水素分子
よみ方
すいそぶんし
英 語
molecular hydrogen
説 明
2個の水素原子が結合した分子であり、分子式ではH2と書かれる。地球上で見られる水素ガスは水素分子から構成されている。宇宙にある元素は、個数で比べると7割が水素である。星間ガスも主成分は水素であるが、1 cm3当たり数十個以上の比較的密度の高いガスは水素分子として存在している。これに対して、より密度の低い水素は中性水素原子か電離水素となっている。
真空中で水素原子2個が衝突しても、個々の原子が持つ運動エネルギーを放出できないので、かつては、星間空間では水素分子は形成されないと考えられていた。しかしながら、実際には星間ガスには水素分子を主成分とするガスも存在することがわかり、その形成過程が議論されるようになった。有力と考えられる過程の1つは、星間空間中の水素原子が星間塵(星間微粒子、ダストともいう)の表面に付着し、そこで結合して水素分子が生成されるとするものである。生成時に生じるエネルギーによって生成された水素分子は星間塵の表面から星間空間に放出されるとともに、塵内部に熱として吸収される。もう1つの過程は、一旦、水素イオンが生成され、過剰な電子が放出されることでエネルギーが奪われ水素分子が生成されるとする説である。水素分子ガスは星間空間中では比較的狭い範囲に局在しているので、空に浮かぶ雲になぞらえて星間分子雲と呼ばれる。恒星や惑星は、星間分子雲から形成される。
このように、水素分子は星間ガスとして重要な存在形態ではあるが、その直接検出は非常に難しい。なぜなら、水素分子は、2個の水素原子の距離が変化しない状態では電気双極子モーメントを持たず電気双極子放射を出さないため、電磁波を能率良く放射・吸収する状況が非常に限られているからである。
水素分子が高い内部エネルギーを持ち、原子間距離が変わる振動状態と回転運動状態とが同時に変化する場合には電気双極子モーメントが生じ、対応する振動回転遷移が起こる。これに対応する輝線は波長2 μm など近赤外線で見られるが、温度・密度が高い領域でしか励起されないため、これが検出されるのは、強い電磁放射で照らされていたり衝撃波が発生するような領域に限られる。これに対して、回転エネルギー準位間の遷移(回転遷移)による輝線は波長28.2 μm,17.0 μm,12.3 μm など中間赤外線から近赤外線にかけて放射されるが、これも温度が100 K以上の領域などでないと励起されない。したがって、星間分子の多くを占める10 K程度の低温の水素分子の観測は困難である。
星形成領域も参照。
2018年03月26日更新
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