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時間領域天文学

 

よみ方

じかんりょういきてんもんがく

英 語

time domain astronomy

説 明

放射強度や形状などが変化する変動天体の研究を行う天文学の分野。一般には変化の時間スケールが「秒」から「年」程度までの短いものを対象とするが、より長い時間で変化する天体を含めることもある。よく知られている対象は新星超新星ガンマ線バースト重力波対応天体などの突発天体(トランジェント天体)である。しかし、周期的あるいは準周期的な変化を示す変光星Tタウリ型星パルサー活動銀河核なども対象である。太陽系銀河系天の川銀河)から遠方宇宙までさまざまな場所にあるこうした変動天体を対象として、その天体の性質、変動のメカニズム、進化などを明らかにするのが時間領域天文学の目的である。
肉眼で空を見ていた時代には、夜空の星々は(日周運動は別として)その位置や明るさはほとんど変わらないように見えた。惑星を除けば、変動天体は歴史書にいくつかの記載例があるだけで極めて希であった(かに星雲を参照)。しかし観測技術が進歩して、とくに広い天域を調べるサーベイ観測が行われはじめると、以前の観測データとの比較から、さまざまな種類の多くの変動天体が発見されるようになった。更に、可視光以外の波長域でのサーベイ観測が行われるようになると、X線新星やガンマ線バーストなど変動の時間スケールが短い新しい種類の変動天体も見つかった。更に2017年には約1.3億光年の距離にある銀河NGC4993から、中性子星同士の連星が合体して発生した重力波(GW170817)が検出され、そのすぐ後に、可視光を含む全ての電磁波において爆発現象(キロノバ)が観測された。
2000年頃から多数見つかってきた多様な変動天体の研究においては、観測には国際協力が不可欠であること、多波長の観測の総合的な解釈が必要なこと、莫大なデータの解析手法の研究も活発になったこと、などの背景から、時間領域天文学という概念が次第に形作られてきた。こうして2015年には、国際天文学連合(IAU)ホノルル総会で、時間領域天文学のワーキンググループが設立された。
時間領域天文学の基礎である変動天体のサーベイは、時間分解能と観測期間(どのくらいの頻度でどのくらいの期間観測するか)、サーベイする天域の広さ、および限界等級(どれだけ暗い天体まで観測するか)の三つのパラメータで特徴付けられる。これらはお互いに独立ではないので、研究目的によって、中小口径望遠鏡による短時間の反復観測、時間間隔は少し開くが大口径望遠鏡による暗い変動天体の探査などさまざまな観測形態が取られる。1時間程度以下の時間分解能と一晩以上の観測期間を必要とすれば、複数の国で経度の異なる場所にある望遠鏡の協力が不可欠となる。そのためには、興味ある変動天体を発見したらすぐに、その情報を世界中の天文台に発信するネットワークの構築が必要となる。また、迅速な発見のためには、ビッグデータの新たな解析方法が必要であり、時間領域天文学は情報科学と密接なつながりを持つようになっている。変動天体のサーベイでは、放射強度だけでなく天球上での位置が変動する天体も検出されるため、その研究を時間領域天文学に含めることもある。
変動天体の観測を行う望遠鏡の例として、可視光のPanSTARRSとLSST(ベラ・ルービン天文台)、電波のLOFARとSKA、X線のMAXI衛星、ガンマ線のニール・ゲーレルス・スイフト天文台などがある。また、変動天体探査に特化した高性能カメラの例として、パロマーシュミット望遠鏡の「ツビッキートランジェント天体探査装置(ZTF)」のカメラ(42平方度の視野を60秒以下の時間分解能で撮影可能)と、東京大学木曽観測所シュミット望遠鏡のカメラ「トモエゴゼン」(20平方度の視野を0.5秒の時間分解能で撮影可能)がある。これらのサイトのURLを以下に掲げる。時間分解能60秒以下の広天域変動天体探査は始まったばかりで、今後の発展に大きな関心がもたれている。
国際天文学連合(IAU)の「時間領域天文学」ワーキンググループ
https://www.iau.org/science/scientific_bodies/working_groups/260/
PanSTARRS(Panoramic Survey Telescope And Rapid Response System)
https://panstarrs.ifa.hawaii.edu/pswww/
LSST(Large Synoptic Survey Telescope)
https://www.lsst.org/
LOFAR(Low-Frequency Array)
http://www.lofar.org/
SKA(Square Kilometer Array)
https://www.skatelescope.org/science/
MAXI衛星(Monitor of All-sky X-ray Image)
http://maxi.riken.jp/top/index.html
ニール・ゲーレルス・スイフト天文台(スイフト衛星)
https://swift.gsfc.nasa.gov/
ZTF(Zwicky Transient Facility)
https://www.ztf.caltech.edu/
「トモエゴゼン」(Tomoe-Gozen)
http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/NEWS/pr20190930/pr20190930.html

2020年05月20日更新

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