南極
よみ方
なんきょく
英 語
Antarctica
説 明
本項では天文観測の適地としての南極(南極大陸)に関して述べる。
南極大陸は4000 m近い厚さの氷に覆われている。ドームふじからドームA、ドームBを経てドームCに至る標高3000 mを越す南極高原と呼ばれる高い台地は天文観測に取っては理想的な条件を備えている。南極点には成層圏から下降気流が吹き込み海岸線へと流れ下るが、高原では風は穏やかで、典型的な風速は5 m/s程度で10 m/sを超えることはまれである。冬には極夜となり数ヶ月にわたる夜の継続観測ができる。さらに人工光や人工電波もほとんどない暗い静寂な観測環境である(ただしオーロラが発生するので光学域では特定の波長に輝線を生じることがある)。気温は非常に低いので大気が乾燥していて水蒸気が極めて少なく(飽和水蒸気量は0℃に対してドームふじの平均気温-54℃では1/123、最低気温-80℃では1/3800)また安定しており、特に赤外線からサブミリ波の観測では地上で最も適している。近赤外線ではドームふじではハワイのマウナケア山頂に比べて大気放射が2桁小さく、波長10 μmでも1桁低いので、他にはない高感度の赤外線観測が可能である。冬には乱流が生じる境界層の厚さは15 m程度しかなく、その上ではシーイングが極めて良い(冬季の半分以上の期間で0.2”)。また、上空大気は南極大陸で周回しているので気球による長期観測が可能である。
このような恵まれた天文観測条件を活かすために、望遠鏡・観測装置の設置や周回気球に望遠鏡を搭載して観測する実験などが行われている。南極点(標高2835m)にあるアメリカのアムンゼン-スコット基地では、1995年から約10年間、口径1.7 mのサブミリ波望遠鏡AST/RO(Antarctic Submillimeter Telescope and Remote Observatory)が運用され、南極での天文観測の可能性を実証した。2006年からは宇宙マイクロ波背景放射の偏光パターンを高精度で観測することを目指すBICEP(Background Imaging of Cosmic Extragalactic Polarization)シリーズの望遠鏡(最新のBICEP3は口径52 cm)、2007年からは口径10 m の南極点望遠鏡(SPT)が運用されて科学的な成果をあげている。米国はまたリッジA(4050 m)にサブミリ波干渉計を設置する構想を持っている。中国はドームA(4090 m)で完全自動観測可能な口径0.5 mのサーベイ望遠鏡AST3-2(Antarctic Survey Telescopes)を運用しており、またゾンシャン(Zhongshan)基地に小望遠鏡を多数並べた広視野サーベイ望遠鏡の設置を計画している。フランスのチームは口径40 cmの太陽系外惑星探査用の望遠鏡ASTEP(Antarctic Search for Transiting ExoPlanets)をドームC(3260 m)で2010-2013年に運用した。1998年の気球によるブーメラン実験では、宇宙マイクロ波背景放射の温度ゆらぎを精密に観測して、宇宙が平坦(曲率が0)であるとするΛCDMモデルの予想と合致することをはじめて明確に示した。日本のJAXA宇宙科学研究所も昭和基地から大気球を放球して大気重力波等の観測を行っており、天文への応用も検討されている。現在南極における最大規模の観測施設はアムンゼン-スコット基地におけるアイスキューブ実験である。
筑波大学等を中心とする日本のグループも2004年から南極天文学の実現を目指して調査等を開始し、国立極地研究所と協力して2006年と2009年の夏季にドームふじで220 GHzの大気透過率を測定し、極めて良好かつ安定していることを明らかにした。2010年~2012年の夏季には東北大学のグループが40 cm赤外線望遠鏡やシーイングモニター装置等により大気の測定を行い、0.2”に達するシーイングを得ている。また筑波大学を中心に、ドームふじ近くの標高3800 mの地点に口径30 cmのサブミリ波望遠鏡を建設中で2026年度からの観測を目指している(夏季)。またドームふじからさらに南側約40 kmのところに新しい越冬基地を建設し、ここに口径12 mテラヘルツ望遠鏡(ATT12)を設置してテラヘルツ波で南天全体の掃天観測を行う計画を進めている。将来的に口径30mテラヘルツ望遠鏡(ATT30)を設置する構想やテラヘルツ強度干渉計計画も提案されている。また赤外線でも大気が極めて良好で高感度高空間分解能の観測が可能なので赤外線望遠鏡の設置も期待されている。
2025年12月03日更新
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