電波望遠鏡のアンテナ反射面や光学望遠鏡の主鏡表面が設計上の形状からずれている場合にそのずれを鏡面誤差という。鏡面誤差が大きいほど望遠鏡の結像性能が悪くなり効率が低下する。
電波望遠鏡の場合を少し詳しく見る。アンテナの主鏡面が理想的な放物面からずれている場合には反射された電波の一部は焦点に集まらないか、あるいは集まっても干渉によって理想的な強度より弱くなる。そのような放物面からのずれを広い意味での鏡面誤差という。主鏡面全体の大きな構造が放物面からずれている場合には一部の電波は焦点に集まらない。また主鏡面の表面の滑らかさが悪く、凹凸がある場合には凹面と凸面で反射した電波はその両面の高さの差を$\varepsilon$ とすると $2\varepsilon/\lambda$ だけの光路長が発生し、位相差のある電波が焦点に集まって合成されて弱くなる。ここで$\lambda$ は電波の波長である。この凹凸のことを狭い意味での鏡面誤差という。凹凸の大きさがランダムな場合は統計的に $\exp\{-(4\pi \varepsilon/\lambda)^{2}\}$ だけ電波は減衰し、アンテナの開口能率 $\eta_{\rm A}$ を減少させる。したがって、観測波長が短くなるほど鏡面誤差の影響は大きくなる。鏡面誤差は主鏡だけではなく、副鏡やビーム伝送系の他の反射鏡にも存在し、全体の鏡面誤差が開口能率に影響を与える。
光学望遠鏡でも原理は同じだが、波長が電波より格段に短いので、それに対応して鏡面誤差を小さくしないと良い結像性能が得られない。すばる望遠鏡の主鏡の鏡面誤差は凹凸差の最大値(peak-to-peak)で100 nm、平均自乗誤差(rms)で12 nmである。
電磁波が物質中を透過する際に、どの程度の割合が吸収によって弱くなるかを示す係数。
一様な物質中を電磁波が透過するとき、ほとんどの場合は、入射強度に対して一定の割合だけ吸収が起こり、その程度は透過距離に比例する。その比例係数が吸収係数である。したがって、吸収係数は透過する光路長当たりの量となり、その物理次元は [L-1] である。透過する物質の密度のみが異なる場合には、物質密度に比例して変化することも多いので、上記の意味での吸収係数を物質密度で割った値である、質量吸収係数を用いることも多い。こちらの物理次元は [L2M-1] である。質量吸収係数との混同を避けるために、物理次元が [L-1] となる吸収係数を特に線吸収係数と呼ぶこともある。放射率、光学的厚さも参照。
スペクトル中で、特定の波長で強度が弱い部分。暗線ともいう。観測者から見て、高温の連続光源の手前に低温度のガスがある場合に観測される。太陽スペクトル中のフラウンホーファー線は代表的な吸収線である。吸収線スペクトル、スペクトル線も参照。
吸収線を含むスペクトル。 通常の星のスペクトルは吸収線スペクトルである。太陽の可視光域に見られる吸収線はフラウンホーファー線と呼ばれる。
物質による電磁波の吸収の効率を表す物理量。一定の強度で入射する単色電磁波がある場合、入射波の進行方向に垂直な単位平面を単位時間当たりに通過するエネルギーを入射波の強度 F とし、物質に吸収される電磁波のエネルギーを単位時間当たり P とすると、吸収断面積 σ は σ = P/F で表される。散乱断面積、減光も参照。
平行光を球面鏡や球面レンズで集光するとき、光軸から遠い光線の焦点位置が、光軸に近い光線の焦点位置より手前になるために起こる収差。
中心波長の1/50-1/200程度の幅しかない非常に透過幅の狭い狭帯域フィルターを用いた測光観測のこと。これに対し中心波長の数分の1の波長幅を持つフィルターでの測光観測は広帯域測光と呼ばれる。狭帯域測光は主に水素や酸素などの輝線放射の波長に合わせたフィルターを用い、対象天体のガスの状態や天体の活動性を調査する際に用いられる。また、遠方の輝線を出している銀河の赤方偏移探査にも用いられる。
基線を参照。
電磁波の強さを表す物理量だが、天文学では状況によって、以下のように物理次元が異なる複数の量を同じ輝度ということばを用いて示すので注意が必要。
可視光による通常の恒星の観測のように、天体の広がりが直接測定できない場合には、天体からの電磁放射による単位時間当たりのエネルギー到達量を輝度と呼ぶ。星雲や銀河などのように広がりが容易に観測できる場合には、光源の広がりを考慮して、単位立体角当たり単位時間当たりのエネルギー到達量を輝度と呼ぶ。上記の場合と区別するために特に表面輝度と呼ぶこともある。実際には角分解能が有限であるため、それで規定される観測範囲内で感度に応じた重みで平均した値が観測される表面輝度となる。
上記それぞれの場合で、分光して周波数当たりとする場合と指定した周波数範囲で積分した値を用いる場合とがある。物理学の他の分野では単位周波数当たりの表面輝度のことだけを輝度と呼ぶ。これは放射強度と同じ物理量である。
輝度温度、表面輝度も参照。
電磁波の放射強度を示す物理量。天体の輝度 $I_\nu$ に対して、
$$T_\mathrm{B}=\frac{c^2}{2k_\mathrm{b} \nu^2} I_\nu$$
で与えられ、その物理次元は温度になる。ここで、$\nu$ は電磁波の周波数、$ k_\mathrm{b}$ はボルツマン定数、$c$ は真空中の光速である。電磁放射が黒体放射で、レイリー-ジーンズの近似式が成り立つ場合には、その温度と等しい。電磁波が黒体放射とは全く異なっている場合やレイリー-ジーンズの近似式が成り立たない場合にも、同じ定義で輝度温度を用いることに注意。プランクの法則、黒体放射も参照。
イメージスケールを参照。
天体画像において、画像上の $(x,y)$ 座標と、その画像に投影された天球面上の座標(標準座標)との対応関係を表す係数のこと。もともとは写真乾板(photographic plate)が検出器として使用されていたため、この名前がある。画像上の座標 $(x,y)$ に対応する標準座標を $(\xi, \eta)$(単位は望遠鏡の焦点距離であることに注意)とすると、最も単純な1次の変換では、以下の式にある$A, B, C, D, E, F$の6つの係数が乾板定数となる。
$$\xi = A x + B y + C, \hspace{1 cm}\eta = D x + E y + F $$
この場合は、天球上の位置(すなわち標準座標)がわかっている星が3個あれば乾板定数が決まることになる。しかし、それは標準座標、画像上の座標ともに含まれる誤差を無視して厳密解を求めることになり、不適切な解を得ることが多い。したがって、通常はもっと多数の星の位置から上の式を最小自乗法で解いて乾板定数を求める。画像に歪曲がある場合は、$x,y$ に対してもっと高次の式を使う必要があり、それに応じて乾板定数の数も増えていく。
光の伝搬を光線の追跡で記述する光学手法。光学系が光の波長に比べて十分に大きい場合や、光の干渉や回折という波の性質が重要でない範囲で有用な理論。波動光学も参照。
代表色表示を参照。
天体観測は、目的天体の近くにある明るい星に対する相対的な位置、明るさ、スペクトルなどを観測することにより行われるが、その際の比較対象となる星を基準星と呼ぶ。基準星は精密に観測されカタログ化されている。位置測定の基準となる星は位置標準星といい、明るさやスペクトルなどの基準となる星は標準星(測光標準星、分光標準星)と呼ばれる。
電波干渉計における基本要素は、2台の素子アンテナからなるアンテナ対である。これら2台のアンテナ位置を結んだ線のことを基線と呼ぶ。また、視野の基準点(位相中心)から基線を眺めたときに投影されて見えるものを、投影基線と呼ぶ。基線の長さを基線長と呼び、向きまで考える場合は基線ベクトルで表現する。基線長は通常、幾何学的なアンテナ間隔 D を観測波長 λ を単位にして測った D/λ で表される。投影基線ベクトルは $(u,v)$ 面上の座標で表現される。これは、天体輝度分布を構成する空間周波数成分のうち、その基線が取得する成分を表している。
スペクトル中で、特定の波長で強度が強い部分。高温のガスからの光を直接観測するときに見られる。スペクトル線、輝線スペクトルも参照。
輝線を含むスペクトル。惑星状星雲のように、高温のガスだけが輝いている天体では、連続光成分はほとんどなく、輝線だけが観測される。このようなスペクトルを指すことが多い。電波では中性水素原子の出す21cm線や分子雲中の星間分子の出す輝線(CO(J=1-0)輝線など)は輝線スペクトルとして観測されることが多い。
同一光源からの光の干渉によって生じる縞模様。天体観測装置では、ファブリー-ペローエタロンを干渉分光素子として用いたり、薄膜を用いた干渉フィルターとして光の干渉効果を積極的に利用することがある。一方で、ガラス板の裏面反射による不要な干渉縞が観測の妨げとなることもあり、装置製作上注意を要する。可視度も参照。
ガラス表面に複数の誘電体薄膜を形成し、空気と誘電体、誘電体とガラス基板、および異なる誘電体どうしの界面で生じる反射光と透過光の干渉の特性が波長に依存することを利用して、必要な波長帯の光のみが透過するように、誘電体成分とその膜厚を調整して作られるフィルターをいう。色ガラスフィルターより波長特性をシャープに限定でき、透過率も高いものを製作できる反面、入射光の角度で透過特性が変わるという性質がある。
