天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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ストークスパラメータ

電磁波の偏光偏波の特性を表す物理量で、物理次元が同じ(測定単位が同じ)である、独立した4成分のこと。慣例として、それぞれを変数 I, Q, U, V で表す。 I は全電磁波強度

$$I=|E_{NS}|^2+|E_{EW}|^2、$$

Q は天球上での電場の振動方向が南北である直線偏波成分から東西である直線偏光成分を減じた値

$$Q=|E_{NS}|^2-|E_{EW}|^2、$$

U は電場の振動方向が方位角45度である直線偏波成分から135度である直線偏光成分を減じた値

$$U=|E_{45}|^2-|E_{135}|^2、$$

V は(電磁波源から見た振動面上での)右回りの円偏波強度から左回りの円偏光強度を減じた値

$$\hspace{0.4cm}V=|E_{RCP}|^2-|E_{LCP}|^2$$

である。この4つで偏波に関する全ての情報を表現できるので、ストークスパラメータの4成分を全て観測すれば、そこから偏波に影響する物理現象を推定することができる。

暦(れき)を参照。

天体の質量 M を光度 L で割った量で、単位光度を放射するのに必要な質量を意味する。 これが大きい天体は放射の効率が低い。天文学固有の量であり、主に恒星以上の階層の天体に適用される。生の値が扱われることはほとんどなく、 通常は太陽の質量-光度比 $M_{\odot}/L_{\odot}$ で割った無次元量 $(M/M_{\odot})/(L/L_{\odot})$ が用いられる。 M/L という表記は、ほとんどの場合はこの無次元量を意味する。 太陽は定義によってM/L=1、太陽より軽い主系列星M/L>1、 重い主系列星はM/L<1である。 星団の質量-光度比は、所属する星の全質量をそれらが放射する全光度で割った値となる。 軽い星の割合が高い星団ほど質量-光度比が大きい。 銀河銀河団は光度に寄与しないダークマターも含んでいるので、 それだけ質量-光度比は大きくなる。 たとえば銀河団の質量-光度比は100を超える。 なお、光度はバンド(測光システムを参照)によって異なるので、正確を期すために、使用したバンドパスを M/LB のように明示することもある。

水メーザーを参照。

銀河の質量が時間とともに増加すること。増加の原因としては、周囲の物質を重力で取り込むことや、他の銀河と合体すること(銀河合体)が挙げられる。実際そのような現象は観測されている。銀河は生まれたときから現在のように重かったわけではないからである。階層的集団化モデルも、銀河(や銀河団)が質量集積によって軽いものから重いものへと成長することを予想する。質量集積という用語は、銀河に含まれる星の総量(星質量)の増加に対して用いられることが多いが、ダークマターを含む全質量の増加を意味することもある。銀河の質量集積の歴史を明らかにする一つの方法は、銀河の(星)質量関数を過去にさかのぼって測定し、その時間変化を調べることである。

暦(れき)を参照。

星間雲のなかで密度が高く、水素が解離せず水素分子として存在している領域を分子雲と呼び、分子雲中でさらに密度の濃い部分を分子雲コアと呼ぶ。分子雲コアが自己重力により収縮することで星が生成される。その際により大きな角運動量を持ったガスは直接中心には到達できず、形成されつつある星の周りに円盤が形成される。これを原始惑星系円盤と呼び、この中で惑星が形成されたと考えられる。特に、太陽系を作るもととなった原始惑星系円盤のことを原始太陽系円盤または原始太陽系星雲と呼ぶ。SEEDSも参照。


アルマ望遠鏡が「視力2000」で撮影した、おうし座HL星を取り囲む円盤 / ALMA image of the protoplanetary disc around HL Tauri

https://youtu.be/p3hmp5b3__U

対象となる物体が質量ごとにどれくらいの量ずつ存在するかを示す概念。恒星や天体を対象とする場合には、天文学では質量関数と呼ぶ。

高エネルギーのガンマ線地球大気に入射すると、大気中の原子核と衝突して空気シャワーが作られる。シャワー中の荷電粒子はチェレンコフ光放射し、数分の一度に広がった光のフラッシュとなって地上に降り注ぐ。この光を集光して光電子増倍管などの高速の光センサーでとらえれば、もとのガンマ線の到来方向を知ることができる。これを大気チェレンコフ望遠鏡と呼ぶ。ただし、荷電宇宙線粒子の起こす空気シャワー(ハドロンシャワー)もチェレンコフ光を放射するため、チェレンコフ光の像の特徴の違いを利用して、ガンマ線の起こす電磁シャワーと識別する必要がある。このようなタイプは解像型大気チェレンコフ望遠鏡と呼ばれる。およそ数10 GeV以上の天体ガンマ線の観測に用いられている。

原始惑星状星雲は、太陽質量の1-8倍程度の星が漸近巨星分枝(AGB)段階 から惑星状星雲へ進化する途中の天体である。前惑星状星雲ということもある。中心の星は厚いダストやガスで覆われているので、可視光では見えなくなっているが、赤外線で明るく輝く。多くの原始惑星状星雲が双極型、多極型、トーラス状の構造を持つ楕円型など非球対称な構造を持つ。中心星が高温になって紫外線で周りのガスが電離されると惑星状星雲になる。

月、太陽、惑星、小惑星、恒星などの天体の位置を天体力学の理論に基づいて計算し、時刻の関数として表したもの。日本の代表的な天体暦は『天体位置表』であった。これは「航海暦編集の基礎となり、 また、精密天文・測地作業に必要な諸天体の位置及びその他の諸量を、推算から得られる最も高い精度で掲載した」(「まえがき」より抜粋)ものである。天体位置表は、海上保安庁海洋情報部が毎年発行していたが、2010年版を最後に刊行が終了した。2011年以降の天体暦データは、国立天文台暦象年表Web版(https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/cande/)に引き継がれている。外国には、アメリカ海軍天文台と英国航海暦局が共同して発行する Astronomical Almanac、NASAのジェット推進研究所が出版するDevelopment Ephemeris(DE)などの天体暦がある。暦(れき)も参照。

宇宙初期に生成されると考えられる位相的欠陥の一種で、面状の広がりを持つ2次元的な物体である。符号の反転に対応するような離散的な対称性が破れたときに生成される。真空多様体``M''が非連結成分、すなわち連続的に移りあえない孤立した成分を持つと、異なる真空の境界領域にドメインウォールが形成される。ドメインウォールのエネルギーの減り方は遅く、通常はすぐに宇宙の支配的エネルギーとなるため、ドメインウォールを予言するような理論には厳しい制限がつく。宇宙ひもも参照。

一般的には物理学や工学において回路の入力の変化に対する出力の応答時間を表す定数。電気回路や力学系の応答の指標などに使われ、時定数が小さいほど短い時間で定常状態に落ち着く。時定数だけが異なる系を比較すると、その時間変化は時定数を単位とすれば同じになる。例えば、物理量x が指数関数的に減衰する系では、時間t に対してx=x0 exp(-t/τ) で表される変化を示し、この場合の時定数は τである。

銀河クェーサーから出た光がわれわれに届くまでに銀河間空間の物質によって吸収されること。銀河間空間にはさまざまな規模のガス雲や希薄なガスが存在している。それらのほとんどは暗すぎて直接検出することはできないが、もし背後に明るい天体があると、その天体のスペクトルに吸収線を刻むので、影絵のように存在を知ることができる。このようにして見つかるガス雲をクェーサー吸収線系という。吸収線系は、水素の吸収線の強度(水素の柱密度)に基づいていくつかの種類に分類されている。炭素やケイ素などの重元素による吸収線を持つものもある。吸収線系は銀河間物質の物理状態や元素組成を探る重要な手掛かりであるほか、銀河の進化にも関与していると考えられている。ライマン𝛂線より短波長の連続光が受ける強い銀河間吸収によって高赤方偏移宇宙にある銀河(ライマンブレイク銀河)を探すことができる。

銀河間ダストおよびダストを参照。

銀河間空間に存在するとされるダスト。微量であるため直接検出することは極めて難しいが、遠方天体を観測してその天体の減光量から間接的に検出する試みによって、存在が示唆されている。遠方天体とわれわれとの間の銀河間空間にダストがあると、遠方天体が本来よりもわずかに暗く観測されるのである。銀河(の中の星)で作られたダストが星風超新星爆発によって銀河間空間に流れ出して銀河間ダストになると考えられている。

励起状態にあるガス構成粒子(原子、分子)が、より低いエネルギー準位の量子状態へと自然に遷移すると同時にエネルギー準位の差に対応する波長の光子を放出する現象。自然放射とも呼ばれる。

宇宙の起源、銀河太陽系外惑星原始惑星系円盤、星など多様な 天文学課題の解明のためにアメリカ航空宇宙局(NASA)によって開発された天文台型の赤外線宇宙望遠鏡。口径が85cmの軽量化ベリリウム主鏡を採用し。3-160 μm の赤外線を観測する。2003年8月に打ち上げられ、地球追随太陽周回軌道に投入された。スペースシャトルにより軌道に投入されたNASAのグレートオブザーバトリーズ(Great Observatories)シリーズ4機のうちの一つである。

観測装置としてはIRAC(InfraRed Array Camera; 感度波長 3.6, 4.5, 5.8, 8.0 μm)、IRS(InfraRed Spectrograph; 感度波長 5-40μm)、MIPS(Multiband Imaging Photometer for Spitzer; 感度波長 24, 70, 160 μm)の3台を搭載し、広い波長範囲で、高感度の撮像と分光観測が可能となっている。2009年5月に液体ヘリウムが 枯渇し望遠鏡温度が上昇したために完全な運用は終了したが、 IRACの3.6, 4.8 μm バンドの運用には支障がないためWarm Spitzerとして運用が続けられたが、2020年1月30日に全ての運用を終了した。米国の天文学者ライマン・スピッツアー(Lyman Spitzer 1914-97)にちなんで命名される。

ホームページ :http://www.spitzer.caltech.edu/

望遠鏡の先端部または観測装置の入射瞳に置く透過回折格子のこと。写野内にあるすべての天体のスペクトルを一度に撮影することができる。対物分光も参照。

電場と磁場の振動が互を誘導し合って空間を伝わる波のこと。荷電粒子が力を受けて加速度運動する場合や、原子中の電子のエネルギー状態が変化する際に発生する(スペクトルも参照)。電磁波は空間内で電場と磁場そのものが振動する現象で、媒質がない真空中でも空間を伝わり、エネルギーを運ぶ。電磁波は横波で、電場と磁場の振動方向は互いに直交しており、波はその両者に直交する方向に進む(図1参照)。

真空中で電磁波の伝わる速さ(光速度 $c$)はどのような系から見ても一定である。これは光速度不変の原理と呼ばれる。光速度 $c$ と波長 $\lambda$ と周波数(振動数ともいう)$\nu$ の間には $c = \nu\lambda$ の関係がある。媒質中を電磁波が伝わる速さ $v$ は真空中の光速度 $c$ より遅く、$n = c/v$ で媒質の屈折率 $n$ が定義されている。

電磁波は、波長によって性質が変わり、また物質との相互作用の仕方が変わるので、波長帯毎に異なった名前で呼ばれることが多い。波長の短い方から順に、ガンマ線X線紫外線可視光(可視光線)、赤外線電波と呼ばれるが、それぞれの中でさらに細分して呼ばれることもある(図2)。ただし、境界波長(エネルギー)はそれほど厳密に決まっているわけではない。図2は理科年表2017年版に基づいて作成したものである。とくに、X線とガンマ線の区別は波長によるものではなく、原子核の状態の遷移によって発生するものをガンマ線、電子の状態の遷移によって発生するものをX線と呼ぶ。

電磁波は、波動としての性質(波動性)と粒子としての性質(粒子性)を併せ持つ。つまり電磁波は「波でもあり粒子でもある」。これを粒子と波動の二重性ということがある(ド・ブローイ波長も参照)。電磁波の波長が長いほど波動性が、短いほど粒子性が顕著になる。粒子としての電磁波を光子と呼ぶ。電磁波の周波数(振動数)$\nu$ と光子1個が運ぶエネルギー $E$ の間には $E=h\nu$ という関係がある。ここで $h$プランク定数である。すなわち、周波数の高い(波長の短い)電磁波ほど光子のエネルギーが高い。電磁波を特徴付ける場合、ガンマ線やX線など波長の短い電磁波は、波長ではなくエネルギーで、また波長の長い電波は、波長ではなく周波数で表すことが多い。中間の可視光や赤外線は波長を用いることが多い。電磁波の名称と性質を表1にまとめた。

宇宙にはさまざまな天体があり、広範囲のエネルギーが関与するさまざまな活動をしているので、宇宙からはすべての波長の電磁波が地球に届く。そのうち、可視光線と赤外線の一部、および電波は地表まで届くが(図3:大気の窓を参照)、それ以外の電磁波は地球大気に吸収されて地表には届かない。ただし、波長数10 mより長い電波は、吸収されるのではなく電離圏 (電離層とも言う)で反射されるために地表に届かない。それらを観測するためには、人工衛星などの飛翔体を用いて大気外から観測する必要がある。一つの天体をさまざまな電磁波で見ると、電磁波を発生するメカニズムの違いによって、さまざまに違った姿が見える(図4、図5を参照)。宇宙で 起こる現象を理解するには、すべての波長の電磁波による観測が重要である。