天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

New

「QRコード付き名刺型カード」ダウンロード(PDF)

林の禁止領域

HR図上で林トラックの右側(低温側)の領域のこと。この領域には平衡状態にある恒星が存在できないという意味で禁止領域(forbidden zone)と呼ばれる。

反転分布を参照。

インドのタタ基礎研究所電波天体物理学センターが運用している電波干渉計。英名のGiant Metre Wave Radio Telescopeを略してGMRTとも呼ばれるインドのプネーの北約80 kmの地点を中心に、口径45 mのアンテナ30台が最大基線長25 kmの範囲に展開している。150-1500 MHzの周波数帯での観測が可能で、最高1秒角の角分解能が達成されている。赤方偏移した中性水素原子ガス輝線(21cm線)や活動的天体のシンクロトロン放射パルサーなどの観測が盛んである。
ホームページ:http://www.gmrt.ncra.tifr.res.in/

量子力学の根幹をなす概念の1つ。1つの物理量の決定精度が向上すると、それに反比例して決定精度が原理的に劣化する物理量が1つ存在するという理論上の概念。1927年にドイツのハイゼンベルク(Werner Heisenberg)によって提唱された。このような物理量の対を、互いに共役であるといい、それら二つの決定精度の積は h/4π=/2 が限界でそれより小さくはできない。ここで、換算プランク定数hプランク定数πは円周率である。共役関係にある物理量の例としては、粒子の位置と運動量、角度と角運動量、時間とエネルギーなどがある。量子遷移に伴う線スペクトル自然幅を持つのも、不確定性原理の直接の効果である。

ある粒子の位置 x と運動量 p を測定する場合の不確定性原理を表すハイゼンベルクの不等式は以下のようになる。

Δx×Δph4π

ここで、Δx は位置測定の平均誤差、Δp は運動量測定の平均誤差を表す。すなわち、位置を精密に測定しようとする(Δx を小さくしようとする)と運動量の不定性 Δp が大きくなり、逆に運動量を精密に測定しようとする(Δp を小さくしようとする)と位置の不定性 Δx が大きくなるのである。

このハイゼンベルクの不等式よりも精密な不等式が2003年に名古屋大学の小澤正直により提案され、小澤の不等式と呼ばれている。2009年に小澤の不等式の正しさが実験により証明された。

アメリカのハーバード大学の研究所として1839年に設立された。マサチューセッツ州ケンブリッジにある。1973年以降はスミソニアン天文台(1890年設立)とともに、ハーバード-スミソニアン天体物理学研究センターとして運営されている。アメリカでも有数の古くからの天文台で、南半球での観測も行うなどして、恒星スペクトル分類を初め数々の歴史的な業績で知られている。1847年に完成した口径15インチ(38 cm)の屈折望遠鏡はGreat Refractorと呼ばれその後20年間アメリカ最大の望遠鏡であった。ここ50年間は一般観望に使われている。写真乾板保管庫には、1880年代から1989年まで100年以上に渡って(1953-68年は抜けている)さまざまな望遠鏡で撮影された約50万枚の天体写真乾板がある。その中には、ヘンリードレーパー星表に使われたものや、リービット(H. Leavitt)がセファイド周期-光度関係を発見したマゼラン銀河の乾板もある。写真乾板に基づく研究を支えたのはリービットキャノン(A.J. Cannon)ら優秀な女性研究助手たちで、彼女たちはThe Harvard Women あるいはHarvard Computers と呼ばれた。
ホームページ:http://www.cfa.harvard.edu/hco/

2つの数値データの間で見られる定量的な関連性のこと。多くの場合、想定される関連性は比較的単純な関係式で関連付けられていることを想定している。2つのデータの値に常に1対1の対応関係がある場合には「完全に相関している」といい、2つのデータの間に何の関連性もない場合には「完全に無相関である」という。一般には、その中間になり、前者に近いと「相関が強い」、後者の近いと「相関が弱い」という。例えば、異なる部分から熱的な過程で放射される電磁波は完全に無相関である。相関の度合いを定量的に表した指標を相関係数という。なお、電波干渉計分光器では、これとは別に相関関数を得ることを「相関をとる」という。なお、2つの量に相関がある場合でも、それが因果関係があることを直ちに意味しないことに注意。

共通する1つの変数 t にしたがって変動する2つの信号 s1(t),s2(t) の間にどの程度の関連性があるかを、変数の差 τ の関数として表したものを相関関数と呼ぶ。信号が時系列のデータの場合には、変数 t は時刻となる。関連性を調べる2つの信号 s1(t),s2(t) が同一のものを自己相関関数、異なる場合を相互相関関数という。数学的には、次の式で定義される。

C12(τ)=s1(t)s2(tτ)

ここで、xx の標本平均をとることを、 は複素共役(信号が複素数の場合)を表す。信号が時系列データで、エルゴード性が成り立つと考えられる場合には、標本平均が時間平均に等しいので、時間平均

C12(τ)=s1(t)s2(tτ)

で代用することが多い。ここで、 xx の時間平均を表す。また、2つの信号の振幅により正規化された相関関数

C^12(τ)=s1(t)s2(tτ)|s1(t)|2 |s2(t)|2

を使う場合もある。正規化された相互相関関数は

|C^12(τ))|1

を満たす。

わずかに方向の異なる2つの天体からの光は望遠鏡に届くまでに、大気の異なる部分を通過する。天体間の角距離が大きいと受ける大気ゆらぎが異なる。角距離が小さく、実効的に大気ゆらぎが共通とみなせる角度を等波面離角と呼ぶ。
補償光学で画質改善ができる視野の大きさを表す目安となる。

流星群を構成する流星体(ダスト)は、母天体の軌道に沿った、ほぼ同じ軌道を運動している。そのため、地球に突入した流星は、天球上では1点から放射状に流れるように見える。これを、放射点もしくは輻射点と呼ぶ。散在流星では、放射点はなく天球上をほぼランダムに流れる。

高い塔を立てて、その上に天体追尾の機構を設置し、塔の中に設けられた光学系によって集光する形式の望遠鏡のこと。主に太陽観測に用いられる。塔を用いるのは、長い焦点距離を取るためと望遠鏡を固定して安定化させるため、さらには地表付近の乱流によってシーイングが悪化するのを防ぐためである。長い焦点距離によって、太陽面を大きく拡大して観測できる。塔望遠鏡の焦点面は地表付近に設けられることが多く、さらに焦点面から先には大型の高分散分光器が置かれ、太陽スペクトルの超精密分光に用いられる。天体追尾機構としてはシーロスタット(ヘリオスタット)が一般的に用いられる。

スペイン領カナリア諸島のラパルマ島にある、イタリア国立の口径3.58 mの光学赤外線望遠鏡。英語名称はThe Galileo National Telescopeであるが、イタリア語を正式名称とし、その頭文字を取ってTNGと略称される。1998年にファーストライトを迎え、現在はイタリア国立天体物理研究所によって運用されている。望遠鏡およびドームの設計は、ヨーロッパ南天天文台(ESO)の3.5 m新技術望遠鏡(NTT)と類似のものであり、TNGはNTTのほぼコピーといってよい。架台は経緯台のリッチー-クレチアン望遠鏡である。NTTと同様に、主鏡は78本のアクチュエーターで能動支持されている。主焦点カセグレン焦点はなく、二つのナスミス焦点口径比F/11)を持つ。ドームは望遠鏡と同期して回る。望遠鏡時間の75%が国際共同利用に供されている。
ホームページ:http://www.tng.iac.es/

ウラノメトリアを参照。

日の出前と日の入り後、太陽が地平線以下にあるのに空が完全に暗くならない時間帯のこと。これは、太陽の光が上空の大気で散乱されて光っているためであり、空の明るさは刻々変わる。太陽の伏角(太陽の中心位置と地平線のなす角度)によって、次の三つの薄明が定義されている。
1 常用薄明(第三薄明)伏角 50分~6度(市民薄明ともいう)
2 航海薄明(第二薄明)伏角 6度~12度
3 天文薄明(第一薄明)伏角12度~18度
常用薄明の間は、戸外での作業ができ、空では1等星が見え始める。航海薄明では、海と空が水平線で区別でき、空には多くの星が見えるようになる。天文薄明の始まり前と終りより後では空はほぼ完全に暗くなり、肉眼で6等星まで見え天文観測ができる。
ちなみに、暦象年表の「夜明」と「日暮」の時刻は、太陽の伏角が7度21分40秒になる時刻で、これは「明け六つ」と「暮れ六つ」にあたる晨昏を定義した寛政暦(1798-1844の間使用された)に由来する(定時法を参照)。

天の川銀河の中心に近い方向にある、星間減光が特に小さい領域。銀経1°、銀緯 -4°付近にある。可視光以外の観測ができなかった時代には天の川銀河の中心付近を観測する唯一の領域だといわれていたが、可視光で見える星は天の川銀河の中心から600 パーセク(600 pc=2000 光年)以上離れている。現在では、天の川銀河の中心付近の恒星星間減光の影響が少ない赤外線で観測されている。

放射を参照。近年は「輻射」ではなく「放射」を用いるのが普通。

放射線によって発生する電離の総量によって決まる検出器、電子回路、光学素子などの劣化現象をいう。放射線の種類やエネルギーには依らない。人工衛星などの宇宙機に使用される部品は、宇宙機の設計寿命内にこの効果による劣化で性能が低下しないように選定される。代表的なものは、放射線による電子部品の劣化による機能不全、レンズなどの光学素子の透過率低下、カメラに使用されるCCD電荷転送効率の劣化、太陽電池劣化による発生電力低下などがある。太陽フレアが発生すると、地球近傍の宇宙空間の放射線量が増大する。このため、宇宙機の設計時には、過去に発生した巨大フレアの発生確率が考慮されている。宇宙天気プロトン現象も参照。

明るさが変化する恒星の総称。変光の原因によっていくつかに分類される。星自身が膨張したり収縮したりすることで変光する脈動変光星、フレア活動によるフレア星、爆発的な現象による激変星、星の周囲の現象に関連するTタウリ型星等がある。連星系において、星が周期的に隠されることによって変光するものは、食変光星と呼ばれる。

 

望遠鏡ドームは、地上望遠鏡およびその観測装置を、太陽光、風、雨、湿気、雷、大気中の塵やゴミなどから保護する役目を持つ。観測時には望遠鏡の駆動を妨げず、観測可能なあらゆる天域に望遠鏡が向くことが可能なように設置されている。このため、望遠鏡ドームは一般に上部構造と下部構造に分かれている。上部構造は望遠鏡を覆う中空構造となっており、360度水平旋回可能で開閉可能なスリットを有している。回転する上部構造を持たず、観測時には望遠鏡指向範囲から完全に退避してしまうもの(スライディングルーフ式)もある。下部構造は上部構造を支えるビル構造部分からなる。下部構造には観測制御室や実験室、大型の観測装置などが置かれることが多いが、近年は、ドーム内の熱環境改善のために熱源となる構造物、特に人の居住空間は設置しないのが一般的になりつつある。
望遠鏡や観測装置のメンテナンスのためには、望遠鏡周囲に広い空間が確保されていると都合が良い。しかし、そのような空間を確保しようとすると、ドームが巨大化するとともにドームの熱容量が増大し、ドーム内が外気に追随しにくくなり、シーイングが悪くなる。ドーム内や望遠鏡が外気よりも暖かいと観測中に上昇気流が生じ、それが外気の冷たい空気と混じり合うことでシーイングを劣化させる。したがって、近年ではドームと望遠鏡の熱容量をできるだけ小さくし、さらに観測中には積極的に外気を取り入れて外気と速やかになじませること(フラッシングと呼ぶ)に注力するようになっており、ドームはできるだけコンパクトな構造にすることが主流である。
よりシーイングを向上させるために、ドーム構造を工夫してドーム内に空気が層流となって流れるようにしたものもある。具体的な例として、すばる望遠鏡新技術望遠鏡(NTT)で採用されている茶筒型のドームがある。次世代の超大型望遠鏡になると、望遠鏡主鏡に直接当たる風による主鏡変形が非常に深刻な問題となってくる。このため、たとえばTMT計画では、望遠鏡に当たる風を最小限にするためにキャロット型と呼ばれるドーム構造を採用することが考えられている。計画されているTMTドームでは、望遠鏡主鏡に直接風を当てずにフラッシングを行うために、ドーム側面にいくつもの窓を設けている。

日本とオーストラリアの共同によりオーストラリアのウーメラ近郊の砂漠地帯に設置された大気チェレンコフ望遠鏡。第1世代は3.8 m口径で1992年から、第2世代は10 m口径で1999年から、第3世代は10 m口径4台のシステムとして2004年から観測を開始した。南天の利点を生かして超新星残骸などのTeVガンマ線天体を発見した。2012年に運用を終了した。

標高4200 mのハワイ島マウナケア山頂で、カナダ、フランス、およびハワイ大学が共同で運用する口径3.6 mの望遠鏡。完成は1979年で、マウナケア山頂に最初に建設された4 mクラスの大型望遠鏡である。
ホームページ:http://www.cfht.hawaii.edu/