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トゥームレのQ値

 

よみ方

とぅーむれのきゅーち

英 語

Toomre’s Q value

説 明

差動回転する薄い円盤構造が重力不安定性を起こすかどうかを判定するパラメータ。恒星からなる銀河円盤(ディスク)やガスからなる原始惑星系円盤の性質の研究に重要な役割を果たす。トゥームレの $Q$ パラメータと呼ばれることもある。名称は、銀河円盤の重力不安定性の研究で1964年の論文でこの判定基準を提唱したトゥームレ(A. Toomre; 1937- )に由来する。彼は、初期の相互作用銀河のコンピュータシミュレーションでも大きな業績を挙げた。

このパラメータは、ジーンズ不安定性基準の「回転する薄い円盤バージョン」とも言える。差動回転する薄い円盤の力学状態は、自己重力によって重力収縮しようとする効果と、それを妨げる効果、すなわちジーンズ不安定性の場合の圧力のみならず差動回転によるシアーが重力収縮を妨げる効果をそれに加えたものとの兼ね合いで決定される。前者を分母に、後者を分子に取った値がトゥームレの $Q$ 値である。 $Q$ 値は円盤内の場所毎に定義され(局所的な解析)、 $Q$ が1よりずっと大きければ円盤は安定で、密度ゆらぎ(密度の粗密パターン:摂動)は成長しない。逆に $Q$ が1より小さいと、わずかな密度ゆらぎにより渦巻腕状のパターンができたり、密度の高い場所が重力収縮して円盤が分裂して惑星が形成されたりするなどの重力不安定が起きる。
ガス円盤に対する具体的な $Q$ 値は

$$Q=\frac{\kappa{c_{\rm s}}}{\pi{G}\Sigma}$$

と表される。ここで $\kappa$エピサイクリック運動の周期(半径方向の摂動の波数)、 $c_{\rm s}$ は音速、 $\pi$ は円周率、 $G$ は重力定数、 $\Sigma$ は円盤の密度である。恒星からなる円盤に対しては

$$Q=\frac{\kappa\sigma_{\rm R}}{3.36{G}\Sigma}$$

となる。ここで$\sigma_{\rm R}$ は、星の速度分散の半径方向成分である。大局的な銀河円盤全体のシミュレーションからは、$Q\sim1-2$ の銀河円盤で渦巻腕状のパターンが保持されると考えられている。

2025年06月11日更新

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