サンデージ
よみ方
さんでーじ
英 語
Sandage, Allan Rex
説 明
アラン・サンデージ(Allan Sandage; 1926-2010)はアメリカ生まれの天文学者。カーネギー研究所で銀河やクェーサーの研究を行い、観測から膨張宇宙モデルのパラメータ、とくにハッブル定数の決定に貢献した。20世紀を代表する観測天文学者の一人である。
アイオワ州アイオワシティ生まれ。父親の仕事の関係で少年期はペンシルベニア州やイリノイ州で過ごした。フィラデルフィアにいた11才頃に友人の影響で天文学に興味を持ち、10代で「パロマーの巨人望遠鏡」やハッブルの書いた「星雲の領域」など多くの天文書籍を読んだ。1943年にオハイオ州オックスフォードにあるマイアミ大学で物理を学んだが、兵役で中断後イリノイ大学に移り、卒業後カリフォルニア工科大学の大学院に入学した。そこで研究の手伝いを探していたハッブルに出会い、ハッブルの後継者としてのキャリアが始まった。1953年の学位論文は球状星団の色-等級図に関するもので、指導教員はバーデであった。これは後に、主系列の転向点からさまざまな星団の年齢を推定し宇宙年齢との整合性を議論する研究分野の基礎となった。
星の金属量と軌道運動特性の相関関係に基づいて、エゲン(Olin Eggen)、リンデンベル(Donald Lynden-Bell)と共著で1962年に出版した論文は、観測から銀河系(天の川銀河)の形成過程を探る初めての本格的論文であった。この論文で提唱されたのは、「約100億年前に、巨大なガス雲が数億年以下という短い時間で、少なくとも1/10(動径方向)ないし1/25(動径に垂直方向)に重力収縮する中で星が生まれて銀河系ができた」という描像で、著者の頭文字をとってELSモデルと呼ばれこの分野の草分けとなった。その後、1978年にはサール(Leonard Searle)とジン(Robert Zinn)により、銀河系はもっと長い時間をかけたゆっくりした重力収縮でできたとするモデルが登場し両者の論争が続いた。現在では、ELSモデルの基になったデータには選択効果があり、その描像には正確でない面がある事が分かっている。
1953年のハッブルの突然の死後、サンデージはハッブルの後継者として、主にパロマー天文台の5mヘール望遠鏡を使って銀河と宇宙論の研究を進めた。1956年にはハマソン(Milton Humason)、メイヨール(Nicholas Mayall)らと多数の銀河の赤方偏移(後退速度)を測定し、ハッブル-ルメートルの法則の傍証となる論文を発表した。また、ハッブルの未発表のノートにあったアイデアに基づいて出版した「The Hubble Atlas of Galaxies」は、銀河の形態分類の体系を代表的な銀河の写真とともに解説したもので、当時の銀河研究のバイブル的な存在であった。
サンデージとハッブルは、1950年代から膨張宇宙モデルのパラメータであるハッブル定数と減速定数を決める研究を構想し観測をはじめていた。ハッブルの死後この研究は、1960年代はじめにドイツ人の天文学者タマンの協力を得て発展した。新たな標準光源とその校正に基づく宇宙の距離はしごを使って1976年にハッブル定数(H0)が50±4 km s-1 Mpc-1であるとする論文を発表した。この値に対応する宇宙年齢は約200億年である。従来の学界のコンセンサスである約100億年の2倍であったことから大きな論争を巻き起こした。その後ドゥ・ボークルールが広範な観測データに基づいてH0=100±10 km s-1 Mpc-1とする論文を1979年に出版し、H0=50(long distance scale: 長い距離尺度)か100(short distance scale: 短い距離尺度)かの論争が20年以上に渡って繰り広げられた。この論争の中で、宇宙モデルの決定に関して、銀河の進化の理解(E補正)が決定的に重要である事が明らかになった。また、サンデージとタマンは1981年に、銀河の距離を掲載した初めてのカタログ「A Revised Shapley-Ames Catalog of Bright Galaxies」を出版した。このカタログは局所超銀河団の構造やフィールド銀河の光度関数の研究の基礎となった。
1970年代末からビンゲリ(Bruno Binggeli)、タマンらとラスカンパナス天文台の2.5 m望遠鏡を使って写真によるおとめ座銀河団のサーベイ観測を行い、2000個以上の銀河団メンバーを検出しカタログ(Virgo Cluster Catalog: VCC)を作った。このラスカンパナスサーベイは、その後のおとめ座銀河団研究の基礎となるデータを提供したことに加え、局所銀河群以外にも矮小銀河が普遍的に存在すること、矮小楕円銀河と巨大楕円銀河は面輝度分布すなわち内部構造が異なることを示した。サンデージはまた、クェーサーのスペクトルを多数観測したり、Ⅰa型超新星が良い標準光源となることを指摘するなど、宇宙論の基礎となる多くの観測を行った。
王立天文学会のエディントン・メダル(1963年)とゴールドメダル(1967年)、アメリカ国家科学賞(1970年)、太平洋天文学会ブルースメダル(1975年)、クラフォード賞(1991年)、グルーバー宇宙論賞(2000年)などを受賞。
David Devorkinによるアメリカ天文学会誌の追悼記事 Bulletin of the American Astronomical Society, Vol. 43, id.038
https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2011BAAS...43..038D/abstract
2020年04月16日更新
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