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ミッシングバリオン問題

 

よみ方

みっしんぐばりおんもんだい

英 語

missing-baryon problem

説 明

ビッグバン直後に起きたビッグバン元素合成による軽元素元素存在度、および宇宙マイクロ波背景放射(CMB)のパワースペクトルから制限される宇宙におけるバリオン(通常の物質)の量(宇宙の臨界密度の約5%)に対して、現在の(近傍の)宇宙で観測されるバリオンの量が少ないという矛盾を指す言葉。現在の宇宙に観測されていないバリオンがあることを意味するので、ミッシングマスにちなんでそれをミッシングバリオンまたはダークバリオンという。
現在の標準宇宙モデルによると、宇宙はダークエネルギー(約69%)、ダークマター(約26%)、バリオン(約5%)から構成されている。2012年時点での調査によると、この5%のバリオンのうちで、重力の影響で塊となって存在する銀河、銀河を包み込む銀河周辺物質、および銀河団内にある銀河間物質は約18%、塊ではなく広く広がった温度103-105 Kと比較的低温度の銀河間物質が約28%、それより高温(105-107 K)の中高温銀河間物質(Warm and Hot Intergalactic Medium: WHIM)が約25%で、残りの約29%が観測されていないミッシングバリオンである(図参照)。
宇宙の構造形成のコンピュータシミュレーションから、広がったWHIMは宇宙の大規模構造に沿って分布していると考えられている。プラズマ状態にあるWHIMはその温度から、紫外線から軟X線にかけての電磁波が観測に適しているが、薄く広がっているので技術的に検出が難しい。WHIMに含まれる重元素の輝線や、活動銀河核など明るい背景天体のスペクトルに見られる吸収線などの観測を通してその組成や分布を研究することはXRISM衛星を含むX線天文衛星の重要な目的の一つである。
2020年に発表された、高速電波バースト(FRB)から測定される銀河間空間における分散量度赤方偏移の相関関係の発見(図参照)により、宇宙には予想通り約5%のバリオンがあり、その内の約80% (ミッシングバリオンを含む) が銀河間プラズマとして存在していること自体は明らかとなった。分散量度は宇宙の電子柱密度に比例し、高速電波バーストはこれを直接測定しているので、銀河間プラズマからの放射を直接捉えて分布を描きだしたわけではないが、ミッシングバリオン問題は解決した(ミッシングバリオンはない)と考えられている。

2024年09月07日更新

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    左図は宇宙の構成要素の割合(プランク衛星チームの解析結果、原図はhttps://sci.esa.int/web/planck/-/51557-planck-new-cosmic-recipe)。バリオンは約5%でしかない。右図は2012年時点での観測に基づくバリオンの存在状態ごとの量を全体に対する割合で示した図。約30%のバリオンが観測されていない (原図はShull, J.M. et al. 2012, ApJ, 759, 23)。(作成 岡村定矩)
    同定された8個の高速電波バースト(FRB)から測定された銀河間空間の分散量度を赤方偏移に対してプロットした図。直線はプランク衛星のデータに基づく現在の標準宇宙モデル(バリオンの割合が約5%で、そのうち約80%がミッシングバリオンを含む銀河間プラズマとして存在し、残り約20%はすでに測定済みの銀河など重力で塊となっているガス)に対する予測。影のついた部分は、銀河ハローから高温プラズマが噴き出すモデルのシミュレーションの予想範囲を示す。観測データはほぼこの範囲にあり、直線の周りのばらつきは銀河間物質(プラズマ)の密度の非一様性の影響と考えられる。直線と観測データがほぼ合致しているので、高速電波バーストの分散量度にはミッシングバリオンを含むほぼ全ての銀河間物質が寄与している(ミッシングバリオンはなくなった)ことがわかる。
    出典 Macquart, J.-P. et al. 2020, Nature, 581,391 (https://arxiv.org/pdf/2005.13161.pdf)