天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

New

ドゥ・ボークルール, ジェラルド

 

よみ方

どぅぼーくるーる, じぇらるど

英 語

de Vaucouleurs, Gérard

説 明

ジェラルド・ドゥ・ボークルール(Gérard de Vaucouleurs; 1918-1995)はフランスの天文学者。パリ生まれ。14才の時に母親から小さな望遠鏡を買ってもらったことから天文学に興味を持ち、ソルボンヌ大学で2年間、物理、天文、数学を学んだ。第2次世界大戦の兵役後、1943年に再びパリ大学に入り1949年に気体と液体中でのレイリー散乱の研究で学位を取得した。1944年にアントワネット(Antoinette)と結婚し、以来二人はともに天文学の研究に携わる。
オートプロバンス天文台の望遠鏡を使って銀河表面輝度分布を測定する表面測光(surface photometry)の研究をおこない、1948年に楕円銀河の面輝度分布に関するドゥ・ボークルール則を発見した。後には、国際天文学連合の第28委員会の中に「銀河の表面測光」ワーキンググループを作って長く座長を務め、誤差が入りやすく手間のかかる、写真乾板による銀河の表面測光の精度を高め、解析方法を標準化して世界的に普及させるために尽力した。銀河系外天文学を目指してフランスを出た二人は、まずイギリスに渡り、1951年には、ストロムロ山天文台の74インチ望遠鏡を使えるオーストラリア国立大学(ANU)に移った。1954年にANUを去って一時エール大学の南天観測所にいたが、1957年にローウェル天文台、58年にハーバード大学と異動を重ね1960年にテキサス大学オースチン校に移ってからはそこで生涯研究を続けた。
1950年代に、銀河系天の川銀河)はおとめ座銀河団を中心とする銀河の大集団に属していることを示し、これを局所超銀河団と名付け、その研究に便利な超銀河座標系を導入した。また、銀河の形態分類を精力的に行い1959年にドゥ・ボークルール分類を提案した。これはハッブル分類を精密化したもので、その後の銀河研究に広く用いられた。形態分類と観測量との相関を調べるために、形態分類を定量的数値に対応させた形態型指数を導入した。
ジェラルドとアントワネットの二人は銀河の光度、直径、視線速度など種々の観測量を収集し、標準化してカタログ化とすることに大きな情熱を注いだ。1964年に出版された参照カタログ(Reference Catalog of Bright Galaxies: RC1)は、2599個の銀河に対する形態分類を含む基礎データを集めたカタログで、銀河研究者には必携の書であった。銀河の観測が加速度的に進む中で、二人はコーウィン(Harold Corwin)らの協力を得つつ25年にわたってカタログの整備を続けた。1976年には4364銀河のデータを含む第2参照カタログ(Second Reference Catalog of Bright Galaxies: RC2)、1991年には23,024銀河のデータを含む第3参照カタログ(Third Reference Catalog of Bright Galaxies: RC3)が出版された。これらのカタログは長い間、銀河天文学の基本データとして用いられた。
カタログの編纂と並行してジェラルドは1979年に、宇宙の距離はしごを使ってハッブル定数(H0)をH0=100±10kms-1Mpc-1とする一連の論文を発表した。これは後退速度から求まる銀河の距離としては、サンデージタマンが求めたH0=50±4kms-1Mpc-1の半分となる短い距離を与えるので、short distance scale(短い距離尺度)と呼ばれ、サンデージ-タマンのlong distance scale(長い距離尺度)との間で学問上の論争が20年以上続いた。
1988年にはアメリカ天文学会のラッセル賞を受賞した。
Ronald Butaによるアメリカ天文学会誌の追悼記事
http://adsabs.harvard.edu/full/1996BAAS...28.1449B

2020年04月17日更新

この用語の改善に向けてご意見をお寄せください。

受信確認メール以外、個別のお返事は原則いたしませんのでご了解ください。

    関連画像

    画像をクリックすると拡大されます

    ジェラルド・ドゥ・ボークルール
    出典  https://en.wikipedia.org/wiki/G%C3%A9rard_de_Vaucouleurs#/media/File:G%C3%A9rard_de_Vaucouleurs00.jpg
    * 25年間にわたって刊行された三つの参照カタログ(RC1, RC2, RC3)。収録銀河数が飛躍的に増加していることが分かる。RC3以降は紙ベースの銀河のカタログはあまあまり発行されなくなった。
    (作成 岡村定矩)