渦巻銀河が持つ渦状の構造のことで、渦状腕ともいう。渦巻腕の形状(腕の顕著さ、本数、巻き込み具合など)は極めて多様であり、渦巻銀河の詳細な形態分類の際に参考にされている。渦巻腕にはHⅡ領域や暗黒星雲が存在しており、渦巻銀河の主要な星生成の場となっている。渦巻銀河は差動回転しているため、もし渦巻腕の寿命が十分長い場合は、時間とともにきつく巻き込まれてしまうはずだが、現実はそうなっていない。これを巻き込みの困難といい、1950年代に論争の的となった。この問題を解決するために、渦巻腕は銀河円盤の上に発生した一種の波動パターンであり、物質の運動とは異なっているとする理論が、1960年代半ばにリン( C. C. Lin)とシュー(Frank H. Shu)によって提案された。これを密度波理論という。密度波理論は細かい渦巻状の波の存続を説明するが、大模様の渦巻構造の成因は差動回転する円盤状銀河の振動パターン(重力不安定モード)として理論的に説明される。渦巻構造は理論的に安定であり得ないことが示されている。
これらの理論は振幅が小さい場合の理論だが、数値シミュレーションでは有限振幅の渦巻腕構造はつねに(ほどけ型ではなく)巻き込み型で現れる。渦巻構造に伴う重力場を流れるガスは銀河衝撃波を起こし、星生成が促され若い星や電離水素領域が渦状に並ぶのが渦巻腕として観測されると考えられている。このように、銀河の渦巻構造は、低気圧中心に向かってガスが渦状に流れ込む、物質が流れを構成する台風の渦巻構造とは成因が異なる。
スペクトルを参照。
渦巻腕を持つ銀河。渦状銀河ということもある。レンズ状銀河(円盤は持つが渦巻腕は持たない:近年はS0(エスゼロ)銀河と呼ばれることが多い)と合わせて円盤銀河(disk galaxy)と総称されることがある(ハッブル分類も参照)。
現在の宇宙において最もありふれた銀河の形態であるが、巨大楕円銀河ほど大きなものはなく、矮小銀河にもない形態である。
銀河団のような銀河密度の高い場所には少ない傾向がある。星の集団として見た場合、渦巻銀河は、中心部のバルジ、(渦巻腕を含む)銀河円盤(ディスク)、バルジと円盤を包み込むハローの3つの成分で構成されている。円盤内の星やガスは銀河中心の周りを回転している。
中心部から顕著な棒状の構造が伸びているものは棒渦巻銀河と呼ばれ、ハッブル分類では、その有無のよって2分されているが、多くの渦巻銀河は大なり小なり棒状構造を持つことがわかっている。天の川銀河(銀河系)は棒状構造を持つ棒渦巻銀河である。渦巻銀河のバルジは楕円銀河と同様に年齢の古い赤っぽい星からなり、現在では星形成はほとんど起きていない。
銀河円盤部(ディスク)には若い青い星が多数含まれ、不規則銀河と同様に活発な星生成活動が見られる。ガスとダストおよび、それから生まれたばかりの若い星は円盤の赤道面の薄い層に集中しており、渦巻腕に集中している。ハッブル分類では重視される渦巻腕の巻き込み度合いはバルジと円盤部の大きさの比と関係があるとされ、渦巻腕の巻き込み度合いがわかりにくい方向を向いている円盤銀河ではバルジと円盤部の大きさの比でハッブル分類の形態を推定することも多い。近年の研究ではバルジは形状や色によって古典的バルジと疑似バルジの2種類に分けられることがわかった。古典的バルジは赤くて3次元形状が楕円体的であるが、疑似バルジは円盤部同様に青くて円盤部と垂直方向の厚さがあまり変わらない(横から見ると矩形的)である。前者は円盤部に先行して形成されたが、後者は円盤部の星が力学的な作用により厚さ方向に広がったものであるとされる。
ハローには球状星団や希薄なガスに加えて暗黒物質(ダークマター)が広く分布している。他の銀河と同様、渦巻銀河もその質量の大部分は暗黒物質(ダークマター)が担っている。
形態分類とは別に、銀河を見る角度による分類として、円盤銀河では、銀河円盤をほぼ真横から(円盤の垂線に垂直で円盤が最も薄く見える方向から)見る場合を横向き(エッジオン:edge-on)、それにほぼ垂直で銀河円盤を正面から見る場合を正面向き(フェイスオン:face-on)と呼ぶ。このように見えている銀河をそれぞれ横向き銀河(エッジオン銀河)、正面向き銀河(フェイスオン銀河)と呼ぶことがある。ただし、傾き角の数値による厳格な規定はない。
渦巻銀河の光度と回転速度の間にはタリー-フィッシャー関係というスケーリング則があり、対象銀河までの距離の見積もりや銀河形成の手がかりとして利用されている。
ある波長範囲でどの波長でも強度があるスペクトル。すなわちどんなに高い分解能で分光してもスペクトル線が見られないものをいう。連続スペクトルとスペクトル線が共存する場合、連続スペクトルの部分を連続光(連続波)を意味する コンティニウム(continuum)ということがある。
スペクトルを参照。
中国科学院によって2015年12月17日に長征2D型ロケットで打ち上げられた科学衛星で、高エネルギーガンマ線・宇宙線・電子の観測を行っている。打ち上げ前はDAMPE (Dark Matter Particle Explorer) と呼ばれていた。中国初の宇宙望遠鏡といえる。Wukongは「悟空」の中国語読みである。
ホームページ:http://dpnc.unige.ch/dampe/index.html
反射型天体望遠鏡の主鏡は自重変形を抑制するため、古典的には直径の1/6程度の厚さを持たせて剛性を確保し、複数のカウンターバランスや油圧パッドで受動的に支持するのが普通であった。主鏡が大きくなるとこの手法では限界があり、支持力分布をコンピュータ制御して鏡面を維持する能動光学方式が開発された。この場合主鏡の上面と下面の曲率を同一にして厚さが一定の薄い形状(メニスカスと呼ぶ)にすることで、鏡材重量と熱容量を減らし、計算機制御をしやすくする工夫がなされる。薄メニスカス鏡の能動制御はすばる望遠鏡など8m級望遠鏡の主鏡方式として開発され成功した。すばる望遠鏡も参照。
全天にわたってほぼ一様に輝いているX線。ジャッコーニ(R. Giacconi)らの1962年のロケット実験で発見された。30 keV付近にエネルギー分布のピークを持つ。その起源は長年の謎であったが、最近のチャンドラ衛星の観測により、個々のX線源に分解され、その多くは活動銀河核であることが示された。
宇宙背景放射も参照。
宇宙の晴れ上がりのとき(宇宙年齢約38万年、赤方偏移約1090)から、宇宙で最初の天体が誕生して宇宙に光が満ち始める宇宙の夜明けまで、宇宙にあるガスが中性であった時代をいう。星や銀河などの光を放つ天体は存在していない時代である。宇宙の暗黒時代は、宇宙で最初の天体である初代星(始原星ともいう)の出現によって終焉となる。
宇宙科学は、宇宙に関する学問分野を総称して使われる言葉だが、その定義はまだ明確に確立しているわけではない。一般には、天文学、宇宙物理学(天体物理学)、惑星科学、アストロバイオロジーなど宇宙を研究対象とする学問分野を指すことが多い。しかし、それらの分野の全領域を指さないこともあり、また、それらの分野に加えて宇宙工学、微小重力下での生命科学や物質科学など、スペース(宇宙空間)に行くことではじめて可能になる研究領域を総称して宇宙科学とする使い方もされている。
セロトロロ汎米天文台を参照。
日本の天文学研究(主にスペースからの観測)の中心研究機関の一つ。前身は東京大学附置研究所の一つであった宇宙航空研究所。1981年に東京大学を離れて大学共同利用機関宇宙科学研究所となった。2003年10月に、宇宙開発事業団、航空宇宙技術研究所と統合して独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA: Japan Aerospace Exploration Agency)となった際に、その中の宇宙科学研究本部となった。2010年4月に名称を再び宇宙科学研究所とした。本部は神奈川県相模原市にある。
1979年に最初のX線天文衛星「はくちょう」を打ち上げて以来、大学と協力しつつ、X線天文衛星、太陽観測衛星、赤外線天文衛星、電波天文衛星などの天文衛星を数多く打ち上げた。また、惑星空間探査衛星や月惑星探査機など地球および惑星科学分野の研究、および宇宙工学の研究も行っている。2010年6月には小惑星「イトカワ」に到達したはやぶさ探査機が60億 kmの旅を経て地球に帰還し話題となった。2018年6月には後継機のはやぶさ2探査機が小惑星リュウグウに到達した。
ホームページ:http://www.isas.jaxa.jp
宇宙科学研究所を参照。
地球の大気圏を超えた空間領域。宇宙空間と大気圏には明確な境界があるわけではないが、国際航空連盟は(1950年代に宇宙航空学の研究が行われた際に境界の値として設定された「カーマン・ライン」として)高度100 km、NASAでは再突入高度として122 km、カルガリー大学の測定では粒子速度が急速に大きくなる高度として118 kmといった数値が境界として用いられている。宇宙科学、宇宙の2.(第2項)も参照。
重力崩壊の最終段階では物質のエネルギー密度や時空の曲率が無限に大きくなり一般相対性理論で扱う時空の概念が破綻する。このような領域を特異点、あるいは特異領域というが、現在のところ特異点を支配する物理法則は知られておらず、したがってその振る舞いは予言ができない。
もし無限遠方から特異点が見えると、特異点から出てくる情報に何の制限もつけられないため、未来の振る舞いが初期条件だけで記述されるという初期値問題が設定できなくなる。そこでイギリスの数理物理学者ペンローズ(R. Penrose)は重力崩壊で現れる特異点は常に事象の地平面で覆われていると仮定した。この仮定を宇宙検閲官仮説という。物理的にもっともらしい仮定の下では、この仮説は正しいと考えられているが、その厳密な証明はまだない。
宇宙組成比を参照。
宇宙論において、「宇宙には中心も端もなく、宇宙空間の各点は本質的に同等である」という原理で、宇宙が大域的に一様かつ等方であることを意味するものである。細かなスケールで見ればこれが正しくないことは明白であるが、数10メガパーセク(10 Mpc=3000万光年)のスケールで平均すれば成り立っているといえる。とくに、宇宙マイクロ波背景放射の温度が4桁の精度で等方的であるのは、私たちの宇宙で宇宙原理が成り立っている何よりの証拠である。
宇宙定数を参照。
宇宙マイクロ波背景放射を参照。
宇宙で最初の天体が誕生した後、天体が発する紫外線によって宇宙全体に広がっていた中性水素ガス(HⅠガス)が光電離されること。
ビッグバン直後の宇宙は超高温・高密度で、主に水素からなるガスは電離した状態(水素の原子核である陽子と電子がバラバラの状態で飛び回っているプラズマ)にあった(この状態の電子は自由電子と呼ばれる)。膨張につれて宇宙の温度と密度が下がった約38万年後(赤方偏移約1090)頃に、自由電子が陽子に捉えられて結合し、電離ガスはすべて中性水素ガスとなった。これが宇宙の晴れ上がりである。その後しばらく、天体がまだ存在しない宇宙の暗黒時代が続くが、初代星(始原星ともいう)の誕生に始まる星と銀河(初代天体)の形成過程が起き(宇宙の夜明けを参照)、それら天体の放つ紫外線により宇宙空間のガスは再び電離された。宇宙空間が中性水素ガス100%の状態から現在の0%に移行する宇宙の再電離が、いつから始まりどのように進みいつ完了したかはいまだ完全な理解には到っていない。それは、宇宙の初代天体の種類および形成時期とその周囲の銀河間物質の物理状態に依存した複雑なプロセスだからである。
宇宙の再電離は赤方偏移20-10(宇宙年齢約2-5億年)の間頃に始まり、赤方偏移6頃(宇宙年齢9億年頃)までには完了したと考えられている。そのプロセスに関しては、早い再電離と遅い再電離という二つの考え方がある(図参照)。早い再電離は宇宙年齢4億年未満から電離がはじまり、少しずつ電離度が進み中性水素ガスの割合が減少して宇宙年齢10億年頃までに再電離が完了する。一方、遅い再電離では、宇宙年齢6億年頃に再電離がはじまり、電離度が急速に増加して9億年頃までに再電離が完了する。ジェイムズウエッブ宇宙望遠鏡とすばる望遠鏡による最新の観測からは、両者の中間的なプロセスであったことが示唆されている。
