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すばる望遠鏡

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よみ方

すばるぼうえんきょう

英 語

Subaru Telescope

説 明

アメリカのハワイ州ハワイ島のマウナケアの山頂域(標高約4200 m)に日本の国立天文台(NAOJ)が建設した経緯台方式の光学赤外線望遠鏡。1998年12月24日に、望遠鏡が初めて天体からの光を観測したエンジニアリングファーストライト(望遠鏡の自動追尾用に取り付けられた小型CCDカメラを使用)、1999年1月に複数の観測装置で順次ファーストライトを迎えた。

標高 4200 メートルのマウナケア山頂域は、気圧は平地の3分の2しかなく、地上の天候システムの影響を受けにくい高さにあるため、快晴の日が多く、乾燥している。貿易風がハワイ諸島上空を滑らかに吹き、雲が山頂まで上ってくることは稀で、大気が安定していてシャープな星像を得られる。さらに、近くに大きな都市もなく、天体観測をさまたげる人工的な光はほとんどない。このようにマウナケア山頂域は、晴天率が高い、大気が安定している、湿度が低い、夜空が暗いなど、天文観測を行う理想的な条件がそろった場所で、世界有数の望遠鏡が並んでおり、マウナケア国際天文台群と呼ばれている。

すばる望遠鏡の主鏡は、有効口径8.2 m、厚さ20 cm、重さ22.8トンのULEガラス(超低熱膨張ガラス)を使用した世界最大級の単一鏡である。裏面を支える261本のアクチュエータが、望遠鏡を傾けた際に生じる歪みを補正することで、主鏡は常に理想的な形状に保たれている。この方式を能動光学と呼ぶ。望遠鏡周辺の空気の乱れを抑え星像の劣化を最小限にするため、円筒形のドーム形状が採用され、ドーム内部は昼間から夜間気温に空調されている。赤外線での観測では、大気揺らぎをリアルタイムで補正する補償光学装置とレーザーガイド星生成システムを使用し、高い空間分解能(解像度)を実現している。補償光学を用いてすばる望遠鏡が達成する最高分解能は、視力1000以上で、富士山頂に置いたコインを東京都内から見分けられる能力に匹敵する。

すばる望遠鏡には1999年のファーストライト当時から、主焦点カセグレン焦点、ふたつのナスミス焦点の4つの焦点があり、それぞれの特性を生かした観測装置が搭載されている。特に、望遠鏡の一番上にある主焦点に観測装置を搭載し、可視光において広い視野を高い解像度で観測できる能力を持っている。一般に口径の大きな望遠鏡ほど、収差の影響で一度に見られる空の領域は狭くなるが、すばる望遠鏡の第1世代広視野主焦点カメラであるシュプリームカム(Suprime-Cam)は8000万画素を有するデジタルカメラで、主焦点補正光学系のおかげで、満月とほぼ同じ大きさの34分角×27分角という広い視野を一度に撮影することができた。すばる望遠鏡は、これらの多彩な観測装置を駆使して、遠方銀河の発見や太陽系外惑星の直接撮像など、数々の観測成果をあげてきた。

2013年には、Suprime-Camの後継機としてハイパーシュプリームカム(Hyper Suprime-Cam: HSC)が稼働を始めた。HSCは独自に開発された 116 個の高感度 CCD 素子を搭載し、計8億 7000 万画素を持つ巨大な超広視野デジタルカメラで、新たに開発された主焦点補正光学系により満月9個分に相当する広い視野を一度に撮像できる。2014年から2021年までの 330 夜を使って、HSCすばる戦略枠観測プログラム(HSC-SSP: HSC Subaru Strategic Program)が実施され、そのビッグデータは全世界に向けて段階的に公開されている。HSC-SSPのデータから、かつてない広さと解像度のダークマター地図の作成など、すばる望遠鏡とHSCの特長を生かした成果が生まれている。さらに、HSC-SSPの公開データを使って、職業科学者ではない市民、すなわち「市民天文学者」が研究に参加貢献する「市民天文学」(シチズンサイエンス)プロジェクトも行われている。

2022年には、すばる望遠鏡の機能を大幅に強化し、天文学研究に新たな地平を切り拓くプロジェクト「すばる2」が始まった。将来計画まで含め4つの主力装置を使って、ダークマターとダークエネルギーの性質の探求から、銀河や様々な爆発現象、地球型系外惑星の探査まで、様々なスケールを網羅した4つの科学目標を追求し、宇宙の全体像を捉えることを目指している。

関連するサイト
すばる望遠鏡ホームページ:https://subarutelescope.org/jp/
すばる望遠鏡の特長:https://subarutelescope.org/jp/about/features/
すばる望遠鏡観測装置一覧:https://subarutelescope.org/jp/about/instrument/
すばるが解き明かす宇宙:https://subarutelescope.org/jp/subaru_discovery/
すばる望遠鏡が観た宇宙の姿 ―すばる望遠鏡20年の研究成果―(2019年):
https://www.nao.ac.jp/study/subaru20/
HSC-SSP日本語サイト :https://hsc.mtk.nao.ac.jp/ssp/home/home_jp/
すばる2:https://subarutelescope.org/jp/subaru2/index.php
すばる望遠鏡公式YouTubeサイト:https://www.youtube.com/@SubaruTelescopeNAOJ
すばるギャラリー:https://subarutelescope.org/jp/gallery/

 


マウナケア山頂の夕暮れ、観測をスタートする「すばる望遠鏡」

https://www.youtube.com/embed/KCfdiriOFj8?si=FgwSKybatEs7B8mE"


すばる望遠鏡新プロジェクト すばる2

https://www.youtube.com/embed/haknGpyhVzA?si=MvSRLWoVE0OZpNoy"


進化を続けるすばる望遠鏡

https://www.youtube.com/embed/4Je--MqBtL8?si=X1CgYyk-RJtIpZ5T"

2024年10月10日更新

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    関連画像

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    マウナケア山頂域のすばる望遠鏡
    https://subarutelescope.org/jp/gallery/facility/1998/11/12/797.html
    (提供:国立天文台)
    すばる望遠鏡のアクチュエータと主鏡。
    https://subarutelescope.org/jp/gallery/facility/1998/08/12/929.html
    (提供:国立天文台)
    すばる望遠鏡と主焦点につけられたSuprime-Cam
    https://subarutelescope.org/Gallery/gallery_images/dome_prime_s.jpg
    (提供:国立天文台)
    すばる望遠鏡主焦点に搭載されたハイパーシュプリームカム(HSC)
    https://subarutelescope.org/jp/gallery/facility/2023/03/23/3340.html
    (提供:国立天文台)
    すばる望遠鏡 HSC が撮影した、ダークマターの塊の位置における銀河分布
    https://subarutelescope.org/jp/results/2018/02/26/853.html
    (提供:国立天文台)