天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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DAMPE衛星

Wukong衛星を参照。

CAIを参照。

大速度勾配近似を参照。

電磁流体力学を参照。

現在最も広く用いられている星のスペクトル分類法。1900年代初頭に提唱されたハーバード分類(星の表面温度の高い順にO, B, A, F, G, K, Mの型に分類しさらにその中を0-9に細分)と、1940年代にヤーキス天文台のモルガン(William Morgan)、キーナン(Philip Keenan)、ケルマン(Edith Kellman)よって導入された光度階級(絶対等級の明るい順にローマ数字のIからVIIに分類)を組み合わせたもの。A0V, K5III, M2IIなどのように表す。スペクトル型(星の)も参照。

中性ナトリウム原子により吸収あるいは放出される可視光域のスペクトル線。
D1(589.594nm)とD2(588.997nm)の2本がある。ドイツの物理学者フラウンホーファー (J. von Fraunhofer)は太陽光の可視光スペクトルのなかに暗線を観測し、 主要な線にAからKの記号をつけ、弱い線については別の記号をつけた。 それのDに対応する黄色の光(の中の暗線)がNa D線である。 ナトリウム原子の存在量を仮定すれば、 この吸収線の等価幅から中性水素原子の柱密度が得られる。

物体から電磁波が放出されることあるいは放出された電磁波を指す。電磁放射ともいう。粒子(陽子や電子)や重力波の放出も放射に含まれる。古くは電磁波の放出を輻射(radiation)と呼んでその他と区別していたが、「輻」が常用漢字に含まれないことから、放射と呼ばれるようになった。天体からの電磁波の放射メカニズムには、大別して連続光(連続スペクトル)を生じるものと輝線を生じるものがある。連続光を生じるものは、熱放射非熱的放射に分けられる。

電波赤外線の観測では、観測対象からの電磁波よりも大気や検出装置自体が発する雑音が持つ電磁波の強度の方が大きいことが多く、その影響を除去しないと高精度の観測ができない。このため、観測天体からの信号を含む出力と含まない出力の比較を行うことが多い。これを2入力に対する切り替え観測という意味でスイッチング観測という。ポジションスイッチビームスイッチ、副鏡チョッピング、周波数スイッチなどが多用される。

カリフォルニア工科大学のジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)がアメリカ航空宇宙局(NASA)の協力のもとに運用している、天の川銀河銀河系)外の天体(銀河銀河団活動銀河核など)に関するオンラインデータベース。電波からガンマ線に至る多波長でのさまざまなデータを統合しており、銀河系外天体についての世界最大のデータベースである。天体名、座標、天体のさまざまな特徴などから、該当する銀河系外天体を検索でき、個々の天体について、その天球座標系の座標、種別、赤方偏移、多波長での画像、スペクトル、その天体に関する参考文献などを知ることができる。条件に合致する天体のリストなども得ることもできる。恒星や銀河系内天体に関してはストラスブール天文台が運用しているSIMBADが充実している。データベース天文学も参照。
NEDホームページ:http://nedwww.ipac.caltech.edu/

対象天体の見かけの大きさよりも角分解能が悪い望遠鏡で天体を観測すると、その真の輝度よりも暗い輝度で分解能程度の広がりを持つ天体と区別が付かない。この現象、あるいは、これによる輝度の過小評価の程度をビーム希釈という。英語のまま、ビームダイリューションということも多い。

電波天文学では分解能が低いことが多いため、ビーム希釈を認識しておくことは特に重要である。観測で得られるアンテナ温度 $T_{\rm A}$ は、天体の輝度温度 $T_{\rm B}$ の分布をアンテナパターンの重み付きで平均をとったものであるから、天体の輝度分布の立体角 $\Omega _{\rm source}$ がアンテナビームの立体角 $\Omega _{\rm A}$ より小さい場合は

$$T_{\rm A}^{\rm *}\approx {T_{\rm B}}\frac{\Omega_{\rm source}}{\Omega_{\rm A}} < {T_{\rm B}}$$

となって天体の輝度温度より小さくなる。天体の真の輝度が一様で、その広がりが $\Omega_{\rm source}$ ならば、上式より、ビームダイリューションの効果は、$\frac{\Omega _{\rm source}}{\Omega _{\rm A}}$ で評価でき、それを補正して天体の本当の輝度温度を推定することも不可能ではない。

ナバーロ(J.F. Navarro)、フレンク(C.S. Frenk)、ホワイト(S.D. M. White)の3人が1996年に提唱したダークマターハローが持つ普遍的な密度分布プロファイルの名前であり、3名の頭文字を取って名付けられた。彼らは、冷たいダークマターがその自己重力で階層的に合体集積する過程を宇宙論的N体シミュレーションによって計算し、力学平衡になったダークマターハローを球状に平均化した密度分布の関数形が、どれも

$$\rho(r)=\frac{\rho_s}{\frac{r}{r_s}\left(1+\frac{r}{r_s}\right)^2}$$

と表されることを示した。ここで、$\rho_s$ は密度プロファイルの振幅、$r_s$ は典型的な半径である。最近のより精度の高い数値実験では、ダークマターハローの中心部の密度分布は必ずしもNFWプロファイル($\rho \propto r^{-1}$)にならないことが提唱されている。

N個の粒子からなる重力多体系の運動方程式は

$$
\frac{d^2{\boldsymbol{x}_i}}{dt^2} = \sum_{j=1,j\neq i}^N Gm_j \frac{\boldsymbol{x}_j-\boldsymbol{x
}_i}{|\boldsymbol{x}_j-\boldsymbol{x}_i|^3}
$$

と記述される。ここで $m_j, \boldsymbol{x}_j$ は粒子 $j$ の質量と位置、$G$ は万有引力定数である。この運動方程式には一般的にN>2では解析解が存在しない。そこで運動方程式を数値的に解く必要がある。数値的に重力多体系の運動方程式を解くことをN体シミュレーションという。N体シミュレーションでは粒子数の2乗に比例して重力相互作用の計算量が増加するので、粒子数の多いシミュレーションは困難で、さまざまな工夫が提案されている。N体問題も参照。

重力で相互作用する多数の粒子からなる系を重力多体系と呼ぶ。重力多体系の運動を考える問題がN体問題である。多体問題ともいう。天文学では惑星リング、惑星系、星団銀河銀河団などが重力多体系と近似でき、その進化がN体問題として扱われている。系の構成粒子が3体以上の場合は、一般的には解析的な解は存在しない。N体シミュレーション三体問題も参照。

電波望遠鏡の給電系として使われているホーンアンテナのこと。ホーンアンテナとは、底面が開いている円錐状ないし角錐状の空洞となった金属製のアンテナで、入射した電波は頂点に集まり、そこに設置された素子で電気信号に変換される。種々の特性を改良するために途中で頂角が異なる錐を継ぎ合わせた形状のものや、内部に突起や凹凸を持つものなどが実用化されている。

気相中にある2階電離した酸素原子が放出する禁制線
許容線と呼ばれる通常の放射は電気的な双極子放射に対応していて放射性遷移確率が高いが、禁制線は電気四重極子や磁気双極子としての放射性遷移に対応しており、遷移確率が低い。しかし、密度が低く衝突による逆励起確率が低い電離水素領域などでは重要な放射機構となる。禁制線であることを表すために、記号を[ ]で囲んで表す。電離水素領域や惑星状星雲中に観測される代表的なものは可視光域(436.3 nm, 495.8 nm, 500.7 nm)や赤外域(52 μm, 88 μm)にある。ガス星雲中で禁制線が重要な役割をはたすのは、一般にそれが光学的に薄く、比較的に星雲深部まで分光診断が可能であることによる。さらに、その輝線強度比から電子密度や電子温度あるいは化学組成についての情報が得られる。電気双極子放射電気四重極子放射も参照。

電波望遠鏡の焦点に設置される機器で、主鏡で集めた電波を受信機へ導く。一般に光学系は電磁波の進行方向を逆向きにすれば受信と送信とが対称になる(光学の相反定理)ので、電波望遠鏡では送信用の用語を受信用に転用することが多い。この言葉も、送信時にアンテナに電気信号を供給する機能を持つ機器という意味から転用されたもの。ミリ波サブミリ波では電波望遠鏡の給電系にホーンアンテナを用いることが多く、その場合は、フィードホーンと呼ばれる。

散開星団ほどの密集度はなく、重力的にも束縛されず、比較的拡がった若い星の群がアソシエーションである。特に大質量星(O型星B型星)が目立つ場合、OB アソシエーションと呼ばれ、巨大分子雲電離水素領域の近傍に分布し、大規模な星生成領域をなす。オリオン座にある「オリオンOB1」が有名である。

電波望遠鏡の主ビーム半値全幅のこと。英語の頭文字を採ってHPBWと略記されることが多い。電波望遠鏡の角分解能として扱うことが多い。

大気上層部高度90 km付近を漂うOH基が紫外線などにより励起され、振動回転遷移により発する輝線放射。波長1-2 μmにかけての近赤外線で非常に強く光り、地上からの近赤外線観測の妨げとなっている。夜天光大気発光も参照。

郭守敬(Guo Shoujing;1231 –1316)は、元朝時代に活躍した河北省出身の天文暦学者、水利事業家。元朝では従来から大明暦(だいめいれき)が使用されていたが、日月食の予報ははずれることが多くなり、世祖クビライ(フビライ)は郭守敬、王恂(おうじゅん)らに命じて改暦事業を開始させた。郭守敬は主に観測面を担当し、多くの天文儀器を考案して日月、恒星の精密観測を5年間実施した。冬至の日時決定では、太陽が作るノーモンの影の長さを1~2週間間隔で3回測定し、2次曲線で近似する方法を用いて、平均太陽年の長さを現在とほとんど違わない365.2425日と求めた。その結果、中国固有の暦法としてはもっとも優れているとされた「授時暦(じゅじれき)」を1280年頃に完成させた。授時暦は、1年の長さが時間と共にわずかずつ変化すると考える「消長法」を採用したことでも知られる。授時暦はまた、李氏朝鮮の暦算書に大きな影響を与えており、日本の渋川春海が1684年に提案した「貞享暦(じょうきょうれき)」もその暦法の大部分は授時暦を元にしていた。郭守敬は後半生で、大都から通州に至る運河の建設にも大きな功績を残した。