激しい星生成活動(スターバースト)を終えた直後の銀河のこと。スペクトルに水素のバルマー吸収線が強く見られるのが特徴。寿命の短い(<1億年)OB型星はすでに進化を終え、超新星爆発を起こして死に絶えており、水素のバルマー吸収線が強いA型星が銀河の光度に大きく寄与している時代の銀河であると考えられる。A型星の寿命は1億年から10億年程度であるので、スターバーストが終了してからそのくらいの時間が経過した銀河でこのようなスペクトルの特徴が顕著になる。E+A銀河ともいう。
ジェフリー・バービッジ(Geoffrey Ronald Burbidge;1925-2010)は、イギリス生まれのアメリカの天体物理学者。宇宙における元素合成をまとめた理論をつくった。またビッグバン宇宙論に対する定常宇宙論を主張した。
チッピング・ノートンに生まれ、ブリストル大学で歴史学と物理学を学び、ロンドン大学で学位をとった。ウィルソン山天文台とパロマー天文台で研究し、B2FHと略称される大論文(1957)を妻のマーガレット・バービッジとファウラー(W. Fowler)とホイル(F. Hoyle)で書き、星内での原子核反応で宇宙にある多様な元素ができることを提唱した。すべての元素は星でつくられるとした理論のため、定常的な宇宙の描像(定常宇宙論)にこだわった。キットピーク国立天文台長を1978-84年の間務めた。1999年にブルース・メダル、2005年に王立天文学会ゴールドメダル受賞。
英国王立協会による追悼文 https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbm.2017.0002
屈折率の大きい媒質から屈折率の小さい媒質に対し光が浅い角度で入射したときに全反射する性質を利用して、光を高い効率で伝送するガラス繊維。屈折率の高いコアと呼ばれるガラスをクラッドと呼ばれる屈折率の低いガラスで覆い、さらにその外側を被覆で保護した構造を持ち、光は全反射により(ファイバーの種類によっては屈折の場合もある)コア内部を伝わる。天文学では観測装置とコンピュータを結ぶ通信線として利用するほか、多くの天体の光をファイバーで別々に拾い集めた後、一列に並べ替えて分光する多天体分光器や、バンドル(光ファイバーの束)にして広がった天体の光を場所ごとに取り出し、同時に分光する面分光装置に利用されている。
差動回転を参照。
1平方キロメートル電波干渉計を参照。
回転対称な2次曲面からなるレンズや鏡面の形状は、光軸を
と表すことができる。ここで
大気の屈折率 n は、1気圧で n=1.00028 程度で真空中の 1 とは異なるため、天体からの光は地球大気により屈折する。その結果、天頂方向にある天体以外は見かけの方向と実際の方向が異なり、地平線に近い天体ほど実際の方向よりも天頂方向にずれた方向に浮き上って見える。このずれを大気差と呼ぶ。天頂からの角度(天頂距離)を z として、大気が平行平面板状とみなせる z < 60° の範囲では大気差は tan z にほぼ比例し、1気圧の地表では z = 45° で約1'であるが、z = 90°(視高度 0°)では 34'24'' にもなる。高地では気圧に比例して大気差は小さくなる。大気分散も参照。
光学系の収差を補正するため平行平面板の片側を非球面に研磨して用いる光学素子。シュミット望遠鏡で球面収差を補正するためのシュミット補正板などが代表的な例。補正板も参照。
星の外層大気に存在する100万度を超す高温のコロナを形成するための物理機構のこと。太陽の場合は6000度の光球の約2000 km上空からコロナ領域となる。加熱に使われるのは粒状斑に代表される表面乱対流のエネルギーである。この一部が希薄な上空で解放されれば、コロナは形成される。初期に提案された加熱機構は、表面乱対流が作り出す音波が急激に密度低下する上空に伝播したときに転化される音波衝撃波によるものであった。しかし、太陽表面で観測される5分振動に起因する音波は上方へは伝わらず、また周期の短い音波も彩層下部で衝撃波化して減衰しコロナまでは達しないため、この説は廃れた。
太陽表面の構造がX線や極端紫外線で観測されるようになると、コロナに見られる構造が光球磁場から推定される磁力線に沿ったコロナループの集合体であることや、黒点上空を除き磁場の強いところほどコロナが明るいことから、コロナの存在には磁場が重要な役割を果たしていると考えられている。したがって、光球の乱対流運動のエネルギーを磁場を介して上方へ持ち上げ、そのエネルギーが散逸してコロナは加熱されるというのが現在の一般的な考え方である。その機構としてさまざまなアイディアが提案されているが、おおまかに分類するとアルベーン波などの磁気的な波の減衰による波動加熱とこのような波に比べてゆっくりとした運動によってつくられるコロナ磁場中の不連続点における電流加熱に分けられる。前者は波の減衰として加熱され、後者は微小フレア的な急激な加熱であることから、それぞれ交流加熱、直流加熱などと呼ばれることがある。
ブラックホール周りの降着円盤のうち、高温で低密度(あまり放射が出ない)のガス流に見られるもの。英語のRadiatively Inefficient Accretion Flow の頭文字からRIAFとも呼ばれる。
放射を出さないと放射冷却が効かないのでガスは高温になる。高温になると粘性が大きくなり、角運動量の輸送効率が高まるために、降着速度は自由落下速度くらいまで大きくなる。重力エネルギーの解放により発生した熱は、この高速ガス流にのって中心天体へと運ばれる。
歴史的には移流優勢流モデルから発展したものである。
CCDなどの二次元検出器で、画素(ピクセル)の一辺が天球上のどれだけの角度に対応するかを示す数値。イメージスケールも参照。
アメリカ航空宇宙局(NASA)がヨーロッパ宇宙機関(ESA)との協力の下で開発し運用する口径2.4 mの宇宙望遠鏡。1990年4月24日にスペースシャトル「ディスカバリー」によって打ち上げられ、高度約600 kmを約100分の周期で地球を周回している。宇宙膨張の発見者であるエドウィン・ハッブル(E. Hubble)にちなんでハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)と名付けられた。NASAのグレートオブザーバトリーズ(Great Observatories)シリーズ4機のうちの最初のものである。
HSTは前例のない望遠鏡で、運用期間中にスペースシャトルに回収して何回か定期的な修理と装置交換を行う予定であった(その後もこのような宇宙望遠鏡は存在していない)。このためのスペースシャトルのミッションはハッブル宇宙望遠鏡の修理ミッション(Servicing Mission: SM)と呼ばれた。打ち上げ直後の観測結果から、主鏡の研磨過程でのミスによりHSTはピンぼけ状態になっていることが判明した。このため、急遽対応策が検討され、スペースシャトル「エンデバー」による最初の修理ミッション(SM-1)が1993年12月に行われた。11日間を要したこのミッションは、複数の宇宙飛行士の複雑な船外活動を伴う大規模で極めて困難なものであった。ピンぼけ補正のための補正レンズに相当する光学部品(COSTAR)を組み込み、それに合わせて広視野/惑星カメラ(WF/PC)を更新(WF/PCからWFPC2へ)、さらに太陽電池パネルも交換するなど多くの作業が行われた。SM-1の成功によりHSTは所期の性能を達成した。
HSTは紫外線から赤外線までの波長で、撮像と分光の機能を持つさまざまな観測装置を搭載していた。SM-1に続く修理ミッションによって、当初の観測装置は、Fine Guidance Sensor (FGS) 以外はすべて逐次新しいものと交換された。2019年現在用いられている装置は以下のものである。
Advanced Camera for Surveys (ACS) 可視光の広視野撮像装置
https://www.nasa.gov/content/hubble-space-telescope-advanced-camera-for-surveys
Wide Field Camera 3(WFC3) 紫外線と赤外線に感度を持つ撮像装置
https://www.nasa.gov/content/hubble-space-telescope-wide-field-camera-3
Cosmic Origins Spectrograph (COS) 主に点光源用の紫外線分光器
https://www.nasa.gov/content/hubble-space-telescope-cosmic-origins-spectrograph
Space Telescope Imaging Spectrograph (STIS) 広がった天体で威力を発揮する撮像分光装置
https://www.nasa.gov/content/hubble-space-telescope-space-telescope-imaging-spectrograph
Fine Guidance Sensor (FGS) ポインティングのためのガイド星検出装置だが、星の位置と明るさも精密に測れる
https://www.nasa.gov/content/hubble-space-telescope-fine-guidance-sensors
Near Infrared Camera and Multi-Object Spectrometer (NICMOS) 近赤外撮像分光装置(現在休止中)
SM-1以降HSTは華々しい成果を挙げるようになった。修理ミッションはその後も2002年までに4回行われたが、2003年2月に起きたスペースシャトル「コロンビア」の空中分解事故のため、予定されていた次回の修理ミッションが取り消され、HSTの運用は2008年頃で終了すると想定されていた。しかし研究者のみならず広く社会からの強い要望により、2006年にNASAが方針を転換し、2009年5月に最後の修理ミッションSM-4が行われ、予想された寿命を超えてHSTは安定した運用を継続した。2018年10月に姿勢制御用ジャイロで最後まで動いていた3つのうち一つが停止し、HSTは一時観測をしないセーフモードに入った。しかし、20日後には解決策が功を奏し2019年10月現在HSTは観測を継続している。
HSTの科学成果は枚挙に暇がないが、中でも、宇宙初期の銀河の検出とその理解に道を開いたハッブルディープフィールド(HDF)に始まる多数のサーベイ観測、誕生から死までの星の一生の画像による実証などは、科学者だけでなく一般社会に最も大きな影響を与えた。2006年のNASAの方針転換は、HSTによる素晴らしい宇宙の画像と科学の進歩への貢献がいかに人々の心に刻み込まれたかを如実に示す出来事であった。
観測初期には、通常の公募観測に加えて、重点的に行うキープロジェクトとして以下の三つが選定された。
(1) 宇宙の距離尺度(Extragalactic Distance Scale)
セファイドの観測を従来より遠方の銀河まで伸ばし、宇宙の距離はしごの精度を高めてハッブル定数を決定する。
(2) クェーサーの吸収線サーベイ(QSO Absorption Line)
多数のクェーサーの紫外域の吸収線系を観測して銀河間物質の性質と進化を調べる。
(3) 深い撮像観測(Medium Deep Survey)
他の観測装置が特定の天体を観測している間にその天域を広視野カメラで撮像する。これはいわば観測時間の有効活用である。
宇宙の距離尺度キープロジェクトでは最終的にハッブル定数が目標とした10パーセントの精度でH0 = 72±8 kms-1Mpc-1と求められた。
修理ミッションの記録:
SM-1 : 1993 12/ 2-13 大改修、光学系改修 COSTAR, 観測装置更新 WFPC2
SM-2 : 1997 2/11-21 観測装置更新 NICMOS, STIS
SM-3A: 1999 12/19-27 ジャイロ交換
SM-3B: 2002 3/ 1-12 観測装置更新ACS, NICMOS改修, 太陽電池パネル交換
SM-4 : 2009 5/11-24 2006.10のNASAの方針転換により実現(最後のSM) 観測装置更新 COS, WFC3 修理 STIS, ACS 蓄電池,ジャイロ, コンピュータ等交換
関連ホームページ:
https://www.nasa.gov/mission_pages/hubble/main/index.html
http://hubblesite.org/
https://www.nasa.gov/content/goddard/hubble-space-telescope-science-instruments
https://www.nasa.gov/mission_pages/hubble/servicing/index.html
ハッブル宇宙望遠鏡の画像100選(@V101SPACE)
https://www.youtube.com/embed/0V08M1NcdJQ?si=zSpKuqSp_u9UuV6e"
コロナから放射される輝線のこと。
太陽コロナ中のプラズマが大量に放出される現象。英語名称の短縮形でCMEとも呼ばれる。米国のOSO-7(Orbiting Solar Observatory 7号機)衛星に搭載されたコロナグラフで発見された。その質量は1012 kgにも達し, 放出速度は30-3000 km s-1である。太陽より放出される角度はおよそ50度程度で時間とともにあまり変化せず、このためCMEのサイズは太陽から遠ざかるとともに自己相似的に大きくなる。全運動エネルギーは1029-1032 erg と典型的なフレアの解放するエネルギーと同程度である。CMEは 一番外側にシェル構造、内側にプロミネンス、それらの中間に空洞という3つの構造よりなる。プロミネンス周辺はらせん状の磁気構造をしており、これが惑星間空間に伝播して惑星間空間擾乱を引き起こす。
自由落下に近い環境で、物体の受ける加速度が小さい状態にあること。地球を周回する軌道にある飛翔体は基本的に自由落下の状態となり、無重力となる。しかしわずかな高層大気が存在するために重力以外の加速度をうけるとともに、飛翔体内部でも質量中心以外ではわずかに加速度が生じる。このため厳密には無重力にならず、その状態は微小重力と呼ばれる。
チリのセロトロロ汎米天文台に2003年に設置された口径4.1 mの光学赤外線望遠鏡。アメリカ(国立天文台、ノースカロライナ大学、ミシガン州立大学)とブラジルが共同で建設した。
セロトロロ汎米天文台は2019年にアメリカ国立光学赤外線天文学研究所(NOIRLab)に発展改組された。
ホームページ:https://noirlab.edu/public/programs/ctio/soar-telescope/
コロナ中の磁場のことで、太陽光球面で観測される磁場がコロナの高さにまで達したもの。コロナ磁場の値は10-100ガウスである。コロナの磁場を観測データより推定する最も直接的な測定は、コロナ輝線のゼーマン効果による円偏光を検出する方法であるが、コロナ輝線の輝線幅が光球などの吸収線と比べてはるかに広く、また輝線強度が弱いことなどから円偏光信号は最近になるまで検出されなかった。こうした中で2000年にハワイ大学のリン(H. Lin)らが近赤外領域にあるFexiii輝線の円偏光信号を初めてとらえることに成功し、10ガウス程度のコロナ磁場の存在が活動領域のコロナ上空の観測から直接的に示された。
コロナからの放射が極端に少ない領域のことで、太陽全体のコロナ像を見るとコロナにあいた穴のように見えるためにこのような名前で呼ばれている。この存在は地上のコロナグラフによる太陽極領域の観測により1950年代に発見された。極領域のコロナホールからは1 auの距離で速度800 km s-1の速度に達する高速太陽風が吹き出している。太陽活動極大期から極小期に向けて、極から赤道にかけてコロナホールが延びていく時期がある。このとき高緯度から低緯度に向けて延びた構造は特定の経度範囲に何か月にもわたって観測され、そのコロナホール境界より自転速度の緯度依存性を測定することができる。得られた自転角速度は、光球で観測されるものに比べはるかに剛体的な回転をしている。
コロナ中にある半環状のプラズマ構造で、その一方の端点の直下の光球ではN極が観測され、もう一方はS極に位置している。このため、一方の極性をもつ光球上の点から上空のコロナを経由して、それが再び光球の別の極性をもつ点へとつながる磁気構造のうち、コロナ領域で観測されるものがコロナループである。コロナループには、単純なループ型のもの、それが大きくS字状に湾曲したもの、頂上が尖ったものなどさまざまな形状のものがある。