M87 (NGC4486)
よみ方
えむはちじゅうなな
英 語
M87
説 明
おとめ座銀河団の中心部にある巨大楕円銀河。1781年に出版されたメシエカタログの87番目の天体なので M87と呼ばれる(NGCカタログの番号は4486)。電波源としては「おとめ座A」とも呼ばれ、歴史的には最も初期に可視光で見える天体に同定された銀河系外の電波源の一つである。M87の中心部では中心核に対応するコンパクトなコアとそこから伸びるジェットが、さらにその外側に広がるローブが見える。ジェットは可視光でも観測されており、電波と光の両方の観測からジェットが高速で運動していることが確認されており、このことからも銀河中心核の激しい活動性がうかがえる(活動銀河核)。
イベントホライズンテレスコープ(EHT)は2017年4月に、波長1.3 mmの電波でM87の中心核にある超大質量ブラックホールの観測を行った。このデータを解析したEHTグループは2019年4月にその結果を公表した。EHTチームの発表した電波画像では、ブラックホール周辺の明るい高温のプラズマがドーナツ状に見え(光子リング)、中心にブラックホールがシャドウ(暗い穴)として見えている。その質量は太陽質量の65億倍と推定された。このEHTのデータおよびその解析手法は広く世界に公開されているため、EHT以外の研究者が独立に再解析し、EHTが発表した結果についての検証を進めている。2022年6月には別のグループが別の手法で解析した結果、EHTグループの画像とは異なる特徴を持った画像が得られたという研究が報告された。その画像には、中心部分にある「コア構造」と、そこから伸びている宇宙ジェットが見られる。
EHTによるデータの再解析や手法の検討に加え、さまざまな装置での追観測などを通じて、M87の中心にあるブラックホールとそれに付随する構造についての研究が進められている。グローバルミリ波VLBI観測網(通称GMVA)と呼ばれる地球規模の国際電波望遠鏡ネットワークは、2018年4月14日から15日にかけて、EHTより長い波長3.5 mm帯の電波でM87の中心部の詳細な観測を行い、その結果を2023年4月に発表した。その画像には、光子リングの周囲に広がる降着円盤とそこから噴き出すジェットが捉えられている。
2023年9月には、東アジアVLBIネットワーク(EAVN)などの電波干渉計の観測網によって過去20年以上にわたって得られた170枚もの電波画像(波長7 mm帯)を分析した結果、ジェットの噴出方向が約11年周期で変化していることが明らかになった。コンピュータシミュレーションによりこの現象は、周囲の時空を引きずりながら自転しているブラックホールの自転軸と降着円盤の回転軸がずれているために起きる一般相対性理論の効果による歳差運動で説明できることが示された。ブラックホールの自転を観測的に証明した初めての例と考えられる。
M87中心のブラックホールの画像に関する国立天文台の発表
https://www.nao.ac.jp/news/science/2019/20190410-eht.html
https://www.nao.ac.jp/news/science/2022/20220630-m87.html
https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230427-gmva.html
M87中心のブラックホールの自転の証拠に関する国立天文台の発表
https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230928-eavn.html
M87中心のブラックホールの自転の証拠に関する日本EHTグループの発表
https://www.miz.nao.ac.jp/eht-j/c/pr/pr20230928
M87の中心核のブラックホールまでの仮想の旅とブラックホールシャドウの解説(英語)。
イベントホライズンテレスコープ(EHT)による。
https://www.youtube.com/embed/v_Bk2997YMA
M87のブラックホール周辺の科学的シミュレーションCGとイベントホライズンテレスコープによる観測結果の比較
https://youtu.be/zHjWSiSZRmo
 
自転するブラックホールの周りで歳差運動する降着円盤とジェットのCGアニメーション。ブラックホールの自転軸は画面右下に示されているZ軸の方向に固定されている。時間の0:21-0:25の間に、見る向きを変更するためにZ軸方向が変化する。
クレジット:Cui et al. (2023), Intouchable Lab@Openverse, Zhejiang Lab
https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230928-eavn.html
2024年03月25日更新
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