銀河の進化に環境が及ぼす影響。銀河団からボイド領域まで、銀河を取り巻く環境は多様である。形態-密度関係に代表されるように、現在の銀河の性質は環境に強く依存することが知られているが、そうした依存性は、先天的な環境効果と後天的な環境効果が組み合わさった結果であると考えられている。先天的な環境効果とは、銀河の性質は誕生した時点から環境によって決まっていたというものである。たとえば、銀河団のような銀河密度の高い場所ではそもそも早期型銀河しか生まれなかったとする考え方がある。後天的な環境効果とは、進化の過程で環境から影響を受けて形態などが変化するというものである。たとえば、渦巻銀河が銀河団に落ち込むとガスが動圧ではぎ取られてレンズ状銀河になる可能性がある。動圧以外の後天的環境効果としては、銀河同士の相互作用、銀河団の重力による潮汐力など、さまざなま機構が挙げられている。なお、環境自身も時間とともに変わるので、それに応じて後天的環境効果の内容も変わる。銀河の性質の決定において先天的環境効果と後天的環境効果のどちらがより重要な役割を果たしたのかは、よくわかっていない。さまざまな環境における銀河を過去にさかのぼって調べることが必要である。
渦巻銀河を参照。
渦巻腕を参照。
銀河団の外部にあった渦巻銀河が銀河団の重力に引かれて中心部に落ち込んでいく際に、高温の銀河団ガスからラム圧を受けて銀河円盤のガスがはぎ取られること。銀河に働く環境効果の1つ。ラム圧は銀河団ガスの密度に比例し、銀河の落ち込む速度の2乗に比例する。ガスがはぎ取られると銀河円盤中の星生成が止まってしまい、円盤の光度が下がってレンズ状銀河になると考えられる。実際、電波観測によって、ガスの割合が平均より低い渦巻銀河や、ガスの分布が星の分布からずれている渦巻銀河が銀河団の中心部に見つかっている。これらはガスがまさにはぎ取られつつある銀河だと考えられる。最近では、はぎ取られたように見えるガスが電離しているケースも相当数見つかっている。
人の性格や運勢、国家の運命などを、太陽や月や星などの位置や動きと関連づける占いの一種。科学的な根拠は見いだされていない。古代バビロニアが発祥とされているが、その後ヨーロッパ、インド、および中国などアジア諸国に広まって、西洋占星術、インド占星術、東洋占星術などが興った。
制限三体問題において、二体問題となる2天体が円運動をしている場合には質量の無視できる3体目の天体の運動においてヤコビ積分と呼ばれる量が保存される。ティスランの判定式はこのヤコビ積分を簡略化してその保存則を近似的に表したもので、
$$\frac{a^{\prime}}{2a}+\left(\sqrt{\frac{a}{a^{\prime}}(1-e^2)}\right){\rm cos}\,I = 定数$$
で表される。ここで、$a'$ は2天体の運動の軌道長半径、$a, e, I$ は3体目の天体の軌道要素である。
たとえば、太陽-木星-彗星という系で、彗星が木星に近接遭遇して軌道が大きく変わったとしても、ティスランの判定式の値はほぼ同じ値をとる。このため、異なる時期に観測された彗星が同一のものであるかを判定するのによく使われている。
星生成活動に伴って銀河内の星間ガス中、および新たに生まれる星の大気中の金属量が増えること。ただし金属量とは、炭素より重い元素一般を指す。銀河の中で生成された大質量星は、生成されてから数百万年以内に超新星爆発を起こし、恒星内部でつくられた元素を星間ガスへ戻す。これにより星間ガスでは炭素や酸素、鉄などの含有量が増え、そこから生まれる星も金属を多く含むようになる。金属量の多い星や星間ガスがある領域ほど、化学進化が進んでいるという言い方をする。円盤銀河では中心部ほど化学進化が進んでいる。化学進化は銀河の見かけの色にも影響を与える。銀河進化、色勾配(銀河の)も参照。
ドゥ・ボークルール分類を参照。ハッブル分類も参照。
カプタイン(J. Kapteyn)が1906年に、銀河系(天の川銀河)(当時は宇宙そのものと考えられていた)の形と大きさを決めることを目的として提唱した計画で示された、全天に分布する206個の天域。Selected Areaの頭文字の後に天域の番号を付けて、SA57、SA103などのように呼ばれる。各天域はほぼ1度四方で、赤緯15度間隔で緯度毎に赤経方向はほぼ等間隔で全天に分布していた。これに加えて、銀極方向など特別に重要な方向で46の天域が定められた。
カプタインは、この天域内にある一定の明るさより明るいすべての星の等級、色指数、固有運動、視線速度、およびスペクトル型を決定する国際共同観測を提案した。進行中のこの計画の観測データを基にカプタインは、1922年に「カプタイン宇宙」と呼ばれる宇宙モデルを作り上げた。国際天文学連合(IAU)においてもこの計画は重要と見なされ、1935年の第5回総会で、選択天域担当の委員会として第32委員会がIAUとして最初の計画進捗状況と将来展望の報告をしている。その後、銀河系の構造を担当する第33委員会の小委員会となり1970年の総会まで活動した。
ダークマターを参照。
円盤銀河において、銀河円盤の星やガスは銀河中心の周りを同じ方向に回転している。回転速度を銀河中心からの距離の関数として描いたものを回転曲線という。多くの円盤銀河では、回転曲線は銀河中心から剛体回転のように立ち上がって数 kpcの距離で最大値となり、その先は円盤の端までほぼ水平を保つ。回転曲線の水平な部分では、より内側にある星やガスのほうが早く一周する(差動回転)。明るい銀河ほど回転速度は大きく、天の川銀河(銀河系)では 200 km s-1 程度である。銀河円盤の星の表面輝度はほぼ指数法則に従って外側ほど低下するため、もし回転速度が円盤の星の重力だけで決まっているとすると、回転速度も外側ほど小さくなるはずである。実際は、ダークマターでできた重いハロー成分(ダークマターハロー)が存在しており、回転速度は実質的にダークマターハローの重力で決まっている。ダークマターハローの質量は中心からの距離にほぼ比例するため、回転曲線が水平になる(平坦な回転曲線)。
円盤銀河が回転していることは1914年にスライファー(V.M.Slipher)によって初めて報告された。渦巻銀河の回転曲線が外側までほぼ水平であることは、1970-80年代に星生成領域の放つ電離ガスの輝線や 中性水素ガスの21cm線の観測により明らかになった。詳細な観測が可能な銀河系やアンドロメダ銀河などでは、中心に極めて近い部分において、回転速度は中心に向かって逆にケプラー運動のように増加することが知られており、中心部に大質量のブラックホールがあることの証拠とされる。
CDMモデルを参照。
大気ゆらぎにより星からの波面が乱され、望遠鏡を通して得られる星像は大きく拡大して見ると細かい濃淡のあるシミのような構造に広がる。この像の見え方は大気上層部や地表付近で、気温や湿度が一定とみなせる空気の塊が風によって流れることにより短時間で変化(数ミリ秒-数10ミリ秒)する。この各瞬間での星像の濃淡のあるシミのような形状をスペックルと呼ぶ。
大気ゆらぎにより、星像は高速で変化するさまざまなスペックル形状として観測されるが、非常に近接した連星のスペックル像は、単一の星のスペックル像を少しずらして異なる明るさにして重ね合わせたものとなる。この場合、スペックル形状は時間とともにランダムに変化しても、2つのスペックルがずれて重なっている(干渉している)という状況は残るため、多くのスペックル画像から共通する空間周波数成分(スペックルの強度比とずれ量に相当する)を抜き出して合成できれば、スペックルの影響を除去した連星の状態が明らかとなる。この手法で高い角分解能を得る装置をスペックル干渉計という。数学的にはフーリエ変換や統計処理などの技法が必要となる。
光学系による点光源の結像状態を評価するときに用いられる図。光線追跡により、入射瞳上を通過した複数の光線が像面で散らばる様子を示すことにより、収差の大きさと収差の性質を視覚的に把握することができる。
春分点を基準として、地球が太陽の周りを公転するのにかかる時間の平均値。約365.24219日。
地球の自転軸は歳差により約26,000年の周期で自転と反対方向に回転するため、太陽に対する地球の自転軸の向きは、空間に静止した座標系で考えた1周(天球上の恒星に対する公転周期)である恒星年(365.25636日)よりも短い時間でもとに戻る。この向きこそが地球の季節を決定しているので、暦の1年は恒星年でなく太陽年を用いて決められている。
ユリウス暦では4年に1回、グレゴリオ暦では400年に97回、366日のうるう年(閏年)を挿入することで、1年の長さを1太陽年に近づけている。
暦(れき)も参照。
計算格子の一種。千鳥格子では、すべての物理量を格子点上に割り当てるのではなく、ある特定の物理量を格子点と格子点の中点に割り当てる。密度などのスカラー量を格子点に、速度や磁場などのベクトル量を格子点と格子点の中点に割り当てることがある。とくに電磁流体力学では磁場だけを千鳥格子上に割り当てる数値解法がしばしば採用される。この方法を用いると、磁場の誤差に起因する数値不安定を回避することができる。
ネオンなどの不活性ガスを満たした板状の電極間に、荷電粒子が通過した直後に高電圧パルスを印加し、粒子の飛跡に沿って放電を起こさせることによって、飛跡を光として観測する検出器。1950年代終わりに福井崇時と宮本重徳によって考案された。コンプトンガンマ線衛星に搭載されたEGRET検出器は、ガンマ線が装置内部で対生成を起こした際に放出される電子と陽電子の飛跡を多層のスパークチェンバーを用いて記録し、これらの粒子の飛来方向からガンマ線天体の位置を決定している。
量子力学では、不確定性関係のためにすべての物質の位置と運動量を同時に正確に決めることはできず、その存在確率は波動関数によって表される。このように、すべての物質粒子は粒子性と波動性を同時に備えている。これを粒子と波動の二重性(wave-particle duality)と言う。運動量 p の物質に対してド・ブローイ波長は λ = h/p(h はプランク定数)と定義され、運動量が決まっている粒子の位置について、この波長程度の不確定性がある。
薄膜を蒸着する方法の一種。真空蒸着と同様、物理気相成長法に分類される。真空容器の中に膜材として用いる金属と、膜を付着させる対象素材を設置し、容器内に不活性ガス(主にアルゴン)を導入しながら、膜材と素材の間に(膜材が負、素材が正の電荷を持つように)高電圧をかける。すると、導入したガスが正にイオン化され、高速で膜材に衝突する。このとき、膜材表面から原子や分子が叩きだされ、素材に激しく衝突して膜面を形成する。スパッタリングによって叩きだされる原子や分子のエネルギーは、熱による蒸発を利用する真空蒸着に比べて格段に大きく、素材への膜面の付着強度は極めて大きい。スパッタリングでは、真空蒸着では扱うことが難しい、高融点金属や酸化物などの膜形成も行うことができる。
