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宇宙マイクロ波背景放射

高

よみ方

うちゅうまいくろははいけいほうしゃ

英 語

cosmic microwave background radiation (CMB)

説 明

宇宙の晴れ上がりの時点(宇宙誕生後約38万年)から届く黒体放射。熱い火の玉状態であった初期宇宙からの光子が、宇宙膨張とともに温度を下げながら、マイクロ波の波長域にピークを持つ黒体放射として現在の宇宙を満たしている。この放射が宇宙マイクロ波背景放射である。その温度が絶対温度で3 Kに近いことから3K放射あるいは英語名(Cosmic Microwave Background Radiation)を略してCMB(シーエムビー)ということもある。

ガモフ(G. Gamow)によって1946年に理論的に予言されていたが、米国ベル研究所のペンジアス(A. Penzias)とウィルソン(R.W. Wilson)がそれを偶然発見したことが1965年に報告された。1989年に打ち上げられたNASAのCOBE衛星による観測から、CMBが温度 2.725±0.001 Kの完璧な黒体放射であることが示された。これは光子が放射された時点の宇宙の温度にして約3000 Kに対応し、初期宇宙において物質と放射が熱平衡状態にあったことを示す確証となった。COBE衛星はまた、長年探し求められていたCMBの温度ゆらぎ(天球上の場所ごとのCMBの黒体放射温度のばらつき)を検出したが、それは10万分の1 というわずかなものであった。

CMBの温度ゆらぎは、宇宙の構造形成の種となった密度ゆらぎに対応する。温度ゆらぎのパターン(パワースペクトル)には多くの宇宙論パラメータの情報が含まれているために、その後地上からの気球観測や人工衛星によるCMBの詳細な観測が次々と行われた。2001年に打ち上げられたNASAのWMAP衛星はCMB観測の感度と角分解能を大きく向上させた。さらに、2009年にESAが打ち上げたプランク衛星は、低周波観測装置 (LFI) と高周波観測装置 (HFI)の2台で30 GHzから857 GHzにわたる9つのバンドをカバーし、それまでにない高感度(温度ゆらぎで10-6レベル)と高い角分解能(5分-30分角)で2012年までCMBの強度と偏波を観測した。最終結果の論文は2018年に出版された。
宇宙背景放射も参照。

2024年10月13日更新

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    *宇宙進化のイメージ図。宇宙マイクロ波背景放射は、誕生後約38万年の宇宙から我々に届く信号である。
    https://map.gsfc.nasa.gov/media/060915/ の図に用語の和訳と補足説明を付けて作成(岡村定矩)
    上から、ペンジアスとウィルソンが用いた電波望遠鏡とその望遠鏡が見たであろう宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の地図、COBE衛星とCOBE衛星が見たCMBの地図、WMAP衛星とWMAP衛星が見たCMBの地図。右列の楕円は全天をモルワイデ図法で楕円に表したもので、色の違いがCMBの温度の違い(僅か約10万分の1以下)を表している。中央の水平な帯は天の川(銀河系)からの放射である。
    https://map.gsfc.nasa.gov/m_ig/030644/030644.html
    *COBE衛星(上)、WMAP衛星(中)、Planck衛星(下)が描いた宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の強弱を表すスカイマップ。分解能は違うが大局的なパターンは同じであることがわかる。
    佐藤勝彦「宇宙の誕生とその歴史」、シリーズ現代の天文学第1巻、岡村・池内・海部・佐藤・永原編『人類の住む宇宙』第2版 2.1節 図2.7(口絵4)(日本評論社)
    * プランク衛星による宇宙マイクロ波背景放射の温度ゆらぎのパワースペクトルの最終結果(2018年版)。