天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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質量ゆらぎ

宇宙の大規模構造における質量ゆらぎとは、ある大きさの体積に含まれる質量が場所ごとにゆらいでいることを表す。ある固定した半径の球を宇宙の至るところに考え、その中に含まれる質量の分散を用いて定量化される。質量ゆらぎの分散とそのスケール依存性は、密度ゆらぎのパワースペクトルにより一意的に決まる。宇宙のハッブル半径は時々刻々と大きくなっていくが、各時刻でのハッブル半径に対応する質量ゆらぎはほぼ一定の値である。これはパワースペクトルがハリソン-ゼルドビッチ型に近いことを意味し、インフレーション理論ではこの性質が自然に導かれる(ハリソン-ゼルドビッチスペクトルを参照)。また、半径8h-1 Mpc の球に対する質量ゆらぎの分散の平方根σ8 は、宇宙の密度ゆらぎの全体的な振幅を表すのによく用いられている。銀河の数密度のゆらぎが質量ゆらぎを表していると仮定すれば、σ8 はほぼ1になる。だが、宇宙の質量の大半はダークマターによって担われているため、銀河の数密度分布と質量の密度分布は必ずしも一致しない。観測的に得られるσ8の値は0.8程度である。

時間発展型の偏微分方程式の数値解析において発生する非物理的な不安定の総称。数値不安定が発生すると数値計算が破綻してしまう。シミュレーションを遂行するためには数値不安定を抑える必要がある。数値不安定にはさまざまな原因があり、原因に応じて対処しなければならない。人工粘性線形安定性も参照。

キャリントン(Richard Christopher Carrington;1826-75)はイギリスのアマチュア天文学者。チェルシーの裕福なビール醸造業者の次男として生まれ、1858年に家業を継いでいる。1849年ケンブリッジ大学トリニティカレッジ卒業。1849年、ダーラム大学天文台などに勤務した後、私設天文台を作り北極周辺の星のカタログを手掛け、1857年に出版した。1853-61年に長期的な太陽黒点の観測を行い、太陽表面が差動回転していることや、黒点の出現場所に中緯度から赤道に向かうパターンがあること(シュペーラーの法則)を見出し、太陽の自転軸の方向を精密に決定した(1863年出版)。
1859年9月1日、過去 200年のうち最も大きなオーロラが出現し、北極から地球全体の2/3まで広がり、キューバからも見えたほどであった。この直前に太陽面に白色フレアが発生、キャリントンはこれを観測、スケッチを残し、巨大オーロラはこのフレアと関係していると考えた。この現象は後にキャリントン・イベントと呼ばれるようになった。
1859年、王立天文学会のゴールドメダルを受賞している。

 

参考:

https://web.archive.org/web/20060221112707/http://www.hao.ucar.edu/Public/education/bios/carrington.html

異なる二つの地点から見た天体の位置(方向)の差。二つの地点が地球中心と地表の観測地の場合は地心視差あるいは地平視差、太陽と地球の場合は年周視差あるいは三角視差と呼ばれる。これらは三角測量の要領で距離r と関係付けることができ、まとめて幾何学的視差と呼ぶこともある。視差をp とすると、sin p = a/r となる。ただし、aは地平視差の場合は地球半径、年周視差の場合は1天文単位(au)となる。
年周視差は宇宙の距離測定において重要な役割を果たす。年周視差が1秒角になる距離が1パーセク(2.0626x105 au)である。また、天文学では、星の距離を求める手法を一般的に「視差」と呼ぶ慣習があり、力学視差分光視差統計視差などの用語がある。

相対性理論において不可分の時間と空間を指す言葉。ニュートン力学においては時間と空間はまったく別の概念として存在し、空間上の2点間の距離はいかなる座標系で見ても不変である。しかし、アインシュタイン(A. Einstein)の相対性理論においては、時間と空間はローレンツ変換によって互いに結びつき、空間上の2点間の距離も座標系によって異なる値を取る。特殊相対性理論で座標系によらずに同じ値を取るのは、時間間隔の2乗から空間距離の2乗を引いた時空間隔と呼ばれる量である。このように、相対性理論においては時間と空間は不可分であり、これを合わせて時空と呼ぶ。

平行光線を作る装置。さらには一般に細い粒子ビームをつくる装置を指す。``細い''には平行度が高いという意味と、ビームの断面積が小さいという意味がある。集光の難しい硬X線ガンマ線の検出器では、検出器の前に穴の開いた板や筒状の構造をコリメータとして設置し、穴に平行なX線やガンマ線のみを通過させ、斜めに入射するものを遮断して、検出器の視野を制限し、周囲の天体からの信号の混入を減らすことができる。すだれコリメータも参照。

遠方宇宙からやってくる光は、宇宙膨張によって赤方偏移して観測される。一様等方宇宙では赤方偏移と距離の関係が1対1であるが、実際の非一様宇宙では必ずしもそうではない。特に重力ポテンシャルの時間的空間的変化によって生じる赤方偏移への影響をザックス-ボルフェ効果と呼ぶ。
ザックス-ボルフェ効果(SW効果)には2種類ある。通常ザックス-ボルフェ効果と呼ばれるものは光の放出場所における重力ポテンシャルの値と、観測地点における重力ポテンシャルの値の差によって生じる効果である。同じ距離からやってくる光でも観測地点に比べて重力ポテンシャルの低い場所からやってくる光は、そうでない光に比べて相対的に赤方偏移が大きくなる。もう1種類は、光の伝播途中での重力ポテンシャルによって生じる効果で、積分ザックス-ボルフェ効果(ISW効果)と呼ぶ。これは重力ポテンシャルが時間変化している場合にのみ効果を及ぼす。なぜなら、時間的に一定の重力ポテンシャルの山、あるいは谷を光が通過すると、赤方偏移の効果と青方偏移の効果がちょうど打ち消し合ってしまうからである。
ザックス-ボルフェ効果が顕著に現れるのは、宇宙マイクロ波背景放射温度ゆらぎの観測においてである。大角度に対応する温度ゆらぎは、通常のザックス-ボルフェ効果によって支配されている。加速宇宙では、積分ザックス-ボルフェ効果も小角度に対応する温度ゆらぎに一定の寄与をしている。ただし小角度になればなるほど、他の要因による温度ゆらぎも大きくなっている。

黄道上で太陽の黄経(黄道座標系を参照)が0度になる、すなわち太陽が春分点にある時刻。二十四節気の一つである。3月21日頃。春分の日には、太陽は真東から昇り真西に沈み、昼と夜の長さがほぼ等しくなる。二至二分も参照。

バリオン数ゼロの状態から、正味のバリオン数(バリオン数から反バリオン数を引いたもの)を生成するために必要な条件のこと。
1. バリオン数を破る反応、つまり、前後でバリオン数が変化するような反応が存在すること。
2. 荷電変換(C)、荷電・パリティ変換(CP)不変性が破れること。
3. 熱平衡状態からのズレがあること。
これらの3つの条件のことをサハロフの3条件という。
1. が必要なのは自明である。
2. は、バリオン数を持った状態はC変換、CP変換によってバリオン数の符号が変わるため、これらに対して不変ではない。このため不変性が破れることが必要になる。
3. は、CPT不変性より、粒子と反粒子は同じ質量を持つので、完全な熱平衡状態のもとでは、これらは等量存在することになり、正味バリオン数を持った状態にはならないからである。

天の赤道黄道の交点の一つ。天の赤道を基準に考えれば、太陽が南から北へ移る点である。春分点は赤道座標系黄道座標系の原点になっており、歳差まで考慮した春分点を平均春分点、章動までを考慮した春分点を真春分点と呼んでいる。春分点の記号には Υ を用いることが多い。太陽年恒星日の基準としても使われる。

宇宙の初期には温度が高かったため、ほぼすべての原子は電離している。原子核と電子は結合してもすぐに高エネルギーの光子により分解されてしまうからである。宇宙膨張により宇宙の温度が低下すると、高エネルギーを持つ光子の数が減り、原子核と電子が結合して中性原子がつくられるようになる。このように原子の中性化が起きる時期のことを再結合期という。宇宙初期の元素は水素原子が大半を占めている。そこで宇宙の再結合期とは水素の中性化が起きる時期を指すことが多い。ただし再結合期の宇宙の温度は 3500 K 程度であり、水素のイオン化エネルギーに対応する13.6 eV 1.6×105 Kよりもずっと低い。この理由は、原子数よりも光子数の方がはるかに多いため、平均エネルギーよりもはるかに高いエネルギーを持つ光子の数が無視できないからである。再結合期の後は宇宙にある自由電子の数が急激に減少するため、それまで自由電子と散乱していた光子が直進できるようになる。これを光子の脱結合、あるいは宇宙の晴れ上がりと呼ぶ。脱結合した光子は宇宙膨張による赤方偏移でエネルギーを減らしつつも、そのままわれわれのところまで届いて宇宙マイクロ波背景放射として観測される。

初期宇宙は高温高密度のプラズマ状態にあった。そのため光子は電子とトムソン散乱を繰り返し、物質と熱平衡状態にあった。温度の低下とともに、ビッグバン後約38万年(赤方偏移zが約1090の頃)に水素原子と電子が結合し、光子と物質は脱結合し、それ以降光子は物質と散乱することなく、まっすぐ飛ぶようになった(宇宙の晴れ上がり)。電子との最後の散乱が起こったこの赤方偏移の位置を観測者から見た面が最終散乱面である。最終散乱面は赤方偏移にして ⊿z~200 程度の厚みをもつ。

相対性理論においては2事象間の固有距離とは、その2事象が同時刻になる座標系における空間的距離。
宇宙論的な場合には、この量は測定可能ではないので、直接の観測量である見かけの明るさや大きさから定義された、光度距離角径距離が用いられる。

日食時以外に太陽のコロナを観測するために考案された観測装置で、焦点面に明るい太陽を遮る円盤を置いてすぐ近くの暗いコロナの観測を可能にする。位置には太陽の回折光や散乱光を遮る絞り(リオストップ)を設置して太陽光の減光率を高める。同様の原理で、明るい天体(恒星)の周りの暗い天体(伴星や太陽系外惑星原始惑星系円盤など)の検出を目的とするステラーコロナグラフもある。これも単にコロナグラフと呼ばれることも多い。ナル干渉計も参照。

ある天体から見た2天体の黄経または赤経の差が180°となるときを指す。地球中心から見た外惑星の方向が太陽からちょうど180°ずれた方向にあるときに使われることが多い。とくに、太陽との衝は望あるいは満月と呼ばれる(朔望も参照)。
外惑星はこのころ、最も地球に近づき、明るくなる。また、真夜中ごろに南中し、ほぼ一晩中見えるため観望の好機となる。なお、火星の軌道はかなり離心率の大きい楕円軌道であり、接近するときの軌道上の位置によって地球-火星間の距離は大きく変化し、大接近や小接近などと呼ばれている。内惑星が衝になることはない。望の特殊ケースとして月が地球の影に入り込む現象を月食と呼ぶ。最大離角も参照。

インフレーション宇宙論では、ハッブル長を超えたスケールは独立に進化するため、量子ゆらぎが大きな振幅を持つとインフレーションにより、巨視的な大きさとなった宇宙の一部が、またインフレーションを起こしもとの宇宙とは独立に進化を始め、因果関係が切れる。宇宙のこのような部分を子供宇宙、孫宇宙, ...という。因果関係をもたないこれらの宇宙を並行宇宙(parallel universe)ということもある。

見かけの光度に基づいて遠方天体の距離を表す量。 宇宙膨張や空間の曲率の効果が無視できないほど遠方では光度距離と角径距離という2つの異なる距離を使い分ける必要が出てくる。光度距離 dLは、dL2=L/4πf によって定義される。 ここで、L は絶対光度、f は観測されるフラックス(放射エネルギー流束)である。 天体までの座標距離を r とすると、dL=a0r(1+z) で与えられる。ここで、 z はその天体の赤方偏移a0宇宙のスケール因子の現在の値である。 角径距離 dA との間には、dL=(1+z)2dA の関係がある。
膨張宇宙で遠方の天体までの距離を測る場合、光が届く間にも宇宙は膨張していることに注意が必要である。光度距離と赤方偏移の対応については有用な諸データの表9を参照。
表9 https://astro-dic.jp/redshift-age-distance/

原子核は陽子と中性子の集合体であるが、これらは必ずしもすべてが安定ではない。
不安定核が安定な核種になる過程には以下のものがある。

1.原子核中の中性子が電子と反電子ニュートリノを放出して陽子になる(ベータ崩壊
2.原子核中の陽子が陽電子と電子ニュートリノを放出して中性子になる(逆ベータ崩壊)
3.ヘリウムの原子核を放出してより軽い原子核となる(アルファ崩壊)
4.ヘリウムより大きな原子核を放出して軽い原子核になる。

通常は、4. の崩壊を指して核分裂と呼ぶことが多い。
たとえば、ウラン235は主として質量数が140と90付近の2つの原子核に核分裂する。
そのときに発生するエネルギーが原子力発電で用いられる。核図表も参照。

宇宙論的赤方偏移を、その天体がわれわれから遠ざかる相対運動によって生じたものであると解釈して計算した速度。宇宙論的赤方偏移は宇宙膨張による空間の伸びが原因であり、相対運動による解釈は便宜上のものである。

あまり遠くにない銀河については、銀河の後退速度 v と距離 r との間にハッブル-ルメートルの法則と呼ばれる比例関係 v=H0r が良い近似で成り立つ。この比例定数 H0ハッブル定数と呼ばれる。ただし、アンドロメダ銀河のような局所銀河群の銀河では、天の川銀河銀河系)との間の万有引力が強いため、後退速度は負(マイナス、すなわち銀河系に接近している)のことがある。近年では後退速度よりは、正負どちらも表現できるより一般的な概念である視線速度が用いられることが多い。

月の位相を参照。