天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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高地(月の)

月の表面で、反射率が高く明るく見える地域。標高が高く、月表面の約8割を占める。月の高地は、Ca, Alに富む斜長石を多く含む斜長岩が主成分である。衝突クレーターが多く、飽和状態にあることから(クレーター年代学を参照)、形成年代が古いことがわかる。高地の成因としては、月の初期のマグマオーシャンから固化した密度の低い斜長石の結晶が浮上して高地地殻を形成したというマグマオーシャン仮説が有力である。アポロ探査機の持ち帰った岩石などの分析から、斜長石のほかに、Mgの多い輝石とカンラン石を多く含む岩石、クリープと呼ばれるリンや希土類元素に富む岩石が含まれることがわかっている。

月以外でも、火星金星の標高の高い地域も高地と呼ばれる。地球の大陸も惑星スケールでは高地と呼ぶことができる。火星では高地は主に南半球に分布しており、衝突クレーター密度の高い古い地域である。基本的には玄武岩で構成されていると考えられているが、安山岩に近い組成の岩石も含まれているらしい。

恒星においてダイナモ機構が磁気活動を駆動していると考えられる場合、これを恒星ダイナモという。フレア星のほか、Ca HK線の強度に数年以上の長周期変化を示す星も多く見つかっており、これらの星でも恒星ダイナモが働いていると考えられる。

複数本のレーザー光から作られる空間的な干渉縞(光格子)の中に、絶対零度近くまで冷却した多数のストロンチウム原子を閉じこめ、それらの原子が吸収あるいは放射する光の振動数を精密に測定して時刻の単位にする時計。時計に使う遷移に関わる二つのエネルギー準位で光シュタルク効果が打ち消し合うような周波数のレーザーを使うことがポイントである。セシウム原子を用いる現在の原子秒の実現精度であるフェムト秒(10-15 秒)よりも1000倍高い精度(10-18 秒)の実現を目指す。日本で開発された技術であり、次世代の時刻標準器の有望な候補である。1次周波数標準器も参照。

光干渉計において、複数の望遠鏡からの光を干渉させるために望遠鏡から光結合器までの光学的距離(光路長)を調整する装置。干渉が起こるためには、天体からの光の同一波面を光結合器に導く必要があるが、一般に、離れた位置にある複数の望遠鏡に到達する波面は同一ではない。そこで、望遠鏡と光結合器の間に移動可能な反射鏡の組み合わせによって光路長を調節する光遅延線を設置して、複数の望遠鏡からの波面を揃える(光路差をゼロにする)必要がある。

超弦理論において、開弦の端を固定する(ディリクレ境界条件)対象として、ディリクレブレーン(Dブレーン)というものが考えられた。これは、広がりを持った物理的対象であり、膜(membrane)を他の次元にも拡張したものである。宇宙論におけるブレーンとは、より一般的に高次元理論を考えたときに、われわれの暮らす4次元世界が特定の余剰次元座標に位置する膜のような存在であるとする考え方のこと。重力以外の相互作用はブレーン上にしか伝播しないと考えるとこのような立場が可能になる。

遠赤外線およびサブミリ波を用いて主に低温宇宙を観測するためにヨーロッパ宇宙機関(ESA)が中心となって開発した天文衛星。 2009年5月14日にプランク衛星と相乗りで打ち上げられ、太陽-地球の ラグランジュ点(L2に投入された。口径3.5 mの望遠鏡で波長55-672 μm の 赤外線およびサブミリ波を観測する。サブミリ波を観測する衛星として 初めてのものである。撮像分光カメラ(PACS: 観測波長=55-210 μm)、 分光測光撮像装置(SPIRE: 観測波長=194-672 μm)、遠赤外線ヘテロダイン受信機を用いた分光計(HIFI: 観測波長=157-212 μm と 240-625 μm)の3台の 観測装置を搭載している。2009年6月14日にファーストライトを行い、 2013年4月29日に冷却用の液体ヘリウムがなくなり、科学運用を終了した。 星形成の現場が分子雲に普遍的に存在する長いフィラメンの形をした高密度領域であることなど、天文学的に重要な多くの知見を発見した。 2017年時点では宇宙望遠鏡としては最大口径の人工衛星である。 この衛星の名前は天王星赤外線放射を発見した英国の天文学者ウィリアム・ハーシェルにちなんでいる。

ホームページ(ESA):http://sci.esa.int/herschel/
ホームページ(Caltech):https://www.herschel.caltech.edu/

レンズ表面からの反射を低減するための薄膜。波長 λ の光についてレンズ表面に有効厚さ λ/4 の薄膜があると、薄膜の表面側で反射した光と裏面側で反射した光の位相は λ/2 だけ異なるため打ち消し合い反射光強度はゼロとなるはずである。このような反射防止膜を1/4波長膜と呼ぶ。単層反射防止膜は所望の波長での反射率を低減できる。多数の薄膜を積層することで広い波長範囲での反射防止膜を実現することもできる。コーティングも参照。

ハーシェル宇宙天文台を参照。

もともと放射性のない同位体(核種を参照)が、放射線を浴びることによって放射性同位元素となること。人工衛星の軌道上では、検出器を構成する元素が宇宙線太陽フレア粒子との核反応により放射化し、検出器の雑音を変化させる原因となる。一般に元素の原子核が軽いほど寿命の短い核種が、また重いほど寿命の長い核種が生成される。破砕反応も参照。

放射強度を参照。

宇宙の単位体積の空間内にある銀河の個数をその銀河の星質量の関数として表したもの。質量関数も参照。

太陽や恒星を光で見たときに表面として見える層。通常、特定の波長(たとえば500 nm)で測った光学的深さが1程度の層を光球の底と考える。太陽の場合には数百kmの厚みをもつ。

星間物質から星が作られる現象を総称して星生成あるいは星形成という。素過程としての星生成は、低温な星間物質中に含まれる分子雲コアが自己重力によって収縮し星に至る現象として理解できる。分子雲コアも星もガスからなる系という点では共通しているが、星は、自己重力を圧力勾配で支えている系であることと、電磁波に対して不透明であるため短い時間スケールでは断熱的に振る舞うという点が、分子雲コアとは本質的に異なる。分子雲コアは、収縮によって発生する圧縮仕事を速やかに放射で外に逃がすため、広い密度範囲で等温的に振る舞う。このため星生成を起こす重力収縮は動的なもので、自由落下時間程度で進展する。
「星生成」と「星形成」は同じ意味で用いられる。「星生成率」「星形成率」などの複合語でも両方が併用されている。素過程に重点をおくことが多い天の川銀河銀河系)内の星形成の研究分野では「星形成」が、一つの銀河全体の星生成率や宇宙の星生成率密度などの研究分野では「星生成」が用いられる傾向がある。

恒星大気中に存在すると想定されるミクロなスケールの乱流運動のこと。微小乱流ともいわれる。成長曲線において、スペクトル線の中央で吸収の飽和が起こることにより等価幅の増大が鈍る部分がある。その鈍り方は原子のランダムな熱運動によるドップラー効果の程度に依存するが、熱運動だけを考慮したのでは観測と合わないことが多いことから、ミクロ乱流パラメータというものが導入された。太陽については約1 km/s 程度という値が得られている。この乱流運動の実体については十分明らかになってはいない。恒星大気モデルも参照。

原子や分子が示すスペクトル線の波長は、その原子や分子内の電子が持つエネルギー準位がどのような構造であるかによって変わる。そのうち、次に述べる理由によって生じるエネルギー準位の違いは、他の原因よりもエネルギー差が桁違いに小さい場合が多く、これを超微細構造という。すなわち、超微細構造とは、原子や分子内を運動している電子によって生じる電磁場と原子核のスピンや電気四重極子モーメントの間の相互作用によって、他の量子状態が全て同じであってもエネルギー値が異なる値となっているエネルギー準位の構造をいう。電子のスピンと原子核のスピンの間のスピン-スピン相互作用によるものが含まれる。また、超微細構造に対応したエネルギー準位の違いによって発生する線スペクトル超微細構造線と呼ぶ。中性水素原子21cm線は他の量子状態が同じエネルギー準位に対し、陽子のスピンと電子のスピンが平行でエネルギーが高い状態と反平行でエネルギーが低い状態の間で遷移するときに放射される線スペクトルである。また、OHラジカルのエネルギー準位の基底状態は微細構造微細構造線を参照)として2つの準位に分裂するが(ラムダ2重項)、さらに超微細構造によってそれぞれが2つに分裂して合計4つの準位に分裂する。

1. 測光システムを参照。

2. バンドスペクトルを参照。

電磁相互作用の強さを表す無次元の定数。スピン-軌道相互作用によるエネルギー準位の差を規定する定数である。ボーア模型の水素原子における電子の速度の光速に対する比ともいえる。SI単位系では、

α=e22ε0hc

であり、cgsガウス単位系では

α=2πe2hc

で表される。ここで、 e電気素量(素電荷)、 hプランク定数 c は真空中の光速度ε0 は真空の誘電率である。具体的に値を計算すると、 α=1/137.036 である。微細構造線も参照。

2つの検出器の信号出力パルスのタイミングを比較して、片方のパルスが存在し、もう一方に同時にパルスが存在しないときのみ信号処理を行う方法。主検出器を副検出器で囲み、外部から主検出器に侵入した粒子を排除し、内部で発生した粒子のみ検出したい場合などに用いられる。たとえばガンマ線観測衛星では雑音となる荷電宇宙線を排除するために用いる。同時計数法も参照。

小惑星一つの名称。木星の軌道の外側にあり、他の巨大惑星である土星天王星海王星のどれかと軌道交差する氷天体(小惑星)のグループをケンタウルス族と呼ぶ。ケンタウルス族は太陽系外縁天体摂動を受けて軌道が内側に移動したものであると考えられている。巨大惑星と軌道交差しているために軌道は安定ではなく、数百万年から数千万年の間に軌道不安定となり、一部は短周期彗星となると考えられている。最終的には太陽や惑星に衝突、あるいは惑星からの重力散乱により太陽系外へ放出されると考えられる。ケンタウルス族に属する天体の中には彗星活動を示すものがあり、キロンがその一つである。

固体内部では電子の持つことが可能なエネルギーに制限があるが、結晶内部では構成原子の周期構造から複数の連続的なエネルギー範囲(「許容帯」もしくは「バンド」)を取ることができる。そのバンドとバンドの間は、電子はその範囲のエネルギーを持つことができないバンドギャップ(禁制帯)となる。光検出器などの半導体の場合は、電子で満たされたバンド(価電子帯)と電子が空のバンド(伝導帯)の間のことを呼ぶことが多い。また、このギャップに相当するエネルギーの値(価電子帯の上端と伝導帯の下端の差)を指す場合もある。バンドギャップは価電子を伝導帯に遷移させるのに必要な最低エネルギーに対応し、光検出器の場合には感度を持つ光の最も長い波長のエネルギーに相当する。光伝導素子も参照。