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特性曲線(写真の)

 

よみ方

とくせいきょくせん(しゃしんの)

英 語

characteristic curve

説 明

白黒写真の濃度(黒み)が入射された光の露光量に対してどのように変化するかを示す曲線。写真の入出力関係を表す曲線である。19世紀末ころにイギリスでこの研究をしたハーター(Ferdinand Hurter)とドリフィールド(Vero C. Driffield)の名前からH-D曲線などとも呼ばれる。
写真濃度Dは現像された写真乾板(やフィルム)の透過率(=透過光強度/入射光強度)をTとして
D = -log10T
で定義される。透過光を図1の a のように数度以内の受光角(実際は立体角)で測定したときの濃度を平行光濃度、cのように立体角360度で測定した時の濃度を拡散光濃度と呼ぶ。天体写真測光では多くの場合(準)平行光濃度が用いられた。濃度は対数なので、D=1はT=0.1, D=3でT=0.001なので、D=4以上の測定は透過光が弱く簡単ではない。
一方、露光量 E は乳剤に照射した光の照度 I と露光時間 t の積として
E = I × t
で定義される。特性曲線は縦軸をD、横軸をlog10Eで表す。
典型的な特性曲線は図2に示す形をしており、いくつかの量でその振る舞いが記述される。図のA点より左では濃度は一定で、露光されていない状態の濃度に対応し「カブリ濃度(fog)」と呼ばれる。露光量が増すにつれてゆっくり濃度が上がるA点からB点にかけては特性曲線の「足(toe)」と呼ばれる。B点とC点の間は「直線部」と呼ばれ、濃度は露光量に対数に比例する。この部分の傾き
γ = d D/d (log10E
は「ガンマ」と呼ばれ階調の度合を決める重要な量である。ガンマが大きいほど高調、小さいほど軟調と表現される。ガンマは写真乳剤や現像液の種類、現像時間や現像温度などなどで変化する。直線部(D~0.5ー2)が写真乾板のダイナミックレンジと考えて良い。次第に濃度の増加が鈍ってくるC点からD点の間は「肩(shoulder)と呼ばれる。D点はその乾板の最高濃度(Dmax;飽和濃度ともいう)で、これ以降は露光量が増えても濃度は増えない。さらに露光量が極端に増えると濃度が低下するソラリゼーションという現象が起きる(図には描かれていない)。「感度」は、横軸に対して特性曲線がどの位置にあるかで決まる。左にあるほど感度が高く、右にあるほど感度が高い。例えば図のように、カブリ濃度から一定量ΔDだけ高い濃度を与える露光量E0の逆数を取るなどすれば感度を数値化することができる。
特性曲線は、ある写真乳剤に固有のものではない。乳剤が違えば当然特性曲線は違うが、そのほかにも、
(1) 現像液の組成と濃度、
(2) 現像時間、現像液温度、攪拌の程度
(3) 露光した光のエネルギー分布や偏光性
(4) 露光の仕方(相反則不軌を参照)
(5) 測定機の構造
などに影響される。従って、特性曲線、すなわち写真の入力ー出力関係は厳密には写真乾板1枚毎に異なる。天体写真測光で注意しなければならない点はこのことに起因するものが多い。
隣接効果エバーハート効果も参照。

2022年01月24日更新

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    図1 写真乳剤粒子による入射光の散乱と写真濃度
    出典 岡村定矩 「天体写真測光」現代天文学講座11巻『宇宙の観測Ⅰ』(恒星社)1981年
    図2 特性曲線。露光量の単位MCSはメートル・カンデラ・秒である。
    出典 岡村定矩 「天体写真測光」現代天文学講座11巻『宇宙の観測Ⅰ』(恒星社)1981年