未確認異常現象のこと。
未確認飛行物体(UFO)を含め、空中や海、宇宙空間で発生する異常現象の総称。頭字語でUAP(ユーエーピー)と呼ばれる。2022年7月、アメリカ国防総省内に設置された全領域異常解決局(All-domain Anomaly Resolution Office: AARO)が新たにこの名称を定義し、使われるようになった。
UFOという言葉に結びついた俗説や偏見を払しょくする意図があり、より客観的な視点から現象を捉え、その背後にある原因を探ろうとする科学的な考え方を象徴している。正体のわからない空中現象に限ってUAP(Unidentified Aerial Phenomena)と呼ぶこともある。
全領域異常解決局(AARO)のホームページ
https://www.aaro.mil
国際宇宙ステーションを参照
小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)の望遠鏡群のうちの南米チリにある望遠鏡によって発見された恒星間天体。ATLASが発見してアトラス彗星と命名された彗星は多数(2025年12月時点で103個)あるので、識別符号なしにアトラス彗星と呼んでも同定ができないため、ここでは識別符号を英文名称として同定できるようにした。
アトラス彗星(3I/ATLAS; C/2025 N1)は 2025年7月1日に発見された、オウムアムア(1I/'Oumuamua; C/2017 U1)、ボリソフ彗星(2I/Borisov; C/2019 Q4)に続く3例目の恒星間天体である(先頭の数字に続く記号IはInterstellar object(恒星間天体)を表す)。アトラス彗星の軌道の離心率は約6.2でオウムアムアの約1.2、ボリソフ彗星の約3.4 を大きく超える双曲線軌道であった。
発見から2025年末頃まで、宇宙と地上の両方でさまざまな波長による精力的な観測が行われたので、2026年にはさまざまな結果の報告が期待される。
国連決議により推奨された組織および個人天文学者による世界規模の惑星防衛協力体制であり、潜在的に危険な小惑星および地球接近天体(NEO)の探査、監視、特性評価を共同で実施する。万一小惑星の脅威が確認された場合、IAWNは情報発信の中枢として機能し、各国政府に対し衝突影響の分析支援および軽減対応策の立案支援を行う。プラネタリーディフェンスも参照。
ホームページ
https://iawn.net/
小惑星地球衝突最終警報システムの略称。
地球に衝突する小惑星などの地球接近天体(NEO)を、衝突の数週間から数日前に検出して警告を発出するシステム。自動望遠鏡4基(ハワイ×2、チリ、南アフリカ)で構成されており、移動天体を発見するために広天域監視観測を定常的に行っている。英文名称であるAsteroid Terrestrial-impact Last Alert Systemの頭文字を取ってATLAS(アトラス)と略称されている。ATLASは、ハワイ大学天文学研究所 (IfA) がアメリカ航空宇宙局(NASA)の資金提供を受けて開発・運用している。
アメリカハワイ州にある160 km離れた二つの観測所(マウイ島ハレアカラとハワイ島マウナロア)に設置した口径50 cmの望遠鏡は2017年から運用されており、二つの望遠鏡はそれぞれ、1晴夜で観測可能な空全体の1/4を4回観測するので、2台合わせると、2晴夜毎に全体を4回観測できる。2018年にはNASAからの追加資金を得て、南アフリカ天文台とチリのリオフルタド(Rio Hurtado)にも同様の望遠鏡を設置し、2022年から運用をはじめた。このため、観測可能な空が南天にも拡がったことに加え、1晴夜毎に4回の観測が可能になった。
ATLASは3番目の恒星間天体であるアトラス彗星(3I/ATLAS; C/2025 N1)や、2024 YR4(発見時2032年に地球に衝突する確率が1%あると言われた小惑星。詳細な軌道測定ののち、2032年の地球衝突の可能性はなくなった)などを発見している。ATLAS により2024 YR4が発見された際は直ちに国際小惑星警報ネットワーク(IAWN)に報告され、世界中の望遠鏡が2024 YR4の正確な軌道決定に協力した。
NEOなどの移動天体の検出を目的とする望遠鏡としてはパンスターズの口径1.8 mのPan-STARRS望遠鏡(PS1とPS2)があり、また2015年に試験観測を開始したベラルービン天文台の口径8 m望遠鏡による「時空間レガシーサーベイ(Legacy Survey of Space and Time: LSST)」からも大量のNEOや小惑星が検出されると期待される。パンスターズの望遠鏡はATLASよりも暗い天体まで検出でき、現在のNEO検出の主力となっているが、ATLASは数日以内に地球へ衝突する小惑星の検出と警告発出に特化する(より明るい天体を頻度高く監視する)点でパンスターズと相補的である。一方、LSSTは大量の暗いNEOや小惑星の発見によりこれらの天体の形成過程やその性質に関して新たな知見をもたらすことが期待される。プラネタリーディフェンスも参照。
ホームページ https://atlas.fallingstar.com/
パンスターズの略称。
専用の望遠鏡で継続的に全天をサーベイ観測し、移動天体や突発天体を検出するプロジェクトとして構想された。時間間隔をあけて撮影した画像を比較することにより、小惑星、彗星、変光星などを発見することができる。最終的には超広写野のCCDカメラを有する口径1.8 mの望遠鏡を4台設置する計画であるが、現在は2台(PS1とPS2)が稼働中である。
パンスターズ計画の最初の望遠鏡(PS1)は口径1.8 mで1.4 ギガピクセルからなる広視野CCDカメラ(GPC1)を有し、ハワイ州マウイ島のハレアカラ観測所に2006年に設置され、2008年12月にハワイ大学天文研究所(IfA)により観測が開始された。開発・建設資金の大部分はアメリカ空軍研究所とアメリカ航空宇宙局(NASA)によるものであった。観測開始初期はアメリカ空軍研究所の要請により生の観測データから人工衛星の航跡を検出し、その周囲をマスキング処理したのちにデータが科学コミュニティに提供されていたが、この処理は多数の誤検知を生み、データの科学的有用性を著しく低下させたため、数年で廃止された。
PS1望遠鏡は5つの広帯域バンド($g, r, i, z, y$)で、空の約1000平方度を約1時間の間に4回(1晩に約6000平方度を4回)撮像観測する。それらの画像を比較して、1時間の間に移動が検出された天体を同定する。そして地球接近天体(NEO)と思われるものは即座に国際天文学連合(IAU)の小惑星センター(MPC)に連絡し、世界中の望遠鏡のネットワークにより、その軌道や大きさを決めるための観測が行われ、地球への衝突の可能性などが判断される。その他の移動天体の位置と明るさも、通常観測から12時間以内に小惑星センターに報告される。
PS1望遠鏡では2010年から、6ヵ国16研究所からなるPS1科学コンソーシアムが定めた12のキープロジェクトを柱にしたサーベイ観測が行われている。その中でも4年間にわたり各フィルターで複数回実施され、全天の3/4を観測した「$3π$ サーベイ($3π$ステラジアンサーベイともいう)」は代表的なものである。PS1サーベイのデータは宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)から公開されている。$3π$ サーベイの限界等級は、$g,r,i,z,y < 23.3, 23.2, 23.1, 22.3, 21.3$ となっている。PS1サーベイで得られた恒星の高精度の位置と等級のカタログは他の望遠鏡で得られた画像での天体の位置や等級の補正の基準として使われている。
パンスターズ計画の2台目の望遠鏡(PS2)はハレアカラ観測所のPS1のそばに設置され2013年にファーストライトを迎えた。2015年5月13日にPS2が撮影した小惑星が、小惑星センターによってアポログループの地球接近小惑星として認定された。2014年からはPS1科学コンソーシアムが資金提供してPS1を運用し、NASAの支援のもとでPS2のコミッショニングも担当し、アメリカ空軍研究所はパンスターズには関わらないこととなった。
PS2によるサーベイは2018年に始まり、それ以来、PS2はPS1と同程度の地球近傍天体を発見しており、PS2が加わったことで、パンスターズのサーベイ能力と発見率は倍増した。パンスターズ望遠鏡はNEO発見の主力装置とも言える望遠鏡である。2025年4月時点で、約12,000個のNEO(既知のもの全体の約31%)、そのうち大きなもの(直径140 m以上)に限ると3260個(既知のものの29%)を発見している。直近の3年間に限れば、大きなNEOの54%を発見している。また2014年以降、毎年発見される新彗星の半数以上を発見している。天体観測史上初めて報告された恒星間天体であるオウムアムア(ʻOumuamua)の発見は、パンスターズによるものである。プラネタリーディフェンスも参照。
パンスターズのホームページ
https://www2.ifa.hawaii.edu/research/Pan-STARRS.shtml
https://panstarrs.ifa.hawaii.edu/pswww/
PS1のデータ公開サイト(宇宙望遠鏡科学研究所:STScI)
https://outerspace.stsci.edu/spaces/PANSTARRS/overview
国際天文学連合小惑星センター
https://www.minorplanetcenter.net
スペースデブリを参照。
地球の周回軌道上にある不要な人工物体のこと。運用を終えたり故障したりした人工衛星や、打ち上げロケットの上段、ミッション遂行中に放出した部品、爆発や衝突により発生した破片等がある。
スペースデブリは、地球観測衛星等が使用する高度2000 km以下の低軌道、通信衛星や気象衛星等が使用する高度約36000 kmの静止軌道、GPS衛星等が使用する高度約20000kmの12時間周期軌道等のよく使用される軌道に多く、特に高度約700-1000km付近が最も多い。
これらスペースデブリの総数は、年々増加の一途をたどっており、活動中の人工衛星や有人宇宙船、国際宇宙ステーションなどに衝突すれば、設備が破壊されたり乗員の生命に危険が及ぶ恐れがあったりするため、国際問題となっている。このためスペースデブリを監視する活動や、さまざまな除去技術の開発が行われている。
JAXAの「SPACE DEBRIS~追跡ネットワーク技術センターのデブリ対策~」の活動を紹介する動画
https://www.youtube.com/embed/EcBUHpz6-rg?si=rM6-1D22KdlUH_tq"
本項では天文観測の適地としての南極(南極大陸)に関して述べる。
南極大陸は4000 m近い厚さの氷に覆われている。ドームふじからドームA、ドームBを経てドームCに至る標高3000 mを越す南極高原と呼ばれる高い台地は天文観測に取っては理想的な条件を備えている。南極点には成層圏から下降気流が吹き込み海岸線へと流れ下るが、高原では風は穏やかで、典型的な風速は5 m/s程度で10 m/sを超えることはまれである。冬には極夜となり数ヶ月にわたる夜の継続観測ができる。さらに人工光や人工電波もほとんどない暗い静寂な観測環境である(ただしオーロラが発生するので光学域では特定の波長に輝線を生じることがある)。気温は非常に低いので大気が乾燥していて水蒸気が極めて少なく(飽和水蒸気量は0℃に対してドームふじの平均気温-54℃では1/123、最低気温-80℃では1/3800)また安定しており、特に赤外線からサブミリ波の観測では地上で最も適している。近赤外線ではドームふじではハワイのマウナケア山頂に比べて大気放射が2桁小さく、波長10 μmでも1桁低いので、他にはない高感度の赤外線観測が可能である。冬には乱流が生じる境界層の厚さは15 m程度しかなく、その上ではシーイングが極めて良い(冬季の半分以上の期間で0.2”)。また、上空大気は南極大陸で周回しているので気球による長期観測が可能である。
このような恵まれた天文観測条件を活かすために、望遠鏡・観測装置の設置や周回気球に望遠鏡を搭載して観測する実験などが行われている。南極点(標高2835m)にあるアメリカのアムンゼン-スコット基地では、1995年から約10年間、口径1.7 mのサブミリ波望遠鏡AST/RO(Antarctic Submillimeter Telescope and Remote Observatory)が運用され、南極での天文観測の可能性を実証した。2006年からは宇宙マイクロ波背景放射の偏光パターンを高精度で観測することを目指すBICEP(Background Imaging of Cosmic Extragalactic Polarization)シリーズの望遠鏡(最新のBICEP3は口径52 cm)、2007年からは口径10 m の南極点望遠鏡(SPT)が運用されて科学的な成果をあげている。米国はまたリッジA(4050 m)にサブミリ波干渉計を設置する構想を持っている。中国はドームA(4090 m)で完全自動観測可能な口径0.5 mのサーベイ望遠鏡AST3-2(Antarctic Survey Telescopes)を運用しており、またゾンシャン(Zhongshan)基地に小望遠鏡を多数並べた広視野サーベイ望遠鏡の設置を計画している。フランスのチームは口径40 cmの太陽系外惑星探査用の望遠鏡ASTEP(Antarctic Search for Transiting ExoPlanets)をドームC(3260 m)で2010-2013年に運用した。1998年の気球によるブーメラン実験では、宇宙マイクロ波背景放射の温度ゆらぎを精密に観測して、宇宙が平坦(曲率が0)であるとするΛCDMモデルの予想と合致することをはじめて明確に示した。日本のJAXA宇宙科学研究所も昭和基地から大気球を放球して大気重力波等の観測を行っており、天文への応用も検討されている。現在南極における最大規模の観測施設はアムンゼン-スコット基地におけるアイスキューブ実験である。
筑波大学等を中心とする日本のグループも2004年から南極天文学の実現を目指して調査等を開始し、国立極地研究所と協力して2006年と2009年の夏季にドームふじで220 GHzの大気透過率を測定し、極めて良好かつ安定していることを明らかにした。2010年~2012年の夏季には東北大学のグループが40 cm赤外線望遠鏡やシーイングモニター装置等により大気の測定を行い、0.2”に達するシーイングを得ている。また筑波大学を中心に、ドームふじ近くの標高3800 mの地点に口径30 cmのサブミリ波望遠鏡を建設中で2026年度からの観測を目指している(夏季)。またドームふじからさらに南側約40 kmのところに新しい越冬基地を建設し、ここに口径12 mテラヘルツ望遠鏡(ATT12)を設置してテラヘルツ波で南天全体の掃天観測を行う計画を進めている。将来的に口径30mテラヘルツ望遠鏡(ATT30)を設置する構想やテラヘルツ強度干渉計計画も提案されている。また赤外線でも大気が極めて良好で高感度高空間分解能の観測が可能なので赤外線望遠鏡の設置も期待されている。
宇宙の真昼を参照
ビッグバン以降現在までの間で、宇宙全体を平均して星形成活動が最も激しかった時期のこと。宇宙の星形成率密度を赤方偏移zの関数で表したマダウ図のz~2のピーク(今からおよそ100億年前)を指す。できた星により宇宙が最も明るくなることから、「宇宙の夜明け」との対比でこう呼ばれる。
宇宙全体を平均した単位体積当たりの星形成率(星生成率)を赤方偏移(z)の関数として表した図。マダウプロットとも呼ばれる。宇宙における星形成史および金属(重元素)の生成史を理解する鍵となる情報である。この図をはじめて提案したのが1996年に発表されたマダウ(Piero Madau)らの論文であったので、それ以降マダウ図と呼ばれるようになった。この論文で初めてハッブル宇宙望遠鏡による赤方偏移zが2を越える銀河に基づくデータが示され、宇宙の星形成活動がz~1-2でピークになっていることが示唆された(宇宙の真昼を参照)。
星生成率密度は空間にある銀河の星生成率の総和をその空間の共動体積で割ることで求める。多くの銀河の観測データが必要なので、マダウ図にデータ点を打つには銀河サーベイが必要である。銀河サーベイが遠方の(高赤方偏移の)銀河に届くにつれて、マダウ図も宇宙の過去へと伸びていっている。現在の最も過去のデータはジェイムズウエッブ宇宙望遠鏡による銀河サーベイに基づいている。
MuSCAT(マスカット)シリーズは、2014年から2023年にかけて開発され、世界各地の 4 台の 1.5-2 m 望遠鏡に搭載された3 色(バンド 1.を参照)ないし 4 色の同時撮像測光装置である。主に太陽系外惑星のトランジット(トランジット法を参照)を多色で同時に、かつ高精度に観測することを目的として開発された。名前は1号機を設置した岡山県の名産にちなみ、Multicolor Simultaneous Camera for studying Atmospheres of Transiting exoplanets(トランジット系外惑星の大気研究のための多色同時撮像カメラ)の頭文字から作られたアクロニムである。
MuSCATの1号機は3色の装置で、2014 年 12 月 24 日に国立天文台岡山天体物理観測所でファーストライトを迎え、2015 年から1.88m望遠鏡の共同利用観測に供された。その後、4色の装置が2017年にテネリフェ島のテイデ観測所(MuSCAT2)、2020年にハワイのマウイ島ハレアカラ観測所(MuSCAT3)、2023年にオーストラリアのサイディングスプリング天文台(MuSCAT4)に設置され運用が続いている。北半球の時差の離れた 3 台の望遠鏡に搭載されているため、北天で起こるトランジットを効率的に観測できる。2023年からは南天の望遠鏡も加わり、南天のトランジット観測も開始した。
MuSCATシリーズは観測時間が比較的多く使えることから、同じ太陽系外惑星のトランジットを繰り返し観測することで、各色でのトランジットの深さのわずかな違いから惑星の大気を調べることが可能である。2018年に TESS衛星 が打ち上げられてからは、TESS衛星と連携した新たなトランジット惑星の発見確認が主な科学目標となっている。2024年までに赤色矮星を周る50個以上のトランジット惑星の発見に貢献した。その代表的な成果にハビタブルゾーン(生命居住可能領域)を公転するスーパーアースSPECULOOS-2cの発見がある。太陽系外惑星の観測以外にも、超新星や突発天体などの観測により時間領域天文学への貢献も期待されている。
時間領域天文学を参照
メートル条約の全加盟国が採用しやすい一つの実用計量単位系の確立を目指す国際度量衡委員会(CIPM)の努力と加盟国の協力により制定・維持されている単位系。フランス語の名称“Le Système International d'Unitès”から略称SIと呼ばれることが多い。
1960年の第11回国際度量衡総会でSIの規則と名称が定められた。SIは7つの量に対するSI基本単位とそれらから作られるSI組立単位を基に定められている。基本単位の名称と記号は以下の通りである:長さ(メートル m)、質量(キログラム kg)、時間(秒 s)、電流(アンペア A)、温度(ケルビン K)、物質量(モル mol)、光度(カンデラ cd)。物質量は1971年の第14回CGPMで追加されたものである。
科学の発展とともにSI基本単位の多くの定義が改訂されてきた。例えば時間の秒は、1799年にフランス革命政府が公布したメートル法で、地球の自転周期を基に1日(1平均太陽日)の 1/86400 としていたが、1956年のCGPMで、地球の公転周期(1太陽年)の 1/31556925.9747 と変更され(暦表時も参照)、更に1967年の第13回CGPMで、セシウム133原子の基底状態の二つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の9192631770倍(国際原子秒)という現在の定義に変わった。長さの定義であるメートルは、当初 1879 年に白金とイリジウムの合金で鋳造された国際メートル原器の長さで定義されたが、1960年の第11回CGPMでクリプトン86原子の放射する光の波長を基に定義され、1983年の第17回CGPMで更に真空中の光速度と秒を基にした現在の定義へと変わった。これらの改訂は、測定精度の向上に定義が十分対応しきれなかった結果であり、科学の発展と測定精度の向上の歴史である。
質量の単位であるキログラムは、1889年の第1回CGPMで定められた「国際キログラム原器の質量」という定義が2018年まで用いられて来たが、2018年11月13-16日に開催された第26回CGPMで改訂された(施行は2019年)。この第26回CGPMは、SI基本単位のうち四つ、すなわちキログラム、アンペア、ケルビン、そしてモルの定義を改訂する歴史的な会議となり、「新しいSI」の時代の幕が開いた。これらの単位の新しい定義は、キログラムはプランク定数(h)、アンペアは電気素量(e)、ケルビンはボルツマン定数 (k)、そしてモルはアボガドロ定数(NA)の確定値(定義値)にもとづくことになった。この結果、SIの7つすべての基本単位が、物ではなく物理定数の式で表現されることになった。そして、これら基本単位の定義を実用的に実現する手段として、具体的な現示(実現)方法も規定された。この決議は2019年の5月20日(世界計量記念日:1875年のメートル条約締結を記念して定められた)から施行された。ただし、今回の定義の改定で問題としている精度は極めて高いので、この改定が日常生活に影響を及ぼすことはない。
2019年5月20日から施行された現行のSIの7つの定義定数とその定義値は以下のものである。
真空中の光速度 $c=2.99792458\times10^8\,{\rm m\,s}^{-1}$
セシウム133原子の基底状態の超微細遷移周波数 $\Delta\nu_{\rm Cs}=9.192631770\times10^9\,{\rm Hz}$
電気素量 $e=1.602176634\times10^{-19}\,{\rm C\, (=A s)}$
ボルツマン定数 $k=1.380649\times10^{-23}\,\,{\rm J\,K}^{-1}\,\,(={\rm kg\,m}^2 {\rm s}^{-2}{\rm K}^{-1})$
アボガドロ定数 $N_{\rm A}=6.02214076\times10^{23}\,\,{\rm mol}^{-1}$
周波数 $540\times10^{12}\,{\rm Hz}$ の単色放射の発光効率 $K_{\rm cd}=683\,\,{\rm lm\,W}^{-1}\,\,(={\rm cd sr W}^{-1})$
表1にSIの7つの基本単位の2018年までの定義と2019年から施行された新しい定義の比較を示す。また、表2には固有名称を持つSI組立単位、表3にはその他のSI組立単位の例(いずれも「理科年表」2019年版(丸善)より)を示す。
今回の定義改訂により、その基礎となった物理定数は「定義定数」となりその定義値は今後変わることがないが、それは決してそれらの物理定数を今後より高い精度で測定する努力を否定するものではない。物理量の高精度の測定は科学の進歩の基礎である。
SIの基本単位と組立単位の一覧は本辞典の「有用な諸データの表」にもある。
https://astro-dic.jp/about/table/
SIの基本単位と組立単位
https://astro-dic.jp/si-units/
第26回国際度量衡総会で「新しいSI」決議を採択したセッションの録画画像。日本の議決権行使はタイムスタンプの10:09。
https://youtu.be/gimwAPQbHOw
