天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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光行差

運動している観測者から天体を見ると、光の速度が有限であるために、天体の方向が真の方向から観測者の運動方向にずれて見える。この現象を光行差といい、18世紀のイギリスの天文学者ブラッドレー(J. Bradley)により発見された。雨の中を歩く場合には傘を前方に傾ける必要があるように、天体からの光も実際に向かってくる方向とは違って見えるわけである。 観測者の速度をv、観測者が静止している場合の入射光方向をθ、運動している場合の入射光方向をθ'とすると、

sin(θθ)=vcsinθ

と書ける(図参照)。v/cは光行差の大きさを表し、光行差定数と呼ばれる。 光行差には地球公転による年周光行差、地球の自転による日周光行差太陽系全体の運動による永年光行差がある。年周光行差はおよそ20.5"程度、日周光行差はおよそ0.3"程度である。

集光素子としてレンズなどの透過型光学素子を使用して作られた望遠鏡のこと。眼視望遠鏡としては、接眼レンズとして凹レンズを用いるガリレオ式望遠鏡と、凸レンズを用いるケプラー式望遠鏡に大別されるが、ガリレオ式望遠鏡はオペラグラスなど一部の用途を除いて現在は用いられることはない。屈折望遠鏡には、レンズの色分散(光の波長による屈折率の違い)によって生じる色収差の問題がある。色収差は、レンズ口径が大きくなり口径比が小さくなるほど深刻になる。このため、大口径になるほど口径比の大きな望遠鏡となり、望遠鏡筒が非常に長くなる。また、直径1mを超える均質で高精度のレンズを製作することは極めて困難である。このような理由から、天体観測用の望遠鏡の主流は反射望遠鏡となっており、特に、口径1mを超える大望遠鏡はほぼすべて反射望遠鏡である。ただし、屈折望遠鏡は望遠鏡筒を密閉するために、鏡筒内の気流による星像乱れが生じない。また、焦点距離が長く大きな倍率が得られる。これらの利点から、屈折望遠鏡は惑星観測や、アマチュアの天体観測などによく用いられている。

天体の位置を地球から観測すると、その方向が1年周期で変化して見える。これは地球の公転運動による光行差のためであり、年周光行差と呼ばれる。年周光行差によって天体が見える方向がずれていく様子を1年間描いてみると、一般的には楕円形となる。これが光行差楕円である。その楕円の大きさは、長半径が約20.5"となる。天体が黄道の極に近いところにあると光行差楕円は円に近くなり、逆に黄道面近くにある天体では直線に近くなる。

一般的には真空低温槽を指す。低温寒剤(液体窒素や液体ヘリウム)または機械式冷凍機によって低温に保たれる。断熱をよくするために真空とする。多くはステンレス鋼で作られている。天体観測装置では熱雑音を減らすために、冷却した装置を使うことが多く、検出部とセンサーはクライオスタットに収納されている。条件にもよるが、77,Kや20,K、4,Kまで冷やすものが多い。超伝導受信機も参照。

地球太陽の周りを公転している速度のために、天体の見える方向は1年周期で変化する。これが年周光行差と呼ばれているが、年周光行差によって見える方向が真の方向からずれる量の最大値を光行差定数と呼ぶ。光速をc、地球の平均の公転速度をvとすれば、光行差定数はv/cで与えられ、1976年の国際天文学連合総会で採択された値は20.49552"である。

元素存在度を参照。

元素存在度を参照。

いろいろな元素の存在量のこと。普通は分光観測により得られる太陽光球の元素組成と、化学分析により得られるCIコンドライト隕石の組成をもとにして計算された、太陽系の元素存在度(太陽組成)を指す(図参照)。これは宇宙組成比の代表的な値である。揮発性の高い元素や軽元素を除くと、太陽光球の元素組成と、CIコンドライトの元素組成はよく一致する。そのため、水素、炭素、窒素、希ガスなどについては、太陽光球の組成を用いて、また微量元素や同位体についてはCIコンドライトの組成を用いて、元素存在度を求めている。元素存在度は、ケイ素Si=106あるいは水素H = 1012とした相対値として通常表示する。水素、ヘリウムの量が多く、両者で存在量の99%を占める。次いで多いのは、酸素、炭素である。炭素質コンドライトコンドライトも参照。
太陽系の元素存在度は本辞典の「有用な諸データの表」にある。
https://astro-dic.jp/about/table/
太陽系の元素存在度
https://astro-dic.jp/element-abundance-in-solar-system/

黄道座標系を参照。

地上からは困難な赤外線観測を行うための望遠鏡を搭載した飛行機天文台。軍用輸送機C-141Aの民間改良型をベースに防震装置に載せられた口径91.5 cmの望遠鏡を機体前部側面に搭載する。大気中の水蒸気による吸収のために近赤外線と中間赤外線のいくつかの大気の窓を除いたほとんどの波長域で天体からの赤外線が地上に到達しない。しかし、10-14 kmの ジェット機高度に上がると多くの波長で観測が可能となる。1974年に初飛行し、1995年に引退した。この間、太陽系内天体や超新星1987Aの観測で活躍した。後継機としてジャンボジェット機B747SPに口径2.4 mの望遠鏡を搭載した成層圏赤外線天文台が開発された。

光学系の本来の光束の一部が光学素子の口径不足や障害物などによって遮られ、焦点に届かなくなる現象。本来の光束は瞳位置に置かれる絞りによって決まるが、望遠鏡では多くの場合に主鏡(場合によっては副鏡やシュミット板)が絞りに相当する。望遠鏡の主鏡で集められた光が観測装置の光学系を経て検出素子に至る間にけられが生じる可能性がある。光学系の調整が不十分である場合や予期しない障害物による場合がある。また、複雑な光学系や小さいスペー スに光学素子を配置する場合などに設計上やむを得ないけられが生じる場合もある。

ある一定条件下で観測可能な最も暗い天体の等級。たとえば、可視光Vバンドで露出時間1時間、S/N比5の条件で星などの点光源に対する限界等級は○○等、というように用いられる。一般に、露出時間を長くするほど限界等級を暗くできる。ノイズ源が背景光である場合(背景雑音を参照)は、露出回数を約6倍(2.5の2乗倍)に増やして重ね合わせることでシグナル(天体からの光)は6倍、ノイズ(背景光の平方根に比例)は√6倍となり限界等級は1等暗くなる。ノイズ源が検出器の読み出し回路である場合(読み出し雑音を参照)には、1回の観測の露出時間を2.5倍に延ばすことでノイズの大きさを変えずにシグナルを2.5倍にできるため、限界等級を1等暗くすることが可能である。

天体の天球上の位置を示す時刻をいう。天球座標系自体が時間変化することを想定したものと、天体自体が同一の天球座標系に対して移動すること(固有運動)を想定する場合とがある。前者は、分点とも呼ばれ、地球の歳差章動などによって地球の自転軸が天球上を移動するために赤道座標系の基準が変化することによる。このため、赤道座標には元期を明示する必要がある。元期が不統一だと天体の座標の比較が煩わしいため、ベッセル年での1950年初(B1950.0と表記)やユリウス年の2000年初(J2000.0と表記)での値が用いられたものが多いが、古くは1900年初(局所静止基準に対する太陽運動の方向)や1875年初(星座の境界線)が用いられた例もある。地上にある望遠鏡で観測する場合など、地球の自転の効果を考慮する必要がある場合には、その時点の元期での座標値に変換する必要がある。このような状況は不便であるため、国際天文学連合が地球の自転軸と関連しない基準座標系として国際天球基準座標系(ICRF)を1997年の総会で採択したが、現在は、2009年の総会で改訂されたものが使われており、1997年のものと区別する際にはICRF2と記述することになっている。これは天の川銀河の外にある十分遠方の銀河の見える方向を基準とした座標系であるが、FK5カタログで定義されるJ2000.0の赤道座標系と値ができるだけ一致するように定めている。

開口合成型の電波干渉計で、uv面上の観測していないビジビリティを推定するための方法の1つ。これによって、ダーティーマップから真の天体画像になるべく近い画像としてクリーンマップを得る。CLEANによる推定では、天体の輝度分布をできるだけ少数の点源の集合だと仮定している。ただし、実際の観測データには測定雑音が含まれるため、単純な当てはめでは正しい答えが得られない場合がほとんどである。このため、以下に述べる逐次演算によって推定を実現する。CLEANのアルゴリズムでは、ダーティーマップ中から強度の絶対値のピークを見つけ、その位置と振幅値をクリーン成分として記録するとともに、クリーン成分に対応する点像分布関数をダーティーマップから引き去り、残差マップを作成する。以降、この残差マップ中に対して強度の絶対値のピークを見つけ、新たなクリーン成分として記録し、点像分布関数成分を引き去る操作を繰り返す。この際に、収束を確実にするために、ダーティーマップからの引き去りに際しては、見つけた最大値よりも一定の割合だけ小さな値を用いることが要点である。この一定割合の値をゲイン値と呼ぶ。こうして、残差マップのピーク値が予想される雑音に基づいてあらかじめ指定された値よりも小さくなるか、見つけたクリーン成分の個数が指定した数に達した場合に繰り返しを終了する。最後に、得られたクリーン成分に実際にビジビリティを測定しているuv面上のデータ分布から得られる点像分布関数のピーク周辺をガウス分布(正規分布)で近似したビームでたたみ込んだ画像を作り、それに最終的な残差マップを足したマップを結果とする。ただし、uv面上でのビジビリティ分布が極めて限られていたり偏っている場合には、真の天体画像とは程遠いクリーンマップに収束することもよくあるため、クリーン成分が存在する画像範囲を指定することもある。この操作を「ボックスをかける」という。
CLEANは直観的に理解しやすいアルゴリズムであり、必要な計算機資源も節約できるが、点源の集合体として輝度分布を再現しようとする手法であることから、広がった輝度分布の再現には弱い面があると考えられている。測定していないビジビリティを推定する方法としては、他に、最大エントロピー法もよく使われる。

一定方向に進行する電磁波が物質による吸収や散乱を受け、前方に到達するエネルギー総量が減ること。星間減光も参照。

星間減光曲線を参照。

クリーンを参照。

ある特定の元素に関して、星間ガス中に実際に存在している量を本来存在すべきと予想される量(参照量)で割って対数を取ったもの。欠乏量などとも呼ばれる。以下の式で定義する。

D=log/

ここで、参照量とは、元素がすべてガスになっている場合の量で、通常は太陽組成が用いられる。 ガス中の存在量が少ない元素は、星間ダストに取り込まれていると推定される。 ダストに取り込まれていない元素では D0 となる。星間ダストも参照。

grating prismからの造語。プリズムの表面に回折格子を施したもの。目的波長の光が回折格子により曲げられる分をプリズムにより戻して直進させる光学素子。波長分散は回折格子とプリズムの分散の和となる。天体観測装置内の平行光束中の瞳位置にグリズムやフィルターを交換配置できると直進光学系で分光観測撮像観測を切り替えて行うことができるので、近年多用されている。

原子またはイオンの基底状態や励起状態の準位のエネルギーおよび電子の角運動量について表した図。横軸に合成軌道角運動量量子数や合成全角運動量量子数などをとり、縦軸をエネルギーとして各準位の位置が主量子数とともに表され、準位間の遷移が起こりうるところは線でつないで遷移エネルギーが記載されている。名称は20世紀前半のドイツの天体物理学者グロトリアンに由来する。最も単純な水素原子のグロトリアン図を示す。