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ダークマター

高

よみ方

だーくまたー

英 語

dark matter

説 明

現在の宇宙の平均エネルギー密度のほぼ4分の1(27%)を占める正体不明の物質。暗黒物質とも言う。我々の知っている原子からなる物質(身のまわりにある通常の物質で、宇宙論ではこれをバリオンと呼ぶことが多い)は、全エネルギー密度のわずか5%以下でしかなく、ダークマターはその5倍以上ある。残りの約4分の3(68%)はダークエネルギー(暗黒エネルギーともいう)によって占められている。ダークマターはバリオンと同じく重力相互作用を及ぼすものの、それ以外の相互作用はほとんど及ぼさない。このためそれが放射する電磁波を観測して存在を確認することはできない。

天文学ではすでに1930年代から、観測できていない物質が存在することが示唆されており、ミッシングマス(行方不明の質量)と呼ばれた。それ以後長い間ミッシングマスは不可解な問題の一つと考えられていたが、研究はそれほど進まなかった。1973年に、オストライカー(J.P. Ostriker; 1937-2025)とピーブルズ(P.J.E Peebles; 1935- )が渦巻銀河の力学安定性に関するコンピュータシミュレーションの論文を出版し、渦巻銀河がダークマターのハローに包まれていることを提唱した。さらに1970年代終わりにルービン達が、渦巻銀河の多くが平坦な回転曲線を持つことを観測から示したことをきっかけに、ミッシングマスの存在を示す観測的証拠が積み上がってきた(ミッシングマスの項を参照)。その結果、ミッシングマスは宇宙にあまねくある全ての銀河に附随するもので、天文学と物理学の根本的な問題であるとの認識から、ダークマターと呼ばれるようになった。

ダークマターの正体については、宇宙の晴れ上がりの時点で(乱雑な)運動のエネルギーが質量エネルギーより大きかった(相対論的であった)熱いダークマターと、小さかった(非相対論的であった)冷たいダークマターの2種類の可能性が考えられている。両者の中間的な温かいダークマターも考えられている。観測データとよく合うのは冷たいダークマターである(CDMモデルを参照)。その候補は、未知の素粒子であると考えられているが具体的にはわかっておらず、世界中で直接検出実験が進行中である。
なお、ガス星雲の種類として暗黒星雲があるが、ダークマター(暗黒物質)とは無関係である。


2025年07月31日更新

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    渦巻銀河がダークマターのハローに包まれていることを提唱した最初の論文の図。球状のハローに包まれていない扁平な円盤銀河のモデル(300個の質点)のコンピュータシミュレーションの結果。一回転(τ=1)しないうちに棒状の不安定パターンが発生する。
    Ostriker and Peebles 1973, ApJ, 186, 467 より転載。
    国際天文学連合(IAU)が1985年にプリンストンで開催した研究会集録の表紙。すべての銀河はダークマターのハローに包まれていることを強烈に印象づけた。
    東京大学天文学教室所蔵の集録より作成(岡村定矩)
    *宇宙の構成物の割合を示す「宇宙のパイ(cosmic pie)」。Planck衛星による観測結果を示している。
    http://sci.esa.int/planck/51557-planck-new-cosmic-recipe/ にある図を改変。