天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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磁気乱流

磁場を持ったプラズマ中で生じる乱流。磁場とプラズマの流れが相互作用する結果、乱れた流れに加えて磁場も乱れている状態を考えることが一般的である。磁気レイノルズ数も参照。

望遠鏡焦点面での像面湾曲、歪曲、大気分散による色ずれなどを補正し広視野にわたる良質の結像性能を実現するための付加光学系。レンズ系で構成されることが多い。広写野(広視野)補正光学系とも呼ばれる。主焦点補正光学系も参照。

ヘリウム燃焼段階にある中質量星がHR図上で示す進化経路。$2M_{\odot}$ 以上の星は、中心核で電子の縮退が起こる前にヘリウム燃焼が起こり、中心核でのヘリウム燃焼と水素の殻燃焼の二つのエネルギー源をもつ構造となる。ヘリウム燃焼によって中心核内のヘリウムが炭素と酸素に変わっていくにしたがって、星はHR図上で、光度をあまり変化させずにループを描く進化経路をたどる。これがセファイド不安定帯を横切ると外層が脈動を始め、セファイドとなるため、セファイドループと呼ばれる。

磁力線のつなぎ変わりのこと。磁気再結合ともいう。これによって磁気エネルギーの高い磁場配位から磁気エネルギーの低い磁場配位にかわり、磁気エネルギーを解放する。太陽フレアでは磁気リコネクションがエネルギー発生の重要な素過程になっていると考えられている。

現在の宇宙の平均エネルギー密度の約4分の3を占めていると考えられる正体不明の成分。暗黒エネルギーとも呼ぶ。

1917年にアインシュタインが導入した宇宙定数(宇宙項)Λ はダークエネルギーの代表的候補である。以来、宇宙定数はさまざまな文脈で理論的に考察されていたが、その存在が認められるようになったのは、遠方のⅠa型超新星の観測データによる宇宙の加速膨張の発見(1998)による(2011年ノーベル物理学賞)。加速膨張は実効的に負の重力(斥力)を及ぼすような何らかの成分が宇宙を満たしていることを示唆する。

宇宙定数は、実効的に圧力 p と密度 ρp = -ρ という状態方程式にしたがうような成分と解釈しなおすこともできる。より一般に p = という状態方程式にしたがう成分がダークエネルギーと呼ばれている。w としては、定数を考えることが多いが、時間に依存した関数であっても良い。ただし、現在の宇宙の加速膨張を説明するためには、現在の値が w<-1/3 を満たす必要がある。現時点で知られているすべての観測事実はその観測精度の範囲内で w = -1 と矛盾するものはなく、宇宙定数はダークエネルギーの最も有力な候補である。ダークマターも参照。

電磁流体波を参照。

微小なゆらぎが減衰すること。とくに差分法にもとづく数値解析の場合、安定な解を求めるためには、計算手法が線形安定性を満たす必要がある。線形安定性を満たない計算手法を用いると、数値不安定が発生して計算が破綻する。簡単な偏微分方程式の場合には、フォン・ノイマンの安定性解析と呼ばれる方法で、計算手法の安定性を調べることができる。

バリオン物質の中で、いまだ未検出のものを指す。ダークバリオンの候補として、観測にかかりにくい暗い天体(褐色矮星白色矮星中性子星ブラックホールなど)と、銀河間空間に薄く広がった100万度から1000万度程度のガスなどが考えられている。

磁場の拡散の度合いを表す無次元の量。この値が大きいとき、磁場の拡散の度合いは小さい。ある考えている領域内を磁場が拡散する時間と、流体の運動によって磁場が輸送される時間との比になっている。磁場が拡散する時間は領域の大きさの2乗に比例し、磁場が輸送される時間は領域の大きさに比例するので、領域が大きいほど磁気レイノルズ数は大きくなる傾向にある。天体では大きな領域を扱うことが多いため、一般に磁気レイノルズ数は大きい。誘導方程式を参照。

自己重力系において、一様な状態中である波長以上の摂動が起こると、その摂動部分に含まれる質量による重力が圧力勾配に打ち勝ち摂動が成長し不安定となる。この不安定性をジーンズ不安定性という。 不安定になり始める波長をジーンズ波長、ジーンズ波長を半径とする球内の質量をジーンズ質量という。 ジーンズ波長は、背景密度 $\rho_0$ と音速 $v_{\rm{s}}$ を用いて

$$ \lambda_{\rm J}=\sqrt{\frac{\pi}{G\rho_0}} \,v_{\rm s} $$

と表される。ここでG は万有引力定数である。

特殊相対性理論において、運動する時計は時間が遅れて見えることや、 重力場中で時計の進みが遅れることなどを指す言葉。特殊相対論的な効果では 一様な速度 V で運動する時計は静止した時計に比べ、 $\sqrt{1-(V/c)^2}$ だけ遅れ、 重力ポテンシャル $\phi$ にある時計は遠方の重力が無視できる 場所にある時計に比べて $\sqrt{1+2\phi/c^2}$ だけ遅れる。 一般の静的重力場では2点 p, qで静止している時計の刻むある単位時間を、 それぞれ⊿t(p), ⊿t(q) とすると、次の関係が成り立つ。 

$$\frac {\Delta t(p)}{\Delta t(q)}=\Biggl[ \frac{g_{00}(p)}{g_{00}(q)} \Biggr]^{1/2} $$

ここで g00 はこの重力場の計量テンソル(メトリックテンソル)の時間-時間成分である。

HR図において、主系列を離れて進化した中小質量星(赤色巨星)が形成する系列。膨張によって外層の温度が下がり、ガスの不透明度が増すと対流が発生する。水素の殻燃焼で発生したエネルギーが効率よく表面から放射されるため、外層の膨張が止まり、光度が増す。これにより、恒星全体の質量にあまりよらずに赤色巨星はHR図上で系列をつくる。一方、赤色巨星の表面温度は金属量によるため、赤色巨星分枝の位置は金属量によって異なる。

現在の宇宙の平均エネルギー密度のほぼ4分の1(27%)を占める正体不明の物質。暗黒物質とも言う。我々の知っている原子からなる物質(身のまわりにある通常の物質で、宇宙論ではこれをバリオンと呼ぶことが多い)は、全エネルギー密度のわずか5%以下でしかなく、ダークマターはその5倍以上ある。残りの約4分の3(68%)はダークエネルギー(暗黒エネルギーともいう)によって占められている。ダークマターはバリオンと同じく重力相互作用を及ぼすものの、それ以外の相互作用はほとんど及ぼさない。このためそれが放射する電磁波を観測して存在を確認することはできない。

天文学ではすでに1930年代から、観測できていない物質が存在することが示唆されており、ミッシングマス(行方不明の質量)と呼ばれた。それ以後長い間ミッシングマスは不可解な問題の一つと考えられていたが、研究はそれほど進まなかった。1973年に、オストライカー(J.P. Ostriker; 1937-2025)とピーブルズ(P.J.E Peebles; 1935- )が渦巻銀河の力学安定性に関するコンピュータシミュレーションの論文を出版し、渦巻銀河がダークマターのハローに包まれていることを提唱した。さらに1970年代終わりにルービン達が、渦巻銀河の多くが平坦な回転曲線を持つことを観測から示したことをきっかけに、ミッシングマスの存在を示す観測的証拠が積み上がってきた(ミッシングマスの項を参照)。その結果、ミッシングマスは宇宙にあまねくある全ての銀河に附随するもので、天文学と物理学の根本的な問題であるとの認識から、ダークマターと呼ばれるようになった。

ダークマターの正体については、宇宙の晴れ上がりの時点で(乱雑な)運動のエネルギーが質量エネルギーより大きかった(相対論的であった)熱いダークマターと、小さかった(非相対論的であった)冷たいダークマターの2種類の可能性が考えられている。両者の中間的な温かいダークマターも考えられている。観測データとよく合うのは冷たいダークマターである(CDMモデルを参照)。その候補は、未知の素粒子であると考えられているが具体的にはわかっておらず、世界中で直接検出実験が進行中である。
なお、ガス星雲の種類として暗黒星雲があるが、ダークマター(暗黒物質)とは無関係である。


プラズマ電磁流体)中に磁場があることによって生じる圧力。磁場の強さの2乗に比例する。ガスの圧力と同じように圧縮しようとする作用に対しての反発力となり、磁気圧勾配に比例した力が生じる。ローレンツ力のうち、等方的な成分が磁気圧勾配による力である。磁気ピンチ力も参照。

電磁流体波の一種で、磁気圧とガス圧との勾配を復元力とする波。磁気音波には、磁気圧とガス圧の復元力が互いに強め合う場合と打ち消し合う場合があり、前者は速い磁気音波(ファーストモード)、後者を遅い磁気音波(スローモード)と呼んでいる。速い磁気音波は、ほぼ等方的に伝播するのに対し、遅い磁気音波は、ほぼ磁力線に沿って伝播する。

恒星の中心部でおきる核融合反応の一つ。3つのヘリウム原子(4He、α(アルファ)粒子ともいう)から1つの炭素原子(12C)が合成される反応。トリプルアルファ反応とも言う。

この反応は、(1)2つの4Heから8Beが合成される過程と、(2)8Beと4Heから励起状態にある12C*が合成される過程、および(3)励起された12C*が光子γ(あるいは電子-陽電子対)を放射して基底状態の12Cに変換される過程の3段に分けられる(12C* の * は励起状態にあることを示す。陽子数と中性子数は同じだが、原子核としての構造は基底状態の12Cと異なる)。

8Beが合成される第1段と第2段はそれぞれ91.78 keVと0.29 MeVの吸熱反応であるが、全体としては発熱反応である。合成された8Beは不安定で、極めて短い寿命で2つの4Heに戻る。しかし108 Kの高温になると、熱平衡状態でごく微量の8Beができる。この微量の8Beが第2段の反応を起こし、さらにその中の微量が12C*となる。第2段の反応で合成された12C*も多くは逆反応によりもとに戻る。第2段の反応は、運動エネルギーを含めた8Beと4Heの全エネルギーがちょうど12C*の静止エネルギーと等しいときにだけ起こるので、共鳴反応と呼ばれる。ヘリウムから炭素が合成される反応なので、ヘリウム燃焼とも呼ばれる。 この反応が起こることは1953年ホイル(F. Hoyle)によって理論的考察から提唱された。ただし近年、2×108 Kより低温では、直接3つの4Heから12Cが形成される可能性が指摘されている。

物質によって電磁波の進行方向が変わること。通常、散乱によって電磁波の振動数は変化しない。電磁波の進行方向の前方で観測した場合、物質がない場合に比べて到達する電磁波のエネルギー総量は減少するので、減光の原因となる。散乱断面積も参照。

物質による散乱の効率を表す物理量。 一定の強度で入射する単色電磁波がある場合、入射波の進行方向に垂直な単位平面を単位時間当たりに通過するエネルギーを 入射波の強度Fとし、物質に当たって散乱される電磁波のエネルギーを単位時間当たりPとすると、散乱断面積σσ=P/F で表される。

ニュートリノに微小な質量を与えるメカニズムで、標準模型に重いマヨラナ質量を持った右巻きニュートリノを導入した理論。 それによって、ニュートリノはディラック質量mDとマヨラナ質量MRの双方を持つが、質量行列を対角化して固有値を求めると、MRmD2/MR程度の質量を持つ2つの質量固有状態ができる。後者の値が観測される左巻きニュートリノの質量に対応することから、MRmDにとっておけば、 ニュートリノの微小な質量を、MRmDという微小でない量の組み合わせで実現することができる。これがシーソー機構である。

赤外線の中で最も短い波長(1-3 μm 程度)を持つものの名称。地上から観測できる赤外線はほぼ近赤外線に限られる。中間赤外線の短波長側の一部は乾燥した高山にある天文台で観測できる場合がある。大気の窓電磁波も参照。