天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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バイオシグネチャー

日本語では生命存在指標ともいう。英語のカタカナ表記に関してはバイオシグニチャー、バイオシグナチャーなども使われる。惑星を外部から観測したときに、生命が存在することの証拠と考えられる指標となるデータを指す。惑星大気中に酸素、オゾン、メタンなどの存在を示す証拠が一般的である。植物の葉は、クロロフィル(葉緑素)による波長520 nmおよび680 nm付近の2か所の吸収のために緑色に見える。しかし、実は地上の植物の葉は、750 nm以上の長波長で急激に反射率が立ち上がるという性質を持つことが知られており、レッドエッジと呼ばれている。これは地球のリモートセンシングではすでに利用されているが、仮に太陽系外惑星の表面が植物で覆われている場合にはこのレッドエッジが同定できるかもしれない。そのためこの反射特性は太陽系外惑星探査で重要なバイオシグネチャーとなる可能性が指摘されている。これらの天文学的リモートセンシングとは別に、太陽系内で惑星探査機が惑星現地で行う生命存在確認実験で使用が検討されている蛍光タンパクなどを生命存在指標と呼ぶこともある。
かつてはバイオマーカーと呼ばれたこともあるが、バイオマーカーは医薬分野などにおいて、タンパク質などの生体由来の物質で、生体内の生物学的変化を定量的に把握するための指標(マーカー)となるものを指す用語として広く使われている。医薬分野での用語と区別するために、今ではバイオマーカーではなく、バイオシグネチャーと呼ぶことが推奨されている。

夜天光を参照。

平面波が遮光板に設けられた開口部を通過するときに、開口部から 十分に離れた位置で観測される回折現象。波長が λ 、スリットのサ イズが D のとき、距離が D2 より遠い場合に適用できる。フレネル回折の距離が無限遠の極限に相当する。開口部の後ろにレンズを 置いた場合の焦点部での複素振幅分布、ひいては光強度分布は フラウンホーファー回折と同じパターンとなる。さらに、開口が円形の場合は、理想的な望遠鏡の結ぶ回折限界像(エアリーパターン) となる。

アメリカの宇宙科学者(1914-2006)。アイオワ州出身、アイオワ大学を卒業、1939年に同大学から核物理学で学位を取得。戦後、海軍から退役して、ジョンズ・ホプキンス大学の応用物理学研究所に入り、ドイツ軍から押収したV2号ロケットによって高層大気の研究を開始した。その後アイオワ大学に戻り、1957年からの国際地球観測年では指導的役割を果した。1958年にアメリカが打上げたエクスプローラ衛星によって、地球をドーナッツ状に取巻く荷電粒子帯を発見した。これはバンアレン帯と名づけられている。1985年までパイオニアマリナーボイジャーの各探査機による惑星探査計画にも貢献した。

バンアレン(James Alfred Van Allen;1914-2006)はアメリカの宇宙科学者。アイオワ州出身、アイオワ大学を卒業、1939年に同大学から核物理学で学位を取得、カーネギー研究所の地磁気部門の研究員となった。第二次世界大戦中は戦時研究として無線による爆発信管を研究、戦後、ジョンズ・ホプキンズ大学の応用物理学研究所に入り、ドイツ軍から押収したV2号ロケットによって高層大気の研究を開始した。1951年にアイオワ大学物理学教授、1959年には国立科学アカデミーの会員になった。
1957年からの国際地球観測年では指導的役割を果しており、1958年にアメリカが打上げた衛星エクスプローラ1号と3号の観測によって、地球をドーナッツ状に取巻く荷電粒子帯(放射線帯)を発見、これはバンアレン帯と名づけられた。アイオワ大学を退官する1985年までパイオニアマリナーボイジャーと言った各探査機による惑星探査計画にも貢献した。

1987年の米国国家科学メダル、1989年のスウェーデン王立科学アカデミーのクラフォード賞など多数の科学賞を受賞、アメリカの宇宙科学の父(father of space science)とも呼ばれている。

ハビタブルゾーンを参照。

地上からの人工的な光の散乱光以外の、夜空全体からやってくる光を指す。月明かりの散乱光成分を除くと、夜天光には大気発光黄道光、星野光(星やガス星雲や銀河からの集積光)が含まれており、可視光ではその比率は約2:5:5であるが、波長2 μm までの近赤外線では大部分が大気発光となる(OH夜光を参照)。黄道光と星野光は天球上の場所によって明るさが異なる。

太陽系外惑星を含む惑星の観測から得られる、惑星大気の組成や表面温度などの情報のうち、液体の水が安定に存在していること、もしくは有機物が生成される可能性のある環境であること、を示すものを指す。具体的には、大気中の水、酸素、オゾン、メタン、二酸化炭素や、赤外放射から得られる表面温度などである。生命の存在を示す証拠としてのバイオシグネチャーの意味で使われることもある。また、微生物生存可能指数(standard microbial habitability index)という、微小生命体の生息に適しているかどうか、0から1の尺度で天体を評価するものも提唱されている。

複数の処理ユニットをもつ計算機。フリン(M. Flynn)の分類では、命令列が複数かどうか、データ列が複数かどうかで計算機は SISD, SIMD, MISD, MIMD の4種になるが、近年の並列計算機のほとんどは命令が1つで複数データを処理する SIMD か複数命令で複数データを処理する MIMD、あるいは両方を組み合わせたものである。さらに、それぞれの処理ユニット(プロセッサ)が物理的、あるいは論理的に単一のメモリ空間を共有する共有メモリ並列計算機と、処理ユニットごとに別のメモリやメモリ空間を持つ分散メモリ並列計算機に分けることができる。
プロセッサが1000を超えるようないわゆる超並列計算機は、ほとんどのものがMIMD型分散メモリ並列計算機になる。1990年代中頃までは各メーカーの独自開発のプロセッサを独自開発のネットワークで結合したものが多かったが、それ以降はインテルが開発した標準的な x86 アーキテクチャのプロセッサをイーサネット、インフィニバンドなどの標準的なネットワークで結合した PC クラスタと呼ばれるシステムが主流になっている。

太陽の周りを公転している天体が太陽からの放射を受けて温められると、熱放射の際に反作用として力を受ける。天体表面に温度差があると、この力が非等方的となって天体は正味の力を受け、天体の軌道運動が変化する。この効果のことを、最初にこのことを見出した研究者にちなんでヤルコフスキー効果と呼ぶ。ヤルコフスキー効果には、日周効果と季節(年周)効果がある。
簡単のため、太陽の周りの平面円軌道上を、軌道面に垂直な自転軸を持って自転しながら運動する天体を考える。天体の太陽に面した部分は太陽からの放射を受けて温められるが、熱慣性のため、温度が最も高くなるのは太陽方向より、やや自転の方向にずれた部分である。したがって天体表面からの熱再放射の際に受ける反作用は、この部分から天体の中心に向かう方向に最も強く働く。この効果により、天体が順行自転している場合には天体の軌道角運動量は増加して軌道半径が拡大し、逆行自転のときには軌道半径が減少する(日周ヤルコフスキー効果)。
一方、自転軸が軌道平面内にあり横倒し状態で公転する天体の場合、同じく熱慣性のため、極の部分が最も高温になるのは、公転運動の途中で自転軸が太陽の方向と一致したときよりもやや後であり、熱再放射の反作用としての力もそのときに最大となる。その結果、1年で平均すると、熱再放射の反作用としての力は天体の軌道運動方向とは逆の成分を持ち、抵抗として働いて天体の軌道半径を減少させる(季節ヤルコフスキー効果)。
ヤルコフスキー効果は、mからkmサイズの小惑星の軌道進化において重要な役割を果たしたと考えられている。同様の効果により、非球対称の天体の自転角速度が変化する。この効果は、これについて先駆的な研究を行った4人の研究者(ヤルコフスキー(I. Yarkovsky)、オキーフ(J. O'Keefe)、ラジエフスキー(V. Radzievskii)、パダック(S. Paddack))の頭文字より、YORP効果と呼ばれる。

可視光域から近赤外域までの反射スペクトルから小惑星を分類したもの。スペクトル型、すなわち小惑星の色は、表層物質の組成や宇宙風化度を反映している。基本的な分類は、Cタイプ、Dタイプ、Sタイプ、Vタイプ、Xタイプの5種類に分けることができる。Cタイプ、Dタイプは炭素質コンドライトに対応するスペクトルで、小惑星帯の外側に多い。Sタイプは可視光域の反射率曲線の傾きが大きく、0.7μm にピークを持ち、小惑星帯の中心部から内側に多い。普通コンドライトの反射スペクトルが宇宙風化作用で変化したものである。Vタイプは1μm 、2μm に吸収帯がある輝石に特有のスペクトルで、玄武岩質のエコンドライト隕石であるHED隕石(エコンドライト母天体の原始地殻に由来すると考えられる隕石)に対応している。それらはVタイプで最大の小惑星ベスタから放出された衝突破片から、形成されたと考えられる。Xタイプは、反射率が波長が大きくなるのに従い穏やかに増加する。反射率の低い方から、P, M, Eタイプと分類され、それぞれ炭素質隕石、鉄隕石、エンスタタイトコンドライト・エコンドライトに対応すると考えられている。しかし、Mタイプの中で、水の存在を示す吸収帯が発見されたものは、鉄隕石ではないと考えられる。
これまで40万個以上登録されている小惑星のなかで、分光観測により分類が行われているのは数万個の天体であるが、サーベイ観測によりその数は増加している。同じ族に属する小惑星は、もともとは一つの天体が衝突で分裂したものであり、スペクトル型も近くなるはずである。これから、軌道要素が近くて同一の族とされていた小惑星のなかで、族のメンバーでない天体を見つけることが可能になる。コンドライトも参照。

望遠鏡やカメラなどの焦点距離を短くし、口径比を明るくする光学系。レンズを用いることが多い。フィルムやCCDなど検出器のサイズが固定されている場合はフォーカルリデューサーを組み込むことにより、分解能は低下するが検出器に映る写野が広がる。逆に、焦点距離を長くする光学系は、フォーカルエクスパンダーあるいはテレコンバーターと呼ばれる。

ベッケンシュタイン(J. Bekenstein)の先駆的研究によってブラックホールは、その表面積に比例したエントロピーを持った熱力学的対象として扱われることが示唆された。1975年、ホーキング(S. Hawking)はシュバルツシルトブラックホール近傍の量子場を調べることによって実際にブラックホールがその質量に反比例した温度をもった黒体放射を出すことを示し、ブラックホールと熱力学の対応が確立された。この放射をホーキング放射と呼ぶ。またブラックホールがホーキング放射を出して質量を減らすことを、ブラックホールの蒸発という。
ホーキング放射の温度 T とシュバルツシルトブラックホールの質量 M の間には次の関係がある。

$$T=\frac{\hbar c^3}{8\pi k_{\rm B} GM} =6\times 10^{-8} \left( \frac {M}{M_{\odot}}\right)^{-1} \,{\rm [K]}$$

ここで $\hbar=h/2\pi$$h$プランク定数)、c光速度kBボルツマン定数G は万有引力定数、 $M_{\odot}$ は太陽質量である。この式からわかるようにブラックホールが蒸発して質量が減少すると、ブラックホールの温度が上昇する。すなわち比熱が負となるが、これは重力熱力学に一般的なことである。

赤道儀の一種。鏡筒を支えるU字型のアームがフォークに似ているのでこの名がある。カセグレン焦点の装置がフォークに当たるため、天の北極に近い天体の観測ができないことがある。架台(望遠鏡)も参照。

太陽の分光スペクトル中に見られる吸収線のことで、フラウンホーファー線とも呼ばれる。

MK分類を参照。

漸近巨星分枝段階の赤色巨星にみられる周期の長い脈動変光星。くじら座ο(オミクロン)星のミラに代表され、変光周期は1年程度、変光の振幅は2.5等以上で、実視等級では10等もの変光を示す天体もみられる。周期と光度の間に相関がみられるため、距離測定にも用いられる。

ハワイ島マウナケア山頂にある口径3.8 mの赤外線専用望遠鏡。UKIRTと略称される。1978年に完成、翌年から観測を開始した。赤外線専用望遠鏡としては世界最大の口径である。UKIRTは、赤外線専用ということで、薄い軽量の主鏡を採用し、従来の光学望遠鏡の設計概念を破ることで安価に建設された画期的な望遠鏡であった。建設の中心となったのはエジンバラ王立天文台(ROE)であり、主鏡の研磨はグラブ-パーソンズ社が行った。イギリスの科学技術施設評議会(Science and Technology Facilities Council)が所有し、同じくマウナケア山頂にあるジェイムズクラークマクスウェル望遠鏡(JCMT)とともに、ハワイ州ヒロにある天文学共同センター(Joint Astronomy Center)が運用していたが、UKIRTの所有権は2014年10月31日をもってハワイ大学に譲渡された。2005年に完成した広視野の赤外線カメラWFCAMを用いたUKIDSS(The UKIRT Infrared Deep Sky Survey)と呼ばれる大規模なサーベイを遂行中で、データは順次公開されている。
参考ホームページ:http://wsa.roe.ac.uk/

 

太陽の彩層に存在する針状の構造。彩層下部から噴出するジェットだと考えられており、平均的には断面が600 km程度、高さは6000 kmから10000 km程度のものが多い。平均速度は25 km s-1である。

光伝導素子を参照。

半導体光検出器の一つで、逆バイアスのダイオードに光子が入射する ことにより流れる電流や電荷を測定する。ダイオードはp型半導体と n型半導体を接合したもので、順方向に電圧をかけると電流が流れるが 逆方向の電圧(逆バイアス)をかけてもほとんど電流が流れない(ダイオードの整流作用)。しかし、逆バイアス状態で半導体のバンドギャップよりもエネルギーの大きい光子が入射すると伝導電子(キャ リア)が励起されるために、単位時間当たりの入射光子数に比例した 電流が流れる。光伝導素子も参照。