天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

New

「QRコード付き名刺型カード」ダウンロード(PDF)

宇宙風化作用

宇宙風化作用とは、大気のない固体天体の表面の紫外、可視、赤外域の反射スペクトルが時間とともに、暗化、赤化(赤外より紫外・可視域の低下が大きい)し、さらに吸収帯(たとえば輝石やカンラン石に特有の1μm の吸収帯)も浅くなっていく現象を指す。月の岩石とソイルの反射スペクトルの違い小惑星(スペクトル型がS型)と隕石(普通コンドライト)とのスペクトル不一致の原因とされている。その原因は、宇宙空間ダストが天体表面を覆うレゴリス粒子に高速で衝突したときの高温で生成された岩石物質の蒸気が再凝縮する際に生成される、数 nm から数 10nm サイズの鉄ナノ微粒子による。加熱の原因として太陽風照射も考えられている。この機構は Hapke が 1970 年代に提唱していたが、長い間、月では衝突によるガラス化が反射スペクトル変化の原因であると考えられていた。1990 年代に Keller らが月ソイル中に鉄ナノ微粒子を発見、また佐々木らはダスト衝突を模擬したパルスレーザー照射実験で、宇宙風化作用に特徴的な、反射スペクトルの低下、赤化を再現するとともに、原因が鉄ナノ微粒子であることを明らかにした。
宇宙風化作用は、小惑星だけではなく水星などを含む、大気のない岩石質天体において共通の現象である。風化度の違いから表面の相対年代(宇宙空間に晒されていた年代)の違いを議論することが可能になる。小惑星の族では、スペクトル型がS型のものは年代が古いほど風化度が進んでいることが明らかになっている。一方、スペクトル型がC型の小惑星は年代が古いほど反射スペクトルの傾きが弱くなる青化を示すが、その原因は解明されていない。

半暗部をもつ大きな黒点が太陽の縁に近づく際に、太陽中心側の半暗部が縁側の半暗部よりも狭く見える効果。1769年にスコットランドのウィルソン(A. Wilson)が発見した。黒点は2000-3000ガウスにもおよぶ強い磁場をもつ領域であり、その磁気圧の寄与で周囲よりもガス圧が低くなっているためにより深い層が見通せる。磁場によって対流が抑制されて温度が下がったこの深い層部分を黒点として観測しているので、表面に近いところを観測している黒点半暗部を基準にすると、太陽の縁では表面より凹んだところにある黒点はより太陽中心側に寄って見える。

黒点相対数を参照。

宇宙から地球に落下してきた岩石。多くは小惑星のかけらであるが、大気中で燃え尽きなかった流星のかけらもある。小惑星には太陽系誕生の初期の情報が残されているので隕石は太陽系の誕生過程を知るための重要な研究対象である。
隕石は、鉄とケイ酸塩鉱物の割合によって、石質隕石コンドライトエコンドライトの2種類)、石鉄隕石鉄隕石(隕鉄ともいう)に大別され、地球への落下頻度は、コンドライト86%、エコンドライト8%、石鉄隕石1%、鉄隕石5%程度である。
コンドライト以外の3種類の元になった天体は、溶融を経験してケイ酸塩成分と金属鉄成分が分離したと考えられている(分化天体)。エコンドライトは分化天体のケイ酸塩成分、鉄隕石は金属鉄成分、石鉄隕石は両成分が混合されたものに対応する。これらの3種は分化隕石に分類され、初期太陽系での天体の熱史と分化過程が記録されている。エコンドライトの中には、火星から来たものもある。
コンドライトは火成岩の様な組織がなく、化学組成も太陽系の元素存在度にほぼ一致し、天体分化過程での元素分別を受けていないので、分化していない小天体のかけらと考えられている。コンドライトは未分化隕石に分類され、その化学組成や構成物質には小天体誕生以前の初期太陽系での物質進化過程が反映されている。多くのコンドライトが45億6000万年程度の年代を示すことから、太陽系の誕生はその頃であったと考えられている。アエンデ隕石も参照。

国際天文学連合のF1委員会による流星天文学の用語の定義と解説:
https://www.iau.org/static/science/scientific_bodies/commissions/f1/meteordefinitions_approved.pdf

クレーターを参照。

物体が示す様相が一定の分布を保ったまま移動する場合の移動速度。特にその物体自体の移動速度と異なる場合にパターン速度という。日常的に見かける例としては、電光ニュースの文字の移動速度が挙げられる。
密度波理論によると渦巻銀河渦巻腕は、恒星の粗密波として生じているものであり、その移動速度と内部の天体(星やガス)の運動速度とは一致している必要がない。このとき、粗密波の波としての伝播速度をパターン速度と呼ぶ。銀河の場合、パターンが回転するのに要する時間が著しく長いため、回転する様子を直接得ることは極めて困難である。このため、何らかの方法で天体の運動とパターン速度とに関連を付けることで間接的にパターン速度を求めるのが普通である。共回転(パターン速度と天体の速度が同じになること)だと考えられる場所を観測的特徴から見つけ、そこにある天体の回転速度をもって、その銀河全体のパターン速度とするという方法などがよく用いられている。星形成率が半径方向に急減する場所や円盤部の恒星密度が急減するところ、棒状バルジの端などが共回転の場所に該当すると考える研究例があるが、具体的にどんな特徴が共回転に対応するかについてには異論も多い。なお、銀河のように、円運動の場合には、パターン回転速度ということもある。リンドブラッド共鳴も参照。

火星水星の地表の古い地域は衝突クレーターに覆われている。月では38億年前まで、小天体の衝突が激しい時期があったことがわかっている。この時期を隕石重爆撃期と呼んでいる。惑星形成段階と区別するために、後期隕石重爆撃期(Late heavy bombardment period)と呼ぶこともある。隕石重爆撃期が、惑星形成段階から継続した隕石衝突時期の最終段階なのか、それとも隕石衝突の頻度が増加した時期なのか、議論が分かれている。ニースモデルと呼ばれる太陽系天体の軌道進化モデルによると、太陽系が形成されてから、5-7億年前後経った時期に、木星土星が1:2の平均運動共鳴の状態に入り、巨大惑星の離心率が増加して小惑星帯内の軌道不安定領域が広がった。結果として小惑星の離心率が上がり近日点が小さくなり、多数の天体が太陽系の内側に飛来して、隕石重爆撃期をもたらすとされている。クレータークレーター年代学も参照。

鉄隕石を参照。

パロマー天文台スカイサーベイを参照。

分光器により分離することのできる最小の輝線間隔を表す量。通常は、ある単色光源の中心波長を測定される輝線幅で割った値が用いられ、R または λ/Δλ と表記される。天文学では波長分解能が数百、数千、数万と上がるにつれ、低、中、高分散分光器と呼ばれることが多い。分光器の光学系が理想的で収差や散乱の影響がない場合には、分光器の波長分解能はスリット像の幅または回折像の幅と、波長分散の大きさにより決まる。分解能も参照。

絶対温度 T で物質と熱平衡状態にある放射(黒体放射)のスペクトルエネルギー分布を与える関数。プランク分布とも言う。プランクの法則を参照。

尾(彗星の)を参照。

粒子検出器においては、検出すべき粒子数がバックグラウンド事象(雑音)の数に比べて小さいときは、バックグラウンド事象の数のゆらぎで検出感度が決まる。これをバックグラウンド限界という。一般の光検出器では、いくつかの異なる種類の雑音があるが、その中でバックグラウンド光(背景雑音)が最大の寄与をする場合に、それによって決まる検出限界のことを指す。光子限界も参照。

パロマーシュミット望遠鏡(視野6.6度、写真乾板の実寸35.6 cm四方)を使って行われた写真乾板による全天サーベイ。第1次サーベイ(POSS-I)と第2次サーベイ(POSS-II)がある。第1次サーベイは、アメリカ地理学協会の出資により1949-58年に行われた。赤緯-30度以北の全天936天域を、可視光の青と赤のバンドで撮影した。完成後は、乾板を印画紙に焼き付けたセット(パロマーチャートと通称)が世界の主な研究機関に有償配布され、天文学の基本資料となった。POSS-Iの原乾板やパロマーチャートの眼視検査からさまざまなカタログが作られた。
第2次サーベイは1987-99年に、高性能の写真乾板を用いて、赤緯-30度以北の897天域に対して、青、赤、近赤外線の3バンドで行われた。それより南は同時期に、UKシュミット望遠鏡(UKST)とチリにあるESOの1 mシュミット望遠鏡でESO/SERC南天サーベイが行われた。これらの写真乾板はその後乾板測定器でデジタル化され、現在ではデジタルデータとして利用可能になっている(DSSを参照)。
パロマー天文台スカイサーベイはじめシュミット望遠鏡による写真乾板を用いたサーベイ観測から作られたカタログは、21世紀になって新しい世代のサーベイ観測が始まるまで、天文学の基礎データとして広く活用された。

中心天体の周りを公転する2天体について、2天体の相互重力が中心天体の重力より上回る領域をヒル圏と呼び、その領域の大きさをヒル半径と呼ぶ。質量 M の中心天体の周りで軌道長半径 a の軌道上を公転する2天体の質量を m1, m2 とするとき、ヒル半径は

(m1+m23M)1/3a

で与えられる。これからわかるように、天体の質量が大きいほど、また天体の軌道が中心天体から離れるほど、ヒル半径は大きくなる。ヒル半径のことを、ヤコビ半径、またはロッシュ半径(潮汐破壊の起きる臨界半径を表すロッシュ限界とは異なることに注意)と呼ぶこともある。

プランクスケールを参照。

ニュートンの万有引力定数 G , 光速度 c、換算プランク定数 =h/2π, hプランク定数)の3つの基本物理定数を組み合わせて、長さ、質量、時間の次元を持つ量を計算することができる。これらはそれぞれプランク長、プランク質量、プランク時間と呼ばれ、われわれの自然界を特徴付けるスケールとなっており、総称してプランクスケールと呼ばれる。具体的には、プランク長は

G/c31.62×1035m

であり、これよりも小さいスケールでの現象は現在の物理学では記述できず、量子重力理論が必要であると考えられている。
また、プランク質量は

c/G2.18×108kg

プランク時間は

G/c55.39×1044s

である。

ハッブル時間光速度を掛けた距離のこと。ハッブル半径ともいう。その時刻の宇宙で因果関係をもつことのできる距離にほぼ等しい。ハッブル半径の内側にある球の体積をハッブル体積あるいはハッブル球という。

中国科学院国家天文台の河北省興隆観測所にある、多天体分光専用の準子午儀型の反射式シュミット望遠鏡。望遠鏡の光軸は子午面内にあり、南側に置かれた口径4 mの固定球面反射鏡とシュミット補正板の役目をする北側に置かれた補償光学機能のある可動反射鏡からなっている。有効口径は4 mで、可動反射鏡を精密制御することにより天体を追尾する。天体からの入射光は2つの鏡の中点にある焦点面(視野直径は5度、実寸で1.75m)から4,000本のファイバーを通して、16個の多天体分光器に導かれる。1.5時間の露出で20.5等級の天体のスペクトルが得られる。2009 年に完成し、既存のものを5-10倍凌駕する銀河の分光サーベイ天の川銀河銀河系)の構造を調べるための大規模な星のサーベイを行っている。
ホームページ:http://www.lamost.org/public/?locale=en

尾(彗星の)を参照。