天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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子午線通過

天体が子午線を通過する現象あるいはその時刻のこと。とくに天頂より南側で子午線を通過する場合を南中という。天頂より北側で子午線を東から西に通過する場合を上方通過、西から東に通過する場合を下方通過という。

時角Hとは、子午線を基準に、天の赤道に沿って東から西向きに天体まで測った角距離。 すなわち、その天体が南中してからの経過時間と言ってもよく、時角Hが0のときに天体は南中する。グリニッジ恒星時Θ、観測地点の経度λ、天体の赤経αから、H=Θ+λ-αのようにして求めることができる。

時角Hを用いると、地平座標系 (A,h) と赤道座標系 (α, δ) の関係は以下のように書ける。

cos h sin A = -cos δ sin H
cos h cos A = cos φ sin δ - sin φ cos δ cos H
sin h = sin φ sin δ + cos φ cos δ cos H

ここでφは観測地点の緯度である。

ガラスなどの光を透過する薄板の表面に、一方の端からもう一方の端に向かって一定の割合で光の透過率が変わるような処理をした光学素子。これを写真乾板や写真フィルムの前に置いて一様な光で露光し現像すると、露光量の変化に伴って写真濃度(黒み)がどのように変化するかがわかり、特性曲線を描くことができる。
光学くさびは濃度を階段状に変えてあることが多く、そのような素子は階段くさび(step wedge)と呼ばれる。階段くさびには非透過型のものもある。これは、階段状に濃度を変えて焼きつけた印画紙であると考えれば良く、焼きつけた写真(ポジ写真)と比較して、適切な焼き付け濃度であるかどうかを判定するために用いる。
特性曲線を作る別の方式で、写真乾板上に照度の異なる円形スポットの列を露光させるチューブセンシトメータと呼ばれる装置がある。これはチューブの出口と入り口の大きさを変えることで照度を変える仕組みである。
いずれにせよ、これらを用いて焼き付けられたくさびやスポット列は、その写真乾板の特性曲線を作るのに必須であり、天体写真測光に使うほとんどの写真乾板に見られる。アイリスフォトメータで星の明るさ(等級)を測定する場合には必ずしも必要ではない。
一方、くさび型プリズム(optical wedge prism)のことを光学くさびと呼ぶこともある。くさび型プリズムは、頂角が非常に小さい薄型プリズムである。頂角が小さく薄型のため、入射光はほとんど色分散せずにプリズムの厚い方に屈折する。この性質を利用して、ある特定の方向に光線を曲げる用途に主に用いられる。シュミット望遠鏡では「サブビームプリズム」と呼び、星のすぐそばに等級差が既知の暗い星像をペアで写し込み、星の等級測定のダイナミックレンジを広げるために利用された。

地心から見た、瞬時の真赤道と真春分点により定義された座標系における天体の位置。位置は視赤経と視赤緯により表現する。視位置を計算する際には、光差、年周視差年周光行差などを考慮している。光差とは光が天体を発してから地球にたどり着くまでの時間差である。一般相対性理論によれば重力場は光を曲げる効果を示すので、これも考慮している。

二十四節気以外に、旧暦で季節の節目を知るために設けられた日。農作業の目安となるようなものが多い。土用(季節毎に4日)、彼岸(春と秋の2日)、節分、八十八夜、入梅、半夏生、および二百十日である。

アインシュタイン(A. Einstein)の特殊相対性理論によれば、ニュートン力学のような絶対的な時間は存在せず、時間と空間を一緒にして4次元の時空間として考えなければならない。このように、時間も1つの座標としてとらえて定義した時刻を座標時と呼ぶ。
実際にこのような枠組みで定義された座標系には、太陽系重心を原点とした太陽系準拠系(BCRS)、地球重心を原点とした地球準拠系(GCRS)があり、両者は一般相対性理論に基づく変換により結び付けられている。とくに、太陽系準拠系における時刻を太陽系座標時(TCB)、地心準拠系における時刻を地心座標時(TCG)と呼ぶ。
似たような時刻系に力学時がある。太陽系力学時と地心力学時は座標系が異なるので歩度(進み具合)も異なるはずであるが同じ1秒を採用している。このため力学時で表現すると太陽系準拠系と地心準拠系で長さのスケールが異なることになり、結果的に天文定数が定数でなくなるなどの問題が生じる。したがって、現在では力学時よりも座標時の使用が推奨されている。天文定数系も参照。

水星金星のような内惑星地球よりも内側の軌道を公転しているので、太陽の方向から大きく離れることがない。最も太陽から離れる、すなわち、太陽と内惑星との地心真角距離が最大となる瞬間を最大離角と呼ぶ。地球から見て内惑星が太陽の東側にあるときを東方最大離角、西側にあるときを西方最大離角と呼ぶ。東方最大離角のころは夕方西の空に、西方最大離角のころは明け方東の空にあり、内惑星観望の好機となる。なかでも金星は、最大離角時には太陽から大きく離れ、明るく見つけやすいこともあり、宵の明星明けの明星などと呼ばれて古くから親しまれている。内合、外合も参照。

月と太陽の見かけの黄経が等しくなった瞬間、つまり東西方向に関して同じ方向に見える瞬間を朔という。そのとき月は新月となるので、新月のことを朔という。これに対して、太陽の位置から黄経で180度離れた方向に月が来る瞬間を望という。このとき月は満月となるので、満月のことを望という。朔望月月の位相も参照。

朔(新月)から次の朔(新月)までのように、月の満ち欠け(月の位相)が一周する周期。地球と月の公転が楕円運動であるため。この周期は年間を通してわずかに変化する。そこで、年間を通じた平均を朔望月とする。その長さは29.530589日である。
地球が太陽の周りを公転しているために、朔望月は、無限遠にあると考えてよい恒星に対する月の公転周期(恒星月、27.321662日)より長い。太陰暦の1か月は平均として朔望月に近づくように, 29日と30日の月を織り交ぜて、12か月で354日となっている。うるう月暦(れき)も参照。

暦(れき)を参照。

原子時計によって定義されている高精度で安定した時刻のこと。フランス語の頭文字をとってTAIと呼ばれることが多い。国際度量衡局(BIPM)において、世界70か国以上に設置されている約500個の原子時計の時刻の刻みの平均をとることによって決められている時刻であり、連続的に一様に流れている時刻となっている。日常で使っている時刻は協定世界時(UTC)であるが、これは地球回転に準拠しているため、ときどきうるう秒によって補正を行っている。TAIとUTCは整数秒の差となっており、2021年7月時点で、TAIはUTCに比べて37秒進んでいる。国際原子時の1秒(原子秒)の定義は国際単位系(SI)も参照。

原子時計で決められている1秒のこと。セシウム133原子の基底状態の2つの超微細準位間の遷移に対応する放射の9192631770周期の継続時間である。国際単位系の1秒の定義でもある。

地球上で時刻と日付の対応が混乱することを防ぐために、ほぼ経度180度(=東経180度=西経180度)の線に沿って海洋上に仮想的に引かれた線。単に日付変更線ともいう。この線を西から東に越えるときは日付を1日遅らせ、逆に東から西に越えるときは1日進める。同じ国の中で日にちが異なることを避けるため、この線は、島国のあたりでは複雑な形となる。

宇宙に対するある観測量が宇宙全体の平均値からずれていること、あるいはそのずれの大きさ。宇宙は一つしか観測できないため、宇宙の大構造を特徴づけようとすると十分な統計精度を確保することができなくなる。このために観測によって得られた量が宇宙全体の平均値からずれてしまっている可能性を排除できない。これは観測誤差となり、原理的に観測だけから補正する方法がない。

宇宙モデルによる理論的な観測量の予言は、宇宙全体の平均量として与えられるため、観測と理論の比較に限界が生じることになる。一方、小構造は宇宙のあちらこちらに多数見つけることができるために、十分な数をもって統計的な解析を行うことができる。したがってコスミックバリアンスの影響は宇宙論的な大構造の解析に対して顕著になる。たとえば、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)のスペクトル解析において、大角度モードに対応する温度ゆらぎの誤差はコスミックバリアンスが支配的である。これは大角度スケールのゆらぎに十分なモード数が含まれていないためであり、観測の精度をいくら上げても原理的に減らすことができない誤差となっている。

天球上で、黄道を中心とした、惑星(太陽と月などを含む)が運行する帯状の領域(獣帯: zodiac)を黄経にしたがって等分割した12の「サイン(sign)」の総称。サインは「宮」とも呼ばれていたのでこの名がある。占星術に登場する概念である。これに対して、黄道十二星座は、プトレマイオス(Ptolemaeus)によって分類された黄道に沿う星座で、おひつじ座、おうし座、ふたご座、かに座、しし座、おとめ座、てんびん座、さそり座、いて座、やぎ座、みずがめ座、うお座の十二星座である。これらの星座はほぼ黄道十二宮に対応しているが、両者の境界は厳密には一致していない。

春分点時角のことで、子午線に対する春分点の方向、あるいは春分点を基準とした地球自転量と考えてもよい。恒星時は15°を1時間の割合で換算して時分秒の単位で表す。つまり、恒星時とは春分点が子午線を通過してからの時間と考えることもできる。 とくに本初子午線を基準とする場合をグリニッジ恒星時、任意の子午線の場合を地方恒星時と呼んでいる。それぞれΘGΘとすると、 Θ=ΘG + λとなる。ここで経度をλ(東経を+、西経を-)とした。 また、歳差までを考慮した場合は平均恒星時、章動まで考慮した場合は視恒星時と呼ぶ。それぞれMST、ASTとすると、AST = MST + ⊿φ cosε + 周期項 のように書くことができる。ここで⊿φεは黄経方向における章動と黄道傾斜角を表す。

恒星に対して地球太陽の周りを1公転する周期のこと。天球上において、太陽が恒星に対して黄道を一周する周期といってもよい。365.25636日である。これに対して、春分点を基準として太陽が黄道を一周する周期が太陽年(365.24219日)であり、恒星年は太陽年より20分24秒ほど長い。これは、春分点の位置が歳差のため変化していることによる。
たとえば、二体問題として地球の公転周期を論じる場合には恒星年を、季節を論じる場合には太陽年を用いる、というような使い分けをする。

可干渉性を参照。

恒星日とは恒星時0時から次の恒星時0時までの時間のこと、すなわち、春分点南中してから次の南中までの時間である。春分点そのものも歳差章動により変動するが、1日における変動量は十分小さいので、地球恒星に対して360°自転する周期と考えてもよい。
地球が1回自転する間にも、地球は公転によって約1°移動している。したがって太陽に対して1回転、すなわち太陽が南中してからふたたび南中する(1太陽日)ためには、その分360°よりも余計に自転しなければならない。このため、1恒星日は1太陽日よりも4分ほど短く、23時間56分4.0905秒となる。 この結果、恒星の南中時刻は1日あたり4分ほどずつ早くなり、同じ時間に見える星座が変化していく。

薄明を参照。