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温室効果

小

よみ方

おんしつこうか

英 語

greenhouse effect

説 明

大気を持つ惑星では、惑星表面からの熱放射が、宇宙空間(大気圏外)に到達する前に、大気中の物質に吸収・散乱され、エネルギー輸送が妨げられるため、大気内の温度が上昇する。これを温室効果という。ビニールやガラスで覆われた温室の中の温度が外部より高いことの連想からこの名前が付けられたが、実際の温室では、地表で温められた大気を閉じ込めるために気温が上昇するので、原理は異なる。温室効果の原因となるガスを温室効果ガスという。
地球では、大気は太陽放射エネルギーのピークである可視光をよく通すので、雲が存在しなければ太陽から入射するエネルギーの多くが地表に到達する。実際には雲や地表面などで反射されて太陽からの入射エネルギーの約50%が地表に吸収される。このエネルギーは地表面から、波長10 μm あたりにピークがある熱放射として赤外線波長域で地球大気に放出される。大気中にある二酸化炭素、水蒸気、メタンなどの分子はこの赤外放射を吸収し、地表に逆放射する。このために温室効果が起きる。温室効果は雲によってももたらされる。大気上端から宇宙空間に放出される放射量は、地表面からの放射の約60%である。
地球放射のスペクトルを見ると、地表面からの放射は絶対温度約288K(15℃)の黒体放射のスペクトルに近いが、大気上端からの放射スペクトルにはさまざまな分子による吸収のパターンが見られる。二つのスペクトルの間の面積が全温室効果で、二酸化炭素(CO2)はその約25%を占める。大気上端からの放射量と等しい量の放射を出す黒体の温度は約254K(-19℃)である。このことから、もし温室効果がなかったら、地球の放射平衡温度は約-19℃であるが、温室効果によってそれが約15℃に保たれていると言うことができる。
電波観測で明らかになった金星の高い表面温度を二酸化炭素大気の温室効果で説明したのは、セーガン(C. Sagan)である。大気の底の温度は730 Kに達する。金星への太陽光の80%は雲で反射され、さらに大気が厚いため表面に到達するのは2%ほどである。しかし、大気量が多いため赤外放射の宇宙空間への散逸が妨げられ、表面温度は非常に高くなる。実際には、二酸化炭素のほか、水蒸気、二酸化硫黄、硫酸からなる雲も温室効果に寄与している。
火星では、現在では大気が薄く温室効果はほとんど働いていない。しかし、40億年前は二酸化炭素大気量が多く、温室効果により、液体の水が表面に存在可能であった(生命生存が可能であった)と考えられる。

2020年03月15日更新

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    温室効果の模式図
    (出典:気象庁ホームページ)
    http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p03.html
    * 地球全体としての年間平均エネルギー収支
    Earth’s Annual Global Mean Energy Budget, J. T. Kiehl and Kevin E. Trenberth 1997, Bulletin of the American Meteorological Society, Vol. 78, No. 2, 197
    の原図をもとに作成。
    * 地球放射のスペクトル。(上図)地球からの放射のスペクトル(雲のある状態)。青い実線は地表面からの放射で、288K(15℃)の黒体放射のスペクトルに近い。この放射は図に示す大気中のさまざまなガスによって吸収されるので、大気上端からの放射(赤線)は地表面からの放射より少ない。黒い実線は、大気上端からの放射とほぼ同じ量のエネルギーを放射する黒体放射のスペクトル。(下図)放射強制力のスペクトル。放射強制力は、地表面からの放射(上図の青線)と大気上端からの放射(上図の赤線)との差である。
    Earth’s Annual Global Mean Energy Budget, J. T. Kiehl and Kevin E. Trenberth 1997, Bulletin of the American Meteorological Society, Vol. 78, No. 2, 197
    の原図をもとに作成。