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力の統一理論

自然界に働く四つの力を統一的に説明する理論。理論物理学の夢であるが、2017年時点では未完成である。現在の宇宙では、あらゆる物質は基本的な四つの力、すなわち、重力電磁気力弱い力強い力により運動していると考えられている。このうち弱い力と強い力は原子核内部でしか働かないので、それより大きな世界で働くのは重力と電磁気力である。これらの力はもともと一つの力であったものが、宇宙の温度が下がる過程で別々に分かれたものと考えられている。これらの四つの力を一つの理論で統一的に説明するものが力の統一理論である。
1967年にワインバーグ(S. Weinberg)とサラム(A. Salam)によって電磁気力と弱い力を統一する理論(電弱統一理論)が提唱され、その後の実験で弱い力を媒介する素粒子が予言通り発見されて電弱力の理論が確立した。電弱力と強い力を統一する大統一理論、さらには重力まですべての力を統一する量子重力理論が提唱されているが、まだ完成していない。

一様な外部電場をかけた場合に、原子のエネルギー準位が分裂して、電磁波をあてた際のスペクトル中の吸収線や輝線が移動したり、分裂してサテライト線が現れる現象のこと。
吸収線や輝線のエネルギーの変化量が電場強度に比例するときは1次のシュタルク効果、2乗、3乗に比例するときはそれぞれ2次のシュタルク効果、3次のシュタルク効果と呼ぶ。ゼーマン効果も参照。

シュテファン-ボルツマンの法則を参照。

系を特徴づけるパラメータのゆっくりとした変化に対して時間的に変化しない物理量。たとえば振動数が変化する振り子において、一定の振動数のときの周期に対して十分長い時間スケールで振動数が変化する場合、エネルギー E と振動数 ν(ニュー)の比 E/ν が断熱不変量となる。この量は位相空間における軌道の一周期で囲まれる面積に等しい。この面積は作用変数とも呼ばれる。一般の多重周期系においてもハミルトニアンの時間変化が十分緩やかである場合、作用変数は断熱不変量となる。

観測や測定の条件などの原因によって、 偶然によらず一定の傾向を持って真の値からずれてしまう誤差のことを指す。統計誤差(ランダム誤差)のように、測定回数を増やす、ないしはサンプルの数を増やすことで小さくすることはできない。系統誤差の原因を調べて取り除くことはすべての観測・測定において極めて重要である。
厳密な取り扱いでは、「真の値の推定値」と測定値のずれを「不確かさ」と呼び「真の値」と測定値のずれで定義される「誤差」と区別して取り扱う。物理量の測定では真の値は知られていないので、ほとんどの場合は「不確かさ」を扱うことになる。厳密には系統誤差は「タイプBの不確かさ」と呼ばれる。

物質中を進む荷電粒子は、原子核の電場により散乱(クーロン散乱)されて進行方向が曲げられる。(ハドロンの場合は強い相互作用による散乱も寄与する)。1回あたりに散乱される角度は小さいが、多数回散乱を受けることにより大きく曲げられることもある。これを多重散乱といい、モリエール(G. Moli`ere)の理論(1948)でよく記述される。

単位面積を通って、単位時間あたりに放出される黒体放射の全エネルギーIは温度Tの4乗に比例する、すなわち、 I(T) = σ T 4 となるという法則。この比例定数 σ をシュテファン-ボルツマン定数と呼ぶ。その値は σ=5.67×10-8 W m-2 K-4 である。
シュテファン-ボルツマンの法則は、プランクの法則から導かれる黒体放射の単位面積、単位時間、単位立体角あたりの放射エネルギー密度 u(T) を、放射面の前方に向かうあらゆる方向(立体角2$\pi$に渡って重みを付けて積分することで導かれる。

エベレット(H. Everett III)により提唱された量子力学の観測問題の解釈の一つ。コペンハーゲン解釈では、観測を行うと観測値に波動関数が収縮する、としているが、多世界解釈では観測者も系の一部であり量子力学的に振舞う、と解釈する。そして量子力学的に可能な状態の数だけたくさんの``世界''が存在するとし、観測を行って観測量が測定されるごとにそれらの多数の``世界''の中から一つの``世界''が選び出され、そのような選択の連続によって、観測者の属す量子力学的状態が進化していくと考えるのである。宇宙の波動関数のように、観測者が別に存在しない系を考えるときにはコペンハーゲン解釈は適用できず、多世界解釈が用いられる。

核種を参照。

1916年、ドイツの天文学者シュバルツシルト(K. Schwarzschild)によって求められたアインシュタイン方程式の球対称、かつ漸近的に平坦な厳密解。密度一定の内部解と真空の外部解がある。球対称な真空解はシュバルツシルトの外部解しかないことが、バーコフの定理として知られている。
シュバルツシルトが用いた座標系では、この時空の近傍の2事象間の4次元的な間隔の2乗(線素)は次のように表される。

$$ds^2=-\left( 1-\frac{2GM}{c^2r}\right) dt^2 +\left( 1-\frac{2GM}{c^2r
}\right)^{-1} dr^2 +r^2\left( d\theta^2 \\+\sin^2 \theta\, d\phi^2\right)$$

ここで M は質量、G は万有引力定数。r=2GM/c2 を満たす面を、電荷をもたない球対称ブラックホール(シュバルツシルトブラックホール)の事象の地平線といい、この面の内側に入ると必ず中心の特異点に落ち込み、光さえも外に逃げ出すことができない。
この座標系では、r=2GM/c2dr2 の係数が無限大になることから事象の地平面上で線素が定義できず、1920-30年代には「シュバルツシルト特異点」と呼ばれた。
しかしその後、地平面で発散しない座標系(クルスカル図を参照)が見つかり曲率が発散する真の特異点ではないことがわかった。r = 2GM/c2シュバルツシルト半径とも呼ぶ。

シュバルツシルトブラックホールの事象の地平線におけるメトリックテンソルの見かけ上の特異点のこと。メトリックテンソルが発散しない座標系をとることができるので、実際に時空の曲率が発散する特異点ではない。
シュバルツシルト解も参照。

下層に低密度の流体、上層に高密度の流体がある場合に発生する流体力学的不安定。圧縮性の気体では、圧力の増加に伴ってエントロピーが上昇する場合に不安定となる。恒星では、下層が暖められて密度が下がる(エントロピーが上がる)場合と、上層が冷やされて密度が上がる(エントロピーが下がる)場合に対流不安定となる。大質量の主系列星の中心核では前者による対流が、小質量の主系列星の表面では後者による対流が発生している。対流不安定は熱を効率よく輸送する。その輸送効率はしばしば混合距離理論により見積もられる。

互いに逆方向に進む化学変化が同速度で進んで、全体の様子に変化が生じない状態。平衡状態も参照。

原子内での電子の軌道は量子力学で予言されるように飛び飛びのエネルギー固有値に対応するものとなる。このうち、電子の動径方向の波動関数を規定する量子数のこと。慣例として変数 n で表され、電子の存在確率密度が最も高くなる点が原子核に近い方から n = 1,2,3, ... という整数値をとる。水素原子のように中心力だけを考えればよい場合は、エネルギー固有値 En は主量子数 n だけの関数となり、En ∝ - n-2 となって離散的な値をとる。水素原子では n = 1 の軌道に遷移する場合に放射される線スペクトルライマン系列n = 2 に遷移する場合はバルマー系列と呼ばれる。再結合線パッシェン系列ブラケット系列も参照。

天球上の恒星、銀河星雲の位置や明るさを示した地図。歴史的には、1603年にバイエル(J. Bayer)が作成した『ウラノメトリア』、『天球図譜』(1729年)、ボーデによる『ウラノグラフィア』(1801年)、渋川春海の図(1677)などがある。

宇宙にある物質はその重力によって互いに引き付け合うので、最初に密度の大きな場所では物質が集まることによってさらに密度が大きくなり、逆に密度の小さな場所では物質が周りに引き寄せられて密度がさらに小さくなる。このように重力によって密度の非一様性が拡大していく性質を指す。

英文頭文字をとってGUTと略称されることも多い。素粒子相互作用の標準理論は、自然界で働く四つの力のうちの三つ、すなわち、強い力(強い相互作用)、弱い力(弱い相互作用)、電磁気力(電磁相互作用)がそれぞれSU(3), SU(2), U(1)というゲージ群で記述されるゲージ理論である。

その結合定数のエネルギー依存性を見ると、1015-16 GeVあたりで3つのゲージ結合定数が一致しそうであることがわかる。そこで、このスケールで3つのゲージ相互作用は統一され、より大きなゲージ群にしたがう1つの相互作用になっている、というのが大統一理論である。SU(3), SU(2), U(1)を包含するゲージ群として最も単純なのはSU(5)であり、左巻きクォークの3重項とレプトンの2重項が同じ5次元表現の中に埋め込まれるため、バリオン数やレプトン数を破る反応が可能になり、陽子が崩壊する(陽子崩壊が起きる)ことが示される。しかし、神岡陽子崩壊実験(カミオカンデスーパーカミオカンデを参照)が未だにそのような事例(イベント)を発見していないことから、SU(5)に基づく非超対称性理論はすでに棄却されている。

大統一理論のスケールとワインバーグ-サラム理論のエネルギースケールが安定に共存できるためには超対称性理論が必要であると考えられている。超対称性大統一理論では、統一のエネルギースケールが上がるため、SU(5)モデルであっても、実験と無矛盾である。

プラズマの流れと磁場との相互作用による磁場の生成および維持機構のこと。ダイナモ作用ともいう。オメガ効果アルファ効果、乱流運動による拡散などが重要な要素であると考えられている。恒星におけるダイナモ機構は恒星ダイナモと呼ばれる。

反射望遠鏡の主鏡の第一焦点。直焦点ともいう。広い意味では焦点直前に光路折り曲げ鏡を置いて鏡筒外に焦点を引き出すニュートン焦点も含む。放物面主鏡や双曲面主鏡1枚だけでは、収差を除去しきれないので、主焦点補正光学系を焦点前に配置して視野を確保する。望遠鏡筒先端部(筒頂環)に焦点がくるため、大型の装置を設置することが難しく、人が焦点に接近することも困難である。しかしながら、焦点に至る反射鏡面数が最小(主鏡1枚のみ)であるため、焦点への到達光量を最大とし、望遠鏡光学系による散乱を最小とすることができるという利点を持つ。さらに、像の拡大率が小さく、小さい範囲に広い視野が収まることから、補正光学系を組み合わせることで他の焦点よりはるかに広視野の観測を行うことができる。すばる望遠鏡は、8m級の大型望遠鏡において主焦点に観測装置を置いて観測することができる数少ない望遠鏡の一つである。他には大型双眼望遠鏡(LBT)が主焦点での観測機能を持つ。焦点(望遠鏡の)も参照。

望遠鏡の主鏡の第一焦点を主焦点と呼ぶ。主焦点では古典的カセグレン式望遠鏡の場合は光軸中心以外、すばる望遠鏡など近代のリッチー-クレチアン望遠鏡では光軸中心でも収差があり完全な結像とはならない。主焦点の前に複数枚のレンズ系を置いて、広い画角にわたって収差を実用上問題ないレベルに抑える光学系を主焦点補正光学系と呼ぶ。放物面主鏡のコマ収差を打ち消すロスの補正系や、3枚の非球面を用いて、球面収差コマ収差非点収差を打ち消す三レンズ補正系などの例がある。すばる望遠鏡のシュプリームカム用主焦点補正系は5枚のレンズ構成で、像位置色収差と倍率色収差も打ち消して、視野直径30分角の広視野を確保している。また大気分散を補正する機能も併せ持っている。またシュプリームカムの後継機であるハイパーシュプリームカム用の主焦点補正系は視野直径1.5度の超広視野を実現している。