天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

New

「QRコード付き名刺型カード」ダウンロード(PDF)

バルマージャンプ

バルマー不連続を参照。

気体分子の位置と速度に関する分布関数の時間変化を表す方程式。星団銀河の星の力学的進化や、ダークマターの運動を記述することにも用いられる。質量 $m$ の粒子の分布関数を $f$ とすると

$$\frac{\partial f}{\partial t} + \frac{\boldsymbol{p}}{m}\cdot\frac{\partial f}{\partial \boldsymbol{x}}+\boldsymbol{F}\cdot\frac{\partial f}{\partial \boldsymbol{p}} = {\it \Gamma}(f)$$

と表される。ここで $\boldsymbol{p}$ は運動量、 $\boldsymbol{F}$ は粒子に働く力を表す。また右辺の${\it \Gamma}$ は衝突による変化を表す衝突項である。多数の粒子からなる系の運動を精密に表すことができるが、多次元の偏微分方程式なので数値的に解くには計算量が多くなりがちである。表現は異なるが、放射輸送の方程式も本質的にはボルツマン方程式と等しい。またブラソフ方程式もボルツマン方程式の一種である。

バルマー系列を参照。

分光器を参照。

透明な材質からなる多面体光学素子で、光を分散、屈折、全反射、複屈折させるのに用いられる。頂角 A 、屈折率 n(λ) の三角プリズムによる、波長 λ の光の屈折角 ε は、薄いプリズムの場合

ε(λ) 〜 (n(λ)-1) A
となる。使用目的に応じた機能をもつものとして、通常の三角プリズム以外にも、アッベプリズム(プリズムを回転させることで任意波長を特定方向に向ける)、ペンタプリズム(像反転がなく90度折り曲げる)、ウォラストンプリズム(偏光成分を分離する)などがあり、また回折格子と組み合わせたグリズムなどがある。

ウィリアムハーシェル望遠鏡を参照。

プロミネンスを参照。

小惑星のなかにはよく似た軌道要素をもつグループがあり、これを族という。このような特徴は1918年に平山清次によって見出されたため、小惑星の族のことを平山族と呼ぶこともある。同じ族に属する小惑星は、共通の母天体の衝突破壊によって形成された破片群であると考えられている。平山は最初にテミス族、コロニス族、エオス族の3つ、後にフローラ族、マリア族を発見した。現在では観測データをもとにコンピュータを使った族の同定が行われ、数十の族が知られている。この中には大きな族の中でさらに族を形成している場合があり、コロニス族の中のカリン族がこの例である。カリン族については族を構成する小惑星の軌道要素変化を現在から逆に数値計算することにより、約600万年前にそれらがほぼ一致することが示された。このことよりコロニス族の中でカリン族を形成した衝突破壊現象がその頃に起きたと考えられている。このように小惑星の族は、小惑星の起源と進化を考えるうえで重要な手がかりを与えてくれる。最近では、反射スペクトルのタイプが似ていることも、族のメンバーとして判定する材料になっている。

1814年にドイツのフラウンホーファー(J. von Fraunhofer)が発見した太陽の可視光スペクトル中に見られる多数の暗線。フラウンホーファーは、雨戸にあけた直線状のスリットから導いた太陽光をプリズムに当て、プリズムの直後に置いた望遠鏡で太陽スペクトルを拡大して暗線について詳細に調べた。 太陽スペクトル中の暗線の存在については、イギリスのウォラストン(W. H. Wallaston)が1802年に気がついていたが、その詳細はフラウンホーファーまで調べられなかった。
フラウンホーファーは300本以上の暗線の位置を測定し、特に目立つ暗線に赤い方からA、B、Cなどのアルファベットを用いて名前をつけ、太陽スペクトルの図を1814-15年に出版した。D線の波長の決定には、自身で開発した回折格子を使っている。これらの暗線は1859年にキルヒホッフ(G. Kirchhoff)とブンゼン( R. Bunsen)により、原子による吸収線であることが示された。このうちC線は水素のHα線(波長656.3 nm)、D線はナトリウムの二重線(589.6 nmと589.0 nm:Na D線)、F線は水素Hβ線(486.1 nm)、H線(396.8 nm)とK線(393.4 nm)は電離カルシウムの線である。フラウンホーファー線という呼び名といくつかの線の名称は現在も使われている(H線とK線はまとめてHK線と呼ばれることが多い)。フラウンホーファーは太陽だけでなく、月と金星のスペクトルには太陽と同じ暗線が見え、他の恒星のスペクトルの暗線は太陽とはかなり異なっていることを見出している。

通常の若い中性子星の磁場強度は磁極付近で 108 テスラ(=1012 ガウス)程度である。これに対して 1010 ~ 1011 テスラ( 1014 ~ 1015 ガウス)もの極端に強い磁場を持ち、回転エネルギーの損失率で説明できないほど明るい高エネルギー電磁波、特にX線ガンマ線放射する中性子星が見つかっている。これらは磁場をエネルギー源としていると考えられており、マグネターと呼ばれる。
軟ガンマ線リピーター特異X線パルサーがマグネターの候補である。

連続アドレスに格納された複数データに対して同一の操作を実行する「ベクトル命令」を実行する計算機。商業的に成功したのは 1976 年のCray-1 が最初である。Cray-1 は演算ユニットは乗算と加算が1個ずつであった。現在の最新のベクトルプロセッサは2013年に発売された NEC SX-ACEである。SX-ACEでは、SXシリーズとして初めてマルチCPUコアのLSIを採用し、これまでのシリーズとは、異なるアーキテクチャを導入した。ベクトル命令を効率的に実行するために演算器の性能に対してメモリの転送速度(バンド幅)が高い構成になっており、実行効率を上げることが比較的容易とされている。地球シミュレータは、SXシリーズがベースとなったスーパーコンピュータである。

6000度の太陽光球の外層にあるコロナがどのように100万度まで加熱されているかの解明を目的として、宇宙科学研究所(ISAS)により開発された太陽観測衛星。第22号科学衛星でコードネームはSOLAR-B。2006年9月23日に内之浦宇宙空間観測所よりM-Vロケット7号機により打ち上げられた後、「ひので」と名づけられた。
この衛星に搭載された観測装置は、可視光望遠鏡、X線望遠鏡、極端紫外線撮像分光装置の3つで、これら3機器で太陽の光球からコロナまでを同時に観測することができる。また、光球彩層で観測される5分振動を使うと、光球下にある対流層について調べることができる。解像度0.2-0.3秒角を実現するために口径50 cmの回折限界を達成した可視光望遠鏡は、撮像と偏光分光観測を通して太陽光球の磁気構造の運動や彩層の観測を行い、地上では決して得られない長時間安定した高い解像度の観測を初めて実現した。X線望遠鏡は2秒角の高い空間分解能でコロナの構造を明らかにし、その解像度と高い感度で太陽風の流源を見出した。
また、極端紫外線撮像分光装置は、彩層より上部の構造から放射される輝線を分光観測し、コロナの加熱領域から流れ出す高速のフローをとらえた。可視光望遠鏡とX線望遠鏡は日米協力、極端紫外線撮像分光装置は日英米の国際協力により開発された。

ホームページ:https://www.jaxa.jp/projects/sas/solar_b/index_j.html


打ち上げから10周年を記念して制作された「ひので」記念映像
(クレジット:ひので(SOLAR-B)プロジェクト)
掲載元のサイト http://www.isas.jaxa.jp/topics/000676.html

https://youtu.be/dqoIqXiz1Dk

代表的な星の温度の定義。
星の半径を $R$、光度を $L$ とするとき、

$$
L=4\pi R^2 \sigma T_e^4
$$

となる $T_e$ が有効温度である。ここで $\sigma$シュテファン-ボルツマン定数。これは、半径 $R$黒体球から光度 $L$ の放射を得るのに必要な黒体の温度である。有効温度は惑星でも使われる。

東京大学宇宙航空研究所(後の宇宙科学研究所(ISAS))が開発した日本初の太陽観測衛星。1981年2月21日に鹿児島宇宙空間観測所(現在の内之浦宇宙空間観測所)より打ち上げられた第7番目の科学衛星でコードネームはASTRO-A、打ち上げ後に手塚治虫の代表作にちなんで「ひのとり」と名づけられた。
5つの太陽観測装置と3つの地球周辺環境測定装置を搭載して、太陽フレアの観測を行った。意図的に衛星を回転させ、太陽全面に視野をもった装置で太陽フレアの硬X線撮像を行ったことや軟X線スペクトルから3千万度を超える高温プラズマがフレアにともなって発生することなどを発見した。
ホームページ:http://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/past/hinotori.html

太陽対流層の底(深さ約20万km)付近にあって、自転角速度の動径方向の変化が大きな層。日震学による内部構造探査で見つかった。太陽対流層全体としては、動径方向の自転角速度の変化は考えられていたよりも小さい傾向にあり、速度差によって磁力線を引き延ばすダイナモ作用が起こりにくい。その代わりに薄い層である速度勾配層がダイナモ作用の現場であると考えられるようになった。また、太陽内部から浮上してきて黒点などを作る磁束管が蓄えられている場所の候補でもある。速度勾配層の存在はまた、大きな速度差のために混合過程を引き起こしているのではないかとも考えられている。

恒星時を参照。

原子核(陽子)の核スピンの向きが反平行の状態の水素分子をパラ水素と呼ぶ。
一方、揃っているものはオルソ水素と呼ばれる。

プラズマの放射する可視-紫外域やX線帯域のスペクトル中の輝線強度から、電子や窒素、酸素、ネオン、マグネシウム、シリコン、鉄などのさまざまなイオンの存在量や温度、電離状態、運動の視線速度を調べることをプラズマ診断と呼ぶ。
プラズマ診断のために、熱的プラズマおよび非熱的プラズマが発する輝線強度の理論モデルが研究されている。

大マゼラン銀河小マゼラン銀河をまとめて呼ぶときの名称。マゼラン雲と呼ぶこともある。2つの銀河の総称であることを明示するために、大小マゼラン銀河と呼ぶこともある。マゼラン(Ferdinand Magellan)による世界一周の航海(1519-1522)の際に、夜空の白っぽい雲を方角を知る頼りにしたと記録にあるが、天体名としてマゼラン雲という名前がつけられたのは19世紀以降と思われる。“雲”は地球から肉眼で夜空を見た際の印象に基づいて付けられた名前であり、実際は銀河である。

結晶のような周期的な構造を持つ物質に対して、ある波長λ の光が入射するとき、結晶面となす角度をθ として、ブラッグ(W.L. Bragg)の条件 nλ=2d sin θn は次数と呼ばれる正の整数、d は結晶の格子間隔)が満たされるような場合に光は回折される。これをブラッグ回折あるいはブラッグの法則という。回折される光が結晶面となす角度はθ に等しい。この角度をブラッグ角と呼ぶ。X線望遠鏡スーパーミラーも参照。