天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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ナトリウム層

地球大気の高度90km付近にある厚さ10km程度の中性ナトリウム原子密度の高い層。流星によって形成されたと考えられている。波長589nmのナトリウムD線で発振するオレンジ色のパワーレーザーをこの層に照射すると光励起されたナトリウム原子が同じD線の光を放って基底状態に戻るため、高度90kmに発光体が生じる。人工星のように見えるこの発光現象(レーザーガイド星)を地上から観測するとその下層の大気の擾乱を測定する光源として使うことができる。望遠鏡の向いている方向にレーザーを打てば、波面測定が可能な明るい自然星がない領域でも大気ゆらぎを測定できるので、補償光学の利用範囲が広まる。このため、近年特に注目されるようになった。

宇宙誕生直後の高温高密度期では、陽子中性子電子ニュートリノを交換しながら平衡状態(ベータ平衡)を保って存在しているが、平均エネルギーが0.1 MeV(温度にして10億度)くらいになると、陽子と中性子が反応し元素の合成が始まる。この時期の元素合成を星の内部での元素合成と区別してビックバン元素合成という。
ビッグバン後約10分までの間にもともとあった水素(1H)を含む、重水素(D=2H)、三重水素(トリチウム:T=3H)、ヘリウム(3H, 4He)と、微量のリチウム(7Li)とベリリウム(7Be)が作られる(元素記号の左上の数字は質量数)。ビックバン元素合成では、星の内部での元素合成と異なり、宇宙膨張にともない物質の密度と温度が下がるので三体反応が起こらず、これ以上重い元素の合成は起きない。ただし、放射性元素(不安定元素)であるT(半減期12.3年)と7Be(半減期53日)はそれぞれ、3Heと7Liに放射性崩壊する。ビッグバン元素合成で作られる元素をまとめて軽元素ということがある。
従って、ビッグバン元素合成の後に残る安定元素(の原子核)は、H、D、3He、 4He、7Li (原子番号1から3までの元素)である。これらの元素の存在量が観測された値とほぼ一致していることが、ビックバン宇宙論の重要な根拠の一つとなっている。

地球の大気が出す熱雑音放射強度を示す。プランクの法則に対するレイリー-ジーンズの近似式を用いて温度で表すのが通例であり、さらには天体からの放射に対する大気減光による減衰分を考慮して、その分を割り増した値(入力換算等価雑音温度)で表記とすることが多い。天体からの電磁波の強度は大気の吸収(大気減光)を補正して大気圏外での値に換算する必要があるが、ミリ波電波領域から遠赤外線の波長域では大気が発する熱放射が無視できないほど大きく、直接測定される電磁波強度からこれを減ずる必要も生じる。この放射の強度は大気の温度と光学的厚みに依存し、ミリ波帯からサブミリ波帯では、水蒸気や酸素などによって特定の周波数では特に大きくなる。

カナダ-フランス-ハワイ望遠鏡を参照。

太陽系外惑星の直接撮像など、明るい天体のすぐ近くの暗い天体を検出するために、明るい天体の光だけを干渉によって打ち消し合って光強度をゼロにする(実際には大幅に弱める)装置。ヌル干渉計と表記されることもある。 2つの独立の望遠鏡を用い、その片方からの光の位相を半波長ずらして他方と干渉させることにより明るい天体の光強度を大幅に弱めることができる。このとき、すぐ近くの暗い天体からの光の位相ずれは半波長ではないので消えることはない。1つの望遠鏡主鏡に2つの開口を設けることによっても実現できる。また、ステラーコロナグラフ の焦点面に半分の光の位相を半波長ずらす光学素子を置いて明るい 天体の光を打ち消し合うナル干渉型コロナグラフも同様の原理に基づいている。干渉計も参照。

アメリカのキットピーク国立天文台にある、口径4 m反射望遠鏡。リッチー-クレチアン光学系を採用している。主焦点カセグレン焦点が観測に使用されている。主焦点(焦点比F/2.7)には4枚構成の主焦点補正レンズが取り付けられるようになっており、モザイクCCDカメラにより35分角の視野を撮像できる。カセグレン焦点は副鏡を取りかえることで、焦点比F/7.8のリッチー-クレチアン焦点と、焦点比F/15の赤外線観測用焦点を切り替えられるようになっている。架台は、パロマー天文台の5 m ヘール望遠鏡で採用されたホースシュー式架台(極方向を観測できるよう、ヨーク式架台の極方向に馬蹄形軸受けを採用したもの)を変形させた、変形ホースシュー式架台を採用している。これは、ホースシュー式架台の馬蹄形軸受けを赤緯軸に近づけたものである。望遠鏡を建設した天文学者Nicholas Mayallにちなんで名づけらた。リッチー-クレチアン望遠鏡も参照。
ホームページ:https://noirlab.edu/public/programs/kitt-peak-national-observatory/nicholas-mayall-4m-telescope/

南アフリカのサザーランドに2005年に建設された有効口径9.2 mの南天で最大の望遠鏡。マクドナルド天文台のホビー-エバリー望遠鏡を手本にした分割鏡望遠鏡で分光観測に用いられる。主鏡は91枚の球面鏡セグメントからなり仰角37度に固定されている。球面鏡の曲率中心位置にあたる高い塔の先にあるセンサーで球面鏡の調整を行う。天体が南中する前後にしか観測できないが、アレシボ天文台の電波望遠鏡のように、天体観測時には球面収差を補正する光学系を備えた主焦点トラッカーが天体像を追尾する。望遠鏡の機能に制限があるが、建設コストが安い。
ホームページ:http://www.salt.ac.za/

アメリカ合衆国アリゾナ州のホプキンス山の山頂にある、口径6.5m反射望遠鏡。正式名称は「MMT」。スミソニアン研究所とアリゾナ大学によって共同で設立されたMMT観測所によって運用されている。
この望遠鏡は、2000年に改修されるまでは、口径1.8 m反射望遠鏡を6本、単一の経緯台に同架させてそれぞれの望遠鏡からの光を集光する形式のものであった。この形式からマルチミラー望遠鏡と名づけられた。この望遠鏡は、有効口径4.5 mであり、完成当時(1979)においては、旧ソ連の6 m望遠鏡、パロマー天文台の5 mヘール望遠鏡に次ぐ世界第3位の有効口径を持つ望遠鏡であった。ただし、各望遠鏡で得られる光の位相を合わせて集光することが非常に困難であったため、視野が狭く、分光観測専用に用いられていた。
2000年に架台やドームをほぼそのままにして6本の望遠鏡同架形式から、単一の6.5 m主鏡を持つ形式への大改修が行われた。この改修により、集光力が増し、広い視野を観測できるようになった。改修後は、「マルチミラー望遠鏡」から「MMT」へ改名された。「MMT」は「Multi-Mirror Telescope」の頭文字を取ったものではなく、それ自体で一つの完結した名称となっている。
ホームページ:http://www.mmto.org/

マックスプランク物理学研究所を中心に、ドイツなどの国際協力でガンマ線天文学のためにカナリア諸島ラパルマ(標高2200 m)に建設された2台の大気チェレンコフ望遠鏡。英語名称のMajor Atmospheric Gamma-ray Imaging Cherenkov Telescopeの頭文字からMAGICと呼ばれる。 口径17 m(総面積 236 m2 )の反射鏡を備え、1台目は2004年、2台目は2009年に観測を開始した。2台の大口径望遠鏡でチェレンコフ光像をステレオ観測することにより、数10 GeV以上のガンマ線シャワーを精度良くとらえることができ、かにパルサー活動銀河核からのガンマ線をとらえるなどの成果を得ている。2019年にはガンマ線バーストの信号を初めて捕らえた。
ホームページ:
https://www.mpp.mpg.de/en/research/astroparticle-physics-and-cosmology/magic-and-cta-gamma-ray-telescopes/magic/


MAGICガンマ線望遠鏡がガンマ線バーストの信号をはじめて捉えたニュース

https://www.youtube.com/embed/wnDrXytF-M0?si=JIP78Z_Dr8r-uUCM"

ラスカンパナス天文台にある口径6.5mの光赤外望遠鏡であるバーデ望遠鏡とクレイ望遠鏡の2台の総称。2台の望遠鏡はまったく同型であり、それぞれ、天文学者のバーデ(W. Baade)と慈善事業家のクレイ(L.T. Clay)にちなんで名づけられている。完成したのはバーデ望遠鏡が先で、2000年にファーストライトを迎えている。クレイ望遠鏡のファーストライトは2002年。カーネギー研究所、アリゾナ大学、ハーバード大学、ミシガン大学、マサチューセッツ工科大学が共同で運用している。マゼラン望遠鏡は主鏡にアリゾナ大学スチュワード天文台の鏡研究所(ミラーラボ)が開発したハニカム鏡を搭載しており、光学系はグレゴリー型を採用している。グレゴリー焦点も参照。
マゼラン望遠鏡のホームページ:
https://www.lco.cl/magellan-telescopes/

物質をその状態により固体、液体、気体の3つ、あるいはプラズマを含めた4つに分類する考え方。それぞれの状態を相(phase)ともいう。固体(固相)は定まった体積と形を持つのに対し、液体(液相)は定まった体積を持つがその形は自由に変化する。気体(気相)はその体積も形も自由に変化する。固体、液体、気体が移り変わることを相転移といい、それぞれの変化には名前が付けられている。プラズマは気体の一種と見なすことも可能であるが、構成分子が電離(イオン化)しているために強く相互作用するという特徴がある。このためにプラズマを物質の第4の状態と数えることもある。

ダークマターハローを参照。

銀河団ガスの密度分布を表す一般的なモデル。球対称、等温、静水圧平衡を仮定して導かれる。銀河団中心からの半径 r の関数としてガス密度 ρ

ρ(r)=ρ0[1+(r/rc)2]3β/2

となる。ここで、 ρ0 は中心におけるガス密度、 rc はコア半径と呼ばれる量で、ガスの広がりを表す(キングモデル参照)。名前の由来にもなっている指数に現れる β は、銀河の運動エネルギーとガスの温度との比である。このモデルはX線観測から得られる密度分布をよく再現することが知られている。

可視Vバンドでの等級と放射等級(全波長域を考慮した等級)の差。B.C.(bolometric correctionの頭文字)と略される。輻射補正ともいう。星の各スペクトル型について求められており、これによってVバンドでの等級から放射等級に直すことができる。放射補正の値は常に負で青い高温のO型主系列星では約-4等、赤い低温のM型主系列星では約-1等で、F3型主系列星でB.C.=0となる。スペクトル型(星の)も参照。

水素とヘリウムからなる外層(エンベロープ)をもつ木星型惑星の形成についてのコア集積モデルでは、微惑星の集積によって成長した固体の原始惑星が重力によって周囲の原始惑星系円盤ガスを捕獲したと考える。このとき、原始惑星の質量がある臨界値を超えると一気に円盤ガスの捕獲が進む段階があり、この現象を暴走的ガス捕獲と呼ぶ。
原始惑星系円盤ガスの中で成長した原始惑星の質量が月質量程度になると、重力により周囲のガスを引きつけて大気をまとうようになる。原始惑星の質量が小さいときには大気質量も小さく、原始惑星に集積する微惑星が原始惑星表面で解放する運動エネルギーを熱源とする圧力と原始惑星の重力とのつり合いで、大気構造が維持される。しかし原始惑星がさらに成長して大気質量も増大してエンベロープの自己重力が卓越するようになると、微惑星集積によって供給されるエネルギーだけでは大気を支えきれなくなり、エンベロープ自体が収縮することで解放される重力エネルギーによって平衡状態を保とうとする。しかし収縮の結果、エンベロープの密度はさらに上昇し、さらなる自己重力の増大による収縮と円盤ガスの捕獲を引き起こす。このようにして、円盤ガスの暴走的な捕獲が起きる。

ダークマターが自己重力で集まった塊のこと。ダークハローあるいは暗黒ハローと呼ぶこともある。バルジ円盤ハローとともに銀河の基本構成成分である。ダークマターハローにガスが引きずり込まれて集まり、そのガスから星が生まれ、銀河が誕生すると考えられており、ダークマターハローはいわば銀河を宿す母体である。ダークマターハローが銀河の質量の大部分を担っており、星やガスの運動に大きな影響を与えている。渦巻銀河平坦な回転曲線はダークマターハローが存在する証拠である。
ダークマターハロー同士が重力で引き合い、合体を繰り返し、より大きなダークマターハロー(たとえば銀河群銀河団を宿すハロー)へと成長していくと考えられる。ダークマターハローを直接観測することはできないが、背景天体の形を歪める重力レンズ効果や、ダークマターハローに束縛された高温プラズマから放射されるX線の観測などによって間接的にその存在がわかっている。

アメリカ国立太陽天文台が運用する世界最大の太陽観測用塔望遠鏡。この望遠鏡は米国キットピーク国立天文台に設置されている。口径203cmのヘリオスタットにより太陽光を極軸に平行な方向に向いた塔望遠鏡の中に導き、その後に口径160cmの主鏡を持つ望遠鏡と平面鏡で光を垂直下方向に向けて結像させて、地下に作られた搭状の真空分光器に高分散スペクトルを取得できる。観測波長は0.3-12μm。この望遠鏡による重要な発見は、黒点外の静穏領域の中に直径150km程度で1キロガウス程度の磁場をもつ微細磁束管の存在を偏光観測より示したことである。
ホームページ:https://noirlab.edu/public/programs/kitt-peak-national-observatory/mcmath-pierce-solar-telescope/

微惑星が衝突合体を繰り返して惑星が形成される惑星集積過程の初期の段階において、周りの微惑星より質量が大きくなったものがさらに周囲の微惑星より速く成長し、他から抜きんでて大きくなる現象のことを暴走的成長(または暴走成長)と呼び、他から抜きんでて大きくなったもののことを原始惑星と呼ぶ。それに対して、どの微惑星も同じような質量増加率で大きくなる場合を、秩序的成長と呼ぶ。実際の惑星成長がどちらの様式で進むかは、微惑星の軌道を乱す要因が何であるかによる。惑星集積の初期段階では、微惑星の軌道を乱すのは、微惑星同士の重力散乱である。この場合、大きな微惑星ほど重力により多くの微惑星を集められるという効果が強く働き、暴走成長が起きる。原始惑星の成長が進んで原始惑星による重力散乱が効くようになると原始惑星が重力によって周りの微惑星を引き寄せる効果が効きにくくなり、寡占的成長(複数の原始惑星が、同じような質量増加率で大きくなる)という別の成長様式に移行する。

テキサス西部のマクドナルド天文台にある有効口径9.2 m(鏡の実際のサイズは11 m × 9.8 m)の分割鏡望遠鏡。主鏡を対角長1 mの六角形球面鏡91枚で製作し、望遠鏡の高度角を55度に固定することで、従来の望遠鏡に比べて建設費を1/5に抑えて1997年に完成した。高度方向の追尾は鏡筒先端に取り付けられた観測装置を上下させることで行う。主に分光用の望遠鏡として用いられている。2005年に完成した南アフリカ大型望遠鏡は、この望遠鏡とほぼ同じ設計で建設された望遠鏡である。テキサス州副知事Bill Hobbyと実業家Robert E.Eberlyにちなんで名づけられた。
ホームページ:http://www.as.utexas.edu/mcdonald/het/het.html

宇宙空間内でも太陽風放射圧などが抗力(ドラッグ)として働き、加速度が生じる。これらを打ち消して、あたかも重力だけが働くような状態に保持する技術やその状態のことをいう。低周波の重力波を観測するために宇宙空間でレーザー干渉計を複数の人工衛星で構成する計画があるが、各衛星はドラッグフリー状態に保つ必要がある。