天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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自己相関

時系列信号に対して、自分自身との相関のことを指す。相関および自己相関関数を参照。

同一信号に対する相関関数。共通する1つの変数t にしたがって変動する信号に対して、t が異なると元の値からどの程度異なる値となるかを統計的に示す。対象とする信号が定常確率過程の場合、その自己相関関数は信号のパワースペクトルのフーリエ変換になる。これをウィーナー・ヒンチンの定理という。 相互相関関数相関関数相関も参照。

流体力学などに現れる連続体の時間発展を記述する偏微分方程式の解のうち、時々刻々の空間的形状が相似的な形を示す解(の種類)のことを指す。時間を t とし、空間変数を x と表す場合、t の適当な関数 f(t) でスケール変換される空間座標  s = x f(t) を用いて、たとえば流体の密度 ρ(t,x) がρ(t,x)=T(t)S(s)というような形で表されることになる。半解析的に解の振る舞いを理解する手助けとなるため、理論的研究において有益な解である。
自己重力系の進化において現れる逃走的収縮現象はこの形の解でよく近似されることが知られている。これは重力の法則が特徴的な長さを持たないべき則であることと深く関わっている。したがって、自己重力系を理解する上で自己相似解が有用となることは多い。

差動回転する磁化プラズマ中の不安定性であり、回転軸に対して微小変動を受けた内側と外側のプラズマの角運動量が、プラズマを貫く磁力線を介して交換されることにより成長する。この不安定性は、1959年にベリコフ(E.P. Velikov)、1961年にチャンドラセカール(S. Chandrasekhar)によって議論されていたが、1991年になってバルバス(S.A. Balbus)とホーリー(J.F. Hawley)が、回転重力系の中心天体に向かってガスが落下する際に形成される降着円盤の角運動量輸送を担う機構として重要であることを再発見した。バルバスとホーリーによる再発見以前は、ケプラー運動で回転するガスでは、流体の速度シアーによって不安定になり粘性が発生して角運動量を輸送するのではと考えられていたが、現在は、磁場さえあれば不安定になる磁気回転不安定性(MRI)が降着円盤形成の重要な要素と考えられるようになってきた。

磁場中で熱運動をする電子の、磁力線周りのラーモア運動によって発生する放射。太陽黒点の暗部では数千ガウスの磁場のため、サイクロトロン周波数をもつこの放射(またはその高調波)はマイクロ波帯で検出される周波数となる。黒点暗部の観測のための重要な手段のひとつである。

スイッチング観測の1つで、電波輝線観測でよく用いられる。他のスイッチング観測が天球上の位置の違いを用いるのに対して、周波数方向での違いを用いる。アンテナは目的天体の観測点(ON点)に向けたまま、分光器の帯域幅内に収まる2つの異なる周波数での観測を行い、両者の差をデータとする。観測周波数の切替は、ヘテロダイン受信機の場合、局部発振器の発振周波数を変えることで実現し、分光器の同じチャンネルに対応する受信信号周波数を一定値だけずらす。スペクトル線(輝線や吸収線)はドップラー効果による広がりを考えても、比較的狭い周波数範囲でのみ信号を出すと考えて良いので、切り替え周波数が大きければ、分光器からの出力の差は原理的にはスペクトル線によるもののみとなる。そこで、分光器出力を周波数範囲で二分すれば、それぞれの範囲でスペクトル線を検出できる。ただし、引き算側の出力は強度の正負が逆転して記録されているので、そちらの出力は分割後に強度の符号を反転する。これらを、測定時の周波数設定の違いを考慮して平均化したものを周波数スイッチの出力とする。

他のスイッチング観測に比べて、アンテナは常に天体からの信号を測定し続けているため観測の時間効率を高くできるほか、電気回路のみで切替ができるため高速切替が容易である。ただし、周波数設定が変わると受信システムの特性が大きく変動することがあり、多くの場合、引き算の後にも広い周波数範囲にわたって連続的に変化する成分が残ってしまう。スペクトル線が狭い周波数範囲でしか見られない場合には、これを周波数方向での変動の違いで分離できるが、幅の広いスペクトル線の観測は困難である。原理から容易にわかるように輝線でも吸収線でも利用できるが、連続波の測定には利用できない。

磁気双極子の振動による電磁波(光)の放出過程。電気双極子放射に比べ遷移確率が低く、磁気双極子放射による遷移禁制線となる。磁気双極子放射による遷移の典型的な寿命(つまりアインシュタイン係数Aの逆数)はおおよそ10-3秒である。これに対し、電気双極子放射および電気四重極放射による遷移の寿命はそれぞれ10-8秒および1秒である。

  1. 一般には周波数を測る基準となるもの。周波数の逆数は周期となり時間のの基準ともなる。現在の国際標準単位ではセシウム133(133Cs)が放つ超微細構造線の1つの周波数が9192631770Hzとなるように1秒を定義している。
  2. 天文学では、ヘテロダイン受信機で用いる局部発信器の周波数の基準のこと。ヘテロダイン受信機では、天体からの電磁波と局部発信器からの信号を混合して、その和や差となる周波数の信号を中間周波数信号として取得するが、前者の周波数が不安定だと同じ中間周波数に対応する天体からの信号が異なった周波数となるため不都合である。このため局部発信器の周波数を安定化させる機構と周波数標準が必要となる。また、干渉計ヘテロダイン受信機を用いる場合には、それぞれで用いる局部発信器信号の位相差が相関に影響を与えるため、これが不安定だと観測データの信頼性が低下する。位相が安定であることは周波数が高度に安定していることと同意なので、ここでは特に高い安定度を持つ周波数標準が必要となる。結合素子型干渉計の場合は共通の周波数標準を参照することで、周波数標準の位相差を一定に保つことができるが、超長基線電波干渉計(VLBI)では独立な周波数標準を用いざるを得ないので、一段と高い周波数安定性を持つ周波数標準が要求される。これには、現在、水素メーザー原子時計が使われている。

緑閃光を参照。

単一の磁荷を持つ仮説上の素粒子。モノポールともいう。ディラック(P.A.M. Dirac)は1931年、磁荷gが存在するならばcgsガウス単位系で $g=n\hbar c/2e$n は整数、c光速度e電気素量(素電荷)、 $\hbar=h/2\pi$ は換算プランク定数)という条件により磁荷が量子化されることを示した。素粒子相互作用の大統一理論では、統一スケールに近い超大質量の磁気単極子が安定解として予言されるため、多くの探索実験が行われたが、決定的な存在証拠は見つかっていない。インフレーション理論も参照。

プラズマ電磁流体)中に磁場があることによって生じる張力。磁気張力の効果により、磁力線が湾曲していると、それをまっすぐにするような方向に力を生じる。ローレンツ力のうち、非等方的な成分が磁気張力による力である。

感光材料であるハロゲン化銀(臭化銀AgBrやヨウ化銀AgIなど)の微小な結晶粒子をゼラチンの中に分散混入させたもの。感度を高める増感処理をした写真乳剤を支持体の表面に薄く塗ったものが写真材料となる。支持体がガラスのものを乾板、合成樹脂などのものをフィルム、紙のものを印画紙と呼ぶ。天文観測ではもっぱら写真乾板が使われた。ハロゲン化銀は約500 nmより長波長の光には感度がない。これより長い波長にも感度を持たせるためには、ハロゲン化銀に増感色素を付着させる。天体観測用にさまざまな写真乳剤が開発され1990年代まで広く使われた。最も広く使われたコダック社製の写真乳剤では、分光感度がO, J, G, D, E, F, N, Zのクラスに分類され、この順に感度の長波長端が赤い方まで伸びていた。この分光感度クラスとは別に乳剤粒子の細かさに相当する103a, IIa, IIIa, IVの分類記号があり、乳剤は103a-O, IIa-D, IIIa-J, IV-N のように二つを組み合わせて指定された。小文字のaはastronomicalを意味し、相反則不軌を改善した低照度用であることを示している。

プラズマ中にねじれた磁力線があるとき、ねじれた磁力線内にプラズマを閉じ込めておこう とするように働く力。磁力線方向に磁場が縮もうとする磁気張力に起因する。

光波面のゆらぎを測定するための装置。望遠鏡で参照星を観測するとき、入射瞳位置に置いたマイクロレンズアレイで入射光束を小開口に分割し、それぞれのレンズが結像する多数の参照星像の位置を測定する。大気のゆらぎで光波面が乱されると、参照星像の位置がその小開口を通過した光波面の傾きに比例して変動する。このため参照星像の位置の変動を測定するとその小開口部での光波面の傾斜(1次微分)ベクトルを測定することができる。波面の1次微分ベクトルの分布を測定できれば、波面全体のゆらぎ分布を求めることができる。一方、主鏡鏡面誤差など、望遠鏡光学系の誤差成分は変化しないか、変化しても大気変動より遅い。そのため、シャックハルトマンセンサーでの測定を多数回繰り返すと大気乱流によるランダム変動成分は平均化されて消える。こうして、光学系の誤差による光波面誤差を残留平均値の分布から推定することができる。ハルトマン検査も参照。

重力下のプラズマ中の磁束管の内外の密度差によって生ずる浮力を磁気浮力という。磁束管内部ではガス圧に加えて磁気圧が働くので、内部のガス圧は外部のガス圧よりも低くなっている。内外の温度が同程度なら、これは内部の密度が低いことを意味するので浮力が働く。パーカー不安定が起こる要因である。

強い相互作用におけるゲージ粒子であり、ゲージ SU(3) の八重項の表現に従う。質量はゼロであるが、量子色力学(QCD)におけるカラー閉じ込め機構により、単体で取り出すことはできない。

X線望遠鏡を参照。

ある領域内で磁場BとそのベクトルポテンシャルA (B=×A)に対して、ABを積分したものをその領域の磁気ヘリシティといい、磁力線の絡まり具合を表す。太陽コロナにおいては、ある領域での磁気ヘリシティの増加がその領域の磁気活動を活発化するという考え方があり、これを裏づける観測結果も出ている。

HR図上で、セファイドを含む脈動変光星が見られる帯状の領域。脈動不安定帯ともいう。この不安定帯を構成する変光星は、2階電離したヘリウムの層が大気の表面近くに位置するために大気が振動不安定になることによる。この不安定帯には、セファイド以外にも主系列星(たて座δ型星、矮星セファイド)、種族Ⅱ水平分枝星こと座RR型変光星)などの変光星がみられる。

磁場が生じる原因を考える際の基本的要素。磁極は必ずN極とS極とが対となっているため、電場を考える際の点電荷に対応する点状のN極やS極を単独の基本的要素として考えるよりも、同じ強さのN極とS極とが一定の距離を隔てて対になっているものが基本的要素と考える方が実用的である。そこで、一方の磁極の強さと両極の相対位置ベクトルとの積で定義されるベクトルを考え、これを磁気モーメントという。棒磁石をモデル化したものと考えるとわかりやすい。

一般に、磁気モーメントは環状電流によって生じるが、個々の素粒子もそれ自体が磁気モーメントを持つ。素粒子の磁気モーメントは、その素粒子自身が持つ固有の角運動量であるスピンに比例する。(スピンを自転になぞらえ、素粒子の磁気モーメントを自転に伴う環状電流で生じるとする説明を見かけるが、厳密には誤り。)陽子や中性子が結合した原子核も、それを構成する陽子や中性子のスピンをベクトル合成したスピンを持ち、それに対応する磁気モーメントがある。これを核スピンの磁気モーメントという。これに対して電子自体が持つ磁気モーメントを電子スピンの磁気モーメントという。原子核の周りを電子が運動する場合には、原子内で環状電流が生じることになり、その軌道角運動量に対応した磁気モーメントを生じる。原子や分子はこれらをすべてベクトル的に足し合わせた磁気モーメントを持ち、これらを全磁気モーメントと呼ぶことがある。これらの磁気モーメントはスピンや軌道角運動量が離散的な値を持つことに対応して、離散的な値となる。これら微視的な磁気モーメントは1つの原子や分子の内部で相互作用し、内部エネルギーの準位をわずかに変化させる。このため、磁気モーメントの効果がない場合に比べてわずかに異なった複数のエネルギー準位に分裂する。超微細構造が生じる原因の1つである。

スピン角運動量スピン-軌道相互作用スピン-スピン相互作用も参照。