天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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ボトムアップシナリオ

宇宙の構造形成がどのように進んだのかという問題に対する一つのシナリオ。ボトムアップシナリオでは、超銀河団よりも銀河団が先に形成され、銀河団よりも銀河が先に形成され、というように、小さな階層の構造ほど宇宙の初期に形成されたと考える。より大きな構造は小さな階層の構造ができた後にそれらが集合して形成されたと考える。現在の構造形成の標準モデルである。断熱ゆらぎを初期ゆらぎとする標準的なCDMモデルが、このシナリオに合致する。トップダウンシナリオも参照。

太陽の振動と波動現象の観測を基に、太陽内部の構造を調べる研究分野。1960年代初めに米国のレイトン(R. Leighton)らが発見した5分振動は後に、主に太陽の音波的な固有振動に起因していることがわかり、固有振動数の精密測定とこれに基づく内部構造診断が発展した。現在では、現代的な標準太陽モデルはほぼ正しいことが確かめられ、また太陽内部の差動回転も高緯度を除く対流層のほぼ全域で測られている。近年では、波動の局所的な伝播の測定に基づいて、太陽内部の局所的な構造異常やプラズマの流れなどを推定する局所的日震学が急速に発展してきている。これに対して、旧来の固有振動数の測定に基づく日震学は「グローバルな」日震学と呼ばれることがある。

太陽系の惑星のなかで、地球よりも内側の軌道をとるものを指す。水星金星が該当する。
英語のinner planetは、太陽系の内側の地球型惑星に対応する用語で、地球火星も含まれる。外惑星地球型惑星も参照。

蒸発温度(凝縮温度)の高い物質(元素)を原始惑星系円盤が冷却していくときに最初に凝縮する物質である。元素としては、一般に鉄やケイ素と比べて蒸発温度の高い、Ca, Al, Ti, Zr, Mo, Nb, Hf, Ta, W, Ti, 白金族元素、希土類元素, Th, Uなどを指す。隕石の化学組成を比較すると、CIコンドライト以外の炭素質コンドライトは難揮発性元素に富む一方で、普通コンドライトやエンスタタイトコンドライトは難揮発性元素が少なくなっている。原始惑星系ガス円盤の中で、温度の違いによる元素分別が起きたことを反映していると考えられる。コンドライトも参照。

太陽系形成から5-7億年後に巨大惑星の軌道の力学的進化が太陽系に大きな変動をもたらしたというモデル。ニースにあるコートダジュール天文台で主に開発されたため「ニース」モデルと呼ばれる。英語のナイス(良い)という意味もある。

惑星形成後に残った微惑星との重力作用により、ガス惑星の軌道は外側に動く。土星が移動して木星との 1:2 平均運動共鳴に達したときに、土星の軌道離心率が大きく変動して、当初は天王星の内側にあった海王星を外へ散乱させる。海王星はもともと存在していた(氷微惑星の残りである)太陽系外縁天体を散乱して、現在残るエッジワース-カイパーベルトや散乱円盤の構造を決める。このモデルは、巨大惑星の軌道離心率や軌道傾斜角の大きさを説明することができる。木星のトロヤ群小惑星はこのときに捕獲されたと考えられる。また、木星の軌道進化は小惑星帯領域に残っていた天体の軌道を不安定にし、多くが内側に落下して、月や火星に証拠が残る隕石重爆撃期をもたらした。エッジワース-カイパーベルト天体も参照。

天体写真の画像上の直交座標 $(x, y)$ から天球上の赤道座標 $(\alpha, \delta)$ を求める際、直接両者の関係を考えず、$(x, y)\to(\xi, \eta)\to(\alpha, \delta)$ のような中間的な座標を媒介させるのが普通である。この中間座標のことを標準座標と呼ぶ。

たとえば、原点 O を中心とする天球上のある1点を原点 O' とし、その点での接平面を考え、O から接平面に投影された場所によって位置を表す座標が標準座標に該当する。標準座標 $(\xi, \eta)$ はそれぞれ赤経と赤緯が増える方向を正にとり、望遠鏡焦点距離を単位として表される。

大気中の温度分布に依存する屈折率のムラのため、天体からの光は大気層を通過する間にその波面が乱される。波面位相の乱れが無視できる程度の領域の大きさを平坦波面長 r0 と呼ぶ。フリード長とも呼ばれる。平坦波面長は波長の6/5乗に比例し、大気条件の良い場合、可視光域で約20 cm 程度となる。望遠鏡の直径を D とすると、入射ビーム中には D2/r02 個の位相の独立な光束があることになる。補償光学シーイングも参照。

自転周期1-10ミリ秒で 104 テスラ(= 108 ガウス)程度の磁場をもつパルサーをミリ秒パルサーと呼ぶ。通常の電波パルサーは数10ミリ秒以上の周期と 108 テスラ(= 1012 ガウス)程度の磁場を持っており、年齢とともに自転周期が増加する。しかし、ミリ秒パルサーは宇宙年齢に匹敵するほどの年齢にも関わらず、通常のパルサーより自転周期が短い。この短い自転周期は、伴星からの質量降着により角運動量を獲得したためと考えられている (リサイクル仮説)。回転進化が長期間にわたって非常に安定なことから、重力波検出のための装置としても利用されており (パルサータイミングアレイを参照)、将来的には原子時計をしのぐ精度の長期的に安定な時刻標準として活用される可能性もある。

太陽系外惑星検出方法の一つ。惑星の軌道面が観測者の視線方向とほぼ平行な場合、つまりその系をほぼ真横から見ているとき、惑星は公転のたびに中心星の前面を通過する(トランジット)。このとき惑星は恒星面の一部を隠すため、恒星の明るさが一時的に減少する。この周期的な光度変化の観測により惑星を検出する方法をトランジット法という。光度変化量は恒星と惑星の断面積の比によって決まり、たとえば太陽と木星の系の場合には約1%、太陽と地球の系の場合には約0.01%変化する。トランジットの観測される惑星の軌道傾斜角はほぼ90度である。ドップラー法には高精度分光器が必要であるが、トランジット法はCCDカメラで良いため、地上および宇宙からトランジット法による多数の惑星探査観測が行われている。惑星がトランジットを起こす確率は、恒星半径と主星から惑星までの距離(軌道長半径)で決まり、恒星に近いほど確率が大きいが、太陽型恒星をまわる灼熱巨大惑星でも5%程度であり、広い視野を持つCCDカメラで同時に多数の恒星の明るさの変化を精密に測る必要がある。トランジット法による惑星検出はドップラー法よりも遅く、2000年に初出版された。
トランジットが検出された星に対してドップラー法の観測もできれば、惑星の軌道傾斜角の不定性が除かれるため惑星の質量が求められ、トランジット法から求まる惑星の大きさと合わせて惑星の密度を推定することができる。また、モデルと比較することにより、惑星の大気・内部構造についての情報も得ることができる。
トランジット法での惑星検出を目的としたケプラー衛星は、1万分の1の光度変化を観測できたため、地球型惑星を含む多数の太陽系外惑星を発見した。今日まで確認されている太陽系外惑星の半分以上がケプラー衛星が発見したものである。ケプラー衛星の成功を受けて、スペースからの太陽系外惑星探査はTESS衛星に引き継がれ、太陽に近い恒星のまわりの惑星探査に成功している。
惑星がトランジットする際の分光観測や、惑星が恒星の背景に隠れた「食」の際の惑星からの熱放射の変化により、惑星の大気や温度の情報を得ることも実現されている。


トランジット法の解説動画(Credit: ESA)
掲載元のサイト https://sci.esa.int/web/exoplanets/-/60655-detection-methods

https://youtu.be/xNeRqbw18Jk

太陽系外縁天体を参照。

海王星の最大の衛星で直径2700kmの氷天体である。1846年、海王星の発見直後に、トリトンも発見されている。名前はギリシャ神話のポセイドン(海王星)の子供の名前からとっている。周期5.88日で海王星の自転と逆向きに公転している。この逆行軌道のため、海王星との潮汐力により徐々にトリトンは海王星に近づき、数億年後には軌道が海王星のロッシェ半径まで下がり破壊されると予想される。逆行軌道であることから、海王星に捕獲された太陽系外縁天体であると考えられる。トリトンはエリス、冥王星よりも大きい。トリトンの表面は窒素とメタンの氷に覆われている。窒素を主成分とする非常に薄い(気圧10 Pa)大気が存在する。ボイジャー2号の観測から、表面から上昇して高度8 kmに到達してから水平方向へ100 km程度続く噴煙が観測されており、表面にも噴煙から落下して堆積したと考えられる暗色の筋がある。暗色物質の放出が竜巻のような気象現象によるのか、内部からの噴出によるものかは解明されていない。トリトンはクレーターが非常に少なく、表面は新しい。これは海王星との潮汐力で、窒素やメタンの火山活動が起きて、表面を更新するためと考えられている。

銀河円盤内の星間ガス(主に中性水素ガス)が円盤の両端で上下方向にめくれて、円盤を横から見るとS字状、ないしは数学の積分記号のように見える現象。英語のウォープをそのまま用いることもある。星の成分にもわずかにその兆候が見られることもある。

天の川銀河銀河系)の中にあって、われわれと交信可能な地球外文明の数を推定する式。ドレイク方程式とも呼ばれる。1961年にアメリカの天文学者であるドレイク(F. Drake)が提唱したのでこの名がある。

ドレイクの式は簡単で、7個の数値を掛け合わせる

$$N=R_*\,f_{p}\,n_{e}\,f_{l}\,f_{i}\,f_{c}\,L$$

というものである。ここで、$R_*$ は、天の川銀河で1年間に生まれる恒星の平均数、$f_{p}$ は惑星系を有する恒星の割合、$n_{e}$ は1つの恒星の周りの惑星系で生命の存在が可能となる惑星の平均数、$f_{l}$ は上記の惑星で生命が実際に発生する割合、$f_{i}$ はその発生した生命が知的生命体にまで進化する割合、$f_{c}$ はその知的生命体が星間通信を行うほど高度な技術を獲得する割合、$L$ はそのような高度文明が星間通信を行い続ける期間、である。掛け合わせる数値は、比較的わかってきたものもあるがほとんどわかっていないものもあり、人によって $N$ は1以下であったり1億を超えたりする。ドレイクが1961年に示した値は$N$ = 10であった。

1. 吸着材や真空容器などの表面に吸着した空気や水蒸気の分子を取り除くために、吸着材や容器そのものを温めること。表面に吸着した分子に熱を与えて、分子の熱運動で表面から分離させる。主に、真空時のデガス(アウトガス)を抑えるために行う。真空容器などの表面に吸着された気体分子は、容器を真空に引くと表面から分離して、真空度を悪化させる。これがデガスである。これを抑えるため、真空に引く前にあらかじめベーキングして、吸着された気体分子を取り除いておくのである。吸着材は、デガスを吸着するために真空容器の中に入れるが、ある程度吸着するとその能力が落ちるため、ベーキングによって吸着ガスを除去して能力回復をさせる。温める温度は材質や容器によって異なる。観測装置の真空容器では、電子回路などが組み込まれていることが多いので、それらにダメージを与えない温度でベーキングする。通常、真空に引きながらベーキングを行う。
2. 写真乳剤の超増感法の一つ。

天体のもつ磁場のうち、回転軸などの対称軸周りの磁場成分。極座標 $(r, \theta,\phi)$ で記述する場合には$\phi$ 成分のことである。残る磁場成分をポロイダル磁場という。

水素原子で電子が主量子数 n=3 のエネルギー準位とそれよりも上の準位の間で遷移することによる一連の輝線あるいは吸収線の総称である。

主に近赤外線で放射され、1908年にドイツのパッシェン(F. Paschen)によって発見された。n=4,5,6, ... から遷移するときに放射されるスペクトル線はそれぞれ Pα(アルファ)(波長1.875 μm)、Pβ(1.281 μm)、Pγ(1.093 μm), ... と書かれる。バルマー系列ブラケット系列ライマン系列再結合線も参照。

惑星の軌道面上で、太陽と惑星を結ぶ線分を底辺とする正三角形の頂点の位置に相当する2つの点は力学的に安定な平衡点(ラグランジュ点)である。惑星の軌道運動方向の前方、後方にある平衡点を、それぞれ L4 平衡点、L5 平衡点と呼ぶ。木星の場合、これらの平衡点付近には小惑星が濃集しており、通常これらをトロヤ群小惑星と呼ぶ。2019年5月時点で、木星のトロヤ群小惑星は7000個以上が見つかっている。

トロヤ群小惑星の起源として、形成後の木星と土星の軌道が軌道共鳴を経験して天王星海王星の軌道を大きく乱したとする、ニースモデルに基づくものが有力である。このモデルでは、現在よりも太陽に近い軌道上にあった海王星は、外側に残る氷微惑星円盤中に跳ね飛ばされる。その結果、大きく軌道を乱された氷微惑星が木星軌道付近にも流れ込む。木星と土星が共鳴状態にあるとき、木星の L4, L5 平衡点は一時的に不安定となり小惑星はこれら平衡点から出入りするが、その後、木星の軌道が土星との共鳴状態からはずれて落ち着きこれら平衡点が再び安定になると、そのときに平衡点付近にあった微惑星が平衡点付近に捕獲され、現在のトロヤ群小惑星となる。このモデルによると、現在のトロヤ群小惑星の軌道の特徴がうまく説明できる。

この他、太陽と他の惑星に対して正三角形の位置にある天体のこともトロヤ群小惑星と呼ぶことがあり、火星には9個、天王星には1個、海王星には23個のトロヤ群小惑星が見つかっている(2019年5月現在)。また小惑星ではないが、土星には、土星と衛星を結ぶ線分を底辺とする正三角形の位置に存在する小衛星が見つかっている。

流体の流れの速さと音速との比で求まる無次元数をいう。
マッハ数(Ma)の大小に応じて流れは、亜音速流(Ma < 0.7-0.8)、遷音速流(0.7-0.8 < Ma < 1.2-1.25)、超音速流(1.2-1.25 < Ma < 5)、極超音速流(Ma > 5)に分類される。
超音速流以上では衝撃波が全域に発生する。

土星は巨大ガス惑星の一つである。軌道長半径は約9.6 au、質量は地球質量の約95倍、自転周期は約10時間半である。平均密度は 690 kg m-3であり、惑星の中で最小である(常温常圧の水よりも小さい)。
内部構造は木星と似ており、中心に岩石からなるコア、その周りに金属水素の層があり、外層は水素とヘリウムを主成分とすると考えられている。木星と同様、土星の外層大気も帯状の構造を持つが、木星ほど明確ではない。また木星と似た楕円状の渦構造も観測されているが、木星の大赤斑のように長期間持続するものではない。北極を中心にして、一辺が地球の直径ほどの大きさの六角形の模様が見られるが、その起源は明らかではない。土星は磁場を持っているが、木星ほど強力なものではない。
2023年8月末時点で86個の衛星が確認されている(国際天文学連合IAUによって登録番号がつけられているのは66個)。このうち、タイタンが飛び抜けて大きく、土星の衛星総質量の9割以上を占める。その他の衛星は氷を主成分とする。このうち、エンセラダスは氷微粒子のジェットを噴出していることがカッシーニ探査機の観測により明らかになった。
土星の大きな特徴は、立派な環を持っていることである。主要リングと呼ばれる最も明るい部分は、外から順にA, B, Cリングと名前が付けられており、AリングとBリングの間の間隙はカッシーニの間隙と呼ばれる。Cリングの内側には、さらに希薄なDリングがあり、Aリングの外側には、羊飼い衛星により細い形状が保たれているFリングがある。さらに外側にはダストからなる希薄なG、Eリングがある。Eリングはエンセラダスの軌道を中心とする幅広い領域に広がっており、エンセラダスから噴出する氷微粒子が起源である考えられている。最近、土星半径の200倍以上の軌道を逆行方向に公転する衛星フィービーの軌道のすぐ内側から広い領域に広がる非常に希薄なダストリングが発見され、フィービーへの隕石衝突により生成されたダストが起源だと考えられている。


Farewell to Saturn: Highlights from the End of NASA's Cassini Mission

https://youtu.be/kBfFSMAK-V0

太陽系外惑星の検出方法の一つ。ドップラー分光法、視線速度法などとも言う。恒星に比べると惑星は非常に軽いが、恒星のまわりを惑星が公転すると、惑星の引力により恒星自体も微小にふらつく(両者は共通重心の周りを公転している)。恒星の微小なふらつき運動を恒星からの光のドップラー偏移を通して検出する方法がドップラー法である。ただし観測できるのはふらつき運動の視線方向成分なので、惑星の軌道面が視線方向に対して傾いている場合は、その効果は小さくなり、軌道傾斜角が0度の場合、速度変化は観測できないことに注意。間接法のひとつである。
たとえば太陽木星の二つだけを考えた場合、木星の公転周期は約12年であるので、太陽のふらつきの速度は振幅13 m s-1で約12年で周期的に変化する。これにより可視光で太陽を太陽系外から観測した場合、スペクトル線には約2x10-14 m の周期的な波長のずれが検出される。ドップラー法では、中心の恒星の質量が既知ならば惑星の質量の下限値が得られる。トランジットを起こす惑星系では、惑星の大きさを推定できるトランジット法(軌道傾斜角がほぼ90度)と組み合わせることで、惑星の質量と体積が推定できるので、惑星の密度が計算でき、ガス惑星か岩石惑星か区別することが可能になる。ドップラー法には、中心の恒星に近い重い惑星ほど検出しやすいというバイアスがある。
1995年にマイヨール(M. Mayor)とケロー(D. Queloz)は、この方法により初めて太陽型恒星まわりの太陽系外惑星をペガスス座51番星の周りに発見した。この業績により二人は2019年度ノーベル物理学賞を受賞した。ガス吸収フィルターヨードセル光周波数コムも参照。


太陽系外惑星と中心星が共通重心の回りを回転する様子(Credit: ESA)
掲載元のサイト https://sci.esa.int/web/exoplanets/-/60655-detection-methods

https://youtu.be/u8EW4oPst_I


ドップラー法の解説動画(Credit: ESO/L. Calçada)
掲載元のサイト https://www.eso.org/public/videos/eso1035g/

https://youtu.be/B-oZYm3L1JE