天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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統計誤差

観測や測定において、不可避的に混入するランダムな誤差(真の値とのずれ)。ランダム誤差ともいう。測定回数を増やしたり、サンプルの数を増やしたりすることで小さくできる。
厳密な取り扱いでは、「真の値の推定値」と測定値のずれを「不確かさ」と呼び「真の値」と測定値のずれで定義される「誤差」と区別して取り扱う。物理量の測定では真の値は知られていないので、ほとんどの場合は「不確かさ」を扱うことになる。厳密な言い方では統計誤差は「タイプAの不確かさ」と呼ばれる。系統誤差も参照。

視差のうち、地球公転運動のために、天球上の天体の位置が変化して見える現象とその大きさのこと。三角視差と呼ばれることもある。具体的には、1年間に恒星は天球上で視差楕円と呼ばれる楕円の上を運動するように見える(実際には、黄緯が±90°付近の場合はほぼ円運動、黄緯が0°に近づくにつれて細長い楕円となり、黄緯0°では直線上の運動となるが、まとめて「楕円」という用語を用いる)。年周視差の大きさは楕円の長軸の半分の角度で表される。ラジアン単位で測定した年周視差とその恒星までの距離と1天文単位(au)の間には
年周視差(ラジアン)= 1天文単位/距離 = 恒星から1天文単位を見込む角度
の関係があるので、年周視差が測定できれば、三角測量と同じ要領でその天体までの距離がわかる。天文学では年周視差が角度の1秒になる距離を1パーセク(2.0626x105 au)と定義する。

歴史的には、1838年11月にベッセル(F. Bessel)が「はくちょう座61番星」、1839年1月にヘンダーソン(T. Henderson)が「αケンタウリ」、1839年10月にはシュトルーベ(F. von Struve)が「ベガ(αLyr)」の観測論文を発表している。しかし、シュトルーベが年周視差検出の可能性をベッセルに伝えたことにより、ベッセルが観測を始めていたり、先に発表された2人の論文を読んだヘンダーソンが、南半球で行なった1832から33年のαケンタウリの観測データを解析し、1839年に発表している。よって、誰よりも早く年周視差を観測したのはヘンダーソンとも言えるなど、3人は独立ではなく、互いに関係しながら年周視差の観測に成功している。よって、ベッセル、ヘンダーソン、シュトルーベの3人を発見者とすることが多い。

ヒッパルコス衛星は約10万個の星の年周視差を求めたが、その後継機であるガイア衛星は10億個を超える星の年周視差を公表している。

 

年周視差の原理の解説図
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宇宙初期の空間的密度ゆらぎのスペクトルに対する一つの型で、パワースペクトル P を波数 k の関数として表したとき P(k) ∝ k のように波数に比例するものをいう。現実の初期ゆらぎは近似的にこの型のスペクトルを持っていると考えられている。この型のゆらぎでは、ハッブル半径(ハッブル距離)に対応する質量ゆらぎの分散が一定になる。ハッブル半径は徐々に広がっているので、時刻を固定して見た場合のゆらぎの分散はスケールごとに変化して一定ではない。ハッブル半径内では物理的なゆらぎの成長および抑制機構が働くため、スペクトルは変形される。したがって、ハリソン-ゼルドビッチスペクトルは変形を受ける前の宇宙の初期ゆらぎに対応するスペクトル型を与える。単純なインフレーション理論によりつくり出されるゆらぎはハリソン-ゼルドビッチスペクトルに近くなるが、そこからのわずかなずれも期待される。宇宙マイクロ波背景放射の温度ゆらぎの観測によると、現実の宇宙の初期スペクトルはハリソン-ゼルドビッチスペクトルに近い。さらに、そこからのわずかなしかし有意なずれも報告されている。

ハッブル定数の逆数で表される時間。宇宙年齢の目安となる。宇宙の大きさ(スケール因子)を縦軸に、時間を横軸に取った図を描いたとき、ハッブル定数は現在の時刻におけるグラフの接線の傾きとなる。この傾きを過去に外挿して縦軸がゼロ(宇宙の大きさがゼロ)になる時刻がビッグバンに相当する。この時刻から現在までがハッブル時間である(図参照)。言い換えれば、膨張率が現在の値と変わらないままで宇宙が膨張したとする場合の宇宙年齢がハッブル時間である。一般には、宇宙の膨張は過去ほど激しく、時間とともに万有引力の作用で減速しているので、実際の宇宙年齢はハッブル時間より短いと考えられていた。しかし、1998年頃から宇宙が現在は加速膨張していることがわかり、宇宙年齢は必ずしもハッブル時間より短いとはいえなくなった。ちなみに2020年時点で広く用いられたハッブル定数の推定値はプランク衛星のチームが報告した H0 = 67 km s-1 Mpc-1 で、ハッブル時間は146億年である。一方、観測データを総合して別途推定された宇宙年齢の最良推定値は138億年である。ハッブル-ルメートルの法則も参照。

複数の原子の結合した分子がガス状態にある場合には振動と回転の自由度があるが、その両方の量子状態が変化する遷移のこと。回転量子状態間のエネルギー差は 10-8 から 10-3 eV 程度と、振動量子状態間のエネルギー差 10-3 から 0.1 eV 程度に比べると大幅に小さく、エネルギーの観点から回転量子状態は、ある振動量子状態のなかの微細構造として存在する。また、振動状態の遷移が起こるときには回転状態も同時に(量子力学の制限に従って)変化し、振動回転遷移となるため、特有のスペクトル構造(バンドスペクトル)を示す。

連星を参照。

恒星の進化において、中小質量星が外層を失った後の段階にある星(英語名称の最後の star は省略されることが多い)。赤色巨星に進化し、ヘリウム燃焼段階を経た中小質量星は、水素の豊富な外層を質量放出によって失い、電子の縮退圧で支えられた中心核(コア)だけからなる天体となる。核融合によってエネルギーが新たに生み出されないため、白色矮星は時間とともに低温、低光度になっていく。典型的な直径は地球程度で、質量は0.6太陽質量程度である。中心核の外側に、電子縮退の弱いヘリウム層および水素層があり、水素のバルマー線の見えるDA型、中性ヘリウムの強いDB型などがある。質量の上限は約1.46太陽質量であり(チャンドラセカール限界質量)、伴星からの物質の流入によってこれを超えると高密度のために温度が低くても様々な核反応が起こる。中心付近に炭素が含まれていると炭素フラッシュが起こり、Ⅰa型超新星となる。炭素がなく、O、Ne、Mg等からなる場合には、電子捕獲が進み、白色矮星はつぶれて中性子星になる。

へびつかい座の方向にあるM型の恒星。実視等級9.54等。太陽系からの距離は約2パーセク(2 パーセク=6光年)で、ケンタウルス座α(アルファ)星に次いで太陽系に近い恒星である。名称は1916年にバーナード(E.E.Barnard)が固有運動最大の星として発見したことによるもので、固有運動は年間10.3秒角もある。1万年後には最も太陽系に近い星となる。

宇宙が膨張していることを述べた法則。「宇宙のどの方向を見ても、遠方の銀河ほど速い速度で銀河系天の川銀河)から遠ざかり、その遠ざかる速度(後退速度)は銀河までの距離に比例する」と要約される。銀河の後退速度v [km s-1]、その銀河までの距離を r [Mpc]とすると

v=H0r

と表される。後退速度と距離の間の比例定数 H0ハッブル定数と呼ばれる。ハッブル-ルメートルの法則は一見、宇宙が天の川銀河を中心にして膨張しているかのように思われるが、実際には、宇宙が一様かつ等方的に膨張していることを示している。

遠方銀河の後退速度(スペクトルに見られる吸収線ドップラー偏移から計算される)が距離に比例することを初めて公表したのは、アメリカの天文学者ハッブル(E. Hubble)が1929年に発表した論文であると考えられていたので、この法則は長年『ハッブルの法測』と呼ばれてきた。一方、ベルギーの宇宙物理学者でカトリックの神父でもあるルメートルは、1927年に発表した論文で、アインシュタイン一般相対性理論の方程式を解いて、フリードマン宇宙に相当する膨張解をフリードマンとは独立に導き出した(ルメートル解)。さらにその論文で、当時入手できたデータに基づいて、銀河の後退速度と距離の間に比例関係があることを示し、ハッブル定数まで求めていた。ところが彼の論文はフランス語で書かれ、発表された雑誌がベルギーの学術雑誌であったため、この事実は世界の研究者にほとんど知られていなかった。イギリスの高名な天文学者のエディントン(ケンブリッジ大学でルメートルの師でもあった)の紹介で、この論文は英訳されて1931年に英国王立天文学会の学術誌に公表されて広く知られることとなった。しかし英訳版では観測データを扱ってハッブル定数を求めた一節と脚注が削除されていたことが2011年に研究者の間で大きな話題となり、誰が英訳したのか、また削除された原因は何かが調べられた。その結果、英訳はルメートル自身が行い、削除部分については、「すでにハッブルがハッブル定数を求めた論文を1929年に出版しているので、ほとんど同じデータを使った自分の結果を今再度掲載しなくてよい」と考えて彼自身が削除したことが明らかになった。
天文学の歴史の中で画期的な発見であり現代宇宙論の基礎である宇宙膨張を最初に発見したルメートルの貢献を讃え、将来の科学的な講演・論説・論文などにおいて歴史的事実が正しく示されることを願って、2018年8月20-31日にオーストリアのウィーンで開催された第30回国際天文学連合(International Astronomical Union: IAU)総会で、IAU執行委員会は、「宇宙の膨張を表す法則は今後『ハッブル-ルメートルの法則』と呼ぶことを推奨する」という決議を提案した。この決議は2018年10月に会員の投票で成立した。ただし、ハッブルの名前を冠する学術用語はたくさんあるが、『ハッブルの法則』以外はこの決議の影響を受けることはない。

この決議によって、一般社会にも広く浸透している『ハッブルの法則』の推奨名称を変えることになるので、社会特に学校教育現場で混乱が起きないよう適切な対応を取ることが必要である。日本学術会議は2018年12月26日に、「ハッブルの法則の改名を推奨するIAU決議への対応」と題して以下の内容を骨子とする提言を発出した。

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t273-1.pdf(日本学術会議提言:以下は抜粋)
この問題は、「これまで使われてきた『ハッブルの法則』という言葉は間違いで、今後は『ハッブル-ルメートルの法則』と呼ばなければならない」という規則改定のような問題ではないことを十分理解することが対応の大前提となる。それを踏まえて各分野で以下の対応が取られることを希望する。
(1) 学校教育で用いられる教科書における記述変更は直近の改訂時に対応する。それまでは教科書に対する特別の補充資料は作らず、現場での解説で対応する。
(2) 各種試験で、宇宙膨張の法則の名称そのものを問うて、『ハッブルの法則』か『ハッブル-ルメートルの法則』かによって解答の正否が分かれるような問題は出さない。
(3) 学校教育現場に限らずしばらくの期間は、『ハッブルの法則』と『ハッブル-ルメートルの法則』のどちらが使われていても問題とはしない。
(4) 一般書やマスコミ等の記述、講演会などで用いる名称は担当者次第であるが、IAU決議の趣旨を踏まえて『ハッブル-ルメートルの法則』を用いることが望ましい。

宇宙の膨張率を表すパラメータで一般に H(t) で表される。宇宙のスケール因子 a(t) を用いて

H(t)a˙(t)a(t)

で定義される。ここでa˙(t)a(t) の時間微分 da(t)/dt を表す。現在(t=t0)におけるハッブルパラメータの値 がハッブル定数 H0 である。

H0H(t=t0)

時刻の代わりに赤方偏移を変数としてH(z)と表現されることもある。

物体の熱運動以外の原因で放出される放射。非熱放射ともいう。非熱的放射には、シンクロトロン放射トムソン散乱コンプトン散乱逆コンプトン散乱ラマン散乱チェレンコフ光メーザー放射などがある。熱放射も参照。

天球上で極めて接近して見える2つの星。天球上で接近して見える2つの星には、距離の大きく異なる2つの星がたまたま視線方向が近いために接近して見えるものと、実際に万有引力によってお互いの周りを回っているものがある。前者を見かけの二重星といい、後者は実視連星という。実視連星の存在は、1802年にウィリアム・ハーシェル(W. Herschel)によって発見された。
はくちょう座の白鳥のくちばしの位置にあるアルビレオ(写真上)は美しい二重星で人気のある観測対象である。これが実視連星か見かけの二重星かは長い間はっきりしなかったが、ガイア衛星による固有運動のデータの解析から見かけの二重星であることが分かった。アンドロメダ座にあるアルマク(写真下)は実視連星である。

天体の像を取得する観測を撮像観測というのに対し、プリズム回折格子などの分散素子を用いて天体のスペクトルを取得する観測を分光観測と呼ぶ。スリット分光は、スリットと呼ばれる細長い小窓を望遠鏡焦点面に置き、それを通して入射する光を分散素子でスリットの短辺方向に分散させて天体のスペクトルを取得する方法である。近年は、天体の配置に合わせて多数のスリットをレーザー加工で刻んだプレートを用いるマルチスリット分光が重要な役割を果たしている。

対物分光を参照。

CCDを参照。

天球上で2個以上の恒星が極めて接近している場合にそれらの恒星を呼ぶのに使われる用語。2個の場合は二重星と呼ぶ。一般にはそれらが重力的に束縛されているかどうかを問わない。重力によって束縛しあっている恒星系を呼ぶ場合、2個の場合は連星、3個の場合は三重連星などという。

電荷結合素子CCDは各画素に蓄えた光電子を順送りして最終的な読み出しアンプでその量を数える半導体素子なので、電荷を隣の画素に送るときにこぼしたり、送り残しがなるべくないようにしなければならない、隣の画素へバケツリレー操作で何%の電荷をしっかり送ることができるか、その割合を電荷転送効率という。たとえばフレーム転送で1000×1000画素のCCDでは一番端の画素から読み出しアンプまでに最大2000回のバケツリレーが必要になる。電荷転送効率が99.9999%の素子であれば、2000回の転送で生じる漏れは0.2%程度となる。

黒海とカスピ海の間のコーカサス山脈北側斜面、チェレンチュクスカヤ村近くの標高約2000mの地点に、旧ソ連によって1966年に開設された天文台。現在はロシア科学アカデミーに属する。1975年に建設された経緯台式の口径6m望遠鏡BTA-6(Bolshoi Teleskop Alt-azimutalnyi)、ツァイス製の1m望遠鏡などのほか、RATAN-600電波望遠鏡もある。BTAは1993年のケック望遠鏡の完成まで、口径では世界最大の望遠鏡であった。しかし、建設当初の主鏡や機械系は欠陥が多く、主鏡は1978年に新たなものと交換され、その後も性能の改善が続けられて今日に至っている。
ホームページ:http://www.sao.ru/Doc-en/

ハッブル(E. Hubble)によって、セファイドなど用いて近傍銀河の距離が測定され、主にスライファーによって測定された銀河の赤方偏移との関係が調べられ、ハッブルとルメートルによって銀河の赤方偏移が距離に比例するというハッブル-ルメートルの法則が発見された。個々の銀河は膨張宇宙に対して特異速度を持っている。このため観測された赤方偏移から計算される銀河の後退速度は、宇宙膨張に起因する成分と特異速度に起因する成分が合わさったものである。このうち、宇宙膨張に起因する後退速度をハッブル流という。これに対して特異速度は、宇宙全体の膨張とは独立に局所的な構造によって生じる。局所的な銀河の速度場を調べるときには、両者を適切に区別することが重要になる。そのためには銀河の距離を測定することが必要となる。

禁制線を参照。