天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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軌道傾斜角

太陽の周りを回る惑星などの軌道は、近似的にはある一つの平面内にあると考えてよい。この平面をその惑星の軌道面と呼ぶが、基準となる面と軌道面とがなす角度 I のことを軌道傾斜角と呼ぶ。軌道要素も参照。

日食において、によって覆われた太陽の直径の度合いのこと、あるいは月食において、本影によって覆われた月の直径の度合いのことを食分と呼ぶ。

太陽の視半径を $s$、月の視半径を $m$、月と太陽の中心間の角距離$d$ とすると、日食の食分 $D$ は、$D = (s + m - d)/2s$ で表される。皆既日食中は $D$ は 1 よりも大きな値をとる。
同様に、本影の視半径を $u$、月と本影の中心間の角距離を $d$ とすると、月食の食分 $D$ は、$D = (u + m - d)/2m$ で表される。皆既月食中は $D$ は 1 よりも大きな値をとる。月食の食分は地球上の位置には依存せず、同じ値になる。

惑星の軌道は近似的には楕円形をしているが、その楕円の長軸の半分の長さのことを軌道長半径 $a$、短軸の半分の長さのことを軌道短半径 $b$ と呼ぶ。軌道要素も参照。

必要な全ての情報が揃っていない場合に、観測や測定などで値が確定している部分を拘束条件として、全ての情報を統計学的に推定する際の手法の1つ。英語の頭文字をとってMEMと呼ぶこともある。これは、すでに得ている制限条件を満たしつつ得ていない情報は最も確率が高いと考えられる推定値を選ぶ方法である。開口合成望遠鏡では、ビジビリティが限られたu-v面上の点でしか得られないため、真の天体画像を推定するには、この類の画像処理が必要となる。同じ目的のアルゴリズムとして、クリーンも広く利用されている。

もともと交差しない軌道上にあった複数の天体の軌道が乱されて、軌道が互いに交差するようになることを軌道不安定と呼ぶ。中心星の周りを公転する同程度の質量の天体(たとえば惑星)の数が2つの場合は、軌道間隔(軌道長半径の差)が、天体質量によって決まるある臨界値以下だと軌道が不安定ですぐに離心率が増大して軌道交差が起きる。また、軌道間隔が臨界値以上だと軌道は安定である。それに対して天体の数が3つ以上の場合は軌道間隔がどれだけ大きくても、有限の時間で突然、軌道不安定が起きる。軌道不安定が起きるまでの時間は天体質量と軌道間隔の大きさに依存し、天体質量が大きく軌道間隔が小さいほど短時間で不安定となる。このような過程は惑星形成過程において重要となる。また、質量の大きな天体と平均運動共鳴の位置にある小天体は大きな天体からの重力作用が蓄積して軌道が不安定となる。小惑星帯カークウッドの間隙は、この結果形成されたものであると考えられる。

惑星など太陽の周りを回る天体の軌道や運動を表現するときに便利な量が軌道要素である。惑星などの場合、その軌道は近似的に楕円軌道となるが、軌道要素としては楕円の形を表す軌道長半径 $a$と 離心率$e$、楕円の空間での向きを示す軌道傾斜角 $I$近日点引数 $\omega$昇交点黄経 $\varOmega$、そして、近日点を通過する時刻である近日点通過時刻の6つの量を軌道要素として使うことが多い(図参照。Nは昇交点、Pは近日点、$e = \sqrt{1 - (b/a)^2}$$b$ は軌道短半径)。これら6つの軌道要素は、その惑星の位置と速度の6つのパラメータと等価である。

天体の軌道を表す軌道要素は、二体問題を仮定すれば一定値をとるが、実際には摂動のために変動している。とくに瞬時の位置と速度から求めた軌道要素を接触軌道要素、短周期摂動による軌道要素の変化を取り除いたものを平均軌道要素と呼ぶ。惑星など、長期間にわたって軌道が安定している天体は平均軌道要素が便利であるが、軌道の不安定な小天体では接触軌道要素を用いるのが普通である。

z項を参照。

何らかの基準に対して同じ方向に運動することを順行、逆方向に運動することを逆行という。

1.  公転の逆行
公転の順行あるいは逆行には大きく2通りの考え方がある。一つは惑星と同じように黄道の北極方向から見て反時計回りに公転する場合を順行、時計回りに公転する場合を逆行とするもの、もう一つは中心天体の自転と同じ向きに公転する場合を順行、逆向きに公転する場合を逆行とするものである。太陽の周りを公転する天体の場合は両者はほぼ同義であるが、惑星の周りを公転する衛星の場合はどちらの定義が用いられているか注意が必要である。逆行する天体の公転軌道を逆行軌道と呼ぶ。
惑星など太陽の周りを公転する天体の多くは順行しており、これらの天体がひとつの原始惑星系円盤として運動する中から生まれてきたことを物語っている。逆行するのは一部の小惑星彗星に限られ、その中にはハレー彗星などが含まれる(図1)。太陽系以外の太陽系外惑星の中には、主星の自転と逆行する向きに公転する惑星もいくつか見つかっている。
木星土星などの巨大惑星には、順行衛星だけではなく逆行衛星も多数存在する。

2.  自転の逆行
自転の順行あるいは逆行についても、地球と同じように自転軸の北側から見て反時計回りに自転する場合を順行、時計回りに自転する場合を逆行とするもの、公転方向と同じ方向に自転する場合を順行、反対方向に自転する場合を逆行とするものなどの考え方がある。
また、自転軸のどちら側を北とするかについても、太陽系の不変面(ほぼ黄道面と同じ面)に対して北側にあるほうを自転軸の北側とするものと、自転の向きが反時計回りになるような側を北側(正極側)とするものの2つに分けることができる。たとえば、国際天文学連合(IAU)では、惑星やその衛星には前者を、準惑星・小惑星やそれらの衛星、彗星については後者を用いている。前者には順行と逆行の両方が存在するが、後者には順行しか存在しないので区別する意味がなくなる。
太陽系の惑星のほとんどは順行自転しているが、金星は自転周期が243日という、ゆっくりとした逆行自転をしており、天王星は自転軸が公転軌道面に対してほぼ横倒しの状態で自転している。

3. 見かけの逆行
地球から見た惑星は、通常天球上をゆっくりと西から東に移動(順行)するが、時折その動きが止まり()、しばらく逆向きに動くと、ふたたび動きが止まって順行に戻る(図2)。この逆向きの動きを逆行と呼ぶ。逆行は、地球が外惑星を追い越す場合や内惑星に追い越される場合に起こる見かけの運動である(図3、4参照)。
なお、留は赤経で定義することになっているが、黄道座標系を用いる方が理解しやすいので、この図2~4はあえて後者で描いている。

2つの周波数の電磁波を混合し、差の周波数または和の周波数である電磁波を取り出す回路または装置。英語のままミキサーあるいはミキサと呼ぶことも多い。電波天文学では、最も良く利用される周波数変換器である。ヘテロダイン受信機で使われる。特に、超伝導素子を用いたものは超伝導ミキサーと呼ばれる。

宇宙のスケール因子を参照。

多数の天体が存在する天域を観測する際、検出器の角分解能が十分高くないと、隣接する複数の天体を区別することができなくなる。これを天体検出のコンフュージョン限界という。すなわち、検出器の感度を上げる場合には、同時に角分解能を高めることが重要である。光子限界バックグラウンド限界も参照。

一般に、剛体の角運動量ベクトル $\boldsymbol{L}$ と角速度ベクトル $\boldsymbol{\omega}$ には

$$\boldsymbol{L}=I\boldsymbol{\omega}$$

という関係が成立する。一般に $I$ は行列量(慣性モーメントテンソル)になるが、座標軸をうまくとると非対角成分をすべて0にすることができる。この座標軸が慣性主軸である。たとえば、一様な楕円体の場合はその形状を表す3軸が慣性主軸になる。慣性主軸を座標軸とすると、角運動量や回転の運動エネルギーを簡単な式で表すことができる。

拡散減衰ともいう。宇宙初期において、バリオンと光子の相互作用によって生じるゆらぎの減衰機構。密度が高い初期の宇宙では、バリオンと光子が強く結合して一体となって振る舞っているが、徐々に密度が低下して温度が下がると、原子が中性化して再結合期を迎え、光子がバリオン成分から脱結合する。このとき、光子の平均自由行程(光子が直進できる平均的な距離)は徐々に伸びて、最終的に十分大きくなるという過程を経る。このとき光子はランダムウォーク的に進行方向を変化させ、その拡散スケール内にもともと存在したゆらぎを消し去ってしまう。これをゆらぎのシルク減衰という。これは光子の脱結合が一瞬の出来事でないために生じる効果である。シルク減衰はバリオン成分や光子にのみ働き、ダークマターのゆらぎには直接作用しない。このため、ダークマターが支配的な現実の宇宙では、全密度ゆらぎそのものに対するシルク減衰の効果はあまり大きくはない。一方、宇宙マイクロ波背景放射温度ゆらぎに対しては、小角度スケールにおいて顕著なゆらぎの抑制メカニズムである。名前はこの効果を研究したイギリス生まれの天体物理学者シルク(J. Silk)にちなんでいる。

慣性能率とも呼び、物体の回転しにくさを示す量である。たとえば、重さを無視できる棒の片方の端に回転軸があり、もう片方の端に質点と見なせる質量 $m$ のおもりが付いているとする。この場合、回転の軸に対する慣性モーメント $I$ は、棒の長さを $l$ とすると $ml^2$ となる。物体の慣性モーメントは、物体を微小部分に分割し、回転軸から個々の微小部分までの距離の2乗に微小部分の質量を掛けた量を物体全体について足し合わせることで求めることができる(実際には積分を行う)。

素粒子物理学における真空とは、エネルギーゼロの状態というよりは、物質場の励起していない基底状態、という意味である。このため、基底状態としての真空がある有限のエネルギー密度を持つことがあり得る。励起した場のない基底状態では、背景時空そのものと同じ対称性が成り立つので、真空のエネルギー運動量テンソルは、背景時空の計量テンソル $g_{\mu\nu}$ に比例した形を持つことになる。したがって、真空のエネルギー密度 $\rho_v$ と宇宙項 $\Lambda$ の間には、

$$\Lambda=8\pi G\rho_v$$

という関係が成り立つ($G$ は万有引力定数)。

まず、素粒子物理学における真空とは、エネルギー零の状態というよりは、物質場の励起していない基底状態、という意味である。したがって、何らかの原因によって真空の基底状態自体が変化することが真空の相転移である。

その最も典型的な例は、右図のようなヒッグス場の相転移である。これはヒッグス場のポテンシャルを簡単のため1成分だけ描いたものであるが、初期宇宙の高温かつ高密度時には、有限温度効果により、図の(a)のような形を持つ。これは、熱浴からエネルギーが供給されるため、取り得る状態数の多い、対称性の回復した $\phi=0$ の状態の方が好まれるようになるためである。したがって、$\phi=0$ が基底状態になる。

温度が低下すると有限温度補正はなくなり、ポテンシャルは図の(b)のようになる。このときエネルギーが最小になる基底状態は $\phi=\pm{v}$ の2通りの値をとり、いずれかの状態が実現する。この変化が真空の相転移である。ヒッグス場が期待値を持つと、それと結合しているゲージ場や物質場が質量を持つことになるので、この相転移前はゲージ場は質量ゼロで相互作用の統一がなされた状態が実現し、相転移後は相互作用の分化した状態になる。また、$\phi=0$ の状態では、ポテンシャルエネルギー密度はかさ上げされているので、温度が低下しても暫くこの状態が保たれると、インフレーション的膨張を起こすことが可能となる。

自発的対称性の破れインフレーション理論も参照。

古代中国で行われていた太陰太陽暦において、メトン周期に従って19年間に7回のうるう(閏)年を置く暦法のこと。この19年間の周期を章と呼んだ。章法では、章の始まり(章首)の年の冬至が11月1日になるよう定められ、11月1日が冬至になることを朔旦冬至(さくたんとうじ)と呼んだ。章法では19年に一度規則的に訪れる朔旦冬至は儀式をもって祝われた。後に、より詳しい計算に基づいて太陽暦との合致の精度を高め、19年間7閏の原則にこだわらない暦法(破章法)が登場する。それによると章首の年の冬至が必ず朔旦冬至とはならなくなったり、それ以外の年に朔旦冬至が起こったりした。これは不吉とされ、これを避けるために我が国では何度も改暦が行われた。

宇宙の進化の中で生まれた第一世代の星のこと。第一世代天体あるいは英語をそのまま用いてファーストスターともいう。

宇宙論的な密度ゆらぎの成長とともに主に水素分子の放射冷却により重力収縮して形成されたと考えられる。炭素より重い重元素を全く含まない星である。その質量は太陽質量よりもはるかに大きかったと予想されているため、超新星爆発などを通して、その後の銀河形成期の物質進化に大きな影響を与えたと考えられる。初代星およびそれらとほぼ同じ時期にできた星からなる銀河は原始銀河と呼ばれることもある。

なお、天文学では歴史的に、銀河円盤に多く見られる、若い星を種族I(Pop I)の星と呼び、球状星団の星などの古い星を種族II(Pop II)の星と呼ぶ。そのため、初代星は最も古い第一世代の星であるが、種族III(Pop III)と呼ぶことになった。Popは種族を表す英語のPopulationの略である。種族(星の)も参照。

宇宙のスケール因子を参照。

太陽時を参照。