赤方偏移サーベイ
よみ方
せきほうへんいさーべい
英 語
redshift survey
説 明
銀河系(天の川銀河)外の天体(通常は銀河)で一定の条件を満たすものをくまなく分光観測してその赤方偏移を測るサーベイ観測。赤方偏移(後退速度)からは距離が求められるので、赤経、赤緯(赤道座標系)の情報と合わせて天体の3次元座標が得られるほか、見かけの等級と組み合わせると絶対等級がわかる。分光対象を選ぶための最も単純な条件は、見かけ等級がある一定値より明るいというものだが、色や表面輝度などの条件も追加して対象天体をさらに絞り込むこともある。赤方偏移サーベイは、銀河の形態ごとの平均的な性質や光度関数など、大きなサンプルに対して絶対等級が必要な銀河研究に不可欠である。また赤方偏移サーベイから得られる宇宙の大規模構造(銀河の空間分布)とその進化は、観測的宇宙論の基礎データである。
赤方偏移サーベイから、宇宙大規模構造のヒントをはじめて見つけたのはステファン・グレゴリー(Stephen Gregory)とレアード・トンプソン(Laird Thompson)で1978年のことである。彼らが分析したのはかみのけ座銀河団方向の238平方度の天域にある銀河の分布である。従来からここにある多くの銀河の赤方偏移は知られていたが、サンプルに完全性がないために奥行きを含めた三次元構造(空間分布)は議論できなかった。彼らはこの天域にある15等級より明るい銀河238個の「全ての」赤方偏移を知るために、あらたに44個を観測した。サンプルが「完全」になったために、描き出された結果から空間分布の議論ができたのである。その空間分布を示す図(図1)には、二つの銀河団とそれをつなぐフィラメント状構造からなる超銀河団、および銀河のないボイドらしい構造が見えていた。一方ボイドの存在は、1981-87年に、ロバート・カーシュナー(Robert Kirshner)らによるへびつかい座の天域の赤方偏移サーベイで観測的に実証された(図2)。
赤方偏移サーベイの完全性を重視してハーバードスミソニアン天体物理研究所(Harvard Smithsonian Center for Astrophysics: CfA)の研究者が中心となって大規模な赤方偏移サーベイ(CfAサーベイ)が行われた。第一次サーベイ(CfA-I)は14.5等より明るい全天の2401個を対象とし、1981年に完成した。その結果、広い天域で宇宙の大規模構造の片鱗が見えてきた。そこで、限界等級を15.5等と1等級暗くした第二次サーベイ(CfA-II)が行われた(1985-1999)。観測開始直後に発表された結果から、超銀河団、フィラメント、ボイドが織りなす宇宙大規模構造がくっきりと見えてきた(図3)。これに刺激されて1980-90年代にはさまざまな赤方偏移サーベイが行われた(図4)。CfAサーベイでは対象銀河は写真サーベイのカタログから取られたが、これらのサーベイではより暗い銀河を目指して、CCDなどによる観測から対象銀河が選ばれるようになってきた。
新しい世代の大規模な赤方偏移サーベイへの道を開いたのは、3.9mアングロオーストラリア望遠鏡による2dF銀河赤方偏移サーベイ(2dF Galaxy Redshift Survey: 2dFGRS)とスローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)である。前者は過渡的なやり方で、写真サーベイのデジタル処理から作られたカタログから銀河を選んで2001年までに22万個の赤方偏移を測定した。後者はCCDにより撮像サーベイと分光サーベイを同じ望遠鏡で並行して行うというまさに新世代の銀河サーベイの嚆矢となり、当初計画で予定した93万個の銀河の赤方偏移測定を2008年に完了した(図5)。
かつての分光器は1回の観測で1天体しか分光できなかったが、視野内に多数のスリットを配置できるマルチスリット型や、多数の光ファイバーを用いたファイバー型の多天体分光器が発明されると、1980年代頃から赤方偏移サーベイ(より一般的に分光サーベイ)の効率は飛躍的に向上した(図6)。
2020年06月19日更新
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