ボリソフ彗星
よみ方
ぼりそふすいせい
英 語
2I/Borisov
説 明
オウムアムアに次いで2番目に発見された恒星間天体。2019年8月30日に、アマチュア天文学者のボリソフ(Gennady Borisov)がクリミア半島の施設で、自作の65 cm望遠鏡による観測で彗星らしく見える天体を発見した。各地の望遠鏡によるその後の観測から、この天体は双曲線軌道をもつ恒星間天体であることが確実視され、2019年9月24日、国際天文学連合(IAU)は、この天体をオウムアムアに続く2番目の恒星間天体として2I/Borisov(ボリソフ彗星)と命名したことを発表した(彗星としての名称はC/2019 Q4 (Borisov)である)。ボリソフ彗星は2019年12月7日頃に太陽に最接近し、その後は太陽系外に向かい再び太陽系に接近することはない。最接近時の太陽からの距離は約2天文単位(2 au)で、地球からの距離もほぼ同じである。
ボリソフ彗星は太陽系を33 km/sの速さで通過した。恒星遭遇か、巨大惑星との相互作用で太陽系外の惑星系(太陽系外惑星を参照)から散乱された天体の一つと考えられている。オウムアムアとは異なり、ボリソフ彗星は物質放出が確認されたので、史上初めて観測された星間彗星と言えよう。
超大型望遠鏡(VLT)によるスペクトルの観測で、彗星に含まれるニッケルと鉄の成分比や、NH2のオルソパラ比が太陽系の彗星とよく似ていることがわかった。また、VLTによる偏光観測ではボリソフ彗星のコマの光が一般的な太陽系彗星と比べ、高い偏光度(偏光を参照)を示すことがわかった。高い偏光度はこの彗星が始原的な天体であることを意味する。太陽系彗星ではヘール‐ボップ彗星の偏光度が高かったが、ボリソフ彗星の偏光度はヘール‐ボップ彗星より高く、より始原的であると示唆される。
アルマ望遠鏡(ALMA)による観測ではシアン化水素(HCN)と一酸化炭素(CO)が検出された。シアン化水素の存在量は太陽系の彗星とよく似ていたが、一酸化炭素の存在量は太陽から2 au以内で観測されたどの太陽系彗星よりも高く、平均的太陽系彗星の9-26倍のCOが含まれていることがわかった。したがって、ボリソフ彗星はCOの氷が存在する-250℃以下の非常に低温な環境で形成されたと思われる。COは彗星に普通に含まれている分子だが、その存在量は彗星ごとにバラツキがあり、その原因はわかっていない。もしCOの量が彗星の形成場所に依存するなら、ボリソフ彗星はCOの多い場所で誕生したことを意味する。
さらに、ALMAとVLTの観測では、ボリソフ彗星のダストは2 mm程度の大きさの粒であることがわかった。これに対して太陽系彗星のダストは2ミクロンから1 mサイズの不規則形状のふわふわしたものである。
このようにボリソフ彗星は太陽系彗星と似たところもあり、異なるところもある。彗星の物理的、化学的特性はその天体の形成環境を反映するものゆえ、ボリソフ彗星のような星間彗星をたくさん観測することによって、太陽系外の惑星形成環境の情報を手にすることができると期待される。
国際天文学連合のプレスリリース
https://www.iau.org/news/pressreleases/detail/iau1910/
2023年10月21日更新
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