlb-4


2022年の元日から大晦日までの「月の満ち欠け」の様子を1時間間隔で再現した約5分間の動画。月までの距離(中央の横線)の単位は地球の直径(28と32はそれぞれ約356,400 kmと406,700 km に相当する)。左下が、秤動によって地球から見えている月の面が周期的に変わる様子。
Video credit: NASA’s Goddard Space Flight Center
Data visualization by Ernie Wright (USRA)
Producer & Editor - David Ladd (AIMM)
Music provided by Universal Production Music: “Build the Future”- Alexander Hitchens
NASAの元サイト https://svs.gsfc.nasa.gov/4955

https://www.youtube.com/embed/c4Xky6tlFyY

非常に弱い光に対しては、露光時間を延ばしても写真の黒みが増加しにくくなることを指す写真の用語。写真における露光量 $E$ は、照度 $I$ と露光時間 $t$ の積で $E=It$ である。写真の黒み $D$ は、露光量 $E=It$ の対数にほぼ比例して、$D\propto{γ}\,{\rm log}\,(It)$ と書ける。$γ$ は階調を表す定数で写真乳剤の種類や現像処理法により異なる。つまり、ある照度 $I$ の光を一定時間 $t$ だけ照射した場合と、 $I/2$ の光を $2t$ だけ照射した場合は同じ露光量になるので、同じ黒みが生じる。これを相反則(reciprocity law)という。

ところが、光の照度が極めて低い天体写真のような場合には、露光時間を長くして、高い照度の光を短時間当てたのと同じ露光量にしても、黒みは少なくなる。この現象を相反則不軌という。写真乳剤(フィルムや乾板)を冷却すると相反則不軌が軽減する。相反則不軌を低減し、低照度での撮影効率を上げた天体写真専用の写真乳剤が1990年代まで生産されていた。

銀河ハローを参照。

微惑星が衝突合体を繰り返して惑星が形成される惑星集積過程の初期の段階において、暴走的成長の結果、他から抜きんでて大きくなった微惑星のことを原始惑星と呼び、それらがさらに寡占的成長、そして原始惑星同士の大規模衝突段階を経て、地球型惑星、あるいは木星型惑星のコアが形成されたと考えられている。このように、惑星集積初期に周りの微惑星から抜きんでて大きくなった天体から、惑星集積後期のまだ惑星になりきっていない天体までを原始惑星と呼び、その質量範囲に関して明確な定義はない。