天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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ダストテイル

尾(彗星の)を参照。

彗星の軌道に沿って分布するダストの分布。赤外線天文衛星IRASによって観測されている。これが地球の公転軌道と交差する場合には流星群として観測される。
彗星は太陽系の内側の近日点付近でのダスト放出量が多い。周期彗星では回帰ごとに彗星軌道がわずかに異なるため、回帰ごとのダストトレイルは異なる軌道分布を持つ。彗星軌道に沿ったダストの分布は、実際には回帰ごとの細いダストトレイルの集合体と考えることができる。この新しいダストトレイルモデルを用いて、流星群の正確な出現予測や観測記録の再現ができるようになった。


ダストトレイルの説明。「流星群とは(ショートバージョン)」にて説明

https://youtu.be/06fbFrzAGvc

惑星大気の起源として、惑星内部から揮発性成分が噴出する過程を脱ガスという。地球では火山活動を通じて継続的に脱ガスが起きている。アルゴンやキセノンの同位体を使った議論から、地球大気の8割程度は地球史の初期に内部から脱ガスしたと考えられる。アルゴンの同位体比 40Ar/36Ar は岩石中の 40K の崩壊により時間とともに高くなる。地球大気の値(40Ar/36Ar = 295.5)はマントルの値よりもかなり低く、最近の脱ガスの寄与が大きいと説明できない。また、惑星形成時に微惑星が惑星に衝突するときに、揮発性成分が直接大気に供給される。これは衝突脱ガスと呼んでいる。

チチウス-ボーデの法則を参照。

平面波が遮光板に設けられた開口部を通過するときに、開口部から 近い位置で観測される回折現象。開口部の各点からの(電磁)波の 干渉により計算される。開口の形状に、縁による回折の効果が加わ ったものと考えることができる。フラウンホーファー回折も参照。

電波連続波電離ガスの再結合線などで観測される、天の川銀河銀河系)の中心部にある差し渡し1分角ほどの構造。3本腕の渦巻状に見えることから、この名がある。いて座A西とも呼ばれる。ミニスパイラルに外接する位置には回転する環状のガス雲がある。ミニスパイラルの正体は、この回転ガス雲から、いて座A*として知られるブラックホールに流れ込むガスの流れを示すと考えられている。ただし、回転ガス雲から落下するガス塊が差動回転潮汐力で引き延ばされてできたと考える人も増えてきており、その正体は未だによくわかっていない。

望遠鏡主鏡のような薄板鏡を変形や移動を抑えて支える方法の一つ。多数の支持点で薄板鏡を支え、板がどのような姿勢になっても、支持点各部分にかかる板の重量と常につり合う力を支持点に発生させる。このようにすれば、板は重力に対して常に「浮いている(フローティング)」状態となり、板に余分な力をかけずに重力の影響を抑えることができる。
中口径(口径3-4 m)以下の望遠鏡の主鏡支持には、静的なフローティング支持(図参照)が広く用いられている。静的フローティング支持では、支持点に取り付けられた梃子(てこ)によって、各支持点での望遠鏡重量がつり合い重り(カウンターウェイト)とつり合っている。主鏡が傾いても、カウンターウェイトによる支持力は傾きに応じて減少するため、常に主鏡は浮いている状態となる。ただし、この支持方法では主鏡の位置決めをすることはできない。そこで、通常は支持点のうち3点を位置を決めるための固定点とする。
大口径望遠鏡では、梃子とカウンターウェイトを用いる代わりに、力センサーとモーターを用いて同様の支持を実現している。すばる望遠鏡超大型望遠鏡(VLT)などでは、さらに積極的に鏡形状まで制御する能動光学を採用している。

宇宙の支配的なエネルギー成分が放射成分となっている時期のこと。物質優勢期(宇宙の)を参照。

岩塊の集積により天体が構成されるというモデル。小惑星帯に存在する小惑星では、軌道要素が似た族に所属する小惑星が多い。同じ族に含まれる小惑星は、比較的大きな母天体が衝突で破壊を受けて生成されたと考えられる。このとき、破片そのものではなく、破壊で発生した破片が重力によって集積したものが小惑星になるという考えがラブルパイルモデルである。このモデルでは、小惑星の形状で複数の塊から構成されているものがあること、衛星を保有する小惑星が存在すること、密度から推定して、空隙率が大きな小惑星があること、などを説明できる。はやぶさ探査機の観測した小惑星イトカワは、天体が小さく表面のレゴリス層が薄かった。岩塊の積み重なりでできたイトカワの姿から、ラブルパイルモデルが実証された。

分光観測により得られる太陽光球の元素組成を指す。コンドライトの分析値を合わせた、太陽系全体としての元素存在度(宇宙組成比)を指して、太陽組成ということもある。通常、Si の量を 106 としたときの相対量で表す。

大気圏外の地球軌道上で単位面積が受ける太陽放射エネルギーのことで約1365 W m-2。1970年代後半から、太陽総放射計を搭載した人工衛星により精密な測定が行われている。太陽からの総放射量は、黒点が太陽表面に現れると瞬間的には0.2%程度減少する。長期的には、黒点数の多い太陽活動極大期に放射量が多く極小期に少ないというように、太陽活動周期と相関をもちながら約0.1%の振幅で太陽定数は変動する。黒点数の多い時期に太陽が総じて明るくなるというのは、太陽極大期に増大する白斑による放射量の増加分が黒点による放射量の減少分を上回っていることによるものと考えられている。

太陽から流出する超音速のプラズマ流。太陽と逆方向に延びた彗星のイオンテイルを説明するために、1950年頃ドイツのビアマン(L. Biermann)により太陽から吹き出す高速の荷電粒子流の存在が推察された。理論的にその存在を1958年の論文で予想したのがアメリカのパーカー(E. N. Parker)で、100万度のコロナが太陽の重力を振り切って、惑星間空間に超音速で吹き出さねばならないことを示した。この流れをパーカーは太陽風と名づた。

人工衛星が地球の磁気圏の外に出るようになって、1962年に金星探査機マリナー2号が、実際にパーカーの予言通りの超音速流を観測して確認した。その後に続いた黄道面内での観測やユリシーズ衛星による黄道面外からの観測などから太陽風構造が調査され、太陽風は 300-800 km s-1 の速度幅をもっていること、また太陽風はコロナホール境界部に起源をもつ 300-400 km s-1 の低速太陽風と、コロナホール内から吹き出す 700-800 km s-1 の高速太陽風とに分けられることがわかった。電波シンチレーション観測から活動領域端に低速太陽風源があるという報告がなされたが、同様の磁気配置をしている領域において、ひので衛星は活動領域端のコロナ下部から高速のフローが発生していることをつきとめた。

1 天文単位(1 au)の距離でみると、高速太陽風の密度は低速太陽風に比べ30%程度と低いが、温度は高速太陽風のほうが一桁近く高温となっており、高速太陽風では惑星間空間を伝播する間もプラズマ温度を上昇させる加熱が続いていることがわかる。高速太陽風が根付いているコロナの下部の温度は低速太陽風よりも低く、下部境界条件の温度だけでその高速太陽風の最終速度まで加速することは難しい。このため高速太陽風では、惑星間空間で観測されるアルベーン波などの磁気流体波による追加速が必要であると考えられている。

大型非球面主鏡をセグメントと呼ばれる分割した部分鏡として製作し、これらを組み合わせて、全体として1枚の鏡として機能するように(回折限界像が得られるように)する方式。大型の鏡を安価で製作することができるが、形状の異なる非球面のセグメント部分鏡の製作、及びセグメント間の段差を使用する光の波長の8分の1以下に合わせる必要があり、高度な測定研磨技術と高精度の位置調整機構が必須となる。分割鏡望遠鏡も参照。

口径8-10mクラスの巨大望遠鏡に用いられている望遠鏡のタイプの一つで、主鏡に分割鏡を用いたもの。1993年にハワイ島マウナケア山頂に建設されたケック望遠鏡で初めて採用され、以来口径10mクラスの望遠鏡のほとんどが分割鏡望遠鏡として建設されている。巨大望遠鏡の他のタイプとして軽量強固な中空鏡(ハニカム鏡)を用いたものと、像質を理想状態に保つことのできる薄い鏡(メニスカス鏡)を用いたものがあるが、分割鏡望遠鏡はさらに口径を大きくするために最も応用しやすい技術であるため、次世代のいくつかの超大型望遠鏡計画も分割鏡望遠鏡を中心に進められている。

太陽の放射する電波の放射エネルギー流束(エネルギーフラックス)を測る際の単位で、
1 SFU = 10-22 W m-2 Hz-1
に相当する。たとえば、静穏時の太陽の17 GHz帯でのフラックスは約600 SFUである。

漸近巨星分枝星にみられる暴走的なヘリウムの殻燃焼。熱パルスともいう。漸近巨星分枝星では炭素と酸素の縮退コアの周囲にヘリウム層が形成され、そのさらに外側の水素殻燃焼の結果としてヘリウム層の質量は次第に増加する。このヘリウム層が燃焼を始めると、層の幾何学的薄さのために熱的に不安定となり、ヘリウム殻フラッシュを起こす。このフラッシュは対流の発生とヘリウム量の減少によって収束に向かうが、熱パルスは漸近巨星分枝段階で繰り返し起こる。

水星金星が地球から見て太陽の前を通過し太陽を部分的に隠す現象のこと。日面経過とも呼ぶ。太陽系外惑星の探査法の一つであるトランジット法は、まさに太陽以外の恒星に対して起きるこの現象をとらえる手法である。掩蔽(えんぺい)も参照。

金星の太陽面通過 2012年6月6日(SDO/NASA)
https://www.youtube.com/watch?v=4Z9rM8ChTjY

星の内部で対流によってエネルギーを輸送する領域のことを対流層という。 星は中心から表面に向けて温度が下がり、エネルギーは中心から外へと伝わる。エネルギーの伝わり方には、放射、伝導、対流という方法があるが、通常の星の内部では伝導は非効率で、おもに放射または対流でエネルギーは外へ向けて輸送される。この2つの過程のどちらが優勢となるかは星内部の温度勾配が決めていて、太陽程度の質量の星では、温度勾配が緩やかな内側では放射によるエネルギー輸送が、またその外側では温度勾配がある条件以上に大きくなると対流不安定が起こり、対流によるエネルギー輸送が行われる。この対流によりエネルギー輸送が行われている領域が対流層である。太陽の場合、日震学の手法によって内部温度が測定されており、放射でエネルギーを輸送する放射層と対流層との境界は、 太陽半径を $R_{\odot}$ としたときに 0.715$R_{\odot}$ となっている。

天体からの光(電磁波)を分光することにより、波長ごとのエネルギー分布であるスペクトルを測定する装置。スペクトルから天体の組成や物理状態や運動を調べることができる。大きく分散型と非分散型に分けられる。
分散型分光器の基本構成は入射スリット、コリメータ、分散素子、カメラ、検出器である。まず、望遠鏡焦点面に置いた入射スリットによって入射光を細長い領域に限る。スリットから広がって行く光をコリメータ(レンズやミラー)によって平行光にした後、分散素子によって波長ごとに進行方向を異なる方向に曲げる(分散)。分散された光をカメラによって結像させると、波長ごとに異なる位置に焦点を結び、スペクトルを得る。分散素子としてプリズムを用いるものはプリズム分光器、回折格子(グレーティング)を用いるものはグレーティング分光器という。また、グレーティング分光器の一種として主に高波長分解能の分光器として用いるエシェル分光器がある。
非分散型の分光器としてはフーリエ分光器ファブリー-ペロー分光器などがある。

2008年6月にアメリカ航空宇宙局(NASA)によって打ち上げられ、2019年現在も観測を続けているガンマ線天文衛星。フェルミ(E. Fermi)の名を冠して呼ばれるが、打ち上げ前はGLAST(Gamma-ray Large Area Space Telescope)と呼ばれていた。Large Area Telescope(LAT)とGamma-ray Burst Monitor (GBM) の2つの検出器を搭載している。前者はシリコンストリップ検出器を用い、ガンマ線電子-陽電子 対生成反応で検出するもので、30 MeVから300 GeVのエネルギー範囲と2 ステラジアンを超える立体角を持ち、明るい天体では場所を1分角の角分解能で決定できる。2015年に発表した第3カタログには3033個のガンマ線天体が載せられている。後者は8 keVから30 MeVのエネルギー範囲でガンマ線バーストを全天からとらえることができる。2019年5月現在も観測を続けている。
ホームページ:https://fermi.gsfc.nasa.gov/